今日のことば

【原文】
人と為り沈静なる者は、工夫を尤も宜しく事上の練磨を勉むべく、恢豁(かいかつ)なる者は、則ち工夫宜しく静坐修養を忘れざるべし。其の実、動・静は二に非ず。姑く病に因って之に薬するなり。則ち是れ沈潜なるは剛もて克(おさ)め、高明なるは柔もて克むるなり。〔『言志晩録』第8章〕

【意訳】
その性格が落ち着いて静かな人は、精神修養の工夫として日常生活の中で己を磨いていくべきであり、性格が快活で落ちつきのない人は、静坐瞑目することで己を磨くことを忘れてはいけない。実際に、動と静は別の事ではなく裏表の関係のようなものである。まずはその病気に応じて適切な薬を与えることである。つまり落ち着いて静かな人は剛毅を養い、勢いのある人は柔和な心をもって自らを養うのである

【一日一斎物語的解釈】
物事には陰と陽があるように、人間にも静のタイプと動のタイプがある。この2つのタイプに優劣はない。静の人は行動することを意識し、動の人は立ち止まるときを意識すればよい。アドバイスをする際は応病与薬を意識して、各自に合ったアドバイスをするべきである。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、大累課長と飲んでいるようです。

「俺、今でも忘れない出来事があるんですけどね」

「何だよ、教えてくれよ」

「以前に、佐藤部長が神坂さんと新美に対して、真逆のアドバイスをしているのを聞いたことがあったんです」

「真逆のアドバイス?」

「はい。新製品のPRに関してなんですけど、神坂さんにはターゲットを絞って慎重にしなさいとアドバイスをしたのに、新美には、すぐに実行しなさいと」

「酷いなぁ。俺にはすぐにゴーサインを出さなかったのに、新美には即ゴーかよ!」

「私も不思議に思って、部長に聞いたんです。『軸がブレてませんか?』って」

「答えが気になる!」

「そうしたら、こう言われました。『神坂君は超積極的だから、その製品がお客様の課題解決に役立つかどうかも考えずに、猪突猛進する傾向がある。だから、すこし抑えた。しかし、新美君はおとなしくて、やや行動に移すまでに時間がかかるタイプでしょ。だから、すぐにゴーを出したんだ』って」

「それって、お前が言うように軸がブレているようにも思えるな」

「はい。それをそのまま聞いてみました」

「ますます答えが気になるじゃないか!!」

「こう言われました。『私の部下育成の軸は、すべての部下を成長させることにある。仮にアドバイスの内容が真逆であっても、それがそれぞれの部下のためになるのなら間違いではない。堂々と真逆のアドバイスをすべきだと思っている』って」

「なるほどな。確かにそのアドバイスにしたがって、俺はターゲットの見直しを行ったし、新美は即訪問を始めた。二人の短所を見事に是正しているな」

「はい。そういうのを『応病与薬というそうです」

「病気の種類に合わせて与える薬を変える、ということか?」

「はい。目から鱗が落ちました!」

「なんで、それをその時に教えてくれなかったんだよ!」

「だって、そんなことを神坂さんに伝えたら、ヘソを曲げて、ターゲットの見直しなんてしなかったでしょ?」

「まぁ、それはそうだな……」


ひとりごと

応病与薬、これが孔子の弟子を指導する際のポイントのひとつです。

小生は、このストーリーのように、孔子が子路(イケイケの弟子)と冉求(引っ込み思案の弟子)に真逆のアドバイスをしている章句を読んで、衝撃を受けました。

「これって、軸ブレじゃないのか?」

孔子からすれば、相手の性格に合わせて時には真逆のアドバイスをすることは、むしろ当然のことであって、驚くに値しないということなのでしょう。

人の上に立つ者は、部下や後輩の性格をしっかりと把握し、その性格にあったアドバイスを与えるべきなのです。

まるで医師が患者の病状に合わせて薬を変えるかのように!


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