今日のことば

【原文】
物我一体なるは即ち是れ仁なり。我れ公情を執りて以て公事を行なえば、天下服せざる無し。治乱の機は公と不公とに在り。周子曰く、「己に公なる者は人に公なり」と。伊川又公理を以て仁字を釈(と)き、余姚(よよう)も亦博愛を更(あらた)めて公愛と為せり。并(あわ)せ攷(かんが)う可し。〔『言志晩録』第22条〕

【意訳】
物と自分とが一体であるということが、そのまま仁なのである。私情のない公の情をもって公事すなわち政治を行なうならば、天下の人々はかならず服すものである。世の中が治まるか乱れるかの兆しは、公平か不公平かにある。周濂渓は「自分に対して公平無私の人は、他人に対しても公平である」と言った。程伊川も公理を仁であると解釈し、王陽明も博愛を公正な愛情とした。政治を執り行う際には、これらのこと併せて考えるべきである

【一日一斎物語的解釈】
「世のため、人のため」という気持ちを私情に優先させてマネジメントを行えば、メンバーは心を開き、信頼してくれるものだ。常に公平であることを意識して仕事に取り組むべきだ。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、取り引きメーカーO社の馬場さんと食事をしているようです。

「そうですか、たしかに佐藤さんは立派な人ですもんね」

「簡単に追いつけるとは思わないけど、ずっと背中を追い続けていますよ」

「目標にできる人が身近にいるということは素晴らしいことじゃないですか」

「はい、そう思います。馬場さんも過去に尊敬できる上司の方はいますよね?」

「もう定年退職されてしまった方ですが、すごくお世話になりました」

「どんな方なんですか?」

「私が営業に異動になったときの最初の上司です。他部門から来た私をすごく優しく迎えてくれて、営業の基本を教えてもらいました」

「営業の基本って技術的なことですか?」

「いえ、どちらかというと心構えの方ですね。その人はとにかく自分を後回しにして、部下のため、お客様のためをいつも考えている人でした」

「具体的な話を聞かせてください」

「たとえば会議などでは、年齢や経験年数に関係なく意見を聞いてくれました。私は生意気だったので、結構偉そうなことを言っていた気がするんですけど、いつも『お前は間違ってないよ』といって背中を押してくれました」

「とても公平な人だったんですね?」

「はい。もちろん、厳しく叱られたこともたくさんあります。でも、それはお客様のことを真剣に考えているからだし、それに私の成長のことも考えてくれてのことだとわかるから、素直に話を聞くことができたんです」

「へぇー、馬場さんでも素直に耳を傾ける人がいたんですねぇ。会ってみたいなぁ」

「神坂さんに言われたくないなぁ!(笑)」

「私も公平で公正であることは、リーダーとしていつも意識しなければいけないことだと思っています」

「今の時代は厳しくすることが難しい時代になりましたよね。本当は優しさと厳しさの両面で接しないと、若い人は育たないはずなんですけどね」

「そうですね。でも、優しいだけじゃ公平とは言えません。やはり時には厳しいことも言えないと駄目だと思いますよ」

「やりにくい時代になりましたが、お互いに理想の上司がいるわけですから、少しでも近づけるように努力しましょうね」

「はい。厳しくしても、自分の為に言ってくれているんだと思ってもらえるというのは、テクニックでは絶対に無理です。本当に心の底からメンバーのことを考えているからこそ、その想いが伝わるんですよね。とても、勉強になりました!」


ひとりごと

常に公平であり続けることは、容易なことではありません。

だからこそ、古の儒者は公平であることを仁の表れだとみるのでしょう。

公平さを維持するには、優しさと厳しさのバランスが重要です。

どちらかに偏れば、公平なリーダーではなくなってしまいます。

公平であることは、仁を体得する訓練のひとつだと理解して、常に公平を心がけましょう。


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