今日のことば

【原文】
目に覩(み)る者は、口能く之を言う。耳に聞く者は、口能く之を言う。心に得る者に至りては、則ち口言う能わず。即(も)し能く言うとも、亦止(た)だ一端のみ。学者の逆(むか)えて之を得るに在り。〔『言志晩録』第73条〕

【意訳】
自分の目で見たものは、口でうまく説明することができる。また、耳で聞いたことも、うまく説明することができる。ただし、心に自得したものについては、口でうまく説明することが難しいものである。もし説明できたとしても、ほんの一端を説明できたにすぎない。このことから、学問をする者は、自らの心で相手の心を推し量り、その意を悟らねばならない

【一日一斎物語的解釈】
心の内というものは、本人でさえ上手く説明できないものである。このため、他人の心を理解するためには、自分の心に問いかけ、推測をせざるを得ない。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、営業2課の善久君と面談をしているようです。

「いまだに先生の心の中を読むことができません。課長はどうやってお客様の心の中を理解するんですか?」

「完全に心の中を読み切ることは不可能だよ」

「え?」

「そりゃそうだろう。他人の心を完全に読むことができたら、営業なんかしなくたって、その能力だけで食っていけるぞ」

「はぁ」

「百聞は一見に如かず、というけど、見たもの、聞いたものは口で説明するのは簡単だ。目と耳で感知できているからな」

「はい」

「しかし、心で自得したものって、いざ口に出してみるとうまく説明できないことが多い」

「なぜなのでしょうか?」

「心で自得したものは、形もなければ、音もなく、おまけに無味無臭だ。それを相手にわかるように説明するのは至難の業なんだよ」

「それを他人が理解するとなると、更に難易度が上がるんですね?」

「そのとおり!」

「でも、理解できなければ、売れる営業マンにはなれないのでは?」

「それはそうだよ」

「じゃあ、私は売れる営業マンにはなれないんですか!! 課長はどうやって売れる営業マンになったのですか??」

「まぁ、そんなに熱くなるなよ。方法はある!」

「教えてください!!」

「自分の心を理解することだ」

「はい?」

「自分の心が理解できれば、それを推し広げて他人の心も推測できるようになるんだ。だから、まずは自分ならどう考え、どう行動するのかを、しっかり分析しておくことが重要なんだよ」

「あぁ、そういうことですか! 時間はかかりそうですけど、もっと自分の心に問いかけてみます!!」

「うん。でも、上司の心はあまり読まなくていいからね!」


ひとりごと

自分の心の内を説明することは、とても難しいものだ、と一斎先生は言います。

だからこそ、自分の心の中を自分の言葉で語れるようになるまで内観することを勧めています。

それができれば、自然と他人の心を推し量ることも可能になり、的確な対処が可能になるのでしょう。


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