【原文】
敬忠・寛厚・信義・公平・廉清・謙抑の六事十二字は、官に居る者の宜しく守るべき所なり。
【訳文】
敬忠(尊敬・忠実)、寛厚(心が広くて温厚)、信義(誠実で正しい)、公平(公明正大)、廉清(心が潔白)、謙抑(謙遜して自分を抑制)の六事十二字は、官職にある者よく守るがよい。
【所感】
敬忠・寛厚・信義・公平・廉清・謙抑の六つの事項およびこの十二文字は、官職に就いている者が心して守るべきところである、と一斎先生は言います。
この6つの言葉およびそれを形成する十二文字は、公職に就く人でなくても守るべき事項といえそうです。
小生はこの章を読んで、『論語』学而第一篇にある弟子の子貢が孔子を評した言葉を思い出しました。
【原文】
子禽(しきん)、子貢に問うて曰わく、夫子の是の邦に至るや、必ず其の政を聞く、之を求めたるか、抑(そもそも)々之を與えたるか。子貢曰わく、夫子は温良恭險譲、以て之を得たり。夫子の之を求むるは、其れ諸れ人の之を求むるに異なるか。
【訳文】
子禽が子貢に尋ねた。
「孔先生は、どこの国に行かれても、必ず政治について聞かれるが、これはご自分から求められたものか、それとも先方からもちかけられたものでしょうか」
子貢はこれに対し言った。
「孔先生はお人柄が、おだやかで素直、うやうやしくして行いにしまりがあり、それに謙虚で人に譲るところがあるので、自(おのずか)ら先方から求められたのである。
従って先生が求められるのは、一般の人の求め方と大いに違うように思う」(伊與田覺先生訳)
小生は『論語』のこの章に触れて以来、この温良恭險譲という五つの徳を備えることを意識してきました。
本章で一斎先生が挙げられた六事十二字 とこの『論語』の言葉を比較すると、一斎先生の六事十二字にあって、『論語』にないものとしては、敬忠・信義・公平といった相手に対する態度が挙げられます。
この敬忠・信義・公平という徳目は、特にビジネスを行う上で大変重要な徳目です。
自らは温良恭險譲の徳目を備え、他人に対しては敬忠・信義・公平を旨とする。
まさに君子と呼ばれる人はこうあるべきなのでしょう。
人間が一生勉強せねばならぬ所以です。