【原文】
我が邦独立して異域に仰がざるは、海外の人皆之を知る。旧法を確守するの善たるに如かず。功利の人は事を好む。濫りに聴く可からず。
【訳文】
我が国は周囲が海の独立した国であって、何物も外国に求めていないことは、海外の人々もよく知っている。それで、昔の古いおきてをしっかり守って行くのがよい。名利の欲に走る者は、何かと事を好んでやるが、そんな者にむやみやたらに耳を傾けることがあってはいけない。
【所感】
我が国は鎖国によって独立しており諸外国に何も求めていないことは、海外の人たちは皆知っていることである。古くからの慣習を固く守っていくことは非常に良いことである。功利主義者はなにかと新しい事を好む傾向があるが、そういう意見を盲目的に聴くようなことをすべきではない、と一斎先生は言います。
時代を感じる言葉です。
このあと維新とともに開国していく日本の姿を一斎先生はどこまで想像できていたのでしょうか?
果たして開国して現在のような世界の経済大国の一員となった日本人は、鎖国の頃の日本にくらべて幸せを手に入れたのでしょうか?
かつてアメリカ総領事として赴任したタウンゼント・ハリスは、日本に滞在するうちに以下のような疑問を抱いたと振り返っています。
日本人は皆よく肥え、身なりもよく、幸福そうである。一見したところ、富者も貧者もない―これが恐らく、人民の本当の幸福の姿というものだろう。私は時として、日本を開国して外国の影響をうけさせることが、果たしてこの人々の普遍的な幸福を増進する所以(ゆえん)であるか、どうか、疑わしくなる。 私は、質素と正直の黄金時代を、いずれの他の国におけるよりも、より多く日本において見出す。生命と財産の安全、全般の人々の質素と満足とは、現在の日本の顕著な姿であるように思われる」(『日本滞在記』ハリス著 坂田精一訳 岩波文庫)
この言葉を読み、世界の競争の中に晒されている日本の現状を思うとき、小生はこの一斎先生のお言葉の深さを痛感します。
しかしもう過去に戻ることはできません。
それならばせめて古き良き日本人の心を取り戻し、現代に適応させながら、一人ひとりが己の役割を精一杯尽くし、幸せな生活を手に入れていくしかありませんね。