【原文】
上官、事を我れに属(しょく)せば、我れは宜しく敬慎鄭重なるを要すべし。下吏、事を我れに請わば、我れは宜しく区処敏速なるを要すべし。但だ事は一端に非ざれば、則ち鄭重にして期を愆(あやま)り、敏速にして事を誤るも、亦之れ有る容(べ)し。須らく善く先ず其の軽重を慮り、以て事に従うを之れ要と為すべし。
【訳文】
上役の者が、仕事を自分に言いつけたならば、慎み深く丁寧にすることが肝要である。下役の者が、仕事を自分に頼んできたならば、素早く区切りをつけて処理することが必要である。ただ、仕事は単一ではないから、あまりに丁寧過ぎて期日におくれたり、またあまり敏速過ぎて事を仕損ずることもある。それで、まずよく仕事の度合いを十分に考えて、それから仕事に着手することが肝要である。
【所感】
上司が私に仕事を依頼してきた際には、私は深く慎んで丁寧な仕事をすることを心がける。また自分より役職が下の人に仕事を頼まれた際は、私は期限を決めて敏速に処理することを心がける。ただし仕事というのは一律のものではないので、慎重すぎて期限に遅れてしまったり、早く処理をし過ぎてミスをすることもあり得ることである。すべてにおいてまず仕事の重要性について熟慮した後仕事に着手することが必要であろう、と一斎先生は言います。
今日も一斎先生流仕事術のご紹介です。
仕事は常にスピードと丁寧さとのトレードオフの中でバランスをとらなければなりません。
過日紹介した私の営業所で掲げる「わたくしたちの行動指針」(作:寺田一清先生)の中に、
完璧遅滞より拙速優先に努めましょう。
とあります。
100点を取りにいくとベストタイミングを逃します。
かと言って、丁寧さを欠き、雑な仕事をすれば信頼を失います。
森信三先生も、寺田一清先生も80点主義を唱えておられます。
ところがこの80点を狙うというのも容易なことではありません。
何より自身の主観的な80点が、相手(仕事の発注先 or お客様 etc)の80点と合致しているとは限りません。
一斎先生のおっしゃる、まず仕事の軽重つまり重要性や緊急性について熟慮することの大切さはそこに理由があります。
よく研修などで若い社員さんにアドバイスするのは、勝手に判断するのではなく、まずお客様に直接聴いてごらん、ということです。
たとえば、
お客様:「急いでいるから早めに見積り持ってきてね 」
営業マン:「わかりました」
という会話で終わり、この営業さんが、たとえば今日は水曜日ですので、来週月曜日までに持って行けばよいだろうと勝手に判断したとします。
いざ、月曜日に見積りをお持ちしたら、お客様から、
「遅いよ、もう他社さんに発注したよ」
となってしまうかも知れません。
必ず、
お客様:「急いでいるから早めに見積り持ってきてね」
営業マン:「わかりました、来週の月曜日までで間に合いますか?」
お客様:「もう少し早められない?」
営業マン:「はい、それでは金曜日にお持ちしますね」
お客様:「よろしくね」
と具体的に納期を確認するべきなのです。
仕事の重要性を測り、スピードと丁寧さのバランスをとる
ということは、職種を問わず、どんな職業においても最も大事な心がけではないでしょうか?