【原文】
人事百般、都(すべ)て遜譲(そんじょう)なるを要す。但だ志は則ち師に譲らずして可なり。又、古人に譲らずして可なり。
【訳文】
世の中におけるいろいろな事柄については、人にへりくだって譲る心がけが必要である。ただ、志だけは師に対して遠慮しなくともよい。また、古人に対しても遠慮するに及ばない。
【所感】
人間社会の様々な出来事は、すべて謙遜と謙譲の心で対応することが求められる。ただし、志だけは師匠に対しても安易に譲る必要はない。また昔の偉人にも遠慮する必要はない、と一斎先生は言います。
師に譲らずという表現は、『論語』衛霊公篇にあります。
【原文】
子曰わく、仁に當りては、師にも譲らず。
【訳文】
先師が言われた。「仁徳を行うに当っては、先生にも遠慮はいらない」
本章の趣旨は、世の中を渡っていくには、常に人にへりくだる心を持ち続けることが重要であるが、ただのお調子者や腰抜けとなってはいけない。自分の志だけはそう簡単に曲げることのないように、一本筋を通しておくべきである、ということでしょう。
中江藤樹先生は、学問とは人にへりくだることを学ぶことだと言っています。
人にへりくだることを実践するに当っては、小生が師事する中村信仁さんのいう、
少し損をする生き方
を心がけると良いのではないでしょうか。
少し損をする生き方とは、
本を買うときは、一番上にある手垢のついた本を買う。
牛乳を買うときは、賞味期限の古いものを買う。
駐車場に車を停車するときは、なるべく入り口から遠いところに停める。
といったことを実践することです。
少しだけ自分が損をするだけで、少しだけ誰かが得をします。
こうした実践を陰徳を積むとも言います。
陰徳を積んで譲る心を鍛えましょう。