【原文】
恩を売ること勿れ。恩を売れば卻って怨みを惹く。誉を干(もと)むること勿れ。誉を干むれば輒(すなわ)ち毀(そしり)を招く。
【訳文】
下心があって人に恵みを施す(恩にきせる)な。そのような心持で人に恵みを施せば、かえって人から怨まれることになる。名誉を求めるな。実の伴わない名誉を求めると、すぐに人から毀(そしり)を受けるものである。
【所感】
見返りを求めて恩を売ってはならない。そんなことをすればかえって恨みを買うことになる。名誉を求めてはならない。そんなことをすれば人から誹謗中傷を受けるだけである、と一斎先生は言います。
見返りを求めないということ、人からの評価を期待しないということの2点は、人間という社会的生物にとっては大変に難しいことです。
小生が師事する、永業塾塾長・中村信仁さんから教えていただいた言葉に、
掛けた恩は水に流し、受けた恩は石に刻め
という言葉があります。
人に掛けた恩は忘れて、人から受けた恩は絶対に忘れるな、という意味の言葉です。
受けた恩については、その人に直接返すよりも、あえてその恩を別の人に施すべきだと言われます。
これを「ご恩送り」といいます。
人から受けた恩というのは、その恩が大きければ大きいほど、すぐには気づけないものです。
時には、その相手がもうこの世に存在しないということもあるかも知れません。
そんなときはそのご恩を次の世代に送って、恩を絶やさないことが重要です。
ご恩返しは一対一で完結します。
ご恩送りはご恩がずっと循環します。
見返りを求めない人からのご恩ならば、その人もご恩送りを望んでくれるはずです。
一方、凡人が下手に地位や名誉を手に入れるとろくなことはありません。
驕れる者久しからず
という言葉がある様に、勘違いをして大きな失敗をし、その地位や名誉を失ってしまいます。
かつての小生がまさにそうでした。
恩を売ること勿れ。誉を干(もと)むること勿れ。
見返りを求めず、名誉を求めない。
志とは、見返りも名誉も求めずに、ただ世の中のためになると信じて実施すべきこと、と定義できます。
見返りも名誉も不要に思えるほどの大志を抱きたいものです。