【原文】
我れ恩を人に施しては忘る可し。我れ恵みを人に受けては忘る可からず。
【訳文】
自分が恩恵を人に施した場合は、これを忘れるべきであるが、しかし自分が恩恵を人から受けた場合は、決して忘れてはいけない。
【所感】
自分が人に恩を施したときはすぐに忘れなさい。自分が人から恩を受けたときは決して忘れてはいけない、と一斎先生は言います。
私が師事する中村信仁さんから教えていただいた言葉に、
掛けた恩は水に流し、受けた恩は石に刻め
という至言があります。
本章の一斎先生の言葉とまったく同じ意味ですね。
人は、受けた恩は忘れないのは勿論ですが、掛けた恩も忘れ難いものです。
見返りを求める気持ちが少しでも心にあると、恩返しをしない相手を怨んだり、非難したりしてしまいます。
結局それは自己貢献感が低く、真の自立が出来ていないことの証なのですが、凡人にとっては大きな課題です。
恩返しなど受けなくても、恩という善のパワーは相当強いものですので、必ずその恩は次の人に送られていくはずです。
いわゆる"恩送り"
です。
自分が掛けた恩には見返りを求めず、恩送りの輪が広がっていくと信じていれば良いのでしょう。
しかし、受けた恩については、しっかりとご恩返しをするか、その相手が故人となっているなら、恩送りをしていくことを心に刻んでおきましょう。
小生もこの言葉を読んで、自分のやってきたことへの評価が正当でないと嘆く心を捨てて、これまでに受けた恩に目を向けていかねばならないことに気づくことができました。