【原文】
食物に、口好みて腸胃好まざる者有り。腸胃好みて口好まざる者有り。腸胃好む者は皆養物なり。宜しく択ぶ所を知るべし。〔『言志耋録』第292条〕
【訳文】
食べ物には、口は好むが、胃や腸が好まない(胃腸には不消化でよくない)ものがある。これとは反対に、胃や腸は好む(胃腸によい)が、口が好まないものがある。胃や腸が好むものは総て消化がよくて身体に滋養になるものである。それで、どういう食べ物を選択したらよいかということをよく考えるがよい。
【所感】
食物には、味が良いので口は好むが、胃腸は好まないものがある。逆に、胃腸は好むが、味が旨くないと口が好まないものもある。胃腸が好むものはみな栄養価が高い食物である。そういうものを選んで食べるのがよい、と一斎先生は言います。
「ママ、最近、胃腸の具合が良くなくてさ。なんかお腹にやさしい料理をお願いできないかな?」
「神坂君、なにかストレスになることでもあるのかい?」
「えーっ、神坂課長にストレスはあり得ないですよね!」
「本田君、表に出る?」
「神坂くん、じゃあ、今日ちょうどおいしい鯛が入ったから、お刺身を出そうかと思ってたんだけど、鯛雑炊に変更しようか?」
「えーっ、そこは刺身でしょ!」
「やっぱり? (笑)」
「小料理屋 ちさと」に集合しているのは、佐藤部長、神坂課長、本田さんの3人のようです。
「神坂君、暴飲暴食で胃腸をいじめすぎなんじゃないのか?」
「そうですね。毎週3日は激辛料理を食べてますからね」
「激辛料理って、あの広島風つけ麺のお店ですか?」
「おう、あそこのつけ麺、めちゃくちゃ辛いんだけど、旨いんだよなぁ」
「いや、僕は無理です。あれは辛過ぎます」
「そんなに辛いの?」
「部長、あそこはちょっと尋常じゃないですよ。この前、課長に連れて行ってもらったんですけど、辛くて食べられませんでした。半分以上残しましたよ」
「で、店の親爺にこっぴどく叱られてたな。『頼んだもんを残すな!!』ってな。ははは」
「だって課長がそんなに辛くないから大丈夫って言うから・・・。あれは完全に嵌められました」
「人聞きの悪いこと言うなよ。俺は本当に好きなんだからさ。ただ、あれを食べた日は必ず腹を下すんだけどな」
「ははは。そういえば一斎先生の言葉に『いくら口が好んでも、胃腸が受け付けないものは食べない方がいい』というのがあるな」
「でも味は本当に旨いんですよ」
「逆にね、『胃腸がよろこぶ食物は栄養価も高い』とも言ってるね」
「胃腸の言うことを聴け、ということですかね?」と本田さん。
「身体が危険信号を発信しているんだろうね」
「危険信号か! ちょっと頻度を減らすかな?」
「結局、食べるのは食べるのね?」
「ママ、なかなかあの味はやめられないんだよねぇ」
「じゃあ、夜はお腹にやさしい雑炊がいいわね。鯛は抜いて卵とじ雑炊にしておくわ」
「いやいやママ、お刺身は出してよ!」
「ごめんなさい、あちらのお客様で売り切れになっちゃいました」
「いやー、旨いなぁ。やっぱり鯛の刺身は最高ですね」
「す、鈴木!!」
「神坂君、悪いな。おいしくいただいております!」
「タケさん?! くそぉ、明日もつけ麺食ってやる!!」
編集後記
人間も40歳を過ぎたら、身体の発する声に耳を傾けるべきなのかも知れませんね。
小生も、脂っこい食べ物を摂取すると、胸やけや下痢になる頻度が高くなったようです。
食事に限らず、睡眠やストレスについても、静かに自分と向き合うと、心や身体が様々なメッセージを発してくれていることに気づかされます。