一日一斎物語 (ストーリーで味わう『言志四録』)

毎日一信 佐藤一斎先生の『言志四録』を一章ずつ取り上げて、一話完結の物語に仕立てています(第1066日目より)。 物語をお読みいただき、少しだけ立ち止まって考える時間をもっていただけたなら、それに勝る喜びはありません。

2018年03月

第1144日 「心」 と 「分別」 についての一考察

今日は、営業1課の西郷課長の送別会が開催されているようです。


「サイさん、今までお疲れ様でした。当社の歴史を知り尽くしたサイさんが会社を去るのは残念でもあり、不安でもあります」


「神坂君、ありがとう。創業メンバーの平社長と川井室長が居るし、相原会長だって当社の歴史を知り尽くしているんだから、その心配は要らないと思うよ」


「その点ではそうかもしれませんが、私は別の観点からサイさんがこの会社に残したものの大きさを感じています」


「佐藤部長、恐縮です。しかし、それはいったい何でしょうか?」


「有徳者が人の上に立つという社風が創られたのは、サイさんが当社に来たときからだと思います。サイさんが中途で入社された頃の当社は、まだ営業部門はみんな個人商店でした。そこに『人間力営業を持ち込んだのがサイさんだったじゃないですか」


「それは、過分な評価ですよ」


「そうなんですか? それは知らなかったなぁ」と神坂課長。


「当時、『損得よりも善悪を優先するという考え方を持っていた営業マンは誰も居なかったんじゃないかな。みんな、売上を伸ばすためには手段を選ばないようなところがあったんだ」


「雑賀が聞いたら、『それのどこがいけないんですか』とか言い出しそうです」と大累課長。


「ははは。そうかもね。でも、当時は皆、そういう考え方だったよ。『何を呑気なことを言ってるんだってね


「今では考えられないですね」と神坂課長。


「私も数字を上げることに悪戦苦闘しているときだったから、中途で入社したサイさんの言っていることがまったく理解できなかったんだ」


「じゃあ、佐藤部長も雑賀みたいな考え方だったということですか?」
大累課長が驚いています。


「そうだよ。しかし、サイさんは、それを言葉だけでなく実践していくんだ。次々と、我々がどうやっても落とせなかった大手の施設を切り崩していったんだ」


「すごいですねぇ、サイさん」


「神坂君、やめてよ。佐藤部長、もうその辺で・・・」


「でも、これは事実ですからね。サイさん、最後にそのあたりをみんなに語ってもらえませんか?」


西郷課長が最後の挨拶をする場面になりました。


「皆さん、今まで本当にお世話になりました。この会社に入って、皆さんと一緒に仕事ができたことは、私の人生の中で最高の宝物です」


西郷課長は目頭をハンカチで拭いました。


「さきほど、佐藤部長から最後に何かメッセージを送って欲しいと依頼をされました。ただの営業課長に過ぎない私が偉そうに言えることは何もないのですが、部長からの業務命令だと思って、ひとつだけ話をします」


「サイさん、よろしくお願いします」
神坂課長が声を掛けました。


「営業部の皆さん、売上を取るかお客様の満足を取るかで迷うことがあったら、必ず自分の心と静かに向き合ってください。秤やものさしは、モノの重さや長さを測ることはできても、自分の重さや長さは測れません。でも、人間の心だけは他人の気持ちを推し量れるだけでなく、自分の心の是非もしっかりと分別できるのです」


参加者一同、静まりかえっています。


「お客様に対してオーバースペックの商品を販売するような場合、仮にお客様を騙すことはできたとしても、自分の心を騙すことはできません。必ずうしろめたい気持ちになるはずです。そういう心の動揺は、結局はお客様に必ず伝わってしまうものです」


「(本当にそうだな)」
神坂課長は心の中でつぶやきます。


「自分の心ほど万能で完璧な相談役はいません。いつでも相談できるように、常に心をピカピカに磨いておいてください。料理人が一日の終わりに必ず包丁を研いで明日に備えるように!」


会場は盛大な拍手に包まれました。


ひとりごと 

本来、心は万能の測定器であり、測れないものはないのだと一斎先生は言います。

ところが、人生を歩むうちに心が曇ってしまうと、通常の秤やものさしと同じように、自分自身を測れなくなってしまうのでしょう。

西郷課長が言うように、我々は一日の最後に心をピカピカに磨いておかなければなりません。

そのための手段が読書であることは、言うまでもないことでしょう。


【原文】
権は能く物を軽重すれども、而も自ら其の軽重を定むること能わず。度は能く物を長短すれども、而も自ら其の長短を度(はか)ること能わず。心は則ち能く物を是非して、而も又自ら其の是非を知る。是れ至霊たる所以なる歟(か)。〔『言志録』第11条〕



【訳】
秤(はかり)は物の重さをはかることができるが、自分の重さをはかることはできない。ものさしは物の長さをはかることができるが、自分の長さをはかることはできない。一方、人の心は他人の良し悪しを分別できる上に自分の心の是非をも分別することができる。これが心を最も霊妙なるものとする理由ではないか。



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第1143日 「天命」 と 「寿命」 についての一考察

今日の神坂課長は、めずらしくひとりで「小料理屋ちさと」に居るようです。


「神坂君、今日はひとりなのね」


「ママ、今日はひとりで色々考えながら旨い酒を飲みたいなと思ってね」


「そうね。じゃあ少しひとりにしておきましょうか?」


「ねぇ、ママは自分の天命が何かなんて考えたことはあるの?」


「天命? 大きな話ね」


「最近、俺も佐藤部長の影響で時々『言四録』を読んでるんだけどさ。昨日読んだ言葉に、『人間には必ず天命というものがある。それが何かをよく考えて天命を果たさなければ、必ず天罰が下るものだ』とあったんだ。俺はいったい何をするためにこの世に生まれてきたのかなぁ」


「神坂君、すごいじゃない。勉強してるんだね。そうね、わたしの天命は何だろうね。このお店に来てくれるお客様に喜んでいただけるお料理をお出しして、時々お話もお聞きして、少しだけでも心を癒せる場所をつくることかな」


「お客様にとってのサードプレイスの提供ってところか」


「今はそんな感じかな」


「すごいよ。それでも俺よりはよっぽど明確だもんな」


「ありがとう。わたしの人生のバイブルにはこんなことが書いてあるの。『その人の寿命は、天がその人に与えた使命を果たすだけの時間は与えてくれる。それより永くもなければ短くもない』ってね」


「なるほど、天は役割だけでなくそれを果たすだけの時間も与えてくれているのか」


「だから、無理して天命を探そうとするよりも、日々の仕事や生活の中で自分に与えられた役割をやり切れば、自然と天命が見えてくるんじゃないのかな?」


「そうかもね。俺さ、最近マネジメントが楽しくなってきたんだ。以前は、自分がトップセールスであり続けることがステータスだと思っていたから、部下の育成なんて興味がなかったし、俺には性に合わないって思ってた」


「そんな感じだったよね。そういう愚痴ばっかりだったもん」


「ははは、バレバレだね。でも、今は後輩、特に若い社員さんを応援することにすごくやりがいを感じるようになったよ」


「成長したわね。偉いぞ、神坂君」


「子供を褒めるような言い方しないでよ」


「よし、じゃあご褒美として、今日は特別のお酒を出してあげる」


「おー、そういうのは大歓迎!」


「ジャーン。はい、『越乃幻の酒』」


「なにこのお酒。初めて見たよ」


「もうすぐ創業150年目を迎える新潟の蔵元さんが、1シーズンに88本しか提供しない幻のお酒よ。もちろん代金はいただきません!」


「これはすごいご褒美だ。 しばらく天命は置いておいて、旨い酒を堪能することにします!」


ひとりごと 

孔子は、五十にして天命を知ったといいます。その言葉の影響なのか、人間も五十歳くらいになると、自分の天命は何かと考えるようになります。

しかし、天命というものは、求め続けてようやく見つかるものなのかも知れません。

結局、天命を知るためには、いまここで自分にできることに力を尽くすしかないようです。

そして、その先に見つかる天命というものは、自分が思い描いたり、期待していたものとあまりにも違うものであるかも知れません。

孔子がそうであったように。


【原文】
人は須らく自ら省察すべし。「天は何の故に我が身を生み出し、我れをして果たして何の用に供せしむとする。我れ既に天の物なりとせば、必ず天の役あらん。天の役共せずんば、天の咎必ず至らん」と。省察して此(ここ)に到れば、則ち我が身の苟くも生く可からざるを知らん。〔『言志録』第10条〕



【訳文】
人間は皆、自ら以下の事を省みて考えをめぐらせねばならない。「天はなぜ自分をこの世に生み出したのか。また天は自分に何をさせようとするのか。天が自分を生み落としたとすれば、必ず天命というものがあるはずである。その天命を果たさなければ、必ず天罰が下るであろう」と。自ら省み、考察してこの結論に到達すれば、自分がなぜ生きねばならないかがわかるであろう。



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第1142日 「人徳」 と 「地位」 についての一考察

もうすぐ4月、いよいよゴルフシーズン到来です。


今日は快晴の休日なので、さっそく相原会長、営業部の佐藤部長、総務課の大竹課長、営業2課の神坂課長の4人はゴルフコースに出ているようです。


「ナイスショット! やりますね、タケさん」


「神坂君、僕はゴルフにはかなりお金を掛けてるからね」


「神坂君も5年振りのゴルフにしてはまあまあじゃないか」


「会長、ありがとうございます。前半は素面(しらふ)ですからね。問題は午後ですよ。ナイスショット! 相変わらず佐藤部長は淡々とプレーしますよね」


「神坂君、邪念が出ると言い結果は出ないのがゴルフだよ」


午前中、インからスタートした4人は18番ホールを終えて、お昼休憩に入ったようです。


「神坂君、前半は52か。まあまあじゃないか」と佐藤部長。


「うまくバンカーを避けていたよね」と大竹課長。


「君子危うきに近寄らずですよ」


「ああ、その『君子』で思い出したけど、神坂君、清水君のことをうまくフォローしてくれたみたいだね。ありがとう」


「なんのことですか?」


「清水君本人から聞いたよ。何度も食事に誘ってもらったって」


「へぇ、神坂君。意外と良いところがあるじゃない」


「タケさん、『意外と』という言葉が引っかかりますね」


「ははは。神坂君のお陰で、清水君がとても前向きになって、1課の若手にも声をかけるようになったとサイさん(営業1課の西郷課長)が喜んでいたよ」(このあたりの経緯については、第1134日の物語をお読みください)


「あいつ、余計なこと言わなくて良いのになぁ」


「カミサマが照れてどうするんだ!」


「か、会長までおちょくらないでくださいよ! ところで部長、なんで『君子』からその話になったんですか?」


「実は、一斎先生が嘆いているんだよ。『昔は君子といえば、徳が高い人を指す言葉だった。徳が高い人は当然のように高い地位を得ていた。ところが最近は、徳もないのに地位を得る輩が増えて、いつのまにか君子という言葉が地位の高い人を指す言葉に変ってしまった。嘆かわしいことだ』ってね」


「なるほど、佐藤君が言いたいのは、清水君はまだ徳が足りていないということね」


「はい、会長。彼が会社のエースであることは間違いのないことですが、一匹狼で独りよがりなところがあります。そこが、彼の昇格を見送った最大の理由なのですが、それを彼に理解してもらうのに、サイさんも私も苦労したんです」


「そうだろうね」


「ところが、神坂君が見事にそれをやってのけてくれたんですよ」


「ほお、やっぱりカミサマはご立派!」


「会長! この後のティーグランドでは私の打球の行方にご注意くださいね。結構、午後はシャンクが出やすいので!!」


「おー、怖い。しかし、佐藤君の言うとおりで、人格者でない人を上に立てると、苦労するのは部下だからね」


「我々としても苦渋の決断でした。そのとき、一番納得していなかったのが神坂君だったんです。それなのに、彼は自ら清水君の説得に当たってくれたんです」(昇格会議については、第1068日の物語をお読みください)


「素晴らしいじゃないか! 大竹君、こんな立派な神坂君をからかってばかりいては駄目だぞ!」


「ひどいなぁ、会長。途中からほとんど会長がイジッてたのに! 神坂君、きっと今日は良いスコアがでるな!」


「とかいいながら、タケさんは前半44でしょう。90を切るペースじゃないですか!」


「そうなんだけど、コレがあるからね」
大竹課長はビールの大ジョッキを指しています。


「私も、問題はそこです・・・」


ひとりごと 

人徳と地位とのアンバランスは、今に始まったことではないようです。

中国古典の『書経』には、「徳のある人には地位を与え、成果をあげた人には俸禄を与えよ」とあります。

つまり、どんなに成果をあげても、徳のない人に地位を与えてはいけない、ということです。

小生の場合、未熟な人格のままマネジャーに昇進させてもらったことで、大きな勘違いをして、数々の失敗をしてきました。

マネジャー職にある方は、本来の意味での君子を目指しましょうね。


【原文】
君子とは有徳の称なり。其の徳有れば、則ち其の位有り。徳の高下を視て、位の崇卑を為す。叔世(しゅくせ)に及んで、其の徳無くして、其の位に居る者有れば、則ち君子も亦遂に専ら在位に就いて之を称する者有り。今の君子、蓋(なん)ぞ虚名を冒すの恥たるを知らざる。〔『言志録』第9条〕



【訳】
君子とは徳のある人の総称である。かつては徳のある人は、その徳に相応しい地位を得ていた。したがって、その人の徳の高低によって、地位の高下も自然と定まっていた。ところが後世になると、徳を具えていなくとも高い地位を得る者が出てきたので、いつの間にか君子という言葉は、高い地位にある人を称する言葉になってしまった。今日の君子といわれる人々は、名実伴わないことの恥ずかしさを知らないのではないか。



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第1141日 「手段」 と 「目的」 についての一考察

営業部の佐藤部長が東京出張のついでに、高校時代の友人と夕食を共にしているようです。


「中本、お前から連絡をしてくるなんてめずらしいな」


「なあ、佐藤。生きていくのって辛いなぁ」


突然どうしたんだよ。何かあったのか?」


「実はさ、社内でパワハラの指摘を受けて、今は営業職から外されているんだよ」


「本当かよ?」


「ああ。まあ俺の言い方に棘があるのは自分でも自覚しているから、そういう指摘を受けたこと自体は納得しているんだ。ただ、この歳になってもまだこんなに試練が続くのかなぁ、って思うと虚しくなってくるんだ」


「すぐに言葉が見つからないな」


「おまけに妻との折り合いも良くないんだよね。仕事と家庭の両方に居場所がないなと思っているうちに、精神的に病んでしまって、うつ病の診断を受けてしまったんだ」


「では、今は会社を休んでいるのか?」


「ああ、とりあえず60日間は自宅療養ということになった」


「・・・」


「時々、『もう死んでもいいぞ』っていう声が聞えてくるんだよ」


「ばかやろう! 自ら命を絶つなんて絶対に駄目だぞ!」


「死にたいとは思わないよ。ただ、死んでもいいなとは思う」


「同じことだろう!」


「そうかも知れないな。ただ、自殺をしようとは思わない。例えば、車を運転しているときに、対向車が突っ込んできて死ぬなら仕方がないな、というようなことを思うんだ」


「それは、うつ病のせいだよ。どこか、リフレッシュできる場所はないのか?」


「いわゆるワーカホリックだったからな。趣味という趣味もないんだよ」


「そうだったな。実は、俺もかみさんが死んだとき、たしかに生きがいを失ったよ。そのとき、あるお客様から一冊の本を紹介されて読んでみたんだ」


「どんな本なんだ?」


「佐藤一斎先生の『言志録』という本だよ。そこにこう書いてあったんだ。『生きるということは、自分に嘘をつかず、仕事を通じて人様のお役に立つことに務める。それ以外にない』とな」


「自分に嘘はつかない・・・」


「中本、俺はお前のことはよく知っているつもりだ。お前の言葉はたしかにキツイが、それは会社のためであり、その社員さんのことを思って発した言葉だと信じている」


「それは、そうだな。自分の地位や名誉のために言ったつもりはない」


「ただし、伝え方には問題があったんだろうと思う。もっと部下や後輩を応援するという意識で言葉を選んだらどうだ」


「そうだな。自分のすべてを否定するのではなく、良い点と悪い点をしっかり見極めて、自らを励ましつつ、反省すべきは反省して改善していくしかないな


「人生100年時代を迎えようとしているんだ。俺たちはやっと折り返し地点にたどり着いたばかりだぞ。これからいくらでも人生の花を咲かせることはできるさ!」


「俺も本を読んでみるかな。お薦めの本はないか?」


「あるよ。中村信仁さんの『営業の大原則』はいいぞ。営業だけでない、生きるための原則も単純明快に書かれている。俺も、折に触れて読み返している本だよ」


「ありがとう。さっそく明日書店に買いに行くよ」


ひとりごと 

今日の物語の中で紹介した『営業の大原則』の著者であり、小生が師事する中村信仁さんは、「お金を儲けようと思うと、お金は手に入らない。しかし、お客様に喜んでもらおうと思うようになってからは、不思議とお金も入ってくるようになった」と言っています。

地位や富や名誉を得ることを目的にしてはいけないということなのでしょう。

それらはすべて手段であって、それをもってどう世の中の役に立ちたいかを真剣に問いかけてみると、自分のやるべきことが見えてくるようです。

小生も、大企業に居た頃は地位や名誉を求めて仕事をしていました。

いや、いつしか今の会社でも同じような姿勢になっていたようです。

手段と目的を間違えてはいけませんね。


【原文】
性分の本然を尽くし、職分の当然を務む。此の如きのみ。〔『言志録』第8条〕



【訳】
人間はもって生まれた誠を尽くし、仕事を通して他人のお役に立つように務める。それだけで良いのだ。



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第1140日 「恥」 と 「問いかけ」 についての一考察

今日は、営業部特販課の大累課長と営業2課の神坂課長とで、N日赤病院を訪問し、キーマンである加藤先生と5月受注予定の大型商談の製品構成打合せを実施したようです。


「なんとか決まりそうでよかったですね」


「本当だよ。来年度上期の最大案件だからな」


「それにしても、神坂さんのセールストークはお見事ですよね。神坂さんが問いかけをすると、いつの間にかドクターが嬉々として話をするようになりますからね」


「意外とお客さまというのは、自分自身の真のニーズに気づいていないものなんだよ。だから、質問をすることで、自らニーズに気づいてもらう必要があるんだ」


「なるほど、そうか!」


「ど、どうしたんだよ。急にデカイ声を出してさ」


「いや、実は雑賀のことでいろいろ悩んでいましてね。先日も佐藤部長に相談したんですよ」


「雑賀君か。あいつはなかなかのくせ者だもんな」


「なにせ、口が立ちますからね」


「ははは。お前はそういう奴が苦手だもんな。たとえば俺とか・・・」


「神坂さんは単純で何を考えているかがすぐにわかるから、苦手という意識はないですよ」


「それって褒めてるの? ディスってるの?」


「ご想像にお任せします」


「ちっ、お前は俺を舐めてるな。まあ、いいや。で、何でデカイ声を出したわけ?」


「部長から、雑賀が会社の中で何を実現したいかを理解しなさいと言われたので、さっそく奴にストレートに聞いてみたんですよ。そうしたら『特にないですねって言いやがったんです」


「それで、『真面目に考えろ!』とか言って、また説教したんだろう?」


「そ、そのとおりなんです。それでさっきの神坂さんの話を聞いていて、神坂さんのトークの展開を思い出したんです」


「どういうこと?」


「決して、ストレートには聞かずに、加藤先生が抱えているであろう課題に気づかせるような話の仕方をしていましたよね。つまり、神坂さんは、あらかじめ加藤先生の課題を把握していたということです。ところが私は、雑賀が何をやりたいのか、どうなりたいのかをまったく理解しないまま質問していました」


「なるほどな。もう少し付け加えれば、雑賀君は恐らくその『やりたいこと』が見えていないんじゃないかな。つまり『志』が立っていないんだよ」


「ああ、佐藤部長も『志』と言っていました。私は、雑賀が志を立てる支援をしなければいけないということなんですね? でも、どうすればいいのかなぁ?」


『志を立てるには、恥を知ることが大切だ』と一斎先生は言っているんだ。あっ、これはもちろん佐藤部長の受け売りだけどな」


「『恥を知る』ですか?」


「たぶん、自分がいかに未熟かを思い知ることだ、ってことなんじゃないかな」


「雑賀が自分の未熟さに気づいてくれるようにすれば良いということか。あいつは誰をライバルとしているのかな? お役に立ちたいと思っているお客さまはいるのかなぁ?」


「大累、そういうことを聞いてみればいいんだよ」


「そうですね。ありがとうございます」


「ただし、冷静に、決してキレずにな!」


「さすがは、カミサマです」


「なんだと、このやろう!!」


ひとりごと 

人間という生き物は、悔しさをバネにしたときが一番成長できるのかも知れません。

若い社員さんにそうした悔しさをもってもらうためには、自分の未熟さに気づいてもらうことが重要なのでしょう。

ただし、ストレートに「君は未熟だ!」とやってしまっては駄目です。

小生はこれの専門家でした。

誰しも欠点を直接指摘されると良い気分にはなりません。

その社員さんの実情をなるべく把握した上で、効果的な問いかけをして導いていく必要があるのでしょう。

大いに反省させられます。


【原文】
立志の功は、恥を知るを以て要と為す。〔『言志録』第7条〕


【訳文】
志を立て、結果を出すために修養を積むには、すべてにおいて恥を知ることが肝要である。



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