一日一斎物語 (ストーリーで味わう『言志四録』)

毎日一信 佐藤一斎先生の『言志四録』を一章ずつ取り上げて、一話完結の物語に仕立てています(第1066日目より)。 物語をお読みいただき、少しだけ立ち止まって考える時間をもっていただけたなら、それに勝る喜びはありません。

2018年04月

第1174日 「春夏」 と 「秋冬」 についての一考察

金曜日の夕方、珍しいお客さんがオフィスを訪れました。


「おお、サイさん。どうしたの?」
佐藤部長が真っ先に気づいたようです。


「ご無沙汰しております、と言うほど時間は経ってないですかね。皆さん、お元気ですか?」
3月に定年退職をした西郷課長のようです。


「えーっと、どちら様でしたっけ?」


「酷いなぁ、神坂君。まだ、退職してから1ヶ月しか経っていないのにさぁ」


「ははは、失礼しました。で、今日はどうされたんですか?」


「ちょっと近くまで来たので、甘いものを食べたい時間だろうから差し入れをお持ちしました」


「やったぁ、ありがとうございます!」


「石崎、お前の分まであるかどうかわからないぞ」


「大丈夫です。最悪、課長の分があれば、課長はダイエット中ですから、私が変わりに食べてあげますから」


「クソガキが」


「えっ、何か言いましたか?」


「石崎君、大丈夫だよ。皆さんの分はちゃんとあるから。この近くにある人気の洋菓子屋さんのケーキだからおいしいと思うよ」


「西郷課長、あそこのケーキは最高ですよ。ただ、お高いんですよね。ありがとうございまーす」


「ところで、佐藤部長。新美君は外出中ですか?」


「ああ今、1課のミーティング中じゃないかな。おお、ちょうど終ったみたいだ。新美君!」


「あ、西郷課長!」


「おいおい、もう私は課長じゃないよ」


西郷元課長と新美課長はふたりで喫茶コーナーへ行ったようです。


「どうだい、課長の仕事は、少しは慣れたかな?」


「ええ、皆さんに助けていただいてなんとかこなしています」


「悩んでいることはないの?」


「それは、たくさんあります。たとえば、課長になる前と同じ発言をしているつもりでも、メンバーの受け取り方は全然違うので、とまどっているのもそのひとつです」


「ほお、たとえばどんなこと?」


「はい、私はアドバイスのつもりで言ったことが、命令だと受けとられてしまうんです」


「そういうものだよ。だからこそ、今のその気持ちをずっと忘れずにいればいいんだよ」


「どういうことですか?」


「人は地位が上ったり富や栄誉を得ると、気づかないうちに心が驕ってしまい、大切な志までしぼませてしまうんだ。いつの間にか、アドバイスではなく指示ばかりになって、まるで自分の分身を作ろうとしているかのようになってしまう。まあ、新美君にはその心配はないとは思うけど」


「いや、そんなことはありません。今のアドバイスを肝に銘じておきます」


「そう、これもあくまでアドバイスだからね。取捨選択は新美君の判断でやってくれよ」


「はい、もちろんです。それと、もうひとつ気になっているのが廣田君なんです」


「まだスランプから脱出できないのか?」


「はい、彼は性格が優しすぎる上に完璧主義なところがあるので、彼がこの商品は絶対に良い商品だと思えないと、お客さまに本気になって提案できないようなんです」


「誰にとっても100点満点の商品などないんだけどな」


「ええ、最近はよく二人で面談もしているんですが、そこが腹に落ちないようです」


「彼の場合は今の新美君とは逆で、同期の本田君に差をつけられていて、立場は同じ主任でも、名声や報酬の面では苦しいときだよね。しかし、そういう時にこそ志は磨かれるんだよ」


「なるほど。最近は、売上や商品の話ばかりしていましたので、志について彼と話をしてみます」


「もう私は新美君の上司じゃないから、君に任せるよ」


二人はオフィスに戻ったようです。


「では皆さん、そろそろ帰ります。お忙しいところお邪魔しました」


「西郷課長、ケーキ最高でした! また寄ってくださいね」


「石崎、今の発言は完全にお土産狙いだろ! サイさん、今日はゆっくり話せなかったですが、またゆっくり話を聴かせてください」


「神坂君、ありがとう。そう言ってくれるとうれしいよ。佐藤部長、またお邪魔させてもらいます」


「もちろんです。時々顔を出して、ウチの若い連中の背中を押してもらえると助かります」


ひとりごと

この言葉は小生には強烈に突き刺さります。

小生が前勤務先で課長に昇格したときは、まさに怖いものなし、天下を取ったような気分でいました。

当然、自分の意見が絶対だと信じて、メンバーには指示をするだけで、自ら考えることをさせていませんでした。

その結果、どうなったかは推して知るべしです。

しかし、人間は生きている限りリベンジするチャンスを与えられているはずです。

転落したら、志を磨いて、再び這い上がれば良いのです。


原文】
富貴は譬えば則ち春夏なり。人の心をして蕩せしむ。貧賤は譬えば則ち秋冬なり。人の心をして粛ならしむ。故に人富貴に於いては即ち其の志を溺らし、貧賤に於いては則ち其の志を堅くす。


【訳】
財産が豊富で、地位も高い位置にあるときは、調子に乗って淫らな生活をし、志を保ち続けることは難しい。逆に貧乏で地位の低いときには、かえって人は気持ちを引き締め、志を強く認識するようになる



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第1173日 「好き」 と 「嫌い」 についての一考察

今日は喫茶コーナーで、営業部の佐藤部長と特販課の大累課長が談笑しているようです。


「この前、例の件(雑賀さんの教育に関すること)で神坂君からいろいろアドバイスをもらったらしいね」(詳細は、第1170日・1171日をご参照ください)


「えっ、なんでご存知なんですか?」


「ちさとママから聞いたよ」


「ああ、なるほど。目から鱗が落ちるとは、ああいうことを言うのですね。正直に言って、神坂さんからあんな的確なアドバイスをもらえるとは思っていませんでした」


「ははは。神坂君は今、マネジメントが面白くて仕方がないみたいだね」


「元々、セールスとしては凄い人でしたから、いつも背中を追いかけて、追いつけずにいました。でも、マネジャーとしてなら追い抜けるかも知れないなんて思っていたんですが・・・」


「さらに差がついちゃった?」


「はい。今は背中が見えなくなるほど遠くに行ってしまいました。でも、尊敬の念を新たにしました」


「ちさとママも驚いていたよ。あれが以前の神坂君と同じ人物だとは思えないってね。(笑)」


「神坂さんからいろいろとアドバイスをもらったんですが、とにかくメンバーに好き嫌いの感情を持つなと言われたんです」


「なるほどね。『好き嫌いの感情を持つと、人を正しく観ることができなくなる』と一斎先生も言っているよ」


「そうなんですね。でも、本当にそのとおりですね。あれから、雑賀と真正面から向き合ってみたんです」


「素晴らしいじゃないか」


「朝、手にしていた本について聞いてみたら、すごく嬉しそうに話をしてくれたんですよ」


「ほお」


「それでお恥ずかしいことなんですが、その日の夜、あいつと初めて差しで飲んだんです」


「そうか、一度もなかったんだね」


「ええ。あいつ、色々と話をしてくれました。あいつは若い時にお父さんが亡くなって、母親と二人でずっと暮らしてきたらしいんです」


「そうだったな。たしか最近はお母さんの体調もよろしくないんじゃないか?」


「ああ、部長はご存知だったんですね。私は、全然知りませんでした。あいつが突然休んだり、定時後にさっさと帰るときは、すべて母親の体調が悪いときだったんです」


「そうだったのか。素直に言ってくれれば良いのにな」


「そう言いました。そしたら、あいつとしては、仕事よりも母親を優先している自分が恥ずかしかったんだそうです」


「何も恥ずかしいことはないのになぁ」


「ええ。でも、確かにウチの会社は、神坂さんにしても、新美にしても、清水や本田にしても、みんな仕事第一みたいなキャラクターが多いじゃないですか」


「そうかもしれないな」


「それが恥ずかしくて、つい斜に構えた態度をとってしまっていたらしいんです。そのうちに、私があまり相手にしなくなってしまったので、あいつにはそれがすごく悲しかったそうです」


「彼には社内に相談できる人がいないのかな?」


「同期入社の子はすぐに辞めてしまったので、そういう人は居ないみたいですね。あいつ、神坂さんと私の関係をすごく羨ましく思っていたんだそうです」


「私からみても君達の関係は微笑ましいもんね」


「ありがとうございます。それで、あいつは私とそういう関係になりたかった、って言うんです。あ、すみません」
大累課長は堪えきれず涙を拭ったようです。


「だから大累君には特にああいう言い方をしていたんだね」


「はい、それなのに私はそれを理解せずに、本気で腹を立てていました。そのうちに、あいつが嫌いになっていたんです」


「それは、彼の言い方にも問題が多かったからやむを得ない面もあるよ」


「だから、私はあいつに言いました。『お前は、今までどおりのお前でいい。これからは俺が絶妙なリアクションで返すから』って」


「素晴らしいことじゃないか」


「そうしたら、あいつもこう言ったんです。『いえ、私も態度の悪さや言い過ぎた面がたくさんあったことには気づいていました。私も気をつけますので・・・』」
大累課長がまた涙を拭いました。


「『これからは私の相談に乗ってください』って」


佐藤部長ももらい泣きをしているようです。


「部長。考えてみれば神坂さんは、私の失礼な言葉にも上手に対応をしてくれていたんですよね。それなのに私は自分と同じようなことをしている雑賀の気持ちをまったく理解できていなかったんです」


「いいじゃないか。それに気づいて、雑賀君としっかり話ができたんだから」


「そうですね。やっぱりあの人は私にとって本当に神様なのかも知れないですね」


ひとりごと

反抗的な態度をとる社員さんにも、必ず何か理由があります。

小生がマネジャーに成り立ての頃は、この物語の大累課長のように、まずは相手を力づくで押さえ込もうと試み、それができないと教育を放棄するという駄目上司でした。

しかし、問題児と呼ばれる人は大概、家庭環境や育った環境に影響を受けているようです。

A・アドラー博士はこう言っています。

「同じ環境に育っても、人は自分の意思で、違う未来を選択できるのだ」

こちらが心を開いて辛抱強く話を聞く姿勢をとり続ければ、きっと違う未来を選択してくれる日がくるはずです。

楽天的だと言われようと、そういうスタンスでメンバーに接するリーダーでありたいものです。


原文】
愛悪(あいお)の念頭、最も藻鑑(そうかん)を累(わずら)わす。〔『言志録』第40条〕


【訳】
人と接する時は好悪の感情を交えてはいけない。
好悪の感情が入れば、人を客観的に正しく見ることができなくなる



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第1172日 「第一印象」 と 「笑顔」 についての一考察

今日も神坂課長は、2018年度の新卒社員さん達に研修をしているようです。


「起立! 礼!」
梅田君が号令をかけました。


「よろしくお願いします」


「やっぱりいいね。研修の最初と最後はしっかりと挨拶をして終ろうな。気持ちが引き締まるでしょう」


「はい」
4人の返事が若々しく響きます。


「ただねぇ・・・。今、皆さんが起立したときに、椅子をしまった人がひとりも居なかったんだよね」


「・・・」


「それから、立ち上がって礼をするときには、スーツのボタンを留めて、正しい立ち姿で挨拶をして欲しいな。ただし、スーツの一番下のボタンは留めないのが基本なので、3つボタンのスーツなら上2つ、2つボタンなら上のボタンだけを留めればいいんだ。そして、着席するときには、さりげなくボタンを外すこと」


「全然知らなかったです」
湯浅君が関心しています。


「それから、これは今はあまり守られていないんだけど、スーツのフラップは室内ではポケットの中にしまい、屋外では外に出すのが正しいマナーなんだよ」


「フラップって、このポケットの蓋みたいなものですか?」


「志路君、そのとおり。フラップとはまさにポケットの蓋なので、屋外でポケットに埃が入ることを防ぐために付いているんだよ。だから、フォーマルなスーツにはフラップはないだろう?」


「たしかにそうですね」
藤倉君も関心しています。


「君たちは、これから営業マンとしてたくさんのお客さまと接することになる。その時に一番大事なのは、どんな第一印象を与えるかだ」


4人はみなフラップをポケットの中にしまっています。


「お客さまは自分の施設を担当する人がどんな人なのかを第一印象で判断するものなんだ。第一印象で無礼な印象や不潔な印象を与えてしまうと、それを払拭するのは大変だぞ」


「はい」


「髪をボサボサに伸ばしたり、靴が汚れていたりといった基本中の基本は当然のこととして、今指摘したボタンやフラップについては、お客さまでも知らない人もいるだろう。しかし、だからこそ、知っているお客さまから見れば、『おお梅田君はマナーをしっかり理解しているなと思ってもらえるんだ」


「ワクワクしてきたな」
梅田君のひとりごとです。


「さて、湯浅君」


「は、はい」


「もちろん身だしなみを整え、マナーを守ることはとても重要ですが、場合によってはそれよりも重要なものがあるんだけど、何かわかるかな?」


「何だろうな? あ、元気ですか?」


「そうだね、それも重要だ。君達新人さんが先輩社員に唯一勝てるものがある。それが若さだ。若さの象徴は元気さにあるからね。明るく元気に挨拶ができることは大切なことだよね」


「はい」


「ただ時々、馬鹿みたいにデカイ声で入ってくる営業マンがいるけど、あれは駄目だ。その空間に合わせた適切なボリュームというのがある。それを身につけないと、ただのうるさい営業マンだと思われてしまう」


「あ、俺それ気をつけないとな」
志路君です。


「志路君は、スポーツは何かやっていたのかい?」


「大学では野球部でした」


「なるほどな。野球のグランドなら、どれだけ大きな声を出しても、大きすぎるということはないからね。しかし、室内は違うぞ」


「はい」


さて、元気さ以外で大事なことがあるとすれば何でしょう? みんな、藤倉君を見て気づくことはないかな?」


「ああ、笑顔ですね!」


「梅田君、正解! 営業マンにとって、笑顔に勝る武器はないんだ。皆さんは、明るく元気に笑顔でお客さまの前に立って欲しい。藤倉君は研修の間ずっとニコニコしているよね。そして話を聞きながら、うなずいたり、メモをとったりしている。私にはとても良い第一印象を与えたよ」


「うれしいです!」


「今日は第一印象について話をしました。皆さんに勘違いをして欲しくないのは、テクニックでお客さまの第一印象を操作することはできないということです。作り笑いが見抜けないほど、お客さまの目は節穴ではないからね」


「・・・」


「心から、『お客さまに会えて嬉しいお客様のお役に立ちたいと思えるように・・・」


「しっかり準備をするのですね」


「おお、湯浅君。乗ってきたね!」


「はい!」


「声がデカイ! 空間をよく認識しような」


一同、大爆笑です。


「それでは今日はここまでにしましょう」


「起立! 礼!」


4人は立ち上がると、すぐにボタンを留めました。


「ありがとうございました!」


ひとりごと

たしかに、第一印象というのは意外と相手を正しく見通しているのかもしれません。

とくに、言葉ではなく外見から入ってくる印象は正直なものです。

そういう意味でも、正しい所作や身だしなみは、新人のうちにマスターしておきたいところです

外部研修なども活用して、よい第一印象を与える社員さんづくりを進めましょう。


原文】
人の賢否は、初めて見る時に於いて之を相するに、多く謬(あやま)らず。〔『言志録』第39条〕


【訳】
人が賢いか否かは、最初に視た時の印象というものが、大概は正しいものだ。




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第1171日 「北風」 と 「太陽」 についての一考察(後編)

第1170日のつづき


部下である雑賀さんの指導に悩む大累課長が、神坂課長を飲みに誘って相談をしています。


「まあ、順を追って話そうか。信頼口座というのは、その人を認めてあげることで貯金が積みあがっていくんだ。逆に叱責したり注意を与えると貯金が引き出される仕組みだ」


「なるほど」


「仮に叱責するにしても、相手の信頼口座に信頼残高が残っているうちは、相手は素直にその叱責を受け入れるだろう」


「そうか! 雑賀の信頼口座の中の大累名義の残高はもう赤字状態なんですね」


「多分な。それでも叱責をすればどうなると思う?」


「信頼負債の状態ですから、まともに取り合わないでしょうね」


「今の大累と雑賀の関係は、そういうことだよね」


「なるほど。それで、どうしたら信頼残高は増やせるんですか?」


「正直に言って、誰にでも当てはまる正解はないと思う。相手によって信頼残高を増やす手法はすべて違うんじゃないかな」


「そうでしょうね」


「基本的には、褒めること、認めることで残高は積みあがり、叱ったり責めたりすれば残高は減る。最悪なのは無視するような行為だろうな。あれは不当たりみたいなもんで、一発で残高マイナスだよ」


「ああ、最近、故意に雑賀を視界から外していたかも知れません。そうだよなぁ、上司に無視されたら辛いだろうな」


「ただし、難しいのはな。褒めるというのは結果の承認なんだよ。なにか良い結果が出ていないと褒められないんだ。ところが、雑賀は今伸び悩んでいるから、あまり良い結果が出ていないよな。そうなると褒めることができず、叱責ばかりになりやすい」


「たしかに、その通りです」


「そこで大事なのが、『ねぎらう』という行為だ」


「ねぎらう?」


「そう、ねぎらいとはプロセスの承認だ。どんな社員さんでも、まったく頑張っていない奴はいないはずだ。そのがんばりを認めてあげるんだよ」


「具体的にはどうすれば良いんですか?」


「たとえば、雑賀は意外と読書家じゃないか。毎朝、出社する時に、いつも本を手にしているからな。その本について聞いてみて、『良い本を読んでいるな』とか『それは面白そうだな、俺も読んでみようかな』といった言葉をかければいいんじゃないか」


「そういうことから始めればいいのか」


「結果は関係ないから、ねぎらうことは意外と簡単なんだよ。それなのにそれをやらないマネジャーは多いよな。といいながら、ちょっと前までの俺は、ねぎらいの『ね』の字も知らなかったけどな」


「ははは、常に叱りっ放しでしたね」


「お恥ずかしい限りです。まあ、それは置いておいて。たとえば、そんな風にねぎらうことでコミュニケーションをとりながら、相手の言葉や表情をしっかりと観察するんだよ」


「言葉と表情ですか?」


「人の内面が素直に表れるのはこの2つだよ。日頃からコミュニケーションをとっていれば、言葉と表情の微妙な違いが読み取れるようになるもんだ」


「そういえば、神坂さんはメンバーの出社時と帰社時に必ず声をかけていますよね?」


「それで彼らの心の中を俺なりに読み取っているんだよ」


「全然知らなかったです・・・」


「でもな、一番大事なことは、好き嫌いの感情を捨てることだよ。自分の部下に対しては、別に好きにならなくてもいいが、嫌いになってはいけない」


「最近、雑賀のことを嫌いになりかかっていました」


「それは駄目だよ。そして、彼らに興味をもつことだ。興味をもてば、いろいろと聞きたいことが出てくるし、そこからものの考え方なんかも見えてくる。自然にねぎらいの言葉が溢れてくるんだよ」


「神坂さん!」


「ど、どうしたんだよ急に」


「これまでの数々の無礼な発言、すべてお詫びします! これから師匠と呼ばせてください」


「嫌だね」


「えっ、なぜですか?」


「俺は今までのお前がいい。お前は俺をおちょくって、俺もお前を殴る。これが最高に心地良い関係だからさ」


「そ、そうですか・・・。殴られるこっちは心地良くないですけどね」


「あ、そりゃそうか」


「ははは。神坂さん、ここの御代だけでは感謝をし尽くせないので、もう1件付き合ってもらえませんか?」


「マジで! いいねぇ。喜んでお供します!」


ふたりはご機嫌で「小料理屋ちさと」を後にしました。


「神坂君、いつのまにか頼もしいマネジャーになったな」
ちさとママは、後片付けをしながら、ひとりでつぶやきました。


ひとりごと

よく部下育成をしているリーダーから「誉めようにも誉めることがないんです」という言葉を聞きます。

誉めるためには良い結果が必要です。

しかし、無理に誉めなくても、「ねぎらい」をうまく活用すれば、信頼残高を増やすことは可能です。

ぜひ、ねぎらいのポイントはプロセスに注目することです。ぜひ、ねぎらいを上手に取り入れてみましょう。

小生の友人に「ねぎらい伝道師」と呼ばれる兼重日奈子さんという方がいます。

兼重さんの著書『幸せな売り場のつくり方』は、小生にねぎらいの大切さを教えてくれた名著です。

ぜひ、こちらもご一読ください。



原文】
心の形(あら)わるる所は、尤も言と色とに在り。言を察して色を観れば、賢不肖、人廋(かく)す能わず。〔『言志録』第38条〕


【訳】
心の内面が最も外面に現われるのは、言葉と顔色である。人のいう言葉をよく推察して、その人の顔色をみると、その人がかしこいか愚かであるかはすぐにわかるものだ。人はそれを隠すことはできない。


福娘童話集の朗読ページより
http://hukumusume.com/douwa/koe/aesop/09/18a.html

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第1170日 「北風」 と 「太陽」 についての一考察(前編)

「神坂さん、もう限界です! やはり雑賀は私の手には負えません!」


「おお、遂にギブアップ宣言か?」


今日は、特販課の大累課長が神坂課長を飲みに誘ったようです。


「あいつは仕事もロクにできないくせに、言い訳や屁理屈だけは当社一のスキルを持ってますよね」


「たしかになぁ。彼は屁理屈のデパートみたいな奴だからな」


「私も私なりにはいろいろとトライはしたんですよ。実は・・・」


「なんだよ」


「以前に佐藤部長に相談したら、もし本当にギブアップなら、雑賀を神坂さんの下に配属すると言われたんです。正直に言って、それは悔しかったので、それからも出来る限りの手は尽くしたつもりなんです」


「おいおい、俺の知らないところで勝手にそういう話をされてたの? 俺は石崎と善久で手一杯な上に、新人君も5月には配属になるから、ご勘弁被りたいなぁ」


「でも、本当に万策尽きた感があるので、いっそのこと神坂さんに相談しようと思って今日はお誘いしたんですよ」


「それで、当然今日はご馳走してくれるんだよな?」


「それは神坂さんのお話次第です」


「マジで! それはプレッシャーだな」


「仕事でプレッシャーを感じないくせに、そういうところでは感じるんですね」


「ゴン」


「痛っ、また暴力だ!」


「はいはい、もう二人はいい大人なんだから、いつまでも子供の兄弟喧嘩みたいなことしないの!」


「ちさとママ、こいつは後輩のくせにまったく先輩を尊敬しないんだよ!」


「尊敬しているから相談してるんじゃないの? ねっ、大累君」


「そうなんですよ。それをわかってくれないんですよ、神坂さんは」


「まあ、せっかくビールも来たし、まずは乾杯しよう!」


「それにしても、雑賀みたいな奴の心を入れ替えることなんてできるんですかね?」


「できるわけないじゃん」


「えっ?」


「他人の心を入れ替えることなんて、誰にもできないよ。自分の子供だって、それは無理だぜ」


「じゃあ、どうすればいいんですか?」


「ぶん殴って、脅してでも言う事を聞かせろ! っていうのが、数年前の俺だった」


「たしかに! あ、殴るのはなしですよ!」


「しかし、恐怖政治には限界がある。所詮、北風は太陽には勝てないんだってことを遅まきながら学んだよ。大累、お前は北風のように無理やり旅人のコートを吹き飛ばそうとしていないか?」


「・・・」


「どんなに北風が風の勢いを増しても、旅人は飛ばされないようにコートを深く着込むだけだよな。だけど、太陽が暖かい陽射しを浴びせれば、旅人は自らコートを脱ぐんだよ」


「なるほど」


「雑賀の心の信頼口座には、大累の信頼貯金はどれくらいあるんだ?」


「はい?」


「人は、自分を認めてくれていないと思っている人の話しはまともに聴かないものじゃないかな?」


「・・・」


「まずは雑賀の心の信頼口座に大累名義の貯金を積み上げることが先じゃないのか?」


「どうしたら信頼貯金ができるのかなぁ?」


「そのためにはな・・・」


「はい」


「聞きたいか?」


「当たり前じゃないですか!」


「よし、わかった。この時点で今日の晩飯代をご馳走することを約束するなら教えてやる」


「せ、せこい! でも、見事に神坂マジックに嵌ったかも? わかりましたよ、全てご馳走します!」


第1171日に続く


ひとりごと

いわゆる問題社員さんというのはどこの職場にも居るものです。

マネジャーの皆さんは日々頭を悩ませながら、なんとか一人前のビジネスマンになってもらおうと悪戦苦闘しているのではないでしょうか?

しかし、無理に他人を変えることはできません!

もし、北風政策を執っているのであれば、大至急、太陽政策に切り替えましょう!


原文】
能く人を容るる者にして、而る後以て人を責む可し。人も亦其の責を受く。人を容るること能わざる者は、人を責むること能わず。人も亦其の責を受けず。〔『言志録』第37条〕


【訳】
人を受け容れる度量のある人だけが、人の欠点を責めたり咎めたりする資格を有している。叱責された人も、そういう人の叱責であれば素直に受け容れるものだ。また、人を受け容れる度量のない人は、人の欠点を責め咎める資格はない。叱責された人も、そういう人の叱責はまともに聞き入れないものだ。



福娘童話集の朗読ページより

http://hukumusume.com/douwa/koe/aesop/09/18a.html


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プロフィール

れみれみ