一日一斎物語 (ストーリーで味わう『言志四録』)

毎日一信 佐藤一斎先生の『言志四録』を一章ずつ取り上げて、一話完結の物語に仕立てています(第1066日目より)。 物語をお読みいただき、少しだけ立ち止まって考える時間をもっていただけたなら、それに勝る喜びはありません。

2018年06月

第1235日 「下の禍」 と 「上の因」 についての一考察

営業部の佐藤部長と神坂課長が、N赤十字病院に到着し、雑賀君の入院する病室を訪ねたようです。


病室には、すでに大累課長と雑賀君の母親が居るようです。


「佐藤部長、本当に申し訳ありません。私は自分が情けないです」
雑賀君は涙を流して謝罪しています。


「どれだけ後悔しても、やってしまったことを元に戻すことはできないんだよ」


「息子は、どうなるんでしょうか?」
隣に座っていた雑賀君のお母さんが心配そうに尋ねました。


「お母さん、今の時点ではまだ何とも言えません。判断は会社トップに委ねています」


「雑賀、お前は酒を飲むと大体問題を起すよな」
呆れながら神坂課長が優しく語りかけます。


「神坂さん、今度ばかりは酒を止めようと思いました。今更遅いかも知れませんが」


「遅くはないよ。今回はお前の単独事故で済んだんだ。誰かを傷つけるようなことはなかったんだからさ」


「そうだね。それだけは本当に良かったと思うよ。大切なお母さんをひとり残して交通刑務所に入るようなことになっていてもおかしくはないんだからね」


「はい、部長。本当にそう思います」
雑賀君の涙が止まりません。


「今回の件の責任は私にあります。部長、雑賀が処分されるなら、私も同等の処分をしてください」
大累課長の目にも涙が溜まっているようです。


「大累、お前・・・」
神坂課長は大累課長の覚悟をみて言葉が出ないようです。


「大累君の言うとおりだ。メンバーが起した問題の責任はすべて上司にある。つまり営業部の問題は、部長である私の責任だということだ」


「学(雑賀君の名前)、お前はこんな立派な人たちにどれだけ迷惑を掛けたと思ってるの。自分から辞表を出して男らしく責任を取りなさい!」


「そのつもりです!」


「ばかやろう!!」
神坂課長が怒鳴りながら、雑賀君の襟首をつかみました。


「今、お前が会社を辞めたら、更に会社に損失を与えることになるんだぞ。まだお前は全然会社に恩返しが出来ていないじゃないか! 会社を辞めるなんて、逃げるのと一緒だよ。お前がやるべきなのは、しっかりと仕事で会社に貢献することじゃないのか!!」


「神坂君、大きな声を出してはダメだよ」


「す、すみません、部長。なあ雑賀、部長も大累もどれだけお前を大切に思っているかが、身に沁みてわかっただろう? この二人にも何も恩返しをせずに逃げるつもりなのか!」


「ううっ」
とうとう堪えきれずに雑賀君は泣き出しました。


「佐藤部長は、もし雑賀が解雇になるなら、自分も辞めると言ったんだぞ。恐らくそこに居る大累も同じことを考えているんじゃないか」


「神坂君、なんでそれを知ってるんだ?」


「西村さんから教えてもらったんですよ。西村さんが心配して、『なんとかサトちゃんを止めてくれって私に頼んできたんです」


そのとき、佐藤部長の携帯電話が鳴りました。


「ちょっと、出てくる」


佐藤部長は携帯電話使用可能エリアに行って、電話を受けたようです。


病室はシーンと静まり返っています。


「ガチャ」


一同は一斉に佐藤部長の顔を注視しています。


「処分が決まったよ。謹慎一ヶ月、その期間の給与支給停止。そして、車両の修理費の一部を雑賀君の給与から毎月天引きする。それで決まりだ」


「あ、ありがとうございます!」
雑賀君とお母さんは同時に叫びました。


「おーっ、川井さんもやるじゃないか! あの人が雑賀をクビにするわけがないと思っていたんだよ」
神坂課長です。


会社の寛大な措置を聞いて、一同は皆涙を流しています、ただ一人を除いては・・・。


「神坂さんだけですよ、泣いていないの。相変わらず、素直じゃないですね」


「ばかやろう! 男はな、人前で泣くもんじゃねぇんだよ。だいたい最近の男は簡単に泣きすぎなんだよ! あー、安心したら急にトイレに行きたくなった。ちょっと失礼します」


「神坂君、トイレで泣くつもりだな」


「間違いないですね」


ようやく皆の顔に笑顔が戻りました。


ひとりごと

メンバーが起したトラブルを自分の責任だと捉える。

言葉にすれば簡単なことですが、実際にはなかなか難しいものです。

リーダーは自分に矢印を向け続けるべきだとは言うものの、なかなか腹に落とせないケースもあるでしょう。

そのときに、小生は『最善観』という言葉をいつも思い出します。

一切の出来事は絶対必然であり、そして最善である、という考え方です。

すべての出来事が今の自分にとってベストの出来事なのだ、そう思って、試練から逃げずに真正面からぶつかっていきましょう。


原文】
諺に云わく、禍は下より起ると。余謂えらく、「是れ亡国の言なり。人主をして誤りて之を信ぜしむ可からず」と。凡そ禍は皆上よりして起る。其の下より出づる者と雖も、而も亦必ず致す所有り。成湯の誥に曰く、「爾、万方の罪有るは、予(われ)一人(じん)に在り」と。人主たる者は、正に此の言を監(かんが)みるべし。〔『言志録』第102条〕


【意訳】
昔からの言い伝えには、「禍は下から起きる」とある。私は思う、「これはすでに亡びた国の言葉であろう。君主に信じさせてはいけない」と。禍は皆上から起るものであり、下から起きたものがあれば、そこには必ずそうする理由があるものだ。殷の湯王のお告げに「あなたがたが罪を犯すのは、私ひとりの責任である」と。君主たる者は、是非ともこの言葉を拳拳服膺すべきである、と一斎先生は言います。


【ビジネス的解釈】
企業内で発生する問題の多くは、形としては下にいるメンバーが引き起こすものであるが、その原因はリーダーにある。リーダーは常に矢印を自分に向け、「メンバーが引き起こす問題の責任はすべて自分にある」と捉えるべきである。


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第1234日 「規則」 と 「人情」 についての一考察

「おはようございます」


「課長、大変ですよ!」


神坂課長が出社早々、石崎君が慌てて神坂課長のデスクにやってきました。


特販課の雑賀君が飲酒運転で事故を起したようで、会社内はパニックになっているようです。


「マジか? あいつ何やってるんだよ。それで、相手に怪我はないのか?」


「相手? 単独で電柱に突っ込んだらしいですよ」


「単独事故か、不幸中の幸いだな。雑賀は無事なのか?」


「怪我をしているそうで、今は病院に入院しているそうです。さっき、大累課長が慌てて病院へ向かいました」


「いつの出来事なんだ?」


「つい先ほどみたいです。きっと夜中までお酒を飲んでいて、そのまま車を運転したんじゃないでしょうか?」


「あのバカ、酒を飲むと本当に碌な事をしないよな」


「この後はどうなるんですかね、雑賀さん」


「どうって、まず電柱の修理が先だろう。ウチのルールだと最悪は懲戒免職もあるかもな」


「え、クビですか? それは厳しいですね」


「その辺のところは、事実がはっきりしてから、会社として判断が下るだろう」


その頃、会議室では、川井室長、西村部長、佐藤部長の3名が情報収集と今後の協議を行っていたようです。


「ここまでのところで間違いないのは、飲酒運転による単独事故というところだな。雑賀以外に怪我人もいないようだ」
西村部長です。


「たった今、大累君が病院に到着して確認してくれましたが、雑賀君は頭を四針縫う怪我をしているようですが、意識ははっきりしているそうです」
佐藤部長の報告です。


「そうなると、マスコミへの対応というのはなさそうだな」
川井室長です。


「そうですね。電柱を損傷させたようなので、その分の修理費用を負担することと、雑賀君の処分をどうするかが当面の問題です」


「西村君、当社の社則では飲酒運転で事故を起した場合、懲戒免職になるんだっけ?」


「川井さん、実はそこはグレーゾーンでして、事故による被害者が出た場合は解雇なのですが、単独の場合は明記していないんです」


「そうは言っても、新聞には載る可能性もあるからな。当社の体裁を考えると、解雇が妥当かも知れないな」


「川井さん、社則に明記がないなら、謹慎等で済ますことはできませんか?」


「佐藤君、甘いことを言っている場合じゃないよ。相手が居なかったのは運が良かっただけのことで、一歩間違えれば大惨事になっていたかも知れないじゃないか」


「はい、それは重々承知しています」


「それに、あいつは普段から素行が悪いんだろう。この機会に居なくなってもらった方がいいんじゃないか?」


「川井さん、それと今回の件は別問題ではないでしょうか?」
西村部長が口を挟んだようです。


「彼は病気の母親を抱えているんです。今ここで職を失ったら、生活が出来なくなるかも知れません」


「佐藤君、それこそ会社と関係のないことだろう」


「しかし、今はウチの社員です。仲間です。もう一度チャンスを与えてもらえませんか」


「それで会社の評判が悪くならないか?」


「悪い評判が立つかも知れません。それでも、社員さんを守りたいんです。もし、雑賀君が解雇になるなら、上司であるこの私も一緒に解雇にしてください!」


「サトちゃん、感情的になっちゃだめだよ。雑賀がやったことは許されない行為だよ。人を傷つけなければいいという問題ではない。それに病気の母親がいるなら、なおのことそんな馬鹿な行為をすべきではなかったんだ。こういうときは厳しく処分するのが、会社のためであり、残された社員さんのためになるんじゃないか?」


「・・・」


「社長とは電話でやり取りをして、今回の件は川井に一任すると言われた。すこし考えて処分を下すよ。とりあえず、二人は今後も情報収集に当たってくれ」


ひとりごと

小生も長いサラリーマン人生の中で、幾人かの社員さんが社則に違反する行為によって懲戒免職となった場面を見てきました。

しかし、その人たちの多くは、いわゆる『良い人』でした。

ちょっとした出来心から悪事に手を染めてしまったのでしょう。

勿論、行為のレベルにもよりますが、その社員さんの人生を考えたとき、可能であればもう一度だけチャンスを与えたい、小生はそんな気持ちになりました。

それは甘いことなのでしょうか?


【原文】
或(ある)ひと疑う、成王・周公の三監を征せしは、社稷を重んじ人倫を軽んずるに非ずやと。余謂(おも)えらく、然らずと。三叔、武庚を助けて以て叛く。是は則ち文武に叛きしなり。成王・周公たる者、文武の為に其の罪を討せずして、故(ことさら)に之を緩して以て其の悪に党(くみ)せんや。即ち仍(な)お是れ人倫を重んぜしなり。〔『言志録』第101条〕


【意訳】
ある人は、成王と教育担当兼宰相の周公とが、三監を征伐したことは国家を人道よりも重視したのではないかと疑った。私はそうは思わない。成王の三人の叔父である三監が武庚を輔て謀反を起こしたことは、彼らの祖先である文王、武王の御霊に叛いたことになるのであるから、成王と周公がその悪を許さずに討伐したことは当然であって、これこそ人道を守ったことになるのだ。


【ビジネス的解釈】
会社(組織)を維持することよりも、社員を大切にすることを重視すべきだと前章では言ったが、それは社員の我がままを容認することではない。もしルールに叛くような行為があった場合には厳重に処分することも必要であり、それが人の道を守ることになるのだ。


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第1233日 「会社」 と 「社員」 についての一考察

「新聞を賑わせている森友学園の問題って、真実は分かりませんが、財務省の佐川財務局長が組織を守るために犠牲になったとすれば、それで良いのかって思いますよね」


神坂課長が佐藤部長とランチを食べながら話をしているようです。


「そうだね。真実はどうなのか分からないけど、仮に佐川さんが個人的な判断でやったのだとしても、官僚がそういう風に考えるような風土を作り上げている財務省はやはり問題だろうね」


「組織が大きくなれば、それだけ社会的責任も大きくなりますからね。簡単に判断できる問題ではないとしても、真実が捻じ曲げられることはあってはならないですよね」


「責任が大きいからこそ、真実が隠されてはいけないんだろうね」


「先日、川井さんが当社は正しいビジネスを愚直にやり続けようと話していましたね。そういう企業風土を作り上げていくのも、私たちの重要な役割ですね」


「そうだね。この前、教育の目的のひとつは『ベクトルを合わせ』だという話をしたよね。正しいビジネスを心がけ、どんな失敗であってもオープンにするという社風をつくるのも、まさにベクトル合わせだろうな」


「ああ、ベクトル合わせか、たしかにそうですね」


「一斎先生は『言志録』の中でこんな指摘をしているよ。『君主は国の存続を重視するが、それよりも大事なものがある。それが人の道だ』とね」


「真理が捻じ曲げられるというのは、人の道に背くことになりますね」


「うん。だから、『国は捨てることができても、人の道を放棄してはいけない』と断言しているんだ」


「国は捨ててでも、人の道を守れ、ということか。国というのはそのまま会社や組織にも当てはめることができますね」


「企業が最も守らねばならないのは、正しい道を踏み外さないこと、と読みかえれば良いよね。理想論だって言われるかも知れないけど」


「先日、サイさんが主査している『論語』の読書会に出たんですけど、その時に、リーダーは理想を追い求め続けなければいけない、と教えてもらいました」


「おお、孔子がそう言っているんだね?」


「はい、表現は違いますが要約するとそうなるということでした。それから、理想と現実は決して相反するものではないはずだ、とも言っていました」


「ははは、西郷さんらしいね。私もその意見には大いに賛同するな」


「『論語』を読むようになってから、佐藤部長が孔子に見えてきましたよ」


「おいおい、そんなこと言ったら、孔子に怒られるよ。あ、孔子は心が広いから怒らないかも知れないけど、頭の狭い学者さんには怒られそうだな」


「人間って、理想を追いかけるから、成長できるんですよね。諦めたり、妥協したら、その瞬間に成長はストップしますよね」


「理想を追いかける人をバカにする人は多いよね。『そんなことできるはずないといってやる前から否定する人たちで世の中は溢れかえっている」


「そうかも知れません」


「歴史を見返してみれば、最初は人が笑うようなアイデアこそが、後に大きな発明につながっているんだよ」


「そうか、そういうアイデアは手をつけ始めても、他人は真似をしませんからね。完成したときには、大きな先行者メリットを享受できるんでしょうね」


「それにね、他人の行為を否定する人たちは気づいていないんだよ。それが嫉妬心の裏返しであることにね」


「なるほど。じゃあ、今度誰かに私がやることを否定されたら、『神坂さん、羨ましいです』って言ってるんだと思えば良いんですね」


「さすが、ミスターポジティブだね!」


「私はそれが正しいことであるなら、組織のために喜んで自分を犠牲にする覚悟はあります。しかし、組織の悪を隠すために、メンバーを犠牲にするようなことは絶対にしません!」


「私もまったく同じ気持ちでこれまでマネジメントをしてきたつもりだよ」


「はい、そのお陰で、とても充実したビジネスライフを過せています。部長、ありがとうございます」


「充実した仕事ができているのは、神坂君の心の在り方が正しいからだよ」


「よし、誰になんと言われようと、私もメンバーが幸せになってもらうためのサポートをするぞ!!」


ひとりごと

『論語』にはたびたび「信」という言葉が出てきます。

この言葉には、

①言葉と行動を一致させること
②他人に嘘をつかないこと

という2つの意味があります。

しかし、他人に嘘をつかない己を作り上げるためには、まずやらねばならないことがあります。

それが、「忠」です。忠にも、

①自分のやるべきことに力を尽くすこと
②自分に嘘をつかないこと

という2つの意味があります。

まず、自分に嘘をつくことなく、自分のやるべきことにベストを尽くす。
その上で人にも嘘をつかない言行一致の己を作り上げることが重要なのでしょう。


原文】
人君は社稷を以て重しと為す。而れども人倫は殊に社稷より重し。社稷は棄つ可く、人倫は棄つ可からず。〔『言志録』第100条〕


【訳】
人君は国家を尊重しているが、人の守るべき道は、国家よりもとりわけ重要である。国家は棄てることがあっても、人道は棄てることはできない。


【ビジネス的解釈】
リーダーは組織を重視するが、人の履み行うべき正しい道は組織よりも重要である。組織は棄てることもできるが、守るべき正しい道はいつも守らなければならない。


*社稷(しゃしょく):元々は社(土地神を祭る祭壇)と稷(穀物の神を祭る祭壇)の総称。どちらも国家にとっても重きを置いたものであったため、いつしか国家そのものを指すようになった。


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第1232日 「ベクトル合わせ」 と 「能力開発」 についての一考察

部長室をノックしたのは、神坂課長のようです。


「はい、どうぞ。ああ、神坂君か。どうしたの?」


「佐藤部長、新人研修の件ですが、ちょっと気になる記事を読みましてね。これなんですけど、『若者は教育を求めていない』という見出しの記事なんです」


「ああ、それなら私も読んだよ。それは気にする必要はないんじゃないかな。若者は教育の必要性に気づいていないだけなんだから」


「そうですかねぇ。なんか無理強いをしても意味がないのかもな?なんて思ってしまいました」


「『生まれつきの人間の能力差などというものは微々たるものだが気質が違っている。だからこそ教育が必要だ』と一斎先生は言っているよ」


「入社一年目も同じということなのかな? 入社時の個々人の能力差なんて高が知れているということなんでしょうか?」


「そう思うよ。能力差はないけど、考え方の差はあるはずだよね。それをある程度同じ方向にベクトル合わせをするために教育が必要なんじゃないのかな」


「ベクトル合わせか」


「『それから元来、同じような能力を有しているからこそ、教育を行えば、その能力が開花されて成果につながるんだとも言っているよ」


「そうか、能力なんてものは磨けば光るということですね。つまり、教育とはベクトル合わせと能力開発という2つの目的があるんですね?」


「さすがは飲み込みが早いね。そういうことだから、是非研修を続けてくれないか?」


「勿論です。研修をやめたいからこんな話をしたわけではありません。ただ・・・」


「ん?」


「無理強いをすることで、営業の面白さを自ら体得する機会を奪ってしまわないかなという心配があるんです」


「なるほど」


「ウチの息子の話になりますが、長男に対してはカミさんがかなりガミガミ勉強しろと言ったんです。その結果、どうも長男は勉強が好きでなくなってしまったようです。次男に対してはその反省を活かして、あまり厳しくやらなかったんですが、その結果、次男の方が学力は高くなりました」


「だからこそ、答えを教えるような教育ではなくて、ベクトル合わせと能力開発に留めて欲しいんだよ」


「ああ、そうか! もっともっと考えさせる研修プログラムを組み立てればいいんですね?」


「そうして欲しいね。新人さん4人が議論をする中で、自然と同じベクトルを向くように、そして個々の能力が開花されるように導いてあげることが教育の根本なんじゃないのかな」


「そうですね、能力差はないと言っても、そこに得手不得手があるのが個性ですからね。一律ではなく、どこが強みかに気づいてもらうような研修を考えていく必要もありそうです」


「そうやって教育プログラムを組むことが、実は神坂君にとってもとても勉強になるはずなんだよ」


「勉強になるどころか、私が一番勉強をさせてもらっているのかも知れません」


「『教うるは学ぶの半ばたり』という言葉が、中国古典の『書経』の中にある。人に教えるということは、半分は自分が学ぶためにある、ということだよね」


「貴重な機会を与えていただいている会社と佐藤部長には感謝しています」


「うん、その感謝の気持ちを思う存分、新人さんたちにぶつけてみてよ」


「はい、承知しました!」


ひとりごと

今回、この一斎先生の言葉を読んで、教育には2つの側面があることを学びました。

① ベクトル合わせ(社内の考え方を統一する)
② 能力開発(自ら解決する力をつける)

社内研修を行う場合も、外部でセミナーを行う場合でも、この2つの側面をしっかりと理解して進める必要がありそうです。


原文】
性は同じくして質は異なる。質の異なるは、教の由って設くる所なり。性の同じきは、教の由って立つ所なり。〔『言志録』第99条〕


【ビジネス的解釈】
人間が本来有している能力にはそれほど相違はないが、考え方はそれぞれ異なっている。考え方が異なっているからこそ教育を行う意味があり、本来は同じ能力を有しているからこそ教育は効果を発揮するのである。


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第1231日 「価値観」 と 「個性」 についての一考察

定時後、石崎君が神坂課長のデスクにやってきたようです。


「神坂課長、お客様の懐に入り込むというのは、本当に難しいですね」


「お、どうした石崎。お前でも悩むことがあるのか?」


「仮にも自分の部下をノー天気のお調子者みたいに言わないでくださいよ」


「おい、俺はそこまで言ってないぞ!」


「顔に書いてありますよ」


「それだよ、それ!」


「はい?」


「お客様の懐に入るためには、五感をフル活用して、お客様から情報を得る必要があるんだよ」


「イマイチ、何を言っているのかわかりません」


「そうか、ちょっと深すぎるか。お前にはこの話はまだ早いかな?」


「そんなことないです。部下を簡単に見限らないでください!」


「なんか最近、一段と面倒くさくなってきたな、お前」


「成長したと言ってください」


「成長なのかな? まあ、いいや。お前は商談でお客様と面談をしている最中、恐らく自分の伝えたいことばかりを考えて、しゃべりたいことをしゃべっているんじゃないか?」


「そ、そんなことはないと思いますが、でも・・・、そういう面もあるかも知れません」


「ははは、正直でいいじゃないか。結局、今のお前は、せいぜいお客様の表情や声の調子くらいしか、情報として得られていないんだろうと思う」


「他にも情報があるんですか?」


「たくさんあるぞ。例えばお客様が使っている手帳やペンなどの文具からもその人の趣味を把握できるし、院長室に通されたようなケースでは、そこに飾られている絵や書からもその人の価値観を把握できるはずだ」


「課長はそんなことまでチェックしているのですか?」


「そりゃそうだ。せっかく色々なモノが俺に語りかけてくるのに、それを聴かない手はないだろう?」


「すごいですね」


「見直したか! たとえば外来に通されたなら、デスクの上は散らかっていないか、パソコンの壁紙はどんなデザインを選んでいるのか、そんなことにも価値観を把握するヒントは転がっているんだぞ」


「そんなこと気にしたこともなかったです」


「それから俺が絶対に質問するのは、お客様のご両親のことやお子さんのことだ。両親のお話を聴かせてもらうと、そのお客様の生い立ちが見えてくる。子供の話を聴けば、子供の年齢や子供に対する愛情の度合いを知ることができるだろう。ご家族の話というのは、切り出し方を間違えなければ、大概は喜んで話してくれるものだぞ」


「お客様の価値観を把握するとどう商売に有利になるんですか?」


「自分と似た価値観を持っているのか、まったく異なった価値観を持っているのかが分かれば、どこまで商売できるかが見えてくるんだよ」


「どういうことですか?」


「簡単にいえば、価値観の違うお客様とはまともな商売はできないなと割り切ることができる」


「そんなことしたら、売り上げが・・・」


「価値観の違うお客様と商売をしても、お客様に満足感を与えることは難しいし、長くは続かないんだよ。それより価値観の似たお客様を徹底的に自分のファンにする方に力を注ぐべきだと思わないか」


「具体的にどうすればいいんですか?」


「万能の答えはないけど、まずは自己紹介でしっかりと自分の価値観を伝えるんだな」


「自己紹介で?」


「そう。初めて会ったお客様にいきなり会社のことを宣伝したり、商品を売り込んだって売れるわけがないだろう。それより自分が何故お客様を訪問したのかを、自分の価値観を交えて伝えるんだよ」


「なんか、わかったようで、腹に落ちきりませんね」


「よし、わかった。明日、一件どこかお前のターゲット施設の飛び込み訪問に同行して、見本を見せてやるよ」


「ありがとうございます!」


「高いぞ~」


「課長、課長は上司ですからそれを無償で教える義務があるんじゃないでしょうか?」


「お前さ、本当に面倒くさい奴になったな!」


ひとりごと

小生が毎月一回参加して学んでいる永業塾では、塾長の中村信仁さんが営業人の心の在り方を教えてくださいます。

なかでも永業塾では、自己紹介をとても重視します。

1分、3分の自己紹介を完璧に作り上げれば、圧倒的な印象をお客様に与えることができると信仁さんは言います。

ご興味のある方は、ぜひご参加ください。

なお、中村信仁さんがどんな方かを事前に知りたいということであれば、毎週木曜日18:00~21:00まで放映されるFMアップルの「中村信仁でナイト」を聴いてみてください。

小生も匿名ミュージックディレクターとして、1コーナーの選曲を任せていただいています。(スマホなら無料アプリ、リッスンラジオ、パソコンならサイマルラジオをダウンロードすれば誰でも聞くことができます)


原文】
気には自然の形有り。結びて体質を成す。体質は乃ち気の聚まれるなり。気は人人異なり、故に体質も亦人人同じからず。諸(もろもろ)其の思惟・運動・言談・作為する所、各其の気の稟(う)くる所に従いて之を発す。余静にして之を察するに、小は則ち字画・工芸より、大は則ち事業・功名、其の迹(あと)は皆其の気の結ぶ所の如くにして、之が形を為す。人の少長童稚の面貌よりして、而して漸く以て長ず。既に其の長ずるや、凡そ迹を外に発する者は、一気を推して之を条達すること、体軀の長大已まざるが如きなり。故に字画・工芸、若しくは其の結構する所の堂室・園池を観るも、亦以て其の人の気象如何を想見す可し。〔『言志録』第98条〕


【意訳】
天が施す気には自然の形があって、それが集まって人間の体質を成す。気は人によって異なる故、その体質も皆異なる。人の思考・運動・言葉・行為などは気が発するものである。私が静かに思うところでは、小は書き物や手工芸から大は仕事・功名に至るまで、気が結び固まって形を作り出すのである。人間も幼い面持から次第に成長し、成人ともなれば、体躯が成長し続けるように、様々な事績も上達していくのである。それゆえにその人の書き物・手工芸、もしくは家建物や庭園の池などを見ても、その人がどのような気を放っているかを想像することができる。


【ビジネス的解釈】
人は生きて行く間に、思考・行動・言葉すべてにおいて人それぞれの個性が醸成されていく。したがって、その人の文字、作品、言葉、仕事ぶり、名声といったものを観察すれば、そこにはその人にしかない個性が反映されるものだ。そこで、営業マンとしては、お客様をよく観察し、表現された文字や言語、表情などから、お客様の価値観を把握することが可能となるのだ。


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れみれみ