石崎君の激励会は続いているようです。
話題は相変わらず性欲について・・・。
「しかし、さすがは雑賀だよ。そういう話題をストレートに出してくる芸当は普通の人間にはできないよな」
「なんですか、神坂さん。それは、私が異常者だってことですか?」
「今頃気づいたのか!」
大累課長の強烈なツッコミです。
「若者たち、この会社の上司連中は酷い人ばかりだと思わない?」
「同感です!」
石崎君が元気に同意しました。
「やかましいわ、小僧! それでさ、その性欲の話題なんだけどな」
「まだ続けるんですか?」
藤倉君が迷惑そうにつぶやきました。
「あと少しな。ウチの社長は日ごろから家族経営ということを繰り返し言っているだろう。本当の家族なら、やはり部下のそうした問題も気にかけてあげる必要があるのかなと思ってさ」
「普通は立ち入らない領域ですけどね。たしかに親なら子供のそういう点は心配ですよね」
大累課長も真面目に答えています。
「俺は日ごろから男子諸君には、仕事も大事だが、彼女がいないならまず彼女を作れ、といい続けている。仕事だけだと行き詰るからな。やはり彼女との楽しいひと時は、仕事の息抜きという意味でも絶対に必要だろう」
「おっしゃるとおりです!」
「あれ? 雑賀は彼女いるんだけっけ?」
「いないんですよ。だから仕事より先に彼女探しを優先していたら、上司に真面目に仕事をしろって指導されたわけで・・・」
「ふざけるな、お前の場合は手抜きのレベルがハンパないんだよ!」
大累課長が半分本気で怒っています。
「そうか、ここにいる連中ってよく見ると、イケメンが全然いないな。あえて言えば、大累が一番そっちの部類に入るかな」
「よく言いますよ、自分のことを棚にあげて」
石崎君が怒っています。
「彼女ができれば自然に性行為にも至るわけで、むしろそれこそが健全なわけだ。彼女がいない雑賀とか善久は、そのうち痴漢でもしないかと心配になるわけよ」
「失礼な上司ですね、部下をどういう目で見ているんですか!」
今度は善久君が怒っています。
「まあ、ちょっと茶化して言ったけど、こういう話題を上司と部下の間でできるというのは、すごく大事なことかも知れないぞ。暴飲暴食なんかは、ストレートに注意できるけど、色恋沙汰は干渉しづらいからな。本来は、各自が自ら節制するべきものだしな」
「たしかに私たちは本当の家族に近づいているのかも知れませんね」
雑賀君が神妙な顔で言ったようです。
「むしろ家族でもそんな会話はしないぞ。俺は息子とそんな話したことないもんな。まあ、とにかく、雑賀と善久は早く彼女を探せ。石崎と願海はやり過ぎに注意だ!」
「勘弁してくださいよ」
願海君も怒っています。
「そういえば、藤倉。お前、彼女はいるのか?」
「いることはいますが・・・」
「何なに、なにか問題があるの?」
石崎君が興味深々のようです。
「年齢が神坂課長より上なんです」
「え、えーーーっ」
一同、びっくり仰天のようです。
「はい、この話題はこれにて終了!」
神坂課長は、そう宣言してトイレに行きました。
「石崎」
「はい、大累課長。なんでしょうか?」
「あのおっさんな、ああ見えても昔、大恋愛をして大失恋をしているんだよ。いつか、その話を聞かせてもらうと良いかもな。あ、でも俺が言ったって言うなよ。この件だけは、茶化して言うとマジギレされるからさ」
ひとりごと
部下のプライベートに立ち入ることは、なかなか難しいことです。
一歩間違うと男性同士でもセクシャルハラスメントの対象となってしまいます。
しかし、本当の家族経営を考えるなら、ある程度のことは把握しておくべきなのかも知れません。
相手なりに、相手を尊重しながら進めるべき難しい問題ですね。
【原文】
少壮の人、精固く閉ざして少しも漏らさざるも亦不可なり。神滞りて暢びず。度を過ぐれば則ち又自ら牀(そこな)う。故に節を得るを之れ難しと為す。飲食の度を過ぐる、人も亦或いは之を規す。淫欲の度を過ぐる、人の伺わざる所(か)、且つ言い難し。自ら規するに非ずして誰か規せん。〔『言志録』第164条〕
【意訳】
若い人が性欲を抑制し過ぎて、少しも漏らすことがないというのも問題である。精神が滞って健全に成長しなくなってしまう。度を超せばかえって自らの健康を害することにもなる。そういう意味でも、節度を守るということは難しいことである。暴飲暴食は人から指摘してもらうことも可能だが、性欲については人の伺い知れないところであり、また指摘もしづらいものである。自分自身で抑制して行く以外に方法はない。
【ビジネス的解釈】
性欲といえども抑制し過ぎることは問題も多い。無理に抑えることで健康を害すこともある。ただし性欲のような問題は、プライベートに関わることであり、かつストレートには指摘しづらいことでもあり、暴飲暴食を注意するような訳にはいかない。基本的には自ら節制するべき問題である。しかし、リーダーは自分の部下である若手社員に対しては時にこうしたことも指摘する必要もあろう。