一日一斎物語 (ストーリーで味わう『言志四録』)

毎日一信 佐藤一斎先生の『言志四録』を一章ずつ取り上げて、一話完結の物語に仕立てています(第1066日目より)。 物語をお読みいただき、少しだけ立ち止まって考える時間をもっていただけたなら、それに勝る喜びはありません。

2018年12月

第1419日 「入る」 と 「出ずる」 についての一考察

納会を終え、神坂課長は佐藤部長と最寄り駅まで歩いているようです。

「さっきの社長の言葉には、身が引き締まりました」(平社長の言葉については昨日参照)

「さすがは社長だよね。最後に見事に締めてくれたね」

「はい。でも、ふと思ったんですけど、ウチは最近、積極的に新卒社員さんを採用していますよね。それなのに売り上げが横這いでは会社として厳しくなりますよね」

「新卒社員さんの採用は先行投資だからね。とにかく営業部としては、利益を出すことを考えないとね」

「ただし、お客様の課題に対する最善の解決策を提案するという軸はブラさずにですよね?」

「そのとおり。それから、コスト削減も意識して、無駄をなくしていくことも必要だね」

「そうですよね。私が若い頃に安易に都心高速を使っていて、西村さんに叱られたことを思い出します」

「ははは。都心高速は高いからね。昔から、『入るを量りて出ずるを制する、という言葉があってね。とにかく収入に見合った支出を考えるのが基本だね」

「なるほど。売上が伸びないなら、支出を抑えるということか」

「ただし、抑えすぎてしまうと、自分で自分の首を絞めることになる。だから、社長は積極的に新卒社員さんへの先行投資をしているわけだ」

「そうですよね。メーカーさんは常に製品開発に予算を使い続けなければいけないように、我々商社は人に投資しなければいけないんですね」

「人と教育だろうね」

「よし、来年はコスト意識も強く持つことにします!」

「世界の歴史をたどって見ると、入るを量りて出ずるを制することができずに滅びた国がたくさんあるからね。もちろん、企業にも同じことが言える」

「それって、家庭にも言えますね。我が家の家計はかみさんに任せっぱなしですから、たまにはちゃんと話をしてみようかな?」

「うん、それも大事なことだね。会社をマネジメントする前に、我が家をしっかり整えないとね!」

「本当にそうですね。かみさんからは飲み代を抑えろって、しょっちゅう叱られています・・・」

「奥さんがしっかりしているから、神坂家は大丈夫そうだね。さて、駅に着いたよ。神坂君、今年もいろいろとお世話になったね。本当にありがとう!」

「こちらこそ、本当にお世話になりました。もっと教えて頂きたいことがあるので、来年もよろしくお願いします。では、失礼します」

2人は挨拶を交わして、別々のホームへと歩いていったようです。


ひとりごと 

本年も当ブログをご愛読いただきました皆様、ありがとうございました。

来年も迷いながら、悩みながら、三歩進んで二歩下がるような歩みで、当ブログを毎日アップしていく所存です。

来年も何卒よろしくお願いします。(ぜひ、ご意見・ご感想もいただけると幸いです)


原文】
(しょうせん)出でて明衰え、鈔銭盛んにして明亡ぶ。〔『言志後録』第41章〕

【意訳】
紙幣が出されてから明は衰えはじめ、その紙幣が乱発されるに及んで明はついに滅亡してしまった

【ビジネス的解釈】
財政の失敗は即企業衰退につながる。


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第1418日 「変化」 と 「人材」 についての一考察

納会の締めとして、平(たいら)社長が前に立ったようです。

「皆さん、一年間お疲れさまでした。医療業界の環境は年々厳しくなっていく中で、当社はなんとかこうして無事年末を迎えることができました。これはひとえに皆さんの努力の賜物です。心から感謝します」

全社員から拍手が起こっています。

「あの『種の起源』を書いた生物学者ダーウィンの有名な言葉に、『最も強い生き物や最も賢い生き物が生き残るのではない。環境の変化に適応できる種だけが生き残るのだ』とあります」

「へぇ、そんな言葉があるのか」
神坂課長はすぐにメモをしています。

「当社も医療商社としては、最も強い会社でもなければ、最も賢い会社でもないでしょう。だからこそ、医療環境の変化を機敏にとらえて対応していく必要があります」
社員一同、今までの笑顔が消えて、真剣に聞き入っています。

「そのためには、そうした環境の変化を周囲より先に察知できる社員さんが必要です。当社は学歴で人を選んできませんでしたし、これからもその方針を変えるつもりはありません」

総務部の西村部長、人事課の鈴木課長が大きくうなずいています。

「ここにいる皆さんは、変化に対応できる人だと判断して採用されている人たちなのです。皆さんがその期待に応えてくれているうちは、当社はこの厳しい医療業界の中で生き残っていけると確信しています」

佐藤部長も深くうなづいています。

「もちろん、そのための教育にも力を入れていきます。しかし、新聞や本に書かれている変化の兆しではもう遅いのです。皆さん、変化の芽が出る瞬間はどこにあるかわかりますか?」

「お客様との対話の中ですか?」
神坂課長が答えました。

「そのとおり! さすがは神坂だ。変化の芽は顧客の課題の中にあります。ぜひ来年も、一件でも多くの顧客を訪問して、誰よりも早く変化の芽をつかまえてきてください」

「はい!」

「そして、遠慮なく上長に自分の意見や思いをぶつけてきて欲しい。皆さんはそれができる人材なのですから」

若手社員さんも、目を輝かせています。

「それでは、今年はこれですべての業務を終了しよう。皆さん、素晴らしい年を迎えてください」


ひとりごと 

企業は人なり、と言われます。

企業が生き残るためには、環境の変化に対応し続ける必要があります。

そのためには、環境の変化を先取りできるような人材を採用し、育てていくしかありません。

企業にとって、採用と教育こそ、生存のためのカギとなることを忘れてはいけません。


原文】
余明記(みんき)を読むに、其の季世に至りて、君相其の人に匪(あら)ず。宦官宮妾(かんがんきゅうしょう)事を用い、賂遺(ろい)公行し、兵馬衰弱し、国帑(こくど)は則ち空虚となり、政事は只だ是れ貨幣を料理するのみ。東林も党せざるを得ず、闖賊(ちんぞく)も蠢(しゅん)せざるを得ず。終に胡満(こまん)の釁(きん)に乗じ夏を簒(うば)うことを馴致す。嗟嗟(ああ)、後世戒むる所を知らざる可けんや。〔『言志後録』第40章〕

【意訳】
私が明の歴史書を読んだところでは、明の末期になって、皇帝や宰相に人物が輩出せず、宮中に宦官や女官がはびこり、賄賂が公然と行なわれ、軍隊も弱体化し、国庫も空となり、政治は貨幣を乱発して財政をやりくりするだけとなってしまった。やがて東林党が組織され、やくざ者がうごめくようになって、遂には満州族が中国内紛の隙に乗じて国を略奪することに無感覚となってしまった。後世の人はこれを教訓としなければならない

【ビジネス的解釈】
企業が崩壊する根本は人にある。重要な地位に有能な人材がいなくなると、依怙贔屓が生まれ、社内で正当な評価が行われなくなり、それが派閥を産み、次第に社員の目が外に向かなくなる。常に有能な人材の発掘と育成に力を注ぐべき理由はここにある。


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第1417日 「不慮の患」 と 「多事の擾」 についての一考察

仕事納めの打上げ会はまだ続いているようです。

石崎君と前後して、川井経営企画室長が神坂課長のところにやってきました。

「神坂君、一年間お疲れ様。あっという間の一年だったな」

「川井さん、齢を重ねると一年が過ぎるのがどんどん早くなるように感じますね」

「ははは、君は40歳になったばかりだろう。まだまだ人生これからだよ」

「はい。今年は業績面ではご迷惑をおかけしましたが、課長として少しは成長できた一年だったように思います」

「うん、確かにね。4月からは営業課長で一番の年配になったんだよな。実際に、よく組織をまとめてくれているし、2人の課長の相談役も兼ねてくれているようで心強いよ」

「ありがとうございます。なんだか、今日は褒められすぎて、けつの穴がむず痒いな」

「ははは。あとはそういう下品な言葉をやめることかな!」

「これが一番やっかいでしてね」

「たしかに今年は業績面では停滞したが、社内でそれほど大きなトラブルが発生しなかったのはよしとしないとな」

「雑賀の件くらいですかね。あれも最後は雨降って地固まるといった決着になりましたし」

「そうだね。何事も準備を怠らず、つねに慎重に進めていけば、大きなトラブルを避けることができる。そして、社員みんなが一致団結していれば、マネジメントで手を煩わすことも少なくなるんだ。来年も慎重かつ大胆に頼むよ!」

「はい。私の強みは大胆な行動をとれる勇気だと自己分析をしているのですが、それが無謀な賭けにならないように注意します」

「うん。性格上の長所と短所というのは裏表の関係だからな」

「なるほど、長所が過ぎれば短所に、短所を矯正できれば長所になるんですね」

「そういうことだ。来年は飛躍の一年にしようじゃないか。大きくジャンプする前にはいったん屈まなければいけない。今年は大ジャンプの前の屈伸の年だととらえよう!」

「川井さん、任せてください!!」


ひとりごと 

一斎先生が引用しているのは、帝王学のテキストとされる『書経』の一節です。

原文は以下のとおりです。

臣上(かみ)の爲にするには徳を爲(な)し、下の爲にするには民の爲にす。其れ難(かた)んじ其れ慎み、惟れ和し惟れ一(いつ)になれ。徳に常師無く、善を主とするを師と爲す。善に常主無く、克(よ)く一なるに協(かな)ふ。

訳文も掲載しておきます。

臣たるものは、上のためには徳を行なうようにし、下のためには人民のことを謀るようにするものです。だから、君主は任用を軽々しくせず、慎重にするようにし、互いに和合するようにし、均一であるようにしなければなりません。徳にはきまった師はなく、善を拠り処にするものを師とするのです。善にはきまった拠り処はなく、よく純一にかなうようにするだけです。(小野沢精一先生訳)

後半にある「徳に常師なし」という言葉もいいですよね。

常にそのときの最善を選ぶのが徳を高めることになる、ということでしょう。


原文】
其れ難じ其れ慎まば、国家に不慮の患(かん)無く、惟れ和し惟れ一なれば、朝廷に多事の擾(じょう)無し。〔『言志後録』第39章〕

【意訳】
平生から大事をとって軽率にせず、慎み深くしていれば、国家に思いがけない禍が生じることはなく、万民が和合し、一つになっておれば、朝廷が多事に患わされるようなことない

【ビジネス的解釈】
日頃から常に危機管理を徹底し慎み深くしていれば、ビジネス上のトラブルの大半は避けられる。チーム一丸となって仲良く仕事をすれば、会社の業績も順調に推移する。


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第1416日 「一の字」 と 「積の字」 についての一考察

J医療器械も今日で仕事納めのようです。

挨拶周りから戻った社員全員で夕礼のあと、立食の打ち上げを行なっているようです。

「神坂課長、今年もいろいろとお世話になりました」
石崎君が挨拶に来たようです。

「おお、石崎。今年もご苦労様だったね。どうだ、今年は良い年だったか?」

「はい。仕事の面ではまだまだ貢献できていないと思いますが、課長のお陰で人間的に成長できたと思います」

「そう言ってくれると嬉しいよ。具体的にどんな点で成長したと実感しているんだ?」

「はい。課長から教えてもらった、『少しだけ損をする生き方 を実践するようになってから、小さなことにイライラしなくなりました。自己満足かも知れませんが、少しだけ世の中の役に立っている気がします」

「いいね。どんな善い行いもまずはそれをやろうと思う気持ちがあって初めて実践できるんだよな。そんな気づきを与えることができたなら、俺もうれしいよ」

「はい、あの時(第1354日)は衝撃を受けました。課長が、車を停める場所にまで細かい気を遣っていることを初めて知りましたから」

「意外だったか?」

「正直に言うと意外でした。でも、格好いいなと思いました」

「なんだよ、今日はやけに褒めるね。でもな、それを知った石崎がその後、少しだけ損をする生き方をしっかり実践し続けていることが素晴らしいことだと思う。善い行いをしても、一回きりでは意味がないからな。やはり継続して積み重ねていくことで、自分の徳が高まるはずだから

「はい。しっかり続けます」

「逆に、悪いこともつい出来心で一度やってしまうと、それをダラダラと続けてしまうことになる。悪いことはしないに限る。しかし、もしやってしまったなら、二度としないように強く心に誓うんだ!」

「なんか、凄く熱がこもった言い方ですね」

「ああ、俺は小さな悪事をたくさんしてきたからな。そして今になって後悔していることも多い。だから、石崎にはそうなって欲しくないんだ」

「はい。気をつけます! あ、課長。食べ物があっという間に減っていますよ。早く食べましょう!」

「お前は食え、俺は飲む!」


ひとりごと 

やるべきことはやり、やってはいけないことはやらない。

この行動原則こそ基本中の基本ですね。

そして、やるべきことは継続してこそ自分が磨かれます。

逆に、やってはいけないことをやってしまったら、その過ちを認め、継続しないことで自分を磨くことができます。

自分磨きとはそういうことの繰り返しの中にありそうです。


原文】
一の字、積の字、甚だ畏る可し。善悪の幾も初一念に在りて、善悪の熟するも、積累の後に在り。〔『言志後録』第38章〕

【意訳】
一と積という字は大いに畏れ慎むべきである。善悪の兆しは最初の一念にあり、善悪はその一念が積み重った後に定着するものだ

【ビジネス的解釈】
善行も悪行も最初に生じた思いを行動に移すことで始まる。そしてそれが積み重なると真の善悪となる。善行は重ね、悪行は重ねないようにするしかない。


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第1415日 「大地」 と 「人間」 についての一考察

S急便の中井さんが、年末最後の荷物を届けにやってきました。

「毎度! あ、佐藤さん。今年も一年間お世話になりました!」

「ああ、中井君。こちらこそお世話になりました。来年もよろしくお願いしますね」

「こちらこそ、よろしくお願いします。あ、そうだ。ちょっと相談したいことがあるんですけど、時間ありますか?」

「いいよ」

二人は喫茶コーナーに移動したようです。

「実は、来年のチームのスローガンを作りたいんですけど、俺は学がないんで、ちょっとアドバイスが欲しいんです」

「私でよければ、喜んで」

「ありがとうございます。毎朝、確認をして、自分たちを律するようなシンプルなやつが良いんですよね。何か良い言葉はありませんか?」

「どういうことをメンバーに伝えたいの?」

「そうですね、お客様に対しても、仲間に対しても通用するようなことですかね。たとえば、『素直になろう』みたいな感じですかね」

「なるほどね。じゃあ、一斎先生の言葉を借りようか。一斎先生は、大地の徳は『敬・順・簡・厚』の四つだと言っている。ずっと大地から離れることなく生きていく以上、我々人間はこの四つの徳を守るべきだ、と言うんだ

「大地の徳ですか? その四つってどういう意味なんですか?」

敬というのは、つつしみ深くすること。順というのは、従順であること、つまり素直であることだね。簡というのは、おおらかであること。厚というのは、温厚であること」

中井さんはメモをしているようです。

「良いですね。じゃあ、こんな感じで朝みんなで唱和しようかな。『私たちは、大地の徳である 敬・順・簡・厚 を常に心掛け、チーム一丸となってお客様の課題解決に励みます』。どうでしょうか?」

「素晴らしいじゃない。ウチも何か考えようかな?」

「マジですか? 佐藤さんに褒められると俺は何より嬉しいんですよ。じゃあ、これでいきます!」

「きっと、凄い一年になるね!」

「ありがとうございます。じゃあ、佐藤さん。良いお年をお迎えください」

「うん。中井君も良いお年を!」


ひとりごと 

この物語の中では、中井さんに語ってもらいましたが、この四項目はどれも小生にとっては必要不可欠な徳目のようです。

来年の手帳に記載して、毎朝確認し、一日を始めます。


原文】
人は地に生まれて地に死す。畢竟地を離るる能わず。故に人は宜しく地の徳を執るべし。地の徳は敬なり。人宜しく敬すべし。地の徳は順なり。人宜しく順なるべし。地の徳は簡なり。人宜しく簡なるべし。地の徳は厚なり。人宜しく厚なるべし。〔『言志後録』第37章〕

【意訳】
人は地上で生まれ地上で死ぬ。最後まで地上を離れることはない。よって人間は地の四つの徳を身につけるべきである。四つの徳とは敬・順・簡・厚である。つまり人間は、よく慎み、よく従順であり、よくおおらかであり、よく温厚であるべきである

【ビジネス的解釈】
大地の徳は敬・順・簡・厚の四つである。人間は死ぬまで大地を離れることはできないのであるから、この四つの徳を守っていくことが、宇宙の摂理に則った生き方だといえる


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