今日は営業2課の石崎君に新人の梅田君が同行しているようです。
「毎日、毎日、納品ばかりで全然営業活動ができないですよね。もっとバリバリ営業がやりたくて入社したのに、なんか会社を間違ったのかなと思う今日この頃です」
「梅ちゃん、焦る気持はわかるよ。でもね、この会社に入ろうと決めたのは梅ちゃん自身だよね」
「それは勿論です」
「それなら自分の選択を信じようよ。俺はね、今つくづく思うんだ。この会社に入る前は、営業なんてキツくて辛くて楽しくない仕事だろうと思ってた」
「えっ、だいぶ後ろ向きだったのですね?」
「うん、俺は中途半端な文系だから、営業職くらいしか働く場所がなかったんだよね。それで、医療系の商社なら食いっぱぐれはないだろうという理由でここに入社したんだ」
「石崎さん、最低ですね!」
「そこまで言うなよ! 大学4年の春頃、『どこでもいいや』くらいな気持ちで就職課に行ったら、ちょうど今営業職の募集が入ったから行ってみたら、といってこの会社の説明会資料をもらったんだよ」
「へぇ、不思議な縁ですね」
「うん。それで3日後だったかな、説明会に行ったんだ。最初の方の説明は正直に言って、あまり面白くなかったんだけど、最後に佐藤部長が話をしたんだ。それがズシンと心に響いてね」
「私も佐藤部長の話に感動しました」
「そうでしょう。それでいざ会社に入ったら、とんでもない上司の下についてさ。最初の2~3ヶ月は毎日、いつ辞めようかと考えてたよ」
「神坂課長ですね?」
「毎日怒鳴られてさ。なんだよこのチンピラはって思ってた。でも、違った」
「えっ」
「あの人は本気で俺のために叱ってくれていることに気づいたんだ。俺は素直じゃないから、なかなか本当のことは言えないけど、今はカミサマに凄く感謝しているんだ。本当にたくさんのことを教えてもらったからね」
「たしかにあの人の言うことは面白いです。佐藤部長みたいに論理的じゃないけど、なぜか心に響きます」
「せっかく自分で選んだ会社じゃないか。もう少しここで頑張ってみなよ。この会社に出会ったご縁に感謝して、たくさんの素晴らしい先輩から学べるご恩に感謝しながらさ!」
「はい、ありがとうございます。私にとっては石崎さんもチョーカッコいい先輩ですよ!」
ひとりごと
『言志後録』の本章は、自分の生誕と生育についての言葉ですが、ここでは敢えて会社の入社とそこでの成長に絡めてみました。
考えてみれば、日本に数万ある会社の中から自分の勤務先を選んだことに必然性はないのではないでしょうか?
不思議なご縁に導かれて入社したという方がほとんどだと思います。
そして、そこで自分の選択を信じて働くことで、成長する機会を与えてもらえます。
もちろん辛いことも面白くないこともあるでしょう。
それでもいま自分が勤めている会社とのご縁、そこで関わる多くの人たちとのご縁とご恩に感謝する気持ちを忘れなければ、必ず人間的にもスキルの面でも成長できるはずです!
【原文】
未だ生まれざる時の我れを思えば、則ち天根を知り、方(まさ)に生まるる時の我れを思えば、則ち天機を知る。〔『言志後録』第72章〕
【意訳】
生まれる以前の自分のことを思えば、天根すなわち物を生ずる根元を知り、母胎から生まれ出た自分を思えば、天機すなわち天地万物が生長していく天の妙機を知ることになる、と一斎先生は言います。
【ビジネス的解釈】
入社前のことを思えば、いま時分がこの会社で働いているご縁の不思議を感じる。入社後の自分のことを思えば、会社の中で育ててもらえているご恩に感謝するしかない。