一日一斎物語 (ストーリーで味わう『言志四録』)

毎日一信 佐藤一斎先生の『言志四録』を一章ずつ取り上げて、一話完結の物語に仕立てています(第1066日目より)。 物語をお読みいただき、少しだけ立ち止まって考える時間をもっていただけたなら、それに勝る喜びはありません。

2019年01月

第1450日 「ご縁」 と 「ご恩」 についての一考察

今日は営業2課の石崎君に新人の梅田君が同行しているようです。

「毎日、毎日、納品ばかりで全然営業活動ができないですよね。もっとバリバリ営業がやりたくて入社したのに、なんか会社を間違ったのかなと思う今日この頃です」

「梅ちゃん、焦る気持はわかるよ。でもね、この会社に入ろうと決めたのは梅ちゃん自身だよね」

「それは勿論です」

「それなら自分の選択を信じようよ。俺はね、今つくづく思うんだ。この会社に入る前は、営業なんてキツくて辛くて楽しくない仕事だろうと思ってた」

「えっ、だいぶ後ろ向きだったのですね?」

「うん、俺は中途半端な文系だから、営業職くらいしか働く場所がなかったんだよね。それで、医療系の商社なら食いっぱぐれはないだろうという理由でここに入社したんだ」

「石崎さん、最低ですね!」

「そこまで言うなよ! 大学4年の春頃、『どこでもいいやくらいな気持ちで就職課に行ったら、ちょうど今営業職の募集が入ったから行ってみたら、といってこの会社の説明会資料をもらったんだよ」

「へぇ、不思議な縁ですね」

「うん。それで3日後だったかな、説明会に行ったんだ。最初の方の説明は正直に言って、あまり面白くなかったんだけど、最後に佐藤部長が話をしたんだ。それがズシンと心に響いてね」

「私も佐藤部長の話に感動しました」

「そうでしょう。それでいざ会社に入ったら、とんでもない上司の下についてさ。最初の2~3ヶ月は毎日、いつ辞めようかと考えてたよ」

「神坂課長ですね?」

「毎日怒鳴られてさ。なんだよこのチンピラはって思ってた。でも、違った」

「えっ」

「あの人は本気で俺のために叱ってくれていることに気づいたんだ。俺は素直じゃないから、なかなか本当のことは言えないけど、今はカミサマに凄く感謝しているんだ。本当にたくさんのことを教えてもらったからね」

「たしかにあの人の言うことは面白いです。佐藤部長みたいに論理的じゃないけど、なぜか心に響きます」

「せっかく自分で選んだ会社じゃないか。もう少しここで頑張ってみなよ。この会社に出会ったご縁に感謝して、たくさんの素晴らしい先輩から学べるご恩に感謝しながらさ!

「はい、ありがとうございます。私にとっては石崎さんもチョーカッコいい先輩ですよ!」


ひとりごと
 
『言志後録』の本章は、自分の生誕と生育についての言葉ですが、ここでは敢えて会社の入社とそこでの成長に絡めてみました。

考えてみれば、日本に数万ある会社の中から自分の勤務先を選んだことに必然性はないのではないでしょうか?

不思議なご縁に導かれて入社したという方がほとんどだと思います。

そして、そこで自分の選択を信じて働くことで、成長する機会を与えてもらえます。

もちろん辛いことも面白くないこともあるでしょう。

それでもいま自分が勤めている会社とのご縁、そこで関わる多くの人たちとのご縁とご恩に感謝する気持ちを忘れなければ、必ず人間的にもスキルの面でも成長できるはずです!


原文】
未だ生まれざる時の我れを思えば、則ち天根を知り、方(まさ)に生まるる時の我れを思えば、則ち天機を知る。〔『言志後録』第72章〕

【意訳】
生まれる以前の自分のことを思えば、天根すなわち物を生ずる根元を知り、母胎から生まれ出た自分を思えば、天機すなわち天地万物が生長していく天の妙機を知ることになる、と一斎先生は言います

【ビジネス的解釈】
入社前のことを思えば、いま時分がこの会社で働いているご縁の不思議を感じる。入社後の自分のことを思えば、会社の中で育ててもらえているご恩に感謝するしかない。


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第1449日 「初心」 と 「マネジメント」 についての一考察

営業1課の新美課長が佐藤部長の部屋に相談に来たようです。

「部長、課長になってもうすぐ1年が経ちますが、私のマネジメント力は悲しいほど伸びていません」

「そんなことはないだろう。営業1課は、よくまとまっているように見えるよ」

「そうでしょうか。メンバーひとりひとりを活かせていないというか、よい点を伸ばせていない気がします」

「今は課題が見えていればそれで良いのではないかなぁ?」

「一度は退職を考えた廣田君などは、どう接して良いのかすごく迷います」

「すべてが勉強だよ。新美君、お子さんはまだ小さかったよね?」

「はい、長女が今4歳です」

「そうか、可愛いだろう。子供は純真無垢でいいよね。何も知らない真っ白な状態から、ひとつずつ善いこと、良くないことを学んでいくよね

「はい。日々成長していくのがわかって楽しいです」

「新美君もマネジャーとしては、娘さんと同じ状態なんだよ。ひとつずつ学び、気づき、それを実践してくれれば良いんだ」

「はぁ」

「新美君が娘さんをみて、日々成長しているのを喜んでいるように、私も新美君をみて、日々
の成長を悦んでいるんだからね」

「ありがとうございます」

マネジメントの基本は、メンバーに肚落ちさせることだ。彼らが悩んでいるときに、ふっと心が晴れるようなアドバイスやヒントを与えることを意識するといいね」

「はい。しかし、それはなかなか難しいですよね」

「もちろん、そのために新美君はどんどん勉強しないとね。ただ、神坂君にこの話をしたときは、彼はこう言っていた。『なるほど、わかりました。では、彼らが毎日ワクワクしながら会社に来れるような雰囲気を作ります』ってね」


ひとりごと
 
小生が初めて営業部門に配属されたのは、入社4年目でした。

自ら希望して異動した職場であり、期待と不安に包まれながら、日々とにかく仕事に邁進しました。

忙しくて深夜に帰宅することがあっても、それが楽しくて仕方がありませんでした。

時代柄、深夜残業は別としても、常に初心を忘れず、ワクワクして仕事ができる環境を作ることが出来れば、若手社員さんの離職問題は解決するのではないでしょうか?


原文】
人は当に自ら母胎中に在る我れの心意果たして如何を思察すべし。又当に自ら出胎後の我れの心意果たして如何を思察すべし。人皆並(ならび)に全く忘れて記せざるなり。然れども我が体既に具われば、必ず心意有り。則ち今試みに思察するに、胎胞中の心意、必ず是れ渾然として純気専一に、善も無く悪も無く、只だ一点の霊光有るのみ。方(まさ)に生ずるの後、霊光の発竅(はっきょう)、先ず好悪を知る。好悪は即ち是非なり。即ち愛を知り敬を知るの由りて出づる所なり。思察して此に到らば、以て我が性の天たり、我が体の地たるを悟る可し。〔『言志後録』第71章〕

【意訳】
人は自ら母胎の中にいた頃の自分の心がどうであったかを思い出してみるべきである。また、母胎から生まれ出た頃の自分の心はどうであったかも思い出してみるべきである。皆完全に忘れていて記憶してはいない。しかし、自分の体がすでに出来上がっていれば、必ず心も備わっているはずである。いま試みに考えてみると、母胎内にあった心は、一つの純粋な気であって、善も無く悪も無く、ただ一つの霊妙な光があるだけである。この世の中に生まれ出ると、この心の霊光が現われて、まず最初に物の善悪を理解する。善悪とは、すなわち是非のことである。この是非こそが愛と敬を知る根源である。思いがここに至ると、私の本性は天から授かったものであり、体は地から得たものであることを悟ることができる

【ビジネス的解釈】
道に迷ったら童心に帰るとよい。童子は純真無垢な心で生まれ、ひとつずつ善悪を知り、愛することや敬うことを学んでいく。仕事に迷ったら初心に帰るとよい。何も知らなかった新人時代を経て、ひとつずつ学び、気づき、実践してきたはずだ。それが今では、かえって善悪より損得を優先してしまいがちになっている自分に気づくはずだ。


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第1448日 「人生」 と 「行旅」 についての一考察


今日の神坂課長は、休日を利用して、長谷川名誉院長と佐藤部長と一緒に日帰りの旅を楽しんでいるようです。

「せっかくの旅なのに生憎の雨ですね」

「神坂君は昔から雨男だと言われるよね」

「佐藤部長、それを言わないでください。だいたいこういう時に西村さんがいたら、お前の日頃の行いが悪いと言われるんです」

「ははは。神坂君、それに一々反応するということは、やっぱり心当たりがあるのかな?」

「長谷川先生、勘弁してください」

「この雨は喜ぶべきことだよ。最近ずっと、まとまった雨がなかったでしょ」

「やはり長谷川先生はポジティブですね。そういう発想の転換は苦手です」

「人生も仕事も良いことばかりじゃないよね。でも、その良くないことが自分を助けてくるるんだよ」

「自分をたすけてくれるとは考えたことがなかったです。逆境や辛いことというのは、乗り越えるものだと思っていました」

「うん、どうせ乗り越えるなら視点をかえてポジティブに捉えたほうが楽しいでしょ?」

「そして、長谷川先生のようにポジティブでいると、機会を逃したり、無理に状況を打開しようとしなくなりますね」

「佐藤さん、ナイスアシスト」

「またまた勉強になりました。逆境を乗り越えようなんて前のめりになると、かえって失敗するのかも知れませんね

「その通り。神坂君も飲み込みが早いね」

「お褒め頂き光栄です。そうか、今日の雨は私にそれを教えてくれるために降ったのですね」


ひとりごと
 
人生山あり谷あり、と言われます。

雨の日には雨の中を、風の日には風の中を、ただ淡々と歩く。

そんな人生を歩んでいけば、それで幸せなのではないでしょうか?


【原文】
人の世を渉るは行旅の如く然り。途に険夷(けんい)有り、日に晴雨有りて、畢竟避くるを得ず。只だ宜しく処に随い時に随い相緩急すべし。速やかならんことを欲して以て災を取ること勿れ。猶予して以て期に後(おく)るること勿れ。是れ旅に処するの道にして、即ち世を渉るの道なり。〔『言志後録』第70章〕

【意訳】
人が世の中を渡っていくのは旅をすることに似ている。途中には険阻な所や平坦な所がある。また晴れの日も雨の日もあって、結局これを避けることはできない。ただ時と状況に応じて緩急を意識するべきである。急ごうとして禍を被ることのないようにせよ。またゆっくりし過ぎて期日に遅れるようなことがあってもいけない。これが旅の仕方であり、世渡りの道である。

【ビジネス的解釈】
仕事も人生も旅のようなもので、良い時もあれば悪い時もある。それを避けることはできない。ただ、焦りすぎて失敗したり、好機を逃すことのないように、時に中ることを考えるべきだ。


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第1447日 「苦楽」 と 「成否」 についての一考察

営業1課の廣田さんと営業2課の本田さんは同期入社です。

喫茶コーナーで二人が雑談中のようです。

「この前、かなり大きな商談を受注できたんだ。これで今期の100%は見えてきた」

「それは凄いな。俺は今期はまだ苦しんでいるよ」

「でもな、どうもあまり評価してもらえていない気がするんだ」

「新美課長にか?」

「うん。清水さんが商談を決めてきたときは、かなり褒めているのに、僕のときは、あまり喜んでくれなかった」

「新美課長に限って、そんなことはないと思うけどな。でもさ、廣田。上司の評価を気にして仕事をしない方がいいよ」

「本田は気にしないのか?」

「評価してもらえた時は素直に喜ぶけど、評価されなかったとしても、自分がチームに貢献できていると思えるなら、気にしないことにしている」

「へぇ、お前、人間的に成長したな」

「神坂さんがよく言っているんだよ。『成功するだけが楽しみじゃない。逆境を楽しめてこそ一人前の営業だ』ってな」

「なんだか悟りの境地だな」

「いくら自分のやるべきことを一所懸命にやり切ったとしても、必ず評価されるとは限らないよ。評価するのは自分ではなく、他人だからね」

「そうか、そこで不満を持ったり、どうやったら評価されるかなんて考えるのは良くないんだな。誰のために仕事をしているのかわからなくなるな」

「そうだよ。お客様のために最善を尽くして感謝されたなら、それは確実に会社にも貢献することになる。まずはそれで良いじゃないか!」

「そうだな。よし、今もう一つ大きな商談があるんだ。そこに集中するよ!」


ひとりごと
 
世の中には自分ではどうしようもないこともあります。


たとえば、自分の査定についても、評価するのはあくまで評価者であり、どう評価するかは評価者の課題です。

そこに一喜一憂する暇があったら、目の前の仕事に全力を尽くすことを楽しめ、と一斎先生は言います。

わかってはいても、なかなか難しいことではありますが・・・。


【原文】
人生には貴賤有り貧富有り。亦各おの其の苦楽有り。必ずしも富貴は楽しくて貧賤は苦しと謂わず。蓋し其の苦処より之を言えば、何れか苦しからざる莫(な)からん。其の楽処より之を言わば、何れか楽しからざる莫(な)からむ。然れども此の苦楽も亦猶お外に在る者なり。昔賢(せきけん)曰く、「楽は心の本体なり」と。此の楽は苦楽の楽を離れず、亦苦楽の楽に堕ちず。蓋し其の苦楽に処りて、而も苦楽を超え、其の遭う所に安んじて、而も外を慕うこと無し。是れ真の楽のみ。中庸に謂わゆる、「君子は其の位に素して行ない、其の外を願わず。入るとして自得せざる無し」とは是れなり。〔『言志後録』第69章〕

【意訳】
人の一生には貴賤もあれば貧富もある。その各々に苦楽がある。必ずしも富貴は楽しく、貧賤は苦しいというものでもない。思うに、苦しいという見地から言えば、すべてが苦しくなり、楽しいという見地から言えば、すべてが楽しくなるものである。しかしながら、こうした苦楽は心の外にあるものである。昔の賢人(王陽明)は、「楽は心の本体なり」と言った。心の本体としての楽は、苦楽の楽から離れず、苦楽の楽に堕するものでもない。思うに世間でいう苦楽にあって、しかも苦楽を超越しており、ただ自己が遭遇する状況に満足して、外の世界を慕うこともない。これが真の楽である。『中庸』という古典にも、「君子はその時の地位に甘んじて行動し、自分がどうすることもできない外のことを願わない。どんな境遇に入っても自主自由に道を行なう」とはこれ(真楽)である

【ビジネス的解釈】
ビジネスの成否は自分の思い通りになるものではない。成功に溺れず、失敗に落胆せず、ただ自分のやるべき仕事を淡々と処理することこそ、真の楽しみといえるのだ。


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第1446日 「大言」 と 「壮語」 についての一考察

今日の神坂課長は、出張の佐藤部長に代わって中途社員採用面接の面接官を務めたようです。

終了後に同期の人事課鈴木課長と応接室で片付けながら雑談をしてます。

「鈴木、30分程度でその人物を判断するというのは難しいな」

「わかってくれるか、神坂。毎回、試行錯誤しているけど、反省ばかりだよ」

「特にビッグマウスの奴が難しいな。自信満々に過去の成功を語られると、全面的に信じそうになる。だけど、冷静に考えてみれば、それならどうして会社を辞めたの、ということになるよな」

「面接では自分の欠点を隠そうとして、かえって大きなことを言ったり、自信があるように見せようとする人もいる。そういう人物は、実は、小人物で臆病だったりするから採用すると大変なんだ」

「ビッグマウスは、自信のなさの表れってことか。ちょっと耳が痛い」

「おっ、神坂、成長したな。よく自分を分析しているじゃないか」

「やかましいわ! 俺はビッグマウスじゃなくて、本当にビッグなんだよ!」

「今時、自分のことを『ビッグ』なんて言うのは、永ちゃんとお前くらいだな」

「うるさいな。でもさ、面接ではどうしてもそういう人の方が採用されやすくなるんじゃないのか?」

「そうなんだよ。本当は、大きなことを言わず、自慢話も語らず、自分の信念をしっかりと語るような人が、実は大人物で優秀だったりするんだ。しかし、そういう人は一見目立たないからな」

「それで、この採用基準表があるんだな。たしかに親孝行かとか、親族以外で尊敬している人は誰かとかを
把握するというのは、その人の内面を視るには良いよな」

「まだまだバージョンアップが必要だけどな」

「鈴木、今まで悪かったな。ちょっと若手が問題を起こすと、採用した奴が悪いなんて言ってさ」

「わかってくれればいいさ。これからは一緒に、将来を担う若者を発掘し、育てていこうぜ」

「そうだな。ところで以前に西村部長が、俺を採用したのはただ一点、親孝行な若者だと判断したからだと言ってたよな。みんな見る目がないよな、他にも良いところを見つけられなかったのかね?」

「えっ、他に何がある?」


ひとりごと
 
大言壮語の人というのは、実は自分に自信がないのだ、というのはその通りかも知れません。

部下を厳しく叱りつけたりするのも、リーダーとしての自信のなさの表れなのでしょう。

小生には大いに心当たりがあります。

また、人を見抜く場合にも言葉に騙されないようにしたいものです。

しかし、それもまた難しいことです。

なにせ、あの孔子ですら、弟子の宰我を見抜くことができなかったと後悔しているくらいですから。


原文】
好みて大言を為す者有り、其の人必ず小量なり。好みて壮言を為す者有り、其の人必ず怯愞(きょうだ)なり。唯だ言葉の大ならず壮ならず、中に含蓄有る者、多くは是れ識量弘恢(こうかい)の人物なり。〔『言志後録』第68章〕

【訳文】
あえて大きな事を言う人がいるが、そういう人は必ず小人物である。あえて意気盛んな言葉を発している人もいるが、そういう人は必ず臆病な人物である。言葉は大き過ぎず、勇まし過ぎもせず、含蓄のあることを話す人は見識も博く、度量も寛大な人である

【所感】
自分を大きく見せるような発言をすべきではない。また、人物を見定める際は、大言壮語の人を優秀な人材だと見誤らないような冷静な判断が求められる。


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プロフィール

れみれみ