一日一斎物語 (ストーリーで味わう『言志四録』)

毎日一信 佐藤一斎先生の『言志四録』を一章ずつ取り上げて、一話完結の物語に仕立てています(第1066日目より)。 物語をお読みいただき、少しだけ立ち止まって考える時間をもっていただけたなら、それに勝る喜びはありません。

2019年02月

第1478日 「誠の人」 と 「敬の人」 についての一考察

S急便の中井さんが荷物を届けにきたようです。

「毎度、ありがとうございます、S急便です!」

「中井さん、おはようございます。相変わらず元気ですね」

「ああ、神坂さん。おはようございます。神坂さんこそお元気そうで」

「元気だけが取柄の男ですから。なぁ、石崎!」

「突然振られても、反応に困りますよ・・・」

「バカたれ。そういう時は、『そんなことないですよ。課長は仕事もできるし、やさしいし』とかなんとか言えばいいんだよ」

「それは無理だよね、石崎君。心にもないことは言えないもんな!」

「さすが、中井さんです!」

「少年、あいかわらず可愛くないねぇ」

「そういえば、佐藤さんが入院されたんですよね?」

「そうなんですよ。でも、かなり回復したようですけどね。ただ、会社のほうは大黒柱が不在なので、大変なことになっています」

「そんなことないでしょう。神坂さんが居るんだから!」

「いやいや、佐藤が不在となって、あらためて存在の大きさに気づきましたよ。あの人は会社のため、お客様のためになることを自然に実行できる人です。そして、それを少しも誇るところがないんです」

「凄い人ですね。俺なんか、いまだについつい損得勘定が先になりますからね」

「同じくです。それに良い仕事をしたなと思ったときは、ついついメンバーに自慢話をしてしまう・・・」

石崎君と善久君が深くうなづいています。

「そうそう、この前も俺の部下がしくじりましてね。その尻拭いをした後は、その部下に散々説教をしてしまいました。3時間近くもね」

「3時間! それは駄目でしょう。説教は5分までと言われていますから」

「5分ですか? それじゃ何も言えないですね」

「つまり、何も言うなってことかも知れませんよ。尻拭いをする姿を通して語れ、ということじゃないですかね」

「なるほどね。神坂さんはそれを実行しているんですか?」

石崎君と善久君が大きく首を振っています。

「こいつらの反応のとおりです

「ははは。お互い、精進が足りませんね!」


ひとりごと

自然に善い行いができる人が誠の人であり、善い行いを人に誇らないのが敬の人だ、と一斎先生は言います。

東洋の古典を読むと、以下のような定義づけができそうです。

誠とは、自分がやるべきことに力を尽くすこと。

敬とは、自分の心を空っぽにすること。

己の為すべきことに精一杯尽力しつつ、他人の中に自分の足りない点を探す。

それができる人は、まさに仁者なのでしょう。


【原文】
為す無くして為す有る、之を誠と謂い、為す有りて為す無き、之を敬と謂う。〔『言志後録』第100章〕

【意訳】
作為的にすることなく、本性の自然より行うことを誠といい、本性の自然から何かを行ってしかも乱れないことを敬という

【ビジネス的解釈】
意識せずとも自然に為すべきことを実行するのが誠の人であり、実行したことを何事もなかったかのように振舞える人が敬の人である。


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第1477日 「一増」 と 「一減」 についての一考察

今日の神坂課長は、佐藤部長の代理として営業1課の廣田さんと同行しているようです。

「おととい内視鏡のデモで症例立会いをしたのですが、そのときの患者さんが昨日亡くなったそうです。すでに大腸がんの末期ではあったそうですが、まだお若い方だったのですごく悲しいですね」

「若いって、いくつくらい?」

「たぶん50歳になるかならないかだと思います」

「それは若いなぁ。でも不思議だと思わないか。どこかで誰かの命が消える瞬間に、別のどこかでは新しい生命が誕生しているんだよな。東洋の哲学的な考え方だと、この世の中にあるものは一増一減だということらしい」

「質量不変の法則みたいですね」

「なんだそれ? 俺は文系だからよくわからん!」

「え、文系とか理系の問題ではないような・・・」

「人間ひとりの人生がプラスマイナスゼロになるかどうかはわからないけど、家族や先祖までたどると意外とプラマイゼロなのかもな?」

「どういうことですか?」

「たとえばさ、今お前は営業という仕事で苦しんでいるよな。その苦労がお前の人生の後半に糧となれば良いことだけど、もしかしたらお前にはその見返りはないかも知れない」

「はい・・・」

「だけど、お前の子供が将来凄い営業人になるかもしれない。そこには、お前の苦労が活きているということになるんじゃないか?」

「なんだか、難しい話ですね。そんな難しい話をする人が、質量不変の法則を知らないというのが面白いなぁ」

「悪かったな。俺の知識は思い切り偏ってるからな! そんなことより、これから行くK厚生病院さんは、コストカッターのNRT社が入っているんだよな。それこそ消耗品は一増一減のルールがあるからな。あまり突っぱねると他社を使うからいいと切られてしまう。本当に頭が
痛いな」

「はい。ディーラーとしての利益はもう限界に来ている商品も多数あります。この苦労も質量不変で、どこかで喜びとなって帰ってきて欲しいです」

「本当だな。それが俺たちが定年した後の社員さんに還元されるとなると、ちょっと寂しいな」


ひとりごと

『易』の有名な言葉に、

「積善の家には必ず余慶有り。積不善の家には必ず余殃有り」とあります。

善いことをすれば、その人の家には後に良いことが起こり、不善を行えば、その人の家には必ず不吉なことが起る、という意味です。

長い目でみれば、すべては一増一減だと心得て、善を為し続けましょう。


【原文】
古往今来、生生息(や)まず。精気は物を為すも、天地未だ嘗て一物をも増さず。游魂は変を為すも、天地未だ嘗て一気をも減ぜず。〔『言志後録』第99章〕

【訳文】
太古から現在に至るまで、生々として休むことなく、陰陽は相和合して万物を生み続けているが、いまだ嘗て何一つとして物を増やしてはいない。精気は衰えてやがて万物はその命を失うが、いまだ嘗て一つとして気を減らしてはいない

【所感】
なにごとにおいても陰陽のバランスが崩れることはない。何かが増えれば何かが減るのが自然の摂理である。


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第1476日 「身体のケア」 と 「心のケア」 についての一考察

今日の神坂課長は、仕事帰りに入院中の佐藤部長のお見舞いに来たようです。

「部長、差し入れをお持ちしました。その後はいかがですか?」

「ああ、神坂君。いつもありがとう。身体のほうはすっかり回復したよ。早く仕事がしたくてうずうずしているくらいだ」

「それは安心しました。しかし、せっかくの機会ですから、しっかり身体を休めてくださいね」

「そうだね。入院してみてわかったんだけど、実は身体だけでなくて、心のメンテナンスも不足していたことに気がついたよ」

「どういうことですか?」

「考えてみると、自分の心とじっくり向き合う時間を作れていなかったな、と思ってね。お酒を飲んで家に帰って、夜更かしをして読書をするような生活は、実は慎独にはなっていないよね。誰も見ていなくても、規則正しい生活をしなければいけないな、と反省したよ」

「その言葉、そっくりそのまま私の心にも突き刺さります」

「神坂君も養生して、自分の心と会話をする時間を持っておくといいよ。そうすれば、私みたいに病気になることもないはずだからね」

「そうですね。『健全な精神は健全な肉体に宿る』と言いますが、もしかしたら『不健全な精神が不健全な肉体をつくる』のかも知れませんね?」

「たしかにね! でもねぇ」

「どうしました?」

「やっぱり、そろそろ飲みたいなぁ」

「わかりました! この後、部長の分までこの私がしっかりと飲んでおきますから!」

「次に入院するのは君だな!」


ひとりごと

人間にとって、身体同様、心のメンテナンスも重要です。

心のメンテナンスは、独りの時間に行うべきものでしょう。

すくなくとも一日の終わりには、自分の行動や言動が世の中のお役に立っているかを振り返る必要がありそうです。


【原文】
人は皆身の安否を問うを知りて、心の安否を問うを知らず。宜しく自ら問うべし。能く闇室を欺かざるや否や、能く衾影(きんえい)に愧じざるや否や。能く安穏快楽を得るや否やと。時時是(かく)の如くすれば、心便ち放(ほしいまま)ならず。〔『言志後録』第98章〕

【意訳】
人はみな身体が健全かどうかについては心配をするが、心が安からであるかどうかを心配しないものである。次のように自らに問いかけてみるがよい。「人に知られない暗い場所にいても自分を正しく持しているかどうか、独りのとき自らの夜具や影に恥じることはないか、そして自分の心が安らかで愉快であるかどうか」と。常にこの問いかけを発し続ければ、心が放たれ失われてしまうようなことはないであろう

【ビジネス的解釈】
ビジネスを行う上では、身体のケアだけでなく、心のケアが重要である。独りを慎み、心を安らかに保つことを常に意識し、工夫をすべきである。


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第1475日 「怒り」 と 「欲望」 についての一考察

入社2年目トリオの石崎君、善久君、願海君が喫茶コーナーで雑談をしているようです。

「カミサマは意外と細かいんだよな。それに言い方がキツイだろう。あのおっさんに叱られるとなんかイライラするんだよな」
石崎君が不満気な様子です。

「まあまあ、落ち着いて! ところで、ザキ。なんで叱られたの?」
願海君がなだめています。

「粟野医院さんの商談でね。ハイグレードのエコーを買ってもらうつもりでカミサマに見積りを見せたら、『あの施設にこのグレードは必要ないだろう!』って。そこから30分間説教だよ」

「でも、実際にあれはオーバースペックなんじゃないの?」

「ゼンちゃんまでそんなことを言うのかよ。だって、高い機種を売った方が売上計画も達成するじゃないか。あそこは患者さんも多くて儲かっているからうまく説明すれば買ってもらえるかもしれないのに!」

「お金があるなら、ご施設に最適なエコーを提案した上に、なにかプラスアルファで提案すればいいじゃない?」

「いまのガンちゃんと同じことをカミサマに言われたよ。『損得感情で商売を考えるな!』って、めっちゃ怒られた

「ザキの話を聞く限り、神坂課長は間違ったことを言ってない気がするけど、ゼンちゃんはどう思うの?」

「え、まあ、そうだよね・・・」

「なんだよ、なんだよ。親愛なる同志だと思ってたのに、カミサマの肩を持つのかよ!」

「ザキ、あんまりイライラするなよ。あまりイライラすると心が乱れるし、欲張りすぎるとかえって気持が滅入っちゃうよ。もっと自然体でいこうよ」

「ガンちゃんの言うとおりだよ。ザキ、そんなにイライラして、売上のことばかり考えていたらうつ病になっちゃうよ」

「この俺がうつ病になるわけないじゃん! うわっ、カミサマから電話だ。はい、石崎です。はい。えっ! 行きます、行きます。ありがとうございます!」
石崎君の顔がみるみる明るくなりました。

「神坂課長、何だって?」

「説教の続きを今晩、『季節の料理 ちさと』でやろうって!」


ひとりごと

第343日の項でも紹介しましたが、人間が怒りを感じたときの呼気を固体化してマウスに注射すると、興奮したり、酷い場合には死に至るという実験結果があるそうです。

たしかに、怒りや欲望にまみれた精神状態が肉体に悪い影響を与えないはずはないでしょう。

いつも心に太陽を宿していたいものです。


【原文】
忿熾(いかりさかん)なれば則ち気暴(あら)く、欲多ければ則ち気耗す。忿を懲(こ)らし欲を塞ぐは、養生においても亦得(う)。〔『言志後録』第97章〕

【意訳】
怒りが盛んであれば気持ちも荒々しくなり、欲が強すぎると気持ちが消耗する。怒りや欲望を抑えることは、養生としても良いことなのだる。

【ビジネス的解釈】
怒りや欲望に任せて働けば、精神的に病んでしまう。いかに怒りや欲望を抑えるかは、ビジネスマンにとって最重要事項である。


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第1474日 「自助」 と 「研鑽」 についての一考察

今日の神坂課長は、仕事帰りに大型書店に寄ったようです。

「あれ、神坂課長じゃないですか?」

「おお、廣田か。お前もインプットの準備か?」

「はい、私は毎週金曜日の提示後に書店に来るのがルーチンなんです」

「マジで? お前くらいの年齢だったら、フライデーナイトはデートで相場は決まってるだろう」

「残念ながら彼女がいないので・・・」

「あ、これセクハラか? すまん、悪気はないぞ。そうだ、どうせ暇なら、本の物色が済んだら付き合えよ」

「はい、うれしいです」

二人は30分ほど、それぞれの本を選び、その後「季節の料理 ちさと」へやってきたようです。

「ああ、ここが有名な『ちさと』さんですか!」

「あら、始めましてかな。神坂君の後輩?」

「ああ、ママ。こいつは廣田。新美の下にいる有望な中堅社員さんだよ」

「始めまして。以前からうわさは聞いています。すごくきれいなママがいるお店だって」

「あら、それじゃあ、現物をみてがっかりね」

「いえ、想像以上の美人でした」

「神坂君、たしかにこの子は優秀ね」

その後、ふたりはカウンターに座って、乾杯を済ませたようです。

「お前の年齢のうちから、読書をするのはいいことだよな。俺もお前の年齢に戻って、そこから読書をたくさん
したいよ」

「とにかく、今のままでは駄目だと思っていますので。優秀な後輩もたくさん居ますしね。でも、さっき神坂課
長が『有望な中堅社員』だといってくれて凄くうれしかったです」

「俺はお世辞は言えないからな。本気でそう思っているぞ」

「ご期待に応えたいです」

「焦るな廣田。今のように現状に満足せずに、学び続けていれば必ず芽が出る。ただし、インプットだけじゃ駄目だぞ。アウトプットつまり実践しないとな」

「はい」

「そして、自分を見限るなよ。お前は間違いなく良い営業人になれるからな」

「ありがとうございます」

「だから、他人と比べるな。他人と比べるくらいなら、理想の自分をみつけて、それと比較しろ。そして足りないと思ったことを、読書でインプットして、実践し続けるんだよ。俺はうまくいかない人というのは、みんな自分で自分に限界を設けているだけだと思っている」

「さすがは神坂課長です。私はどうしても自分に自信が持てないんです」

「自信なんて持てなくてもいいじゃないか。理想の自分との差を明確にして、現状に満足しないで自分を磨けばいいんだよ。俺は若い頃、自信を超えて過信していたからな。それで相当出遅れたよ」

「課長の行動力は凄いなぁといつも思っています」

「ははは。インプットもないのにアウトプットするという得意技を持っていたからな。でも、さすがに40歳を超えるとそういう小手先のものは通用しなくなるんだ。だから読書が大事なんだよ!」

「はい。とても勉強になりました。本屋に来てよかったです」

「もうひとつ朗報を伝えよう。今日は俺の奢りだ!」

「カッコ良過ぎます!!」


ひとりごと

スマイルズの著した不朽の名著『自助論』のなかの有名な一節に、「天は自ら助くるものを助く」とあります。

自分を高く買いかぶり過ぎるのは問題ですが、低く見限るのはもっと問題だということでしょう。

理想の自分と現状を比較して、少しでも理想に近づけるように、死ぬまで研鑽を続けていきたいものです。


【原文】
君子は自ら慊(けん)し、小人は則ち自ら欺く。君子は自ら彊(つと)め、小人は則ち自ら棄つ。上達と下達は、一つの自の字に落在す。〔『言志後録』第96章〕

【意訳】
立派な人は自ら満足をすることはないが、凡人は自らを欺いて小さなことに満足する。また立派な人は常に向上すべく休まずに勉めているが、凡人は自ら諦めてしまう。物事の真理に近づけるか、小手先のテクニックをマスターして終わるかは、すべて「自」という文字のごとく己に懸かっているのだ

【ビジネス的解釈】
自分の現状に満足せず、自分を研鑽し続ければ、良い仕事をすることができる。しかし、現状に甘んじて、自分に期待することを諦めてしまえば、大きな仕事はできない。社会に大きな貢献をするビジネスマンになるか否かは、すべて自分自身に懸かっている。


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プロフィール

れみれみ