一日一斎物語 (ストーリーで味わう『言志四録』)

毎日一信 佐藤一斎先生の『言志四録』を一章ずつ取り上げて、一話完結の物語に仕立てています(第1066日目より)。 物語をお読みいただき、少しだけ立ち止まって考える時間をもっていただけたなら、それに勝る喜びはありません。

2019年02月

第1478日 「誠の人」 と 「敬の人」 についての一考察

S急便の中井さんが荷物を届けにきたようです。

「毎度、ありがとうございます、S急便です!」

「中井さん、おはようございます。相変わらず元気ですね」

「ああ、神坂さん。おはようございます。神坂さんこそお元気そうで」

「元気だけが取柄の男ですから。なぁ、石崎!」

「突然振られても、反応に困りますよ・・・」

「バカたれ。そういう時は、『そんなことないですよ。課長は仕事もできるし、やさしいし』とかなんとか言えばいいんだよ」

「それは無理だよね、石崎君。心にもないことは言えないもんな!」

「さすが、中井さんです!」

「少年、あいかわらず可愛くないねぇ」

「そういえば、佐藤さんが入院されたんですよね?」

「そうなんですよ。でも、かなり回復したようですけどね。ただ、会社のほうは大黒柱が不在なので、大変なことになっています」

「そんなことないでしょう。神坂さんが居るんだから!」

「いやいや、佐藤が不在となって、あらためて存在の大きさに気づきましたよ。あの人は会社のため、お客様のためになることを自然に実行できる人です。そして、それを少しも誇るところがないんです」

「凄い人ですね。俺なんか、いまだについつい損得勘定が先になりますからね」

「同じくです。それに良い仕事をしたなと思ったときは、ついついメンバーに自慢話をしてしまう・・・」

石崎君と善久君が深くうなづいています。

「そうそう、この前も俺の部下がしくじりましてね。その尻拭いをした後は、その部下に散々説教をしてしまいました。3時間近くもね」

「3時間! それは駄目でしょう。説教は5分までと言われていますから」

「5分ですか? それじゃ何も言えないですね」

「つまり、何も言うなってことかも知れませんよ。尻拭いをする姿を通して語れ、ということじゃないですかね」

「なるほどね。神坂さんはそれを実行しているんですか?」

石崎君と善久君が大きく首を振っています。

「こいつらの反応のとおりです

「ははは。お互い、精進が足りませんね!」


ひとりごと

自然に善い行いができる人が誠の人であり、善い行いを人に誇らないのが敬の人だ、と一斎先生は言います。

東洋の古典を読むと、以下のような定義づけができそうです。

誠とは、自分がやるべきことに力を尽くすこと。

敬とは、自分の心を空っぽにすること。

己の為すべきことに精一杯尽力しつつ、他人の中に自分の足りない点を探す。

それができる人は、まさに仁者なのでしょう。


【原文】
為す無くして為す有る、之を誠と謂い、為す有りて為す無き、之を敬と謂う。〔『言志後録』第100章〕

【意訳】
作為的にすることなく、本性の自然より行うことを誠といい、本性の自然から何かを行ってしかも乱れないことを敬という

【ビジネス的解釈】
意識せずとも自然に為すべきことを実行するのが誠の人であり、実行したことを何事もなかったかのように振舞える人が敬の人である。


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第1477日 「一増」 と 「一減」 についての一考察

今日の神坂課長は、佐藤部長の代理として営業1課の廣田さんと同行しているようです。

「おととい内視鏡のデモで症例立会いをしたのですが、そのときの患者さんが昨日亡くなったそうです。すでに大腸がんの末期ではあったそうですが、まだお若い方だったのですごく悲しいですね」

「若いって、いくつくらい?」

「たぶん50歳になるかならないかだと思います」

「それは若いなぁ。でも不思議だと思わないか。どこかで誰かの命が消える瞬間に、別のどこかでは新しい生命が誕生しているんだよな。東洋の哲学的な考え方だと、この世の中にあるものは一増一減だということらしい」

「質量不変の法則みたいですね」

「なんだそれ? 俺は文系だからよくわからん!」

「え、文系とか理系の問題ではないような・・・」

「人間ひとりの人生がプラスマイナスゼロになるかどうかはわからないけど、家族や先祖までたどると意外とプラマイゼロなのかもな?」

「どういうことですか?」

「たとえばさ、今お前は営業という仕事で苦しんでいるよな。その苦労がお前の人生の後半に糧となれば良いことだけど、もしかしたらお前にはその見返りはないかも知れない」

「はい・・・」

「だけど、お前の子供が将来凄い営業人になるかもしれない。そこには、お前の苦労が活きているということになるんじゃないか?」

「なんだか、難しい話ですね。そんな難しい話をする人が、質量不変の法則を知らないというのが面白いなぁ」

「悪かったな。俺の知識は思い切り偏ってるからな! そんなことより、これから行くK厚生病院さんは、コストカッターのNRT社が入っているんだよな。それこそ消耗品は一増一減のルールがあるからな。あまり突っぱねると他社を使うからいいと切られてしまう。本当に頭が
痛いな」

「はい。ディーラーとしての利益はもう限界に来ている商品も多数あります。この苦労も質量不変で、どこかで喜びとなって帰ってきて欲しいです」

「本当だな。それが俺たちが定年した後の社員さんに還元されるとなると、ちょっと寂しいな」


ひとりごと

『易』の有名な言葉に、

「積善の家には必ず余慶有り。積不善の家には必ず余殃有り」とあります。

善いことをすれば、その人の家には後に良いことが起こり、不善を行えば、その人の家には必ず不吉なことが起る、という意味です。

長い目でみれば、すべては一増一減だと心得て、善を為し続けましょう。


【原文】
古往今来、生生息(や)まず。精気は物を為すも、天地未だ嘗て一物をも増さず。游魂は変を為すも、天地未だ嘗て一気をも減ぜず。〔『言志後録』第99章〕

【訳文】
太古から現在に至るまで、生々として休むことなく、陰陽は相和合して万物を生み続けているが、いまだ嘗て何一つとして物を増やしてはいない。精気は衰えてやがて万物はその命を失うが、いまだ嘗て一つとして気を減らしてはいない

【所感】
なにごとにおいても陰陽のバランスが崩れることはない。何かが増えれば何かが減るのが自然の摂理である。


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第1476日 「身体のケア」 と 「心のケア」 についての一考察

今日の神坂課長は、仕事帰りに入院中の佐藤部長のお見舞いに来たようです。

「部長、差し入れをお持ちしました。その後はいかがですか?」

「ああ、神坂君。いつもありがとう。身体のほうはすっかり回復したよ。早く仕事がしたくてうずうずしているくらいだ」

「それは安心しました。しかし、せっかくの機会ですから、しっかり身体を休めてくださいね」

「そうだね。入院してみてわかったんだけど、実は身体だけでなくて、心のメンテナンスも不足していたことに気がついたよ」

「どういうことですか?」

「考えてみると、自分の心とじっくり向き合う時間を作れていなかったな、と思ってね。お酒を飲んで家に帰って、夜更かしをして読書をするような生活は、実は慎独にはなっていないよね。誰も見ていなくても、規則正しい生活をしなければいけないな、と反省したよ」

「その言葉、そっくりそのまま私の心にも突き刺さります」

「神坂君も養生して、自分の心と会話をする時間を持っておくといいよ。そうすれば、私みたいに病気になることもないはずだからね」

「そうですね。『健全な精神は健全な肉体に宿る』と言いますが、もしかしたら『不健全な精神が不健全な肉体をつくる』のかも知れませんね?」

「たしかにね! でもねぇ」

「どうしました?」

「やっぱり、そろそろ飲みたいなぁ」

「わかりました! この後、部長の分までこの私がしっかりと飲んでおきますから!」

「次に入院するのは君だな!」


ひとりごと

人間にとって、身体同様、心のメンテナンスも重要です。

心のメンテナンスは、独りの時間に行うべきものでしょう。

すくなくとも一日の終わりには、自分の行動や言動が世の中のお役に立っているかを振り返る必要がありそうです。


【原文】
人は皆身の安否を問うを知りて、心の安否を問うを知らず。宜しく自ら問うべし。能く闇室を欺かざるや否や、能く衾影(きんえい)に愧じざるや否や。能く安穏快楽を得るや否やと。時時是(かく)の如くすれば、心便ち放(ほしいまま)ならず。〔『言志後録』第98章〕

【意訳】
人はみな身体が健全かどうかについては心配をするが、心が安からであるかどうかを心配しないものである。次のように自らに問いかけてみるがよい。「人に知られない暗い場所にいても自分を正しく持しているかどうか、独りのとき自らの夜具や影に恥じることはないか、そして自分の心が安らかで愉快であるかどうか」と。常にこの問いかけを発し続ければ、心が放たれ失われてしまうようなことはないであろう

【ビジネス的解釈】
ビジネスを行う上では、身体のケアだけでなく、心のケアが重要である。独りを慎み、心を安らかに保つことを常に意識し、工夫をすべきである。


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第1475日 「怒り」 と 「欲望」 についての一考察

入社2年目トリオの石崎君、善久君、願海君が喫茶コーナーで雑談をしているようです。

「カミサマは意外と細かいんだよな。それに言い方がキツイだろう。あのおっさんに叱られるとなんかイライラするんだよな」
石崎君が不満気な様子です。

「まあまあ、落ち着いて! ところで、ザキ。なんで叱られたの?」
願海君がなだめています。

「粟野医院さんの商談でね。ハイグレードのエコーを買ってもらうつもりでカミサマに見積りを見せたら、『あの施設にこのグレードは必要ないだろう!』って。そこから30分間説教だよ」

「でも、実際にあれはオーバースペックなんじゃないの?」

「ゼンちゃんまでそんなことを言うのかよ。だって、高い機種を売った方が売上計画も達成するじゃないか。あそこは患者さんも多くて儲かっているからうまく説明すれば買ってもらえるかもしれないのに!」

「お金があるなら、ご施設に最適なエコーを提案した上に、なにかプラスアルファで提案すればいいじゃない?」

「いまのガンちゃんと同じことをカミサマに言われたよ。『損得感情で商売を考えるな!』って、めっちゃ怒られた

「ザキの話を聞く限り、神坂課長は間違ったことを言ってない気がするけど、ゼンちゃんはどう思うの?」

「え、まあ、そうだよね・・・」

「なんだよ、なんだよ。親愛なる同志だと思ってたのに、カミサマの肩を持つのかよ!」

「ザキ、あんまりイライラするなよ。あまりイライラすると心が乱れるし、欲張りすぎるとかえって気持が滅入っちゃうよ。もっと自然体でいこうよ」

「ガンちゃんの言うとおりだよ。ザキ、そんなにイライラして、売上のことばかり考えていたらうつ病になっちゃうよ」

「この俺がうつ病になるわけないじゃん! うわっ、カミサマから電話だ。はい、石崎です。はい。えっ! 行きます、行きます。ありがとうございます!」
石崎君の顔がみるみる明るくなりました。

「神坂課長、何だって?」

「説教の続きを今晩、『季節の料理 ちさと』でやろうって!」


ひとりごと

第343日の項でも紹介しましたが、人間が怒りを感じたときの呼気を固体化してマウスに注射すると、興奮したり、酷い場合には死に至るという実験結果があるそうです。

たしかに、怒りや欲望にまみれた精神状態が肉体に悪い影響を与えないはずはないでしょう。

いつも心に太陽を宿していたいものです。


【原文】
忿熾(いかりさかん)なれば則ち気暴(あら)く、欲多ければ則ち気耗す。忿を懲(こ)らし欲を塞ぐは、養生においても亦得(う)。〔『言志後録』第97章〕

【意訳】
怒りが盛んであれば気持ちも荒々しくなり、欲が強すぎると気持ちが消耗する。怒りや欲望を抑えることは、養生としても良いことなのだる。

【ビジネス的解釈】
怒りや欲望に任せて働けば、精神的に病んでしまう。いかに怒りや欲望を抑えるかは、ビジネスマンにとって最重要事項である。


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第1474日 「自助」 と 「研鑽」 についての一考察

今日の神坂課長は、仕事帰りに大型書店に寄ったようです。

「あれ、神坂課長じゃないですか?」

「おお、廣田か。お前もインプットの準備か?」

「はい、私は毎週金曜日の提示後に書店に来るのがルーチンなんです」

「マジで? お前くらいの年齢だったら、フライデーナイトはデートで相場は決まってるだろう」

「残念ながら彼女がいないので・・・」

「あ、これセクハラか? すまん、悪気はないぞ。そうだ、どうせ暇なら、本の物色が済んだら付き合えよ」

「はい、うれしいです」

二人は30分ほど、それぞれの本を選び、その後「季節の料理 ちさと」へやってきたようです。

「ああ、ここが有名な『ちさと』さんですか!」

「あら、始めましてかな。神坂君の後輩?」

「ああ、ママ。こいつは廣田。新美の下にいる有望な中堅社員さんだよ」

「始めまして。以前からうわさは聞いています。すごくきれいなママがいるお店だって」

「あら、それじゃあ、現物をみてがっかりね」

「いえ、想像以上の美人でした」

「神坂君、たしかにこの子は優秀ね」

その後、ふたりはカウンターに座って、乾杯を済ませたようです。

「お前の年齢のうちから、読書をするのはいいことだよな。俺もお前の年齢に戻って、そこから読書をたくさん
したいよ」

「とにかく、今のままでは駄目だと思っていますので。優秀な後輩もたくさん居ますしね。でも、さっき神坂課
長が『有望な中堅社員』だといってくれて凄くうれしかったです」

「俺はお世辞は言えないからな。本気でそう思っているぞ」

「ご期待に応えたいです」

「焦るな廣田。今のように現状に満足せずに、学び続けていれば必ず芽が出る。ただし、インプットだけじゃ駄目だぞ。アウトプットつまり実践しないとな」

「はい」

「そして、自分を見限るなよ。お前は間違いなく良い営業人になれるからな」

「ありがとうございます」

「だから、他人と比べるな。他人と比べるくらいなら、理想の自分をみつけて、それと比較しろ。そして足りないと思ったことを、読書でインプットして、実践し続けるんだよ。俺はうまくいかない人というのは、みんな自分で自分に限界を設けているだけだと思っている」

「さすがは神坂課長です。私はどうしても自分に自信が持てないんです」

「自信なんて持てなくてもいいじゃないか。理想の自分との差を明確にして、現状に満足しないで自分を磨けばいいんだよ。俺は若い頃、自信を超えて過信していたからな。それで相当出遅れたよ」

「課長の行動力は凄いなぁといつも思っています」

「ははは。インプットもないのにアウトプットするという得意技を持っていたからな。でも、さすがに40歳を超えるとそういう小手先のものは通用しなくなるんだ。だから読書が大事なんだよ!」

「はい。とても勉強になりました。本屋に来てよかったです」

「もうひとつ朗報を伝えよう。今日は俺の奢りだ!」

「カッコ良過ぎます!!」


ひとりごと

スマイルズの著した不朽の名著『自助論』のなかの有名な一節に、「天は自ら助くるものを助く」とあります。

自分を高く買いかぶり過ぎるのは問題ですが、低く見限るのはもっと問題だということでしょう。

理想の自分と現状を比較して、少しでも理想に近づけるように、死ぬまで研鑽を続けていきたいものです。


【原文】
君子は自ら慊(けん)し、小人は則ち自ら欺く。君子は自ら彊(つと)め、小人は則ち自ら棄つ。上達と下達は、一つの自の字に落在す。〔『言志後録』第96章〕

【意訳】
立派な人は自ら満足をすることはないが、凡人は自らを欺いて小さなことに満足する。また立派な人は常に向上すべく休まずに勉めているが、凡人は自ら諦めてしまう。物事の真理に近づけるか、小手先のテクニックをマスターして終わるかは、すべて「自」という文字のごとく己に懸かっているのだ

【ビジネス的解釈】
自分の現状に満足せず、自分を研鑽し続ければ、良い仕事をすることができる。しかし、現状に甘んじて、自分に期待することを諦めてしまえば、大きな仕事はできない。社会に大きな貢献をするビジネスマンになるか否かは、すべて自分自身に懸かっている。


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第1473日 「仁義」 と 「親愛」 についての一考察

今日の神坂課長は、元営業1課の西郷さんが主査する『論語』の読書会に参加しています。

「孟子は、人間は生まれながらに、仁・義・礼・智という四つの徳を持っていると言っています」

「え、じゃあ、私にも仁の心はあるということですか?」
神坂課長の発言に、参加者一同爆笑しています。

「もちろん、神坂君にだってあるよ。それに正義の心もね」

「はい、正義の心は人一倍強いですよ。人の道に反することは大嫌いですからね」
またまた、一同大爆笑です。

「でもね、それは神坂君の御両親のお陰でもあるんだよ。まだ神坂君がひとりでは何もできない赤ん坊のときに、御両親が愛情を一杯注いでくれたからこそ、神坂君は愛を知り、思いやりの心を育むことができたわけだからね」

「なるほど。私も二人に息子には愛を注いだつもりなんですけど、どうもあいつらはそれが分ってないみたいで・・・」

「じゃあ、神坂君が学生の頃は、それに気づいていたの?」

「え、あ、そう言われると全く気づいていなかったですね」
三たび、爆笑の渦です。

「だけど、そうだとすると、なぜ世の中に不正が次々に起るのでしょうかね?」

「人間はいつの間にか欲を持つからね。この欲というものをしっかり制御できないと、何事も自分中心の発想になってしまうんだろうね」

「欲かぁ。私欲を満たそうとする人間にならないようにするためには、何をすべきなのでしょうか?」

「私が良いなと思うのは、『ありがとう』という言葉をもらうことだと思う。人は、他人から感謝をされると嬉しいものだよね。そして、もっと人のために何かをしたいと思うようになるでし
ょう」

「なるほど。見返りや大きな報酬はなくても、『ありがとう』という言葉をもらえれば、たしかに満足できるかも知れませんね」

「神坂君、自分の課のメンバーに、『ありがとう』という言葉をかけているかい?」

「あー、一時期は意識していたのですが、最近は忘れていたなぁ」

「上司に言われる『ありがとう』は格別なはずだよ!」


ひとりごと

人間ほど親の愛がなければ生きられない生物はいないでしょう。

馬や牛は、生まれてから数時間以内に立ち上がります。

しかし、人間が立てるようになるには、1年近くの月日を要します。

だからこそ、その間に多くのことを学ぶのでしょう。

やはり、人間は本来「善」であるということですね。


【原文】
赤子は先ず好悪を知る。好は愛辺に属す。仁なり。悪は羞辺に属す。義なり。心の霊光は自然に是(かく)の如し。〔『言志後録』第95章〕

【意訳】
生まれたばかりの赤ちゃんはまず好き嫌いを知る。好きは愛の範疇に属するもので、仁(思いやり)である。悪(嫌い)は恥の範疇に属するもので、義(正しい道)である。心の霊妙な光は自然にこのように成長するものである

【ビジネス的解釈】
人間は生まれてすぐに仁と義を理解する。つまり、誰しもが持っている思いやりの心と正しい物事を判断する力を有しているのであるから、ビジネスにおいてもそれを発揮すればよい。


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第1472日 「道理」 と 「人為」 についての一考察

今日の神坂課長は石崎君に同行しており、一件目の訪問を終えて、車で次の施設まで移動中のようです。

もちろん、ハンドルは石崎君が握っています。

「そういえば課長、最近ビットコインの話をしなくなりましたね」

「おい、いきなり嫌なことを思い出させるなよ!」

「結構、大損をしたんですか?」

「大損ではないけど、カミサンに内緒でへそくりをつぎ込んだ結果、五分の一くらいになっちゃったよ」

「マジですか! あの頃、課長がお前も買えとか言ってたじゃないですか。買わなくて良かったです!」

「他に被害者がいないことを祈りたいよ」

「たぶん、ゼンちゃん(善久君)は買ったと思いますよ」

「マジで? それは悪いことをしたなぁ」

「まあ、自業自得です!」

「はい、おっしゃるとおりです」

「あの頃、『おくりびと』とか言われた連中は、今はどうしているのでしょうね?」

「調子に乗った奴は地獄に落ちてるかもなぁ。石崎、実力に見合わない富や地位を得ることは良くないな。長続きしないもんな

「はい。私も性格的には一発当てたいタイプなのですが、ガンちゃん(願海君)やゼンちゃんを見習ってコツコツやっていこうと思います」

「それが一番だよ。コツコツ実力をつけていかないとな。誰か有力者の力を借りて地位や富を手に入れても、かならずそのツケが後で回ってくるものだからな

「でも、課長。今は、佐藤部長がお休みで、チャンスなのではないですか?」

「チャンスというのは適切な言葉じゃないな。よい勉強をさせてもらっているという感じかな。俺はどうひっくり返っても、佐藤部長には適わないと思っているからな」

「意外と謙虚なんですね?」

「意外とは余計だ!」


ひとりごと

実は小生も小額ではありますが、ビットコインに手を出して損をしております。

この言葉は、地位や名誉や富を得たいと思っている人にとって、とても大切な言葉です。

世の中の道理に反した道を進んで、富や地位を得ても、所詮長続きはしないようです。

孔子が、「不義にして富みかつ貴きは浮雲の如し」と言ったのは正に至言です・・・。


【原文】
天を以て得る者は固く、人を以て得る者は脆し。〔『言志後録』第94章〕

【意訳】
自然の道理に従って得たものは確実なものであり、これに対して、人為的に得たものは脆くて弱いものである。

【ビジネス的解釈】
自分の力に見合った地位や富を得るのでなければ、仮に一時的にそれを手に入れても永続きはしない。


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第1471日 「良い食事」 と 「良い睡眠」 についての一考察

今日の神坂課長は出社早々、総務部の大竹課長のところにやってきました。

「タケさん、ちさとママの料理のお陰で熟睡できました! こんなに目覚めが快調なのは、何年振りだろう!」

「そんなに効果てきめんだったの?」

「はい。昨日はママの言うとおり、家に帰ったらすぐに風呂に入って、本も読まずに寝たんです。そうしたら、朝、目がパチッと覚めて、二度寝することもなく布団から出ることができたんですよ!」

「なんだ、朝からやかましいな」
西村部長が出社してきたようです。

「おはようございます。西村さん、食事で眠りがガラッと変わるという体験をしたんですよ!」

神坂課長は昨日の経緯を話しました。(詳しくは第1470日の投稿をご覧ください)

「ほお、さすがはちさとママだね」

「はい。お陰で、食事と睡眠がどれだけ大切かということがよくわかりました」

「そうだな。結局、良い食事をして、良い睡眠をとれば、良い仕事ができるだろうからね。そういう意味では、睡眠と食事に気を遣うことは、会社に大きな貢献をすることになるのかもな」

「なるほど」

「昔から、睡眠と食事を節制することは親孝行にあたる、とも言われるからね」

「親孝行ですか?」

「そうだよ。親はいくつになっても、子供が元気であることを望んでいるものだからね」

「そうですね。ところで、タケさん。さっきから何をニヤニヤしているんですか?」

「え、いやね、安ーい寝具でも熟睡できたんだなぁと思ってさ」

「またそれを言う! 部長、この失礼なオッサンを叱ってください」

「よし、わかった。じゃあ、ちさとママに電話して、今度大竹君と神坂君がお店に行ったら、嫌味を言わなくなる料理と毒舌が治る料理を作ってくれるように頼んでおくよ!」


ひとりごと

朝、気持ちよく目覚めることができれば、まちがいなく仕事もはかどりますね。

ところで、良い睡眠のためには、睡眠時間を多く取るだけでは駄目で、食事も重要なようです。

良い食事を取り、良い睡眠を取れば、良い仕事ができる。

それはそのまま御両親を喜ばせることにもなるということでしょう。


【原文】
能く寝食を慎むは孝なり。〔『言志後録』第93章〕

【意訳】
よく睡眠をとり、食事を節制することは、孝行になるのだ

【ビジネス的解釈】
睡眠と食事に気を遣うことは、それだけで会社に貢献することになる。


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第1470日 「寝具」 と 「快眠」 についての一考察

今日の神坂課長は、総務課の大竹課長と「季節の料理 ちさと」に来ているようです。

「最近、一日中ずっと眠気が取れないんですよねぇ」
あくびをしながら神坂課長がぼやいています。

「神坂君、どうせ安い寝具を使ってるんじゃないの?」

「え、寝具ですか?」

「優秀なビジネスマンは寝具にもこだわるものだよ!」

「タケさん、見かけに似合わず高級寝具に身を包んで寝ているんですか!?」

「見かけに似合わずは余計だよ。でも、全然違うよ、安物とは」

「ウチの寝具を安物って決めつけるのをやめてもらえますか! たしかに、ハトリの寝具ですけどね」

「ウチは、シモンズのベッドに、テンピュールの枕だよ。それに変えてから目覚めが明らかに爽快になったよ」

「そんなに違うのか。俺は、最近難しい本を読んでいるから、それで頭が疲れているのかと思っていました」

「馬鹿な頭に詰め込みすぎると、体にはよくないだろうな」

「馬鹿な頭は言いすぎでしょ! タケさんとはそんなに違わないと思いますけど!」

「あら、神坂君。それなら安眠メニューをお出ししましょうか?」

「え、ママ。そんなメニューがあるの?」

「あるわよ、ちょっとお待ちくださいね!」

ちさとママは、厨房に入っていきました。

「高級寝具はカミさんに却下されそうだから、せめて安眠レシピをいただくことにします」

「ウチは、おかあちゃんが不眠症の気があってね。それで、ドクターから勧められて夫婦で購入したんだ」

「なるほど、いいことを聞きました。うちのカミさんも、休みの日はいつも寝てますからね。今度、機嫌の良いときに話してみます」

「はーい、お待たせしました」

「さて、どんな料理なの?」

「魚介のポトフです。魚介類には、睡眠に良い効果があるとされているグリシンが多く含まれているの。特にこのポトフに入れたエビとホタテには豊富に含まれているのよ」

「へぇ、やっぱり肉より魚か!」

「それからレタスも入っているでしょ? レタスは食べる睡眠サプリだという人もいるわ」

「どれどれ、おー、シンプルな味だけど、魚介の旨みがよく出ているね」

「最後に今日は豆乳のホットミルクを出すので、それを飲んだらすぐに帰ってお風呂に入って寝てくださいね」

「豆乳かぁ、苦手だけどなぁ」

「大丈夫、ちゃんと神坂君好みの味に仕立てるから。そうすれば、安物の寝具でも快眠間違いなしよ!」

「ママまで、安物って言うな!!」


ひとりごと

一斎先生が寝具のことに触れているのは興味深いですね。

たしかに小生も最近、ずっと眠気が取れないような感覚があります。

寝具を変えてみるのも一計かも知れません!


【原文】
人は嬰孩(えいがい)より老耋(ろうてつ)に至るまで、恒に徳を隠闇の中に受けて、而も自ら知らず。是れ何物ぞや。被褥(ひじょく)・枕席是れなり。一先輩有り。甚だ被褥を敬し、必ず手に之を展収して、之を臧獲(ぞうかく)に委せざりき。其の心を用うること亦云(ここ)に厚し。〔『言志後録』第92章〕

【意訳】
人は乳飲み子のときから老人になるまで、常に暗闇の中で恩恵を受けているが、それに気づいていない。それは何かといえば、敷布団と掛け布団や枕といった寝具である。ある先輩は、非常に寝具を大切にし、必ず自らの手で上げ下げを行ない、決して下女らに任せなかった。その心配りは非常に手厚いものであった

【ビジネス的解釈】
睡眠の大切さに気づいていない人は多い。寝具にこだわり、大切に扱うことで、良い睡眠をとることができれば、ビジネスにおいても利点は多い。


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第1469日 「箴(しん)」 と 「鍼(しん)」 についての一考察

神坂課長は、佐藤部長のお見舞いにきているようです。(昨日の続き)

「それにしても、良い言葉を心に刻んでおくというのはとても良いことですよね」

「すぐに活用しなくても、心に刻んでおくと、必要な場面でふっと頭に浮かんでくることがあるよね」

「はい。ただ、私の場合はまだ引き出しの中身がスカスカですから、あまりそういう経験はないですけどね」

「最近は猛勉強をしているから、神坂君も近いうちにそういうことを経験するよ」

「部長のお陰で、この歳になって、やって勉強の楽しさがわかってきました」

「まだまだ遅くないよ。『壮にして学べば老いて衰えず』だからね!」

「そうでした!」

「一斎先生は、良い言葉というのは、鍼灸治療のようなものだ、と言ってるね」

「どういうことですか?」

「一斎先生はすこし体調が悪くなると、鍼治療をしたようだね。それと同じで心に邪念が芽生えたと思ったら、箴言つまり戒めの言葉を思い起こすと言っている」

「なるほど」

「そうするとまるで進行する前に病気が退散するかのように、心の邪念を追い払うことができるということだよね」

「そうかぁ、そのためにもたくさんの名言・箴言を心に刻んでおくと良いですね」

「そうだね。かつての日本は、子供のときに『論語』の素読をした。その際、あまり意味は説明しなかったようだね。ただ、何度も何度も暗唱させて、心に刻み込む作業をしたんだろうね」

「そうか、そのときに意味はわからなくても、心の奥に刻まれているから、必要なときにサッと取り出せるんですね」

「うん。最近の教育は、なんでも意味を伝えようとする。しかし、答えを与えるのではなく、自分で考えさせることが真の教育だと思うんだ」

「おっしゃるとおりですね。あ、すみません。お見舞いにきたはずが、また勉強させてもらっちゃいました」

「ははは。こっちも楽しいから、ウェルカムだよ」

「部長は、お独りだし、暇つぶしになれば嬉しいですよ」

「ガチャ」
病室の扉が開いて、ちさとママがたくさんの買い物袋をぶら下げて入ってきました。

「あら、神坂君。お見舞いに来てくれたの?」

「あ、お独り様じゃなかったようで・・・。それじゃ、そろそろ失礼します」

 
ひとりごと

良い言葉というのは、たしかに心の病気の予防薬になるような気がします。

知っていると知らないとでは、心に迷いが生じたときの行動が変わってきます。

即効性はないかも知れませんが、これが人間学を学ぶ上で大事な効能なのかも知れません。

 
【原文】
箴(しん)は鍼(しん)なり、心の鍼なり。非幾纔(わず)かに動けば、即便(すなわ)ち之を箴すれば可なり。増長するに至りては、則ち効を得ること或いは少なし。余刺鍼(ししん)を好む。気体稍(やや)清快ならざるに値(あ)えば、輒(すなわ)ち早く心下を刺すこと十数鍼なれば、則ち病未だ成らずして潰す。因って此の理を悟る。〔『言志後録』第91章〕

【意訳】
戒め(箴言)は心に対する鍼のようなものである。心に不善の兆しがわずかに芽生えたならば、すぐに鍼を据えれば良い。不善の念が増長してしまえば、その効力は限定的となろう。私は鍼治療を好む。気持ちや体にやや不快感を覚えたならば、すぐにみぞおち辺りに鍼を十数本刺すことで、病気になることを未然に防いでいる。そこからこの理を得たのだ

【ビジネス的解釈】
箴言というのは、心の病の予防薬のようなものである。常に整理して心にしまっておけば、ビジネスを円滑に進めることに役に立つ


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