神坂課長は入院中の佐藤部長のお見舞いに来たようです。
「部長、大丈夫ですか? 心配しましたよ」
「ああ、神坂君。本当にごめんね、一番大事なときに」
「それは気にしないでください。それより意外と元気そうで安心しました」
「だいぶ炎症は治まったみたいだから。それにしてもひどい腹痛でびっくりしたよ」
「膵炎は痛いって言いますよね。お酒も控えないといけませんね!」
「当分は禁酒だね。ところで、仕事の方はどう?」
「はい、正直に言いまして、部長がいない営業部は混乱しています。しかし、大累と新美とも話し合って、とにかく一致団結して乗り切ろうという話はできています」
「そうか、それは心強いな。よろしく頼みます」
「はい、なんとしても計画を達成します! それで、すこしだけ私にアドバイスをください。こういう緊急事態のときに、マネジャーはどんな心構えでいれば良いのでしょうか?」
「アドバイスなんてできる立場じゃないけどなぁ。まあ、神坂君と私の長い間の信頼関係があるからという前提で話をさせてもらうよ」
「お願いします」
「2つあると思う。一つ目は、比べないこと。他人のやり方と比較して優劣を評価しない方がいいね。2つ目は、自分自身のやるべきことをしっかりやること。自分に嘘をつかないということかな」
神坂課長は手帳にメモをしています。
「つまりね、格好をつけた偽りの自分ではなく、真の自分を発揮するということが大事なんだと思う」
「真の自分ですか?」
「きっと皆は神坂君の一挙手一投足に注目しているはずだ。そこで、神坂君がとらわれのない神坂君であり続ければ、皆は安心してついてくると思うよ」
「陰でカミサマなんて呼ばれている男ですよ、大丈夫ですかね?」
「最近の神坂君なら大丈夫!!」
ひとりごと
仕事をしているとき、誰もがある程度は偽りの自分を演じているのではないでしょうか?
自分磨きの途中にいる場合は、それもやむを得ないのかも知れません。
しかし、いつの間にか偽りの自分が本当の自分だと思い込むようなことになっては本末転倒です。
常に、真の自分(真己)と自問自答することを忘れないようにしましょう。
【原文】
仮己(けこ)を去って真己(しんこ)を成し、客我を逐(お)うて主我を存す。是を其の身に擭らわれずと謂う。〔『言志後録』第87章〕
【意訳】
仮の自己を消し去って、真の自己をを成し、世俗の既成概念に囚われた私を追い出して、主体的な本来の私を身に存す。これをとらわれない自由な境地と言うのだ。
【ビジネス的解釈】
世間にまみれた偽りの自分と戦い、常に真の自分を保ち続けることが成功への近道なのだ。

