一日一斎物語 (ストーリーで味わう『言志四録』)

毎日一信 佐藤一斎先生の『言志四録』を一章ずつ取り上げて、一話完結の物語に仕立てています(第1066日目より)。 物語をお読みいただき、少しだけ立ち止まって考える時間をもっていただけたなら、それに勝る喜びはありません。

2019年03月

第1509日 「精神を鍛える読書」 と 「行動指針を得る読書」 についての一考察

今日の神坂課長は、佐藤部長の自宅を訪ねたようです。

「部長、なんとか売上計画はクリアできました」

「おお、素晴らしいじゃないか。神坂君、ご苦労様でした」

「みんなのお陰です。あいつらはみんな最高の連中ですよ。部長が作り上げた組織は素晴らしいです!」

「いやいや、神坂君がしっかり営業部をまとめ上げた結果だよ。ありがとう!!」

「部長の復帰をみんなが待っています。月曜日が楽しみです! さて、この土日はゆっくり本を読もうかなぁ」

「読書もゆっくりできなかったかい?」

「はい、なかなか落ちつかなくて」

「実は読書には2つの効能があるんだよ。ひとつは本で学んだ知識を仕事や生活に活かすこと」

「それ以外にあるんですか?」

「もうひとつは、心を落ち着けるための読書だよ」

「えー、昨日までの私みたいに心が乱れていても、本を読むことで心を落ち着けることができるということですか?」

「うん。仏教の経典とか中国古典なんかは、そういう効果が期待できるよね」

「なるほど。心を落ち着けるための読書か。あ、それなら最適な本がありますね!」

「ほぉ、何だろうね?」

「部長、分かっているくせに! 『言志四録』に決まっているじゃないですか!!」


ひとりごと

超訳に近いレベルですが、本章の一斎先生の言葉を、小生は以下のように理解しています。

読書には、精神を鍛える読書と行動の指針を得る読書の2つがある。

このうち、行動の指針を得る読書をする人は多いのですが、精神を鍛える読書をしている人は少ないのではないでしょうか?

精神を鍛えるには、東洋の古典が最適です。


【原文】
精神を収斂して、以て聖賢の書を読み、聖賢の書を読みて、以て精神を収斂す。〔『言志後録』第130章〕

【訳文】
心を研ぎ澄まして聖人賢人の書を読み、聖人賢人の書を読んで精神を磨き上げるのだ

【所感】
読書の効用は2つある。ひとつは仕事や人生に活かすこと。もうひとつは精神を磨くことである。


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第1508日 「理念」 と 「組織」 についての一考察

今日は年度末最終日です。

終業後、神坂課長は全営業部員を集めて夕礼を開催しているようです。

「みなさんの頑張りで、今期はなんとか計画を達成することができました。これで療養中の佐藤部長にも良い報告ができます。本当にありがとう・・・」

「あれっ、カミサマ泣いてないか?」
石崎君が左隣りの善久君にささやきました。

「あの人なりに相当のプレッシャーを感じていたんだと思うぜ。良いものじゃないか、男の涙は」
石崎君の右隣りにいた清水さんがつぶやきました。

「私に佐藤部長の代わりが務まるだろうかと、この1ヶ月近くは迷うことも度々でした。しかし、常に心に置いていたのは当社の社是である『真善美』です」

営業部全員が話に聞き入っています。

「なかなか理解しづらい理念ではありますが、簡単に言えば、真実を求め、世の中のためになることを美しい所作で行う。そんな意味だと理解しています」

「なるほどな」
大累課長がうなづいています。

「とにかく地域に住む人々の健康な生活を守るお手伝いというミッションに向けて、真善美をもって取り組むことだけは意識してきました。ぜひ、皆さんも当社の社是である『真善美』を常に意識して、見事な営業人であり続けてください」

新美課長も深くうなづいています。

「さて、4月1日には佐藤部長が帰ってきます。そして、新卒社員さんも入社します」

4月からは2年生となる4人のメンバーがお互いに顔を見合わせています。

「来期も皆さんがそれぞれの役割に全力で取り組み、今よりさらに強くて優しくて明るく楽しい営業集団を作り上げましょう! みんな、本当にありがとうな。お前らは最高だ!!」

誰からともなく拍手が巻き起こりました。

神坂課長はこらえきらずに、ハンカチで目頭を押さています。

居室内では、それぞれのメンバーが目に涙をため、互いに握手をしながら健闘を称え合ったようです。


ひとりごと

企業理念や社是といったものが、お題目になっていないでしょうか?

経営者は常に社員さんに対して、その意味を発信し続ける必要があります。

なぜなら、それこそが企業をひとつにまとめる唯一のバイブルだからです。


【原文】
竺氏は仏書を尊奉す。太(はなは)だ好し。我が学を為す者、卻って或いは経書を褻慢(せつまん)す。愧ず可く戒む可し。〔『言志後録』第129章〕

【意訳】
仏教徒は仏典を尊重し大切に扱う。これは大変良いことである。ところが儒学者は、かえって経書をあなどり疎かにする傾向がある。恥ずかしく思い戒めるべきことである

【ビジネス的解釈
仏教徒が仏典を大切にするように、企業人は企業理念を常に重視し、企業理念に則った活動をしなければならない。


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第1507日 「九思」 と 「三省」 についての一考察

営業1課の本田さんが青ざめた表情で神坂課長のデスクにやってきました。

「課長、例の神楽病院さんの商談ですが、競合に下をくぐられました」

「マジか! あそこはK社だったよな?」

「はい、K社が100~150万円くらい安い金額を提示したようです」

「3千万円で見込んでいた商談だよな・・・」

「すみません」

「本田君のせいではないさ。どうせウチでは、あれ以上の価格は出せないからな」

「課長、でもそうなると今期の見通しが・・・」

「厳しくなったなぁ。まだ他のメンバーも諦めずに営業をしてくれているから、それに期待するよ。本田君も最後まで全力で当ってよ」

「はい」

本田さんと入れ替わりで大累課長がやってきました。

「神坂さん、余裕ありますね。3千万円の商談をロストしたんですよね?」

「そうだよ。しかし、やるべきことはやったんだから仕方ないさ」

「なんか凄い余裕だなぁ」

「リーダーは、有事のときこそ、泰然としているべきなんだよ。そのために、何もないときから自分の心を鍛錬しなければいけないんだけどな」

「ほぉ」

「いつでも立ち戻れる基本的な考え方をもっておくことは重要だぞ。基本はやはり『矢印を自分に向ける』ことだろうな」

「他人を責めるのではなく、自分ができることに集中するということですね?」

「そのとおり!」

そのとき、神坂課長の携帯電話が鳴りました。

「はい、神坂です。おー、清水か。そうか、ありがとう。新美には電話したんだろうな? うん、そうか。助かったよ、本当にありがとうな」

「良い話みたいですね?」

「清水が55百万の商談を取ってきてくれたよ」

「マジですか! すげぇな、あいつ。そうか! 神坂さん、それを当て込んでいたから余裕があったんですね?」

「失礼な言い方だなぁ。最後まで動いてくれているすべてのメンバーに期待をしていたんだよ!」

「モノは言い様だな」


ひとりごと

一斎先生のいう孔子の九思、曾子の三省は共に『論語』に掲載されています。

九思とは
見るときには、明らかに見たいと思い
聴くときには、さとくありたいと思い
顔色は、常にあたたかくありたいと思い
姿は、うやうやしくありたいと思い
ことばは、まことでありたいと思い
仕事には、つつしんで過ちがないように思い
疑わしいときには、遠慮せず問うことを思い
怒りの心が起きたときには、あとにくる難儀を思い
利得を前にしては、道義を思う  

三省とは、
人の為を思って、真心からやったかどうか
友達と交わってうそいつわりはなかったか
まだ習得していないことを人に教えるようなことはなかったか 

以上を常に自分自身で確認するということのようです。

とても参考になる言葉ではないでしょうか?


【原文】
孔子の九思、曽子の三省、事有る時は是を以て省察し、事無き時は是を以て存養し、以て静坐の工夫と為す可し。〔『言志後録』第128章〕

【意訳】
『論語』には孔子の九思、曾子の三省が掲載されているが、有事のときにはこれを活用してよく察し、事無きときにはこれをもって自らを修養して、静坐をする場合の工夫とすべきである

【ビジネス的解釈】
有事のときでも、無事のときでも、常に立ち戻ることができる根本的な信念を身につけておくべきである。


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第1506日 「知」 と 「行」 についての一考察

神坂課長のところに、石崎、善久、願海の2年生トリオがやってきました。

「課長、ちょっと話を聞いてもらえますか?」

「なんだ、いつもの仲良し3人組らしくない表情じゃないか!」

4人は会議室に入ったようです。

「石崎、どうしたんだ?」

「はい。簡単に言いますと、勉強することが先か、まず行動すべきかで意見が分かれたんです」

「なるほど。で、どんな派閥ができたんだ?」

「まず勉強してから行動すべきだというのが、ガンちゃんとゼンちゃんです。行動してから学ぶ方がいいと思っているのが私です」

「ははは。ということは、石崎は孤立無援状態なので、俺に助けを求めたというわけか?」

「そ、そうじゃないです! 課長はどう考えるかをお聞きしたいのです。いま課長は、一応部長代行ですし・・・」

「一応は余計だ! しかし、その件はなかなか大事な点だな。今の石崎の質問はどちらを先にすべきかということか、それともどちらが重要かという質問なのか?」

「あー、どっちかな? ガンちゃん、どっちだろう?」

「はい、神坂課長。どちらを先にした方が良いかという質問です」

「そういうことなら、知識を得ることを先にした方がいいだろうな」

石崎君ががっかりしています。

「ただし、それは行動をすることが知識を得ることより重要ではない、ということじゃないぞ。どちらも同じくらい重要なんだ」

「どういうことですか?」

「たとえば、英語を勉強することを考えてみよう」

「え?」

「善久、お前はいきなりアメリカ人の前にいって英語で会話をしろと言われたらどうする?」

「そ、それは無理です。事前に単語とか文法を勉強しないと・・・」

「そうだよな。単語もわからずに会話をしようとしても無理だよな。でもさ、単語と文法だけを学んだら話せるようになるか?」

「いえ、やっぱりその後は直接ネイティブの人と会話をしないと話せるようにならないと思います」

「そういうことだよ。勉強と行動、つまりインプットとアウトプットはどちらも重要なんだ。いくらインプットをしても、アウトプットをする場がなければ、得た知識は自分のものにならないだろう

「はい」

「しかし、なにもインプットせずにアウトプットをしようとしても、良い結果を得られるわけはないよな?」

「神坂課長、よくわかりました。どちらも重要だけど、知識を得る方を先にした方が、より効率的に良い結果を得やすくなるということですね?」

「さすがは願海だな。俺はそう思う。石崎、どうかな?」

「はい。私は行動することが重要だと思っていましたが、やはり準備は必要だということですね」

準備も仕事のうちだからな。ただし、俺はお前の行動力は素晴らしいと思っている。その積極性は失うなよ!」

「ありがとうございます! 勉強になりました。そこで相談ですけど、今日はノー残業デーですから、このまま一緒にお食事に行って、もう少しご指導いただけませんか?」

「なんだ、お前ら。俺を誘い出したのは、それが狙いだったのか!!」

「はい、一応部長代行ですし!」

「一応っていうな!!」


ひとりごと

明代の儒学者、王陽明は「知行合一」をとなえました。

知ることと行動することは本来一体のものである、というのがその趣旨です。

知ったことを行動して我がものとしながら、そこから新たな課題を見つける。

これはビジネスに限らず、スポーツでも、趣味の世界においても大事なことではないでしょうか?


【原文】
知は是れ行の主宰にして乾道(けんどう)なり。行は是れ知の流行にして坤道(こんどう)なり。舎して以て体軀を成せば則ち知行なり。是れ二にして一、一にして二なり。〔『言志後録』第127章〕

【意訳】
知は行いを司るものであるから乾の道すなわち天道のようなものである。行いは知の発揮されたものであるから、坤の道すなわち地道のようなものである。この知と行とが共に宿って人間の身体ができている。知ったことを行ってこそ本当に知ることができ、行ったことをよく検証して知ってこそ本当に行うことができるのであって、この二つは一つであり、また一つのようで二つでもあるのだ

【ビジネス的解釈】
知ることと行うことは本来不可分のものである。行動してこそ知は自分のものとなり、知を得て行動するからこそ真に行動することが可能となるのだ。


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第1505日 「安心」 と 「慢心」 についての一考察

今日の神坂課長は、営業1課の新人、梅田君をランチに誘ったようです。

「梅田、今日はあんかけスパ以外でよろしくな!」

「わかってます。今日はつけ麺が食べたいです」

二人はP大通りにあるつけ麺屋さん「中丸」に入ったようです。

「ここはつけ麺が旨いんだな? じゃあ、俺はつけ麺の並にしよう。梅田はどうする?」

「私は特盛でお願いします」

「お前、特盛って麺が700gって書いてあるぞ。よくそんなに食えるな」

「余裕ですよ。本当は特盛を2杯食いたいくらいです」

「若いっていうのはいいなぁ。俺も若い頃はそのくらい食ってたっけなぁ?」

二人は食券を買って、席についたようです。

「さっき課長は、『若いっていいな』と言われましたけど、私は早く課長みたいに良い仕事をして偉くなりたいです」

「焦るな、焦るな。俺くらいの年齢になると、ある程度先が見えてしまうから、つまらない面もあるんだぞ」

「そうですか? 課長は毎日楽しそうですけど」

「リーダーは楽しそうに振舞わないといけないんだよ。俺だって泣きたい夜もあるんだ」

「そうだったんですか!」

「嘘だよ、嘘。俺は毎日楽しいよ」

「やっぱり・・・」

「でもな、梅田。まだ何も手にしていないからこそ、何にでもなれるし、何でもできるということもある。中途半端に満足したり、諦めたりしたら、それで成長は止まってしまうからな。結局、限界というのは、自分で勝手に作り上げてしまうものんだろうな」

「はい。私は成長し続けたいです!」

「いいね。俺もそう思っている。だから、常に自分の足りない点は何かを見つめなおすことをしているんだ」

「具体的にどうしているんですか?」

「月に一度、行きつけの喫茶店の個室を借りてな。そこで2時間くらい、本を読んだり、メンバーのことを思ったりしながら、自分にできることを探すんだよ」

「カッコいいですね! 私も真似していいですか?」

「もちろんだよ!」

そこにつけ麺が運ばれてきました。

「特盛って、見ただけで腹一杯にならないか?」

「課長、自分の胃袋に限界をつくってはいけません。まだまだいけますよ!!」


ひとりごと

安心はいつしか慢心となり、怠惰を生み出します。

学問や仕事に関してだけは、常に不足を感じて、精進し続けるべきなのでしょう。

自分が限界だと感じていることは、実は自分自身が勝手に作り上げた幻想に過ぎないのかも知れません。


【原文】
胸中に物無きは、虚にして実なるなり。万物皆備わるは、実にして虚なるなり。〔『言志後録』第126章〕

【意訳】
心の中に一物すらない状態のときは、本来のありのままの心の状態であるから、何もないようでいてそれこそが実なのである。孟子がいう「万物皆備わる」というのは、わが身と万物とが一体であるということで、それは実を伴うようでいて、むしろ虚なのである

【ビジネス的解釈】
自身の成長のためには、安易に満足してはいけない。常に自分の足りない点に課題を見つけておくべきである。実はそういう状態こそが、一番充実している時でもあるのだ。


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