今日の神坂課長は、営業2課の本田さんと同行中のようです。
「神坂課長、聞いてますか? K医科の細沼部長がパワハラで訴えられたらしいですよ」
「マジか、全然知らなかった?」
「あの人は、大手メーカーから引き抜かれた人で、鳴り物入りでK社に入社しましたからね。こんなに早くそんなことになるなんて、ビックリしましたよ」
「俺はああいう人は苦手なタイプだな。波長が合わない感じがしたよ」
「たしかに、ちょっと似たところもありますし・・・」
「おいおい、一緒にしないでよ。ああいうキレ者というのは、頭が良さそうに思うかもしれないけど、実はそうではないことが多いものだよ。自分でも頭が良いと思っていないから、かえって周囲に対して自分は利口だというオーラを出すんだ」
「そんなものですかね? 『業界を変える!』なんて言ってましたから、格好いいなぁと思ったんですけど」
「それも、俺は高い志を持っていますよというメッセージなんじゃないか。本物はそんなに高らかに自分の志を語りはしないよ」
「なるほど。なんだか最近の課長は達観していますね」
「そうじゃないよ。少しだけ本物と偽者の違いが分かってきただけじゃないかな」
「本物と偽者?」
「偽者は自分の弱点を覆い隠すために、いろいろと無駄な努力をする。本物は弱点も個性だと考えて、弱みにフォーカスせず、自分の強みをより伸ばそうとしている。その違いじゃないか?」
「課長、鋭いですね!」
「なんて言ってる俺も、結局は細沼さんを偽者だと断定することで、自分を上に見立てようとしているだけかも知れないな。あれっ、なにこの曲。すごく良いじゃない?」
神坂課長は、カーラジオから流れて来た曲に興味をもったようです。
「全然知らない曲ですね?」
「お聞きいただいた曲は、H県出身のシンガー、笠谷俊彦さんの『あなたが幸せになれないはずがない』でした」
「笠谷俊彦? 誰だ、それ?」
ひとりごと
自分に人間力がないことに気づいているから、権力と圧力でメンバーをマネジメントしてしまう。
まさに小生がそんなマネジャーでした。
本物は、自分の力を誇示しません。
徳がある人には、命令せずとも人は従うものなのです。
本物を目指しましょう!
【原文】
養望の人は高に似、苛察(かさつ)の人は明に似、円熟の人は達に似、軽佻(けいちょう)の人は敏に似、愞弱(たじゃく)の人は寛に似、拘泥の人は厚に似たり。皆以て非なり。〔『言志後録』第191章〕
【意訳】
名望を得ようとつとめる人は志が高いように見え、人を厳しく洞察する人は明敏であるように見え、技術に熟練している人は完成しているように見え、軽薄で浅はかな人は行動が敏捷に見え、気が弱い人は寛大に見え、ひとつのことに執着する人は篤実に見える。しかしこれらはすべて似て非なる者である。
【ビジネス的解釈】
言動や行動だけで人を判断すると大きなミスを犯すことがある。本物を見抜く力をつけなければならない。