一日一斎物語 (ストーリーで味わう『言志四録』)

毎日一信 佐藤一斎先生の『言志四録』を一章ずつ取り上げて、一話完結の物語に仕立てています(第1066日目より)。 物語をお読みいただき、少しだけ立ち止まって考える時間をもっていただけたなら、それに勝る喜びはありません。

2019年10月

第1723日 「士業」 と 「自負」 についての一考察

今日の神坂課長は、大学時代の友人と食事をしているようです。

「八坂、脱サラして税理士になって3年が経ったけど、仕事は順調なのか?」

「最初は苦労したよ。でも、今は何とか飯が食えるようになってきた」

「それは良かったな。しかし、学生時代は野球しか知らない野球バカだったお前が、まさか税理士になるなんてなぁ」

「もともと数字は好きだったんだよ。学業では唯一数学はそこそこだったからな」

「そこそこな。決して、クラス上位ってわけじゃなかったよな?」

「ほかの科目はほとんどビリだったからね。(笑)」

「よく士業を営む人は集客に苦労しているなんて話を聞くから心配していたんだよ」

「いまはなんちゃって講師がいっぱいいて、彼らも士業のように言われているけど、俺の仕事はそれとは違う。ただ、やはりお客様がつくまでは大変だった」

「営業もかなりやったのか?」

「最初に入った会社では営業マンだったからな。今でも営業しながら税理士の仕事をしているよ」

「一国一城の主だもんな、大変だよな」

「大変だけど、すべて自分の意志で仕事ができる。俺はサラリーマンは向いていなかった。上司から指図されて仕事をするのが大嫌いだったからさ」

「それはお前の良くないところでもあるぜ。野球部のときも監督の指示を無視して、よく叱られてたじゃないか!」

「そうだった!」

「ははは。まあ、お前のことだから、ポリシーをもって仕事をしているんだろうな。チュート徳井じゃないけど、所得隠しとかを支援したりはしないよな」

「当然だ。俺は必要以上の節税も薦めないんだ。稼いでいる社長には大手を振って税金を納めるべきだと諭している」

「そんな税理士はなかなかいないんじゃないのか?」

「そうだと思う。それで何社かからは切られたからな」

「お前らしいな」

「神坂、士業を営む者はその名に自負をもつべきだと思う。税理を担当する俺たちの仕事は節税や所得隠しを支援することではない。正しく稼いだ金を堂々と国に税金として納めることを支援することだと思っている」

「なるほど。自分の職業にプライドを持てってことか」

「そうだ。お前も営業マンではなく、営業人として生きていくべきだと思うぞ」

「営業人か」


ひとりごと

士業を営む人は概ね一国一城の主である方が多いでしょう。

その苦労は、小生のようなサラリーマンには窺い知れないほど大変なのだろうと思います。

小生の知る人で、大きな成功を収めている人は、皆自身の仕事に自負を持っているようです。

自分の仕事が世の中のために役に立つと思えば、お客様の言いなりになるような情けない仕事はしなくなるでしょう。

小生も心して営業人としての生き方を貫きます!


【原文】
凡そ士君子たる者、今皆武士と称す。宜しく自ら其の名を顧みて以て其の実を責め、其の職を務めて以て其の名に副うべし。〔『言志晩録』第89条〕

【意訳】
人の上に立つ士君子とされる人は、今は皆武士と称している。それらの人はよくその名声を鑑みて自分の実績を反省し、その職を全うしてその名にふさわしい人物となるべきである

【一日一斎物語的解釈】
士業を営むものは、その名に副った仕事ができているかを常に反省し、その名にふさわしい人物とならねばならない。


job_kaikeishi_man

第1722日 「呼吸」 と 「間」 についての一考察

今日の神坂課長は、全日本柔道選手権大会のT地区予選を観戦中のようです。

「雑賀が柔道をやっていたとは知らなかったな」

「神坂さん、これでも柔道は二段です。もう二十年以上続けています」

「へぇー」

「なんですか、その疑い深い目は?」

「お前の言動は武道をやっている人間の言動とは思えないことが多いからな」

「それは偏見ですよ。武道をやっている奴にもいろいろなタイプがいますから」

「なんだよ、開き直る気か?」

「おー、豪快な背負いだ。見事一本!」

「投げた方は気持ちいいだろうな」

「予選の最初の方は力の差がある選手同士が戦うので、豪快な技が決まりやすいんです」

「たしかにな。一見してどっちが強いかわかるな」

「本当ですか、神坂さん凄いですね」

「なんていうのかな、強い方は明らかに自分の間で試合をしているよな。相撲の立ち合いもそうだけど、相手の呼吸を自分の呼吸に合わせた方が勝つもんだよ」

「そうかもしれませんね。しかし、だんだん勝ち上がってくると実力差がなくなってくるので、接戦になりますよ」

「なるほどな。こうやって試合前にどちらが勝つかを予測するのは勉強になるな。見る側も心を落ち着けて心の目で観ようとすると、意外と勝敗が見えるかも知れない」

その後、順調に試合は進み、決勝戦を迎えたようです。

「じゃあ、神坂さん。この2人はどちらが勝つと思いますか?」

「ちょっと待てよ」

神坂課長は1分ほど沈黙して、じっと両選手を見比べています。

「あの山崎って選手じゃないかな。加藤という選手はやや落ち着きを欠いている」

「そうですか? でも、加藤はこれを勝てば地区大会3連覇ですよ」

「へぇー、そうなのか。でも、あきらかに山崎の方が自分の間で準備できている気がするけどなぁ」

結果は、なんと大方の予想を裏切り、山崎選手が判定勝ちを収めました。

「すごいなぁ、神坂さん。俺は絶対、加藤が勝つと思っていたけど・・・」

「武道は一対一の真剣勝負だから、こういう観方は面白いな。チームスポーツだとチーム全体のムードを視なければいけないから、簡単に予測はできないけどな」

「神坂さん、変わりましたね。何事も仕事に絡めて見るなんてすごいな


ひとりごと

スポーツなどの対戦において、実力が拮抗した選手同士が対戦する場合、最後は精神力の差が勝敗を分けるものです。

その場合、自分の間で、自分のルーチンをしっかりとやり切れる選手の方がより勝利に近づくものではないでしょうか?

仕事においても同じでしょう。

緊張する大舞台でこそ、自分の間を意識し、日ごろからルーチンを決めて、それを淡々とこなしていくべきなのかもしれません。


【原文】
余は好みて武技を演ずるを観る。之を観るに目を以てせずして心を以てす。必ず先ず呼吸を収めて、以て渠(かれ)の呼吸を邀(むか)え、勝敗を問わずして、其の順逆を視るに、甚だ適なり。此も亦是れ学なり。〔『言志晩録』第88条〕

【意訳】
私は武道の試合を観戦することが好きである。その際は、目で観るのではなく、心で観ることを意識している。必ず最初に呼吸を整えて、選手の呼吸をつかみ、勝敗を問うことなく、呼吸や心の動きを観るのだが、これでその結果を当てることができる。これもまた学問といえるかも知れない

【一日一斎物語的解釈】
勝負事というのは、冷静に呼吸を整え、自分の間で戦う側に勝機が訪れるものだ。


sports_judo

第1721日 「準備不足」 と 「仕事の結果」 についての一考察

今日の神坂課長は、大累課長、新美課長と3人で、新美課長の100kmウォーク完歩を祝う宴を開催しているようです。

「まずは、完歩お疲れ様。今日は二人から新美に敬意を表して、ご馳走させてもらうよ」

「ありがとうございます。お二人の応援は本当に力になりましたよ」

「本当か? 神坂さんの応援はウザくなかったか?」

「やかましいわ。俺は心から応援していたんだ、ちゃんと通じたよな?」

「はい。すごく嬉しかったですよ」

「いや実はさ。あの80km地点の新美の顔を見た時は、こりゃヤバイんじゃないかと思ったよ。なあ、大累」

「うん、たしかに俺も思った。顔に悲壮感が漂っていたぜ」

「あの辺りは一番きつかったですね。昨年一昨年にはなかった苦しさでした」

「年齢的なものか?」

「いや、実は今年は例年より準備に時間を取れなかったのです」

「準備不足か。それは一番ダメだな」

「昨年までは、半年前から土日にはかなり歩いたのですが、今年は3カ月前くらいからでした。その差は大きいかったです」

「やはり、大きな仕事をするときほど、準備が大事だということだよな。誤魔化しがきかないからな」

「なあ、新美。神坂さんも身体を動かすべきだと思わないか?」

「そうですね。なんか、最近お腹がぷっくりしてきたんじゃないですか?」

「マジで? やばいな。しかし、100kmも歩くなんて俺には考えられないな。走るのも好きじゃないし・・・」

「ほら、言い訳が始まったぞ。準備不足も問題だが、そもそもできない理由を並べ立ててやらないのはもっとダメだよな?」

「なんだよ、お前ら。二人そろって俺を吊るし上げる気か?」

「神坂さん、運動というのは、人生を健康に生きるための最大の準備ですよ。その準備を怠れば、早く老いがきて、身体も動かなくなりますよ」

「新美、脅すなよ。わかってるよ。昨日の帰りにスポーツショップに行って、ウェアとか靴を物色してきたんだよ」

「おお、それで、買ったんですか?」

「いや・・・」

「なんだ、それ?」


ひとりごと

梅沢富美男さんのヒット曲『夢芝居』の歌詞に「稽古不足を幕は待たない」とあります。

準備不足を仕事は待ってくれません。

できる限りのことをして、あとは結果を天に委ねるという考え方で準備をしなければいけませんね。

準備で仕事は8割決まりますから。


【原文】
満を引いて度に中れば、発して空箭(くうせん)無し。人事宜しく射の如く然るべし。〔『言志晩録』第87条〕

【意訳】
弓を目一杯引き絞って的を射れば、矢が当たらないということはない。人生の出来事もこの射的と同じであって、よく考え、よく準備して行動すれば、失敗することはない。

【一日一斎物語的解釈】
考え得る限りの準備を尽せば、結果は自ずとついてくるものだ。


japan_kabuki

第1720日 「運動」 と 「心の鍛錬」 についての一考察

営業1課の新美課長は、地域主催の100kmウォークに参加したようです。

「新美、あと少しだ! 諦めるな!!」
神坂課長が沿道から声援を送っています。

「まあ、こうやって言うのは簡単だよな。あいつは毎回この100kmウォークに参加しているんだ。凄いよな」

「これはすごい精神修養なんじゃないですか? もちろん身体もキツイでしょうけど、心が折れたら終わりですよね」
一緒に応援している大累課長も感動しているようです。

「そうかもな。身体以上に心を鍛えることになるのかもな?」

「神坂さんも本を読んでばかりいないで、実際に身体を動かして心を鍛えてみてはどうですか?」

「そっか、お前は走ってるんだよな。営業の3課長の中で運動をサボってるのは俺だけか」

「書物では不可能なくらいの心の鍛錬ができますよ」

「俺だって昔は野球をやってたからな。あの頃は毎日10kmくらいは走っていたんだけど・・・」

「それ、学生のときの話でしょ? 何年経ってると思ってるんですか!」

「たしかに・・・」

「しかし、新美は辛そうでしたね。いつもなら声援を送れば反応するんですけど、今日は余裕がなかったなぁ」

「体調を崩していなければいいけどな」

神坂課長は走って新美課長の脇まで来たようです。

「新美、無理だけはするなよ。本当にしんどいなら、リタイヤしてまた来年チャレンジすればいいんだからな」

「神坂さん、はっ、はっ、だ、大丈夫です。ここからが本当の心の鍛錬なんですよ」

「新美・・・」

「ゴールまであと20kmだ。タイムアップまではあと6時間あるから、ペース的には行けそうだ。しっかり水分を補給しながら歩けよ」
大累課長が声援を送っています。

「俺たちはゴールで待ってるからな。慌てずに自分のペースを守ってゴールまで来いよ!」

その後、新美課長は去年のタイムよりはだいぶ遅れたものの、しっかりと完歩したそうです。


ひとりごと

小生の読書会仲間の何人かが毎年地元で開催される100kmウォークというイベントに参加しています。

小生よりも年齢が上の先輩ばかりです。

なんどか誘われたことがあるのですが、いろいろと理由をつけては断り続けています。

文武両道と言われるように、精神を鍛えるのは書物だけでは駄目で、運動や武道をすべきなのかも知れません。

それにしても、さすがに100km歩く気にはなれないなぁ・・・。


【原文】
体は実にして虚、心は虚にして実、中孚(ちゅうふ)の象即ち是なり。〔『言志晩録』第8条〕

【意訳】
身体は形あるものであり実ではあるが、活動の本源ではないので虚である。心は形ないものであり虚であるが、活動の本源であるから実体である。 『易経の中孚の象はまさにそのことを示している

【一日一斎物語的解釈】
人間は心こそが活動の源であって、身体はその実行部隊に過ぎない。


walking_group2

第1719日 「治心」 と 「喧騒」 についての一考察

今日の神坂課長は、休日を自宅で過ごしているようです。

「菜穂(なほ:妻の名)、音楽を聴きながらよく本が読めるな」

「なんで? 好きな音楽をかけるほうが気持ちが落ち着いて本が読みやすくならない?」

「俺は無理無理。好きな音楽をかけると歌いたくなる」

「じゃあ、勇(いさむ:神坂課長の名前)は静かな部屋じゃないと本が読めないの?」

「そう。図書館で静かに本を読むなんていいな。でも、近くのおっさんがくしゃみとかするとイラっとする」

「それは精神修養が足りてない証拠だね」

「え、そ、そんなことないだろう」

「都会の喧騒の中でも、心を落ち着けていることができるようじゃないと、良い仕事はできないんじゃない?」

「なんだよ、今日はだいぶ厳しいじゃないか」

「勇は最近よく中国古典とかを読んでいるみたいだから、心が磨かれてきたのかなと思って」

「少しは精神修養も進んだとは思っているんだけどな。でも、言われてみれば、たしかに静かな環境でしか心を落ち着けられないようでは、まだまだ精神修養が足りていないのかもな」

「お、素直に私の意見を受け容れるあたりは、精神修養の成果を感じるな」

「お褒め頂いて光栄です」

リビングで妻の菜穂さんは読書、神坂課長はコーヒーを飲みながら新聞を読んでいるようです。

「あ、地震だ!」

「え? 揺れた? 全然気づかなかった」

「お前の場合は、精神が鍛えられているというより、ただ鈍感なだけじゃないの? いま、相当揺れたぜ」

「本に集中していたから。それにそんなに大きな地震じゃなかったでしょ。ビクビクするなって!」

「お前には適わないな」

「ちゃんと緊急持ち出し用のリュックも準備してあるし、いざとなればそれを持って非難すればいいの」

「恐れ入りました。本から学ぶより、お前から精神の図太さを学んだ方が良さそうだな!」


ひとりごと

「治心の法は須らく至静を至動の中に認得すべし」とは良い言葉ですね。

心を治めるのは、必ずしも静かな場所を必要としない。

むしろ、現代の人間は、喧騒の中で心を治める工夫をしなければいけないのかも知れません。

小生も静かな場所でないと本を読めない質です。

まだまだ心を磨かねばなりません。


【原文】
治心の法は須らく至静を至動の中に認得すべし。呂涇野謂う、「功を用いる必ずしも山林ならず、市朝も亦做し得」と。此の言然り。〔『言志晩録』第85条〕

【意訳】
心を治める方法は、出来る限り静かな心を極めて忙しい中に認めるべきである。明代の儒者・呂涇野は「精神修養の功を積むのは、必ずしも静かな山林に行かずとも、喧噪の街中でもなし得るものだ」と言った。此の言葉はまったくその通りである、

【一日一斎物語的解釈】
精神の修養は必ずしも静寂の中で積む必要はなく、むしろ喧騒の中で積むべきかもしれない。


house_souon

第1718日 「AI」 と 「人間」 についての一考察

今日の神坂課長は、N大学病院消化器内科教授室を訪れているようです。

「以上が当社からの内視鏡システム更新に関するご提案です。中村先生、いかがでしょうか?」

「うん、やはり今後の医療はAI無くしては進んでいかないんだろうね。そういう意味では、今回の提案は大変興味深いよ。神坂君、ありがとう」

「中村先生、AIと医師とはどうやって共存していくのでしょうか?」

「診断という意味では、AIを大いに活用するべきだろうね。もちろん内視鏡検査自体は我々医師が行うが、その後の画像診断については、AIの力を借りて、ある程度一次的な診断は任せていくことになるだろうね」

「やはりそうですか。若い先生よりはAIの診断の方が正しいということはあり得ることですね」

「そうだね。ただ、若い医師がAIに頼り過ぎて、画像を診断する目を養うことが疎かになることはとても怖いことだよ」

「なぜですか?」
  
「AIだって万能ではないからね。100%の確率で病変を診断できるわけではない。それにAIというのは、過去の膨大なデータから正解を拾ってくることには長けている。しかし、未来は予測できないんだよ。つまり、新たな病気が出てきたら、それを見つけることはできない」

「なるほど」

「人間は過去の知見から未来を予測することができる。つまり、画像をしっかり見る目を養っていれば、新たな病に気づくことができるはずだ」

「しかし、AIに診断を任せてしまうと、そうした知見を得ることができなくなるんですね?」

「そのとおりだよ。だから、我々医師はAIを上手に活用するべきであって、AIに使われてはいけないんだ」

「AI万能だと考えるのは危険なことなんですね?」

「AIは諸刃の剣だということだね。これはAIに限らず、薬もまたそうではあるけれどね」

「使い方を誤れば、かえって害となるということなんですね」

「うん、お互いAIに使われないように、しっかりと己の軸をもって仕事をしようじゃないか!」

「はい、大変勉強になりました」


ひとりごと

AIが多くの仕事を奪うと言われています。

しかし、AIは万能ではありません。

AIに頼り切ることは、諸刃の剣です。

私達人間は、AIと共存できる社会を創ることを忘れてはいけませんね。


【原文】
霊薬も用を誤れば則ち人を斃し、利剣も柄(へい)を倒(さかさま)にすれば則ち自ら傷(きずつ)く。学術も方(ほう)に乖(そむ)けば則ち自ら戕(そこな)い又人を賊(そこな)う。〔『言志晩録』第84条〕

【意訳】
よく効く薬も服用法を誤れば人を殺すことになる。切れ味鋭い刀も柄を逆さまに持てば自分を傷つける。同様に、学問も正しく活用しなければ己を損い人をも害することになる

【一日一斎物語的解釈】
何ごとも使い方を誤れば、かえって他人や己自身を傷つけることになる。


ai_shigoto_ubau

第1717日 「人事」 と 「天命」 についての一考察

今日の神坂課長は、総務部の西村部長とランチに出かけたようです。

「西村さん、ソフトバンク優勝おめでとうございます」

「おっ、なんだ、素直に敗北を認めるのか?」

「力の差は歴然でしたからね。ただし、やはりリーグ2位からの日本一というのは納得はできないですよ!」

「ルール上問題ないからな」

「その通りです。ソフトバンクが育成選手を上手に育ててチームを作るなら、巨人はFAと外人で補強します。お金を使ってはいけないというルールもありませんから」

「たしかにな。しかし、モラル上はどうかな?」

「2位から日本一だって、空気読めよって感じですよ!」

「負け犬の遠吠えだな」

「そうですね。実際にソフトバンクは強かったですよ。何て言うのかな、天を味方につけているなって感じました

「ほぉ、天を?」

「はい。すべての選手が働くときに働いて、すこしも無理をしていません。まるで天の意思を感じ、その意思のままに動くという感じですね」

「巨人は無理をしていた?」

「はい、故障明けの菅野を使ったり、経験不足の若手を使わざるを得なかったり、無理をしていました。もちろん先を見越しての戦いという面もあったでしょうが、やはり短期決戦ですから、一戦一戦に力を尽くさないとダメでしょうね」

「たしかにソフトバンクの選手は、常に戦況を読んで、どの場面でもベストの行動を自然に選択できていたな。それだけ普段からレギュラーだけでなく、控え選手もしっかりと練習し、状況判断を磨いていたんだろう」

「そうなんです。巨人は大事な場面でのエラーが目立ちました。それもすべて若手選手たちです。彼らにとっては辛いシリーズになりましたが、これを糧に来年は一皮むけた選手になって欲しいです」

「失敗からしか学べないこともあるからね」

「我が営業2課のメンバーにも、たくさん失敗から学んでもらいたいです」

「おお、神坂君も徐々に名将になりつつあるな」

「ありがとうございます。ただ、一つだけ言わせてください。工藤監督は決して名将ではないですよ!」

「なぜだい? 3年連続日本一だよ」

「考えてもみてください。あれだけの戦力が整っていて、2年続けてペナントレースでは2位ですよ。あの人は今のところ短期決戦に強い監督というだけで、まだまだ名将と呼ばれるレベルには達していませんよ」

「これまた負け犬の遠吠えだな。まあ、工藤監督も実際にそう思っているかもな」

「来年こそ、両チームがペナントを制して、真の日本一決定戦をやってもらいましょう!」


ひとりごと

勝負事においては、お互いに力が拮抗している場合、最後の最後は天を味方につけた方が勝つものです。

天を味方につけるとは、宇宙の摂理を体得し、それに逆らわない行動とをとるということでしょう。

本来、人間にはそうした知性や能力が備わっているのだ、と一斎先生は言います。

人事を尽くして天命を待つとは、やれるだけの努力をしたら、あとは宇宙の摂理に逆らわずに行動する、という意味なのかも知れません。

ところで、巨人とソフトバンクについては、準備段階で巨人はすでに負けていたように思います。


【原文】
天を以て感ずる者は、慮らざるの知なり。天を以て動く者は、学ばざるの能なり。〔『言志晩録』第83条〕

【訳文】
天の意志を感じるものは、考えずとも分かる知能である。天の意志を受けて動くものは、学ばずとも発揮できる能力である

【所感】
人間に生まれつき備わっている知能や能力を活用すべきだ。


ダウンロード (15)

第1716日 「睡眠」 と 「思考」 についての一考察

今日の神坂課長は、A県立がんセンターの多田先生を訪ねたようです。

「神坂、この前お前が教えてくれたデバイスは良かったよ。かなり手技時間を短縮できた。ありがとう」

「それは良かったです。多田先生には中途半端な製品は薦められませんから」

「まあな、俺は納得しなければ、新しいデバイスは使わない主義だからな。患者をモルモットにするわけにはいかないだろう?」

「おっしゃるとおりです。でも、他社さんもそうですけど、売上のことしか考えていない営業マンは意外と多いですよ」

「俺の場合は、そういう奴を一発で出禁にするけどな」

「私もなんどか出禁寸前になりましたからね」

「佐藤さんに何度も助けてもらったな、お前は」

「はい。あの頃は自分の売り上げのことしか考えていませんでした」

「あの頃、お前に教えてやったよな」

「はい。寝ている間を無駄にするなと言われました」

「よく覚えているな。どんな悪い奴でも寝ている間は悪いことは考えていないんだ。なぜなら、人間は本来善の心を持っているはずだからな」

「だから、寝る前に何をすればお客様のためになるかを考えてから眠りにつけと言われました。不思議なことに、そういう習慣をつけてからは、朝目覚めたときに、新しいアイデアが生まれてくることがありました」

「人間の臓器というのは寝ている間もちゃんと動いてくれているんだ。だからこそ、俺たちは朝目覚めることができる。脳みそも同じだ。寝る前に情報をインプットしておけば、しっかりアウトプットしてくれるんだよ」

「本当に不思議ですよね。実は、ちょっとおふざけで、寝る前に悪いことを考えてから寝てみたことがあったんです」

「お前なぁ・・・」

「でも、それに関しては朝起きてからも何も進んでいませんでした。まるで、脳が勝手に悪い思考を回避してくれたみたいに」

「そういうことだ。だから言っただろう。寝ている間に悪いことは考えられないって」

「なにごとも自分で試してみたい質なもので・・・」


ひとりごと

人間は眠らなければ生きていけません。

しかし、寝ている間もすべての臓器はしっかりと活動してくれています。

では、睡眠時間とは何のためにあるのでしょうか?

もしかすると、起きている間に起った悪い出来事をすべてリセットして、良い心身の状態に戻すためにあるのかも知れません


【原文】
誠意は夢寐(むび)に兆す。不慮の知、然らしむるなり。〔『言志晩録』第82条〕

【意訳】
真の誠は眠っている間に、その兆しが見えるものである。これは考えずとも自然に発揮される知能がそうさせているのであろう

【一日一斎物語的解釈】
人間は寝ている間には悪いことは考えないものだ。


suimin_rem

第1715日 「修養」 と 「人間」 についての一考察

今日の神坂課長は、佐藤部長と「季節の料理 ちさと」で晩酌中のようです。

「最近は自分を磨くということをだいぶ意識するようになりましたが、それでも人と接する中で心を一定に保つというのは難しいですね」

「そうだね。人間はひとりでは生きられない生き物だけど、それでいて自分のことを第一に考えたい習性はあるからね」

「そうなんですよ。ひとりで静かに考えているときは、冷静にああしよう、こうしようと思えるのに、いざ人前に出ると、自分の感情をうまく抑えられないんですよ」

「それは神坂君だけではないさ」

「部長もそうですか?」

「もちろんだよ。今日だって本当は休肝日にするつもりだったのに、神坂君に誘われたら断れなかったからね」

「あ、そうだったのですか、それならそう言ってくれれば良かったのに」

「そう、言えば良いのに言えなかった。なぜなら、私も飲みたかったから。(笑)」

「そういうことですか、なんだか安心しました」

「そこで安心されるのもどうかと思うけど・・・」

「結局は、人と接する中でどれだけ平生の自分でいられるかが重要なんですよね?」

「そういうことだね。修養というのは、なるべく平静な自分でいられるように心と身体を保つことだろうからね」

「それが一番難しいんですよね」

ちさとママが料理を運んできました。

「はい、今日は今が旬のニシンの塩焼きでーす」

「キター! やっぱり魚は塩焼きに限るよね」

「おー、やっぱり神坂君に誘ってもらって良かった。私はニシンが大好物なんだ」

「うん、旨い! こうやって旨いものを食べているときは、心と身体が一体となって幸せを感じるんだよなぁ」


ひとりごと

心が平静でいられるときは、次はこうしようと思っていても、いざ人前に出るとそれを実行できない

誰しも経験のあることではないでしょうか?

それは、どうしても自分の中にある欲望や虚栄心が邪魔をするからでしょう。

やはり人間は人の間でこそ磨かれるということですね。


【原文】
暗夜に坐する者は体軀を忘れ、明昼に行く者は形影を弁ず。〔『言志晩録』第81条〕

【意訳】
深夜、静坐瞑目する者は、自分自身の内面を見つめなおすが、身体があることを忘れがちであり、明るい昼間に行動する者は、その身体は把握できても、その内面を忘れがちである

【一日一斎物語的解釈】
身体という外面と心という内面とを常に忘れないように修養に励むことが肝要である。


c52563824b12b44c3f1e8aaab2b969fd833e316f.81.2.3.2








Rakutenレシピより

第1714日 「名前」 と 「性格」 についての一考察

今日の神坂課長は、喫茶コーナーで大累課長と雑談中のようです。

「そういえば、お前の名前は誠だったよな。最近の若い子には、誠君はいなくなったよな」

「そういう神坂さんも勇でしょ。勇君もいないですよ!」

「たしかにな。佐藤部長は仁(ひとし)さん、タケさんは孝(たかし)、新美は譲(ゆずる)だろ。こういう徳目を表す一字の漢字を名前にするというのは昭和までなのかな?」

「そうかも知れませんね。でも、ウチの雑賀は学(まなぶ)ですよ。何を学んでるんだか知りませんが」

「ははは。あいつもそれなりには成長しているんじゃないか。そういえば、ウチの善久も敬(けい)って名前だ。あいつの親御さんはたしか公務員だったな」

「神坂さんの息子さんは、礼(れい)君と楽(がく)君でしたよね。昭和を踏襲しているじゃないですか」

「ああ、でもあれば俺の親父がつけた名前だからな。俺はもっとキラキラネームをつけようと思っていたんだけど・・・」

「そうしなくて良かったですね」

「うん、今思うと、良い名前だと思う」

「不思議に名前って、自分のキャラクターを決めているところがありますよね?」

「そうか? 『誠』というのは、他人にも自分にも嘘をつかないという意味だ。お前なんか嘘偽りの人生じゃないか!」

「勘弁してくださいよ。こう見えても俺は嘘をつくのが大嫌いなんです。だから、神坂さんがアホなことを言うと、ついストレートに文句を言ってしまうんです」

「ふざけるな! お前には俺に対する『敬』の気持ちが足りないんだよ! 一斎先生は、『誠』と『敬』とい徳目を身につける際の工夫はひとつだ、と言っているんだぞ

「俺、意外と神坂さんを尊敬してますよ」

「意外とは余計だ!」

「勇って名前だって、神坂さんのキャラを見事に表しているじゃないですか」

「そうかな?」

「そうですよ。神坂さんの場合は、匹夫の勇の方でしょうけどね」

「ゴン」

「痛ぇ、そうやってすぐに暴力に訴えるのが、匹夫の勇なんだよ!!」

「やかましい。お前の誠はどこにあるんだ。親も泣いてるぞ」

「とうことは、お互いに名前と反対のキャラになっているってことですかね?」

「うーん、というか、名前のような人物を目指せってことだろうな」

「なるほど」


ひとりごと

人を敬する気持ちと、自分を偽らないということは不可分のものだ、と一斎先生は言います

たしかに自分に正直になると、他人の自分より優れた点が見えてきます。

ところが、自分に驕りがあると、他人の自分より劣ったところだけが見えます。

自分の誠を強く意識して日々を過ごしたいものです。

ところで、小生の名前は裕一と言います。

一は長男ということで、置いておくとして、「裕」という文字に秘められたメッセージは何なのでしょうか?

これは祖父がつけてくれた名前です。

あらためて、よくよく見つめ直してみる必要がありそうです。


【原文】
「其の背(はい)に艮(とどま)り、其の身を獲ず。其の庭に行きて其の人を見ず」とは、敬以て誠を存するなり。「震は百里を驚かす。匕鬯(ひちょう)を喪わず」とは、誠以て敬を行なうなり。震艮(しんこん)正倒して、工夫は一に帰す。〔『言志晩録』第80条〕

【意訳】
『易経』艮為山(ごんいさん)の卦に、「その背に艮(とど)まりてその身を獲ず。その庭に行きてその人を見ず。咎なし」(意味:背(見ざる所)に止まれば、欲心に乱されることが無いので、忘我の境地になれる。外に出ても人(外物)のために煩わされることが無い。まったく禍なく安泰である)とあるのは、敬の心をもって誠をその身に存するということである。同じく、震為雷の卦に「震は、亨る。震の来るとき虩虩(げきげき)たり。笑言啞啞(あくあく)たり。震は百里を驚かせども匕鬯(ひちょう)を喪わず」(意味:雷(震の象)鳴が方百里の遠きに及んで驚かすことがあっても、宗廟の祭祀に祭用の匙や香酒を手にする者は、戒慎恐懼してそれを取り落とすことがない)とあるのは、誠の心をもって敬を行うということである。震艮は真逆のものであるが、敬と誠の工夫はひとつに帰するものである

【一日一斎物語的解釈】
「敬」と「誠」という徳目は、まったく別物のようであるが、実はその修得の工夫においては不可分のものなのだ。


template_meimei2_gold
プロフィール

れみれみ