一日一斎物語 (ストーリーで味わう『言志四録』)

毎日一信 佐藤一斎先生の『言志四録』を一章ずつ取り上げて、一話完結の物語に仕立てています(第1066日目より)。 物語をお読みいただき、少しだけ立ち止まって考える時間をもっていただけたなら、それに勝る喜びはありません。

2019年11月

第1753日 「勝敗」 と 「感情」 についての一考察

営業2課の石崎君が凹んで帰ってきました。

「どうした、少年。浮かない顔をしているじゃないか?」

「課長、すみません。有坂医院の商談、敗戦しました」

「マジか! お前、あそこは楽勝だと言ってなかったか?」

「はい。最近は商売のコツも少し分かってきて、連勝が続いていたので、今回も行けると思っていたのですが・・・」

「調子に乗り過ぎたんだな」

「えっ、そんなつもりはないですよ!」

「そうか? ちょっと冷静に考えてみてくれよ。今回の商談で、今まではやっていたのに、やめてしまったことはないか?」

「そんなものはないですよ・・・。あっ!」

「ほら、あるだろう」

「いつもは自分なりに提案資料をまとめて提出していたのですが、今回は更新案件だしいいかなと思って、口頭のみでプレゼンしました」

「相手はちゃんとした提案書を出したはずだな?」

「たぶん・・・」

「石崎、誰でも調子に乗ることはある。良い経験をしたな。やはり調子がいい時こそ、調子に乗り過ぎず、手を抜かないことを意識しなければいけない。俺もそれで数多くの失敗をしてきたよ」

「課長もですか?」

「恥ずかしくて離せないような敗戦もあった」

「聞きたいです!」

「だから、話すのが恥ずかしいと言ってるだろう」

「でも、それを聞いたら元気になれそうです」

「うーん。勝って調子に乗り過ぎるのも問題だが、負けて凹みすぎたり、腐ったりするのも問題だ。お前が元気になれるなら話をするか」

「お願いします」

「ち、ちょっと待て。ここではやめよう。みんなが好奇心ありありの目で俺たちを見てるからさ」

「じゃあ、夕飯を食べながらにしましょう。『ちさと』に連れて行ってください! もちろん課長の奢りで!」

「お前には、『勝って調子に乗るな、負けても調子に乗るな』という言葉を贈るよ」


ひとりごと

勝って兜の緒を締めよ、と言われるように、調子が良いときは勘違いをしがちなものです。

しかし、最近の若者は、勝って驕ることはない代わりに、負けた時に凹み過ぎな傾向があるように思います。

負けたときの悔しさは大きな力になります。

彼らは決して、悔しくないわけではなく、悔しがる自分を見られることが恥ずかしいという感情から自分を抑えているだけなのだと思います。

要するに、リーダーである我々がアプローチ方法を工夫して、彼らの悔しさを引き出してあげる必要があるのではないでしょうか?


【原文】
戦伐(せんばつ)の道、始めに勝つ者は、将兵必ず驕る。驕る者は怠る。怠る者は或いは終に衄(じく)す。始めに衄する者は、将兵必ず憤る。憤る者は厲(はげ)む。厲む者は遂に終りに勝つ。故に主将たる者は、必ずしも一時の勝敗を論ぜずして、只だ能く士気を振厲(しんれい)し、義勇を鼓舞し、之をして勝って驕らず、衄して挫けざらしむ。是れを要と為すのみ。〔『言志晩録』第119条〕

【意訳】
戦争の王道において、始めに勝利をつかむと、将軍も兵士も必ず慢心を起こす。慢心を起す者は怠ける。怠ける者は場合によっては最後に敗戦を喫する。始めに敗戦すると、将軍も兵士も必ず発憤する。発憤する者は奮い立つ。奮い立つ者は最後には勝利をつかむ。それゆえ、将軍たる者は、一時の勝敗にこだわらず、よく士気を励まし奮い立たせ、義勇心を鼓舞し、兵士に対して勝っても慢らず、敗けても挫折しないように導く。これが肝要なことなのだ

【一日一斎物語的解釈】
企業間競争は、勝ったり負けたりの連続である。リーダーはメンバーに対し、常に「勝って奢らず怠けず、負けて腐らず挫けず」という考え方を意識させねばならない。


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第1752日 「転職」 と 「魂」 についての一考察

今日の神坂課長は、N大学病院の喫茶コーナーで同業の風間さんと談笑しているようです。

「そういえば神坂さん、聞いた? Y社の高橋さんがK社に移ったらしいよ」

「聞きましたよ。バリバリのライバル企業への移籍じゃないですか。いい根性していますよね」

「高橋さんは結構、ブラックな人だからね。でもさ、この業界ではそう珍しいことじゃないよね」

「みんな簡単に魂を売り渡し過ぎですよね!」

「ははは。さすがに魂までは売ってないとは思うけど、退職前に情報を大量に持ち出すなんてことは良くある話だね」

「垣根の低い業界ですから、なかなか防ぎようがないのでしょうけど、気に入らないな、そういう輩は!」

「とにかく、高橋さんがどこに狙いを定めて仕掛けてくるのか、Y社は戦々恐々としているらしいよ」

「スパイみたいなことはせずに正々堂々と戦いを仕掛けて欲しいですね」

「きれいごとじゃ動かないのが、この世界だよ。この際、K社の高橋さんと組んでY社を倒しにかかるか、Y社と組んでK社をブロックするか。俺たちも判断を迫られるねぇ」

「私はY社と組んで、K社を排除したいですね。やり方が気にくわないですから」

「神坂さんらしいね。しかし、Y社の牙城を崩すには大きなチャンスだよ」

「俺は正々堂々と戦います。誰がなんと言おうと!」

「ちょっと、俺を睨むのはやめてよ。俺が悪いことをしたわけじゃないんだから!」

「そうでした。これは失礼しました。(笑)」

「それなりに年を取ったとはいえ、相変わらず神坂さんに睨まれると、ゾッとするよ。あなたの目はカミソリの刃のように光っているからさ」

風間さんと別れた後、車を走らせながら、神坂課長はひとり考え込んでいます。

「ああは言ったけど、俺は果たしてずっと今の会社に居続けるのだろうか?」


ひとりごと

小生は、10月に同業の別会社に転職しました。

これまで懇意にしていたメーカーさんが敵になる立場になります。

もちろん、情報を持ち出すようなことは一切していませんが、先日のとあるイベントでは、だいぶ警戒されていました。(笑)

会社は移りましたが、小生は神坂課長と同じく、正々堂々と商売をしていくつもりです!


【原文】
余は往年、崎に遊び、崎人(きじん)の話を聞けり。曰く、「漢土には不逞(ふてい)の徒有りて、多く満州に出奔し、満より再び蕃舶(ばんぱく)に投ず。故に蕃舶中往往漢人有りて、之が耳目たり。憎む可きの甚だしきなり。今は漢満一家関門厳ならず。奈何(いかん)ともす可からず」と。此の話は徒らに聞く可きに非ず。〔『言志晩録』第118条〕

【意訳】
私は昔、長崎に寄って、長崎の人の話を聞いた。それによると、「漢の国には悪い輩がいて、多くは満州に逃走し、そして満州から外国船に乗り込む。だから外国船の中にはしばしば中国人がいて、西洋人は彼らをガイドや諜報員として使っている。大いに憎むべきことである。今は漢の国と満州国とは一家となって関所は厳重でなくなっているから、どうすることもできない」とのことであった。この話は聞き捨てならないことだ

【一日一斎物語的解釈】
営業マンの中には諜報員のような輩もいる。安易に情報提供せず、よく相手を見極めることだ。


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第1751日 「古き良きもの」 と 「守るべきもの」 についての一考察

今日の神坂課長は、営業部の佐藤部長と晩酌中のようです。

「この前、百田尚樹さんの『日本国紀の天皇論』という本を読んで驚いたのですが、わが国の天皇家は万世一系であって、男系継承をルールとしてきたことには、大きな意味があったのですね」

「ほお、どういうこと?」

「男性の遺伝子はXY、女性の遺伝子はXXですよね。つまり男の子であれば、確実に父親のY遺伝子を継承しているわけです。女の子の場合、父親からもらったX遺伝子がその父親からもらったものか、母親からもらったものかがわからないわけです」

「なるほど」

「もちろん今なら遺伝子解析をすればわかるのかも知れませんが、少なくともはるか昔にそんなことが解析できるわけはないですよね」

「そうだね」

「つまり確実に神武天皇の血を継承するには、男系継承が確実なわけです。それを肌感覚で感じ取っていた古代人というのは、凄いなぁと思いましてね」

「たしかにね。そう考えると、古来人間が感覚的に正しいと思って続けてきたことが、現代の科学によって次々と証明されているのかもね」

「やっぱり人間は何か別の力で生かされているように思えてきますね」

「だからこそ、天皇は男系継承でなければいけないんだよね」

「そうなんです! 女性天皇はこれまでも何人かいましたが、女系天皇はいないんですよ! よく勉強もせずに女性でもいいじゃないかという議論をするのは危険だとわかりました」

「女性天皇は8人10代だね。今は皇室典範で女性天皇自体が認められていないけれど、仮に愛子様が天皇になったとしても、次の天皇を男系の天皇が継げば万世一系は守られるわけだ」

「そうらしいですね。女性天皇と女系天皇の違いがようやくわかりました」

「天皇家もそうだけど、古くから守られている慣習にはそれなりの意味がある。ただ、時代に合わないというだけの理由で廃止するのは危険な考え方だよね」

「はい。日本が日本でなくなる可能性があります」

「しっかりと考えなければいけない問題だよね」

「子供たちにも伝えていかないといけませんが、なかなか説明が難しいですね」

「うん。医療器械のPRの方がはるかに簡単でしょ?」

「はい。それなのに最近は売り上げも低調です。しっかりしないといけませんね。(笑)」


ひとりごと

「古き良きもの」と聞くと、小生はどうしても万世一系の天皇家のことを思ってしまいます。

今年、前天皇が上皇となり、新天皇に譲位したことで、とてもおめでたい皇位継承を直接体験することができました。

わが国の大きな宝のひとつが天皇家であり、天皇なくしてわが国は成り立たないということを強く実感する今日この頃です。


【原文】
我が邦独立して異域に仰がざるは、海外の人皆之を知る。旧法を確守するの善たるに如かず。功利の人は事を好む。濫りに聴く可からず。〔『言志晩録』第117条〕

【意訳】
我が国は鎖国によって独立しており諸外国に何も求めていないことは、海外の人たちは皆知っていることである。古くからの慣習を固く守っていくことは非常に良いことである。功利主義者はなにかと新しい事を好む傾向があるが、そういう意見を盲目的に聴くようなことをすべきではない

【一日一斎物語的解釈】
古き良きものは守っていくべきである。無条件に新しいものを取り入れようとするのは宜しくない。


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第1750日 「自社の強み」 と 「業界のトレンド」 についての一考察

今日の神坂課長は、営業2課の月次ミーティングを開催しているようです。

「最近、F社は捨て身の攻勢を仕掛けてきているな」

「まともに付き合ったらお互いに利益を失うだけですよ」
本田さんも頭を抱えています。

「一度、ウチとF社との彼我分析をしっかり行ってみよう」

営業2課のメンバーは、各自の情報を持ち寄り、J医療器械とF社との彼我分析を行ったようです。

「やはり内視鏡に関する専門性ではF社が上ということだな。ただし彼らは各営業マンがバラバラに活動している」

「ウチはチームで動ける強みがありますね!」
石崎君です。

「そうだな。それにウチには各施設の院長先生や理事長との長年のコネクションもある」

「9月に厚労省が、『再編統合についての議論が必要としてリストを開示した424病院の経営陣は、かなり風評被害を被っているようですから、今こそディーラーとして何ができるかを考えるべきですね」
山田さんです。

「そうだね。チームの団結力と病院上層部とのコネクション、これが当社の強みということだ。部長と俺たち3人の課長は手分けをして懇意にしている経営層に接触してみる。肌感覚で、何ができるかを模索してみるよ

「よろしくお願いします。我々は安易な価格競争に引き込まれないように、現場との一層の関係強化を図ります!

「本田君、みんな、よろしく頼むぞ!」

「はい!」


ひとりごと

日本国内だけを市場とする企業にとっては、ほとんどの業界が大きな成長は望めず、パイを食い合う状態が続くでしょう。

医療業界でいえば、、一方で病院統廃合への動きが急ピッチで進められており、益々パイが小さくなることが予測されます。

そうした中で、医療におけるトピックスとなるのは、AI(ICT)、ゲノム、ロボットの3つです。

すでに医療の世界でも、「AIを使いこなせない医師は、AIを使いこなる医師によって淘汰される」と言われ始めました。

同じようにAIを仲間にできないメーカーやディーラーも淘汰される時代がすぐそこに来ています。


【原文】
海防の任に膺(あた)る者は、民和を得るを以て先と為し、器械は之に次ぐ。又須らく彼此(ひし)の長短を校(くら)べて、以て趨避(すうひ)を為すべし。尤も釁端(きんたん)を啓きて以て後患を貽(のこ)すこと勿きを要す。〔『言志晩録』第116条〕

【意訳】
海岸防備に当たる人は、まず民の心を和することを優先し、兵器類の整備はその後の問題である。あらゆる面で敵との彼我分析を行い、互いの長所・短所を比較して、何を取り何を捨てるかを決定すべきである。とはいえ、まずは争いの発端を開いて、後々まで憂いを残すようなことがあってはならない

【一日一斎物語的解釈】
企業間競争で生き残るためには、まずチームの和をつくりあげるべきである。その後に販売ツールやプレゼンテーションを磨けばよい。特にライバルとの彼我分析を綿密に行い、いかに自社の強みを他社の弱みにぶつけていくかを考えるべきだ。ただし、安易な価格競争を仕掛けることは、まったくの無益である。


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第1749日 「防御」 と 「率先垂範」 についての一考察

今日の神坂課長は、A県立がんセンター消化器内科の多田先生のところにいるようです。

「多田先生、『攻撃は最大の防御なりと言いますが、組織として守りを固めるのは難しいですね」

「なんだ、神坂。お前らしくない弱気な発言じゃないか」

「若いころの私は、とにかくイケイケで、攻めていれば守らなくてよいくらいに考えていました」

「たしかにそんな感じだったな」

「はい。しかし、今は攻めるべきは攻め、守るべきは守るという臨機応変さが重要だと気づいたんです」

「今更か?」

「私はバカですから。経験からしか学べないもので・・・」

「競合他社にやられているのか?」

「やられっ放しというわけではないですが、勝ったり負けたりです。しかし、競争をすればするほど、利益は減っていきます」

「戦えば必ず兵力は消耗するからな。やはり、戦わずして勝つことを考えないとな」

「はい、最近はディーラー業の限界を感じるんです。何か違う土俵を見つけないといけないのでは、と思いまして」

「ブルーオーシャンか。そんな夢みたいな市場があるかねぇ?」

「簡単には見つけられないと思いますが、頭をひねってみます。それより、今は当社の強い施設をしっかり守らなければいけません」

「守ろうとすると、どうしても意識が後ろ向きになりがちだ。守りを固めるときこそ、メンバーの心をひとつにしなければならないぞ!」

「はい!」

「そのためには、リーダーであるお前が率先垂範で先頭に立つしかない。部下の誰よりも働いて、メンバーの心を動かすんだ」

「そうですね。守ろうと思うと私は気持ちが乗らないので、当社の得意先との関係をさらに強化するという意識で活動しています」

「それで良いんじゃないかな。それこそ、『攻撃は最大の防御なりを地で行くことになるからな」


ひとりごと

現在の医療機器業界は、パイの食い合いです。

今後益々医療機関の数は減っていくことが予測されるため、さらなる過当競争にさらされるでしょう。

パイを奪い合うために、新規施設や新規市場の創造を図る必要がある一方で、現在の得意先を失わないように防御を固めなければなりません。

リーダーは積極的に守るという難しい仕事を率先して進めていかねばならないのです。


【原文】
士気振わざれば、則ち防禦固からず。防禦固からざれば、則ち民心も亦固きこと能わず。然れども、其の士気を振起するは、人主の自ら奮いて以て率先を為すに在り。復た別法の設く可き無し。〔『言志晩録』第115条〕

【訳文】
兵士の意気が振わなければ、防備は堅固にはならない。防備が堅固でなければ、人民の心もひとつになることはない。しかしながら、その士気を振い立たせるためには、人の上に立つ人が自ら発奮して率先垂範することが必要である。これ以外に別の手法はありえない

【所感】
組織のメンバーを奮起させるためには、リーダーが自ら率先垂範する以外に方法はない。


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第1748日 「技術力」 と 「人の和」 についての一考察

今日の神坂課長は、営業部と総務課とのミーティングに出席しているようです。

「当社も遅ればせながら、来期早々にはスマホを導入します。さらに、SFAも導入して、情報共有や社内データの一括管理を進めます」
大竹課長がプレゼンをしています。

「ようやくウチもスマホが持てるのか。みんな喜ぶでしょうね」
大累課長です。

「SFAはどこの会社のものを採用するの?」
佐藤部長です。

「はい。セールス・フォーカス社のものを採用予定です」

「日本でも一番導入されている会社だね」

「そうです」

「それが入ると、営業マンの仕事は増えそうだなぁ」

「神坂君、SFAの必要性をしっかりと理解し、メンバーを説得するのが課長の仕事じゃない」

「タケさん、それはそうなんだけどさ。そういうものには、営業マンはやっぱり抵抗があるんだよね」

「神坂君、どれだけ素晴らしい武器を持たせても、皆の心がひとつになっていなければ、その武器を使いこなすことはできないよね。まずは3人の課長がしっかりとSFAの必要性を理解し、それからメンバーに説明して理解を求めるのが良いだろうな」

「部長の言うとおりですね。このままだと石崎あたりが面倒くさいと言ってきたときに、私も思わず同意しそうですから。(笑)」

「神坂君、それは勘弁してよね! 敵は内にありだな!」

「タケさん、わかってるって」

「大丈夫かなぁ?」


ひとりごと

どれだけ製品性能で差別化できても、あるいはどれだけ高い営業技術を持っていても、必ず競争に勝てるわけではありません。

小生の属する医療機器業界では、営業はチームセリングが基本となります。

もちろん、個の力を高めることは重要ですが、やはり団結力、組織力が高いチームが勝利を手繰り寄せます。

先日行われたラグビーワールドカップ日本代表のキャッチフレーズだった、『One Team』を目指す必要があるのです。


【原文】
海警は予め備えざる可からず。然れども環海の広き、其れ以て尽く防禦を為す可けんや。固く民心を結び以て金城湯池と為すに若くは莫し。沿海皆能く是の如くば、外冦は虞と為すに足らず。然らずんば、数万の巨熕(きょこう)を設くと雖も、亦以て冦戎(こうじゅう)に資するに足らん。益無きなり。〔『言志晩録』第114条〕

【意訳】
海辺の警備はあらかじめ防備の体制を敷いておく必要がある。しかしながら、海岸線は広大であり、すべてを防禦し尽すことはできない。そこで、人民の心をしっかりと団結させ、堅きこと金のような城、近寄れぬこと熱湯のごとき濠水のようにしておくことに優るものはない。沿海がすべてこのようであれば、外国の侵略軍を恐れることはない。逆にそのようでなければ、数万基の大砲を設置しても、外国の侵略者を助けることになる。まったく無益なことである

【一日一斎物語的解釈】
最大の防御は、メンバーの心を一致団結させることにある。これがなければ製品仕様がどれだけ勝ろうと、またどれだけ優れた営業ツールを持たせようと、企業間競争に打ち勝つことはできない。


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第1747日 「平時の備え」 と 「組織の成果」 についての一考察

今日の神坂課長のところに、相原会長がやってきました。

「神坂君、たしかA医科大学の新しい理事長先生はもう決定したんだよね?」

「はい。曽ヶ端理事長です」

「ご挨拶に行った?」

「いえ、まだです。平社長を連れて訪問した方がいいよ。私も同行するから」

「会長は、曽ヶ端先生をご存じなんですか?」

「いや、知らないけど、お得意先の理事長が変わったら訪問するのは当然でしょう」

「前の理事長にもほとんど訪問していませんから・・・」

「当社はA医科大学の中では売り上げトップ5に入っているディーラーだよね。それなら経営幹部には定期的に会わないとダメだよ。平君にも私から言っておくから」

「たしかに、そうですね」

「大きな商売があるときに、理事長先生に『J医科器械なんて聞いたことないな。一度も会ったこともない業者だ』なんて思われたら大変だよ」

「逆に万が一、大きなクレームが発生したときも、謝罪が初対面では気まずいですよね」

「そのとおり! 大事なのは、何もない平常時にしっかりと関係を作っておくこと。これが準備だよ」

「さすがは会長です。勉強になります」

「さあ、感心している場合じゃないよ。すぐに平君か川井君の予定を確認して、アポイントを取ろうじゃないか!」

「承知しました!」


ひとりごと

うさぎと亀が競争をして、亀が勝つことがあるように、リーダーの能力だけで組織の成果は決まりません。

むしろ、愚直にやるべきことをやるチームが最後には勝利を手にするのではないでしょうか?

そのためには、緊急時に備えて平時にしっかりと準備をしておくことがなによりです。

準備で仕事は8割決まる。

小生はそう信じています。


【原文】
英傑は非常の人物にして、固(も)と不世出たり。然れども下位に屈して志を得ざれば、則ち其の能を肆(ほしいまま)にする能わず。幸いに地位を得れば、即ち或いは遠略を図ること、古今往往に之れ有り。知らず、当今諸蕃(しょばん)君長の人物果たして何以(いかん)を。蓋し備有れば患い無し。我れは惟だ当に警(いましめ)を無事の日に致すべきのみ。〔『言志晩録』第113条〕

【意訳】
英雄豪傑とされる人は非凡の人物であり、滅多に現れるものではない。然し、このような人物でも低い地位にあってその志を得ることがなければ、その才能を存分に発揮できない。幸いにして立派な地位を得たなら、遠大に策略を企てるのは、古今にしばしば見られるところである。現在、諸藩の君主たちが果してどんな人物かは知らぬ。ただ思うに彼等が如何なる人物であろうとも、平素、自己に備えがあれば何らの患いも生じない。私はただ無事泰平の時に万全の警戒を怠らないようにしたいものだ

【一日一斎物語的解釈】
組織のミッションの達成は、リーダーの能力に負うところが大きい。しかし、それ以上に大事なことは、日ごろから緊急事態に備えて準備を怠らないことである。


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第1746日 「相対」 と 「資益」 についての一考察

今日の神坂課長は、同期の鈴木課長と一杯やっているようです。

「ふと考えたんだけど、お前と俺の出会いというのも不思議な出会いだったよな」

「入試の時にお前がトイレでハンカチを落としたまま出て行ったのを追いかけたのが出会いだったな」

「そうそう。そして大学に登校したら、鈴木が同じクラスに居たんだよな」

「お前と俺は性格も真反対だし、普通に出会っていたら、仲良くなったかどうかは疑問だな」

「たしかにな、俺たちは陰と陽の代表みたいな性格だからな」

「俺を根暗みたいに言うな! お前がノー天気なだけだ!」

「ははは。こういうところが逆にかみ合ったんだよな。すぐに仲良くなったもんな」

「陰と陽か。たしかに男と女、天と地、太陽と月。この世の中のものはすべて相対する相手がいるのかもな」

「好きな奴もいれば、嫌いな奴もいる。ところが、嫌いな奴からかえって学ぶこともある」

「相対するものすべてから何かを得ているというわけか」

「なんか、俺たち大人になったな」

「え?」

「だって、大学の頃の俺たちはこんな話をしたことがなかったじゃないか。酒の話か女の話かギャンブルの話のどれかだっただろう」

「お前と一緒にするな。俺はお前よりはだいぶ成績が良かったからな。その頃から本もたくさん読んでいたしな」

「じゃあ、俺が成長したということか。それに比べて、お前はそれほど成長していないんだな」

「神坂、そろそろ気づけよ。俺がどれだけお前に合わせて低レベルの会話に付き合ってやってきたかをな!」

「あらあら、お二人さん。ちょっと険悪なムードかしら?」
ちさとママが料理を運んできました。

「ママ、俺たちは出会った頃からこんな感じだよ。仲が良いのか悪いのか?」

「そう、幸か不幸か、大学を出ておさらばかと思ったら、会社まで同じだった!」

「そっか、喧嘩するほど仲が良いっていうもんね」

「ママも仲良さそうに歩いていたなぁ」
神坂課長がいやらしい目でママを見つめています。

「か、神坂君。な、なんのこと?」

「昨日の夕方、駅で見ちゃった」

「え、ほんと?」

「まさか二人が手をつないで歩いているとはねぇ」

「嘘! 手なんかつないでないもん!!」

「ママ、顔が真っ赤だよ」

「なんだよ、なんだよ。神坂、どういうことだよ。俺にも教えろ!」

「あーっ、神坂君、今日は私が御馳走するね!」

「鈴木、ゴメン。口止め料をもらってしまったから教えられない」

(ちさとママが動揺している理由については、前日1745日をご覧ください)


ひとりごと

支那で生まれた陰陽二元論では、すべてのモノは陰と陽という二つのエネルギーから成り立っていると説いています。

夜と昼、男と女、喜びと悲しみなどなど、たしかに相対する二つの要素が絡み合って、万物が創られているようにも思えます。

人の出会いもまた必然のようです。

お互いのもつ陰と陽のパワーがパートナーとなるべき人を引き付けるのかも知れません。

時には、自分にとって最悪の人が目前に現れることもありますが、得てしてそういう人から多くの学びを得ることがあります。

良い出会いも辛い出会いもすべてが必然であり、出会いには必ず何か大きな意味があるのでしょう。


【原文】
天地間の事物必ず対(たい)有り。相待って固し。嘉耦(かぐう)・怨耦(えんぐう)を問わず、資益を相為(そうい)す。此の理須らく商思(しょうし)すべし。〔『言志晩録』第112条〕

【意訳】
の世に存在する物事はすべて相対的である。相対応して堅固に存在している。相性の良し悪しに関係なく、互いに裨益するところ大である。この理をよくかんがえてみるべきだ

【一日一斎物語的解釈】
すべての縁は必然であり、大きな宇宙の摂理の中でお互いに利益を与え合って存在している。せっかく出会った縁に深く思いを致すべきである。


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第1745日 「覇道のマネジメント」 と 「王道のマネジメント」 についての一考察

今日の神坂課長は、とあるリーダーシップのセミナーに参加しているようです。

「管理とマネジメントは違います。管理というのは、部下を自分の思い通りに動かすことです」

「しかし、部下が快く動いているのか、不満を持ちながら動いているのかはわかりません」

「マネジメントは、部下が自分の意思で動いているようでいて、実は上司の期待どおりに動いてくれている状態をつくることです」

「このときの部下は不満を抱いていません。しかし、もしかしたら上司への感謝の気持ちもないかも知れません」

「部下が上司のマネジメントに対して感謝するかしないかは、部下の課題です。上司は結果的に期待する行動を引き出し、期待する成果を得ることができればそれで良いのです」

「これが天のマネジメントです。宇宙の摂理を理解し、人間力で人を動かす手法です」

「これに対して、管理は地のコントロールです。人心を掌握することができる人は、それを巧みに操り賞罰で人を管理するのです」

「短期的に組織をまとめて動かすには、地のコントロールでも良いでしょう。しかし、長く人を動かし続けるには天のマネジメントが必要になります」

セミナーを聞き終えた神坂課長は、帰りの電車の中で考え込んでいます。

「たしかに短期的に人を動かすのには、賞罰が良いんだろうな。ただ、それは長続きしないのか。そうだよな、ニンジンをぶら下げて走らせてしまうと、また次のニンジンがないと動かなくなるもんな」

「そういえば、佐藤部長はキャンペーンを打つのを嫌うよな。あの人はそういう麻薬のようなもので人を動かすことが危険なことをちゃんと知っているんだな」

「なにかというとキャンペーンを打ちたがるメーカーさんは、たしかに信用できないよな」

「やっぱり真のリーダーになるには、時間をかけて自分の徳を磨くしかないんだな。近道はない! とにかく目の前の仕事をひとつずつ処理しながら、天のマネジメントを実践できるように精進していくしかないな!」

ちょうど最寄り駅に到着したようです。

「あれ? あそこにいるのは佐藤部長とちさとママじゃないか? なんだよ、なんだよ。佐藤部長は部下の心だけでなく、ママの心もつかんでいるのかよ!」


ひとりごと

王道のマネジメントと覇道のマネジメントでは、どちらが良いのか?

ストーリーにもあるように、どうしても短期的に結果を求められる場合には、覇道が必要となるでしょう。

しかし、長く安定的に良い結果を得るには、王道のマネジメントを実践するしかないようです。

別の見方をすれば、覇道のマネジメントの基本は損得にあります。

一方、王道のマネジメントの基本は善悪にあります。

覇道が必ずしも悪いわけではありませんが、王道を意識しながら、覇道を上手に使うというマネジメントが現実的なようです。


【原文】
地道の秘を窃(ぬす)む者は、以て覇を語る可く、天道の蘊(うん)を極むる者は、以て王を言う可し。〔『言志晩録』第111条〕

【意訳】
地の道の秘訣を知る者は、覇道を語ることができ、天の道を知る者は、王道を語ることができる

【一日一斎物語的解釈】
人の心を理解できる人は、報奨と罰則で人を管理できる。宇宙の摂理を理解できる人は、徳と礼とで人をマネジメントできる。


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第1744日 「仕事」 と 「必需品」 についての一考察

今日の神坂課長は、梅田君を連れて得意先周りをしているようです。

「梅田、営業マンにとって絶対に欠かせないアイテムは何だと思う?」

「え? 車の免許ですか?」

「ははは。たしかに現代の営業マンは車の免許がないとダメだろうな。しかし、免許証はいわば営業のパスポートみたいなものだ。もっと大事なものがあるだろう?」

「えー、免許より大事なものですか? わかった、製品知識ですね!」

「もちろん知識も重要、技術も重要だ。そして何より心が重要だというのは、ずっと言い続けていることだよな」

「はい」

「でも、違うんだ。答えは手帳と筆記用具だ」

「マジですか! 手帳が一番大事なのですか? 私はスケジュールはスマホで管理しています」

「スマホでも良いんだけど、病院内は未だに携帯を使ってはいけないエリアも多い。やはり紙の手帳が必要になるんだよ」

「そうなんですねぇ?」

「だいたい、お前は今日、俺がいろいろな先生と話をしていることをひとつもメモしていなかったじゃないか!」

「はい、ノートも持ってきませんでした」

「ノートは手帳が兼ねればいい。手帳さえあれば、スケジュールも記憶しておくべきこともすべて記載できるじゃないか」

「なるほど。神坂課長、あとで東急ハンズに寄ってもらえませんか?」

「手帳を買うのか?」

「はい、忘れないうちに」

「それなら東急ハンズに寄ろう。どうせ買うなら、ある程度良い手帳を買った方が大事に使うし、書く習慣も身につくだろう?」

「あ、そうですね。でも、あんまり高いのはちょっと・・・」

「なんだよ、その目は。わかったよ、全部とは言わないが少しは補助してやるよ!」

「そうこなくっちゃ!!」


ひとりごと

我々営業マンにとって、必需品といわれるものはたくさんあります。

しかし、いまだにそのトップに君臨するのは、手帳ではないでしょうか?

もちろん、スマホやタブレットでスケジュール管理もできますし、メモも取れます。

しかし、年上のお客様の前で、スマホにメモを取っていては良い印象を与えられないでしょう。

これは古い人間だと言われてしまうかもしれませんが、小生は、講演やセミナーの受講生がパソコンでノートをとるのも宜しくないと感じてしまいます。

まず、カタカタと音がうるさい!

50を超えたおっさんの愚痴はこれくらいにしておきます。


【原文】
戎器(じゅうき)中、宜しく縮遠鏡(しゅくえんきょう)を寘(お)き、又大小壺盧(ころ)を齎(もたら)すべし。並びに有用の物たり。欠く可からず。〔『言志晩録』第110条〕

【意訳】
戦争に必要な器具として、望遠鏡と大小さまざまなひさご(瓢箪)を準備しておくべきである。どちらも必要不可欠なものである

【一日一斎物語的解釈】
どんな職種にも必需品がある。営業における必需品は、なんといっても手帳と筆記用具である。


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