営業2課の石崎君が凹んで帰ってきました。
「どうした、少年。浮かない顔をしているじゃないか?」
「課長、すみません。有坂医院の商談、敗戦しました」
「マジか! お前、あそこは楽勝だと言ってなかったか?」
「はい。最近は商売のコツも少し分かってきて、連勝が続いていたので、今回も行けると思っていたのですが・・・」
「調子に乗り過ぎたんだな」
「えっ、そんなつもりはないですよ!」
「そうか? ちょっと冷静に考えてみてくれよ。今回の商談で、今まではやっていたのに、やめてしまったことはないか?」
「そんなものはないですよ・・・。あっ!」
「ほら、あるだろう」
「いつもは自分なりに提案資料をまとめて提出していたのですが、今回は更新案件だしいいかなと思って、口頭のみでプレゼンしました」
「相手はちゃんとした提案書を出したはずだな?」
「たぶん・・・」
「石崎、誰でも調子に乗ることはある。良い経験をしたな。やはり調子がいい時こそ、調子に乗り過ぎず、手を抜かないことを意識しなければいけない。俺もそれで数多くの失敗をしてきたよ」
「課長もですか?」
「恥ずかしくて離せないような敗戦もあった」
「聞きたいです!」
「だから、話すのが恥ずかしいと言ってるだろう」
「でも、それを聞いたら元気になれそうです」
「うーん。勝って調子に乗り過ぎるのも問題だが、負けて凹みすぎたり、腐ったりするのも問題だ。お前が元気になれるなら話をするか」
「お願いします」
「ち、ちょっと待て。ここではやめよう。みんなが好奇心ありありの目で俺たちを見てるからさ」
「じゃあ、夕飯を食べながらにしましょう。『ちさと』に連れて行ってください! もちろん課長の奢りで!」
「お前には、『勝って調子に乗るな、負けても調子に乗るな』という言葉を贈るよ」
ひとりごと
勝って兜の緒を締めよ、と言われるように、調子が良いときは勘違いをしがちなものです。
しかし、最近の若者は、勝って驕ることはない代わりに、負けた時に凹み過ぎな傾向があるように思います。
負けたときの悔しさは大きな力になります。
彼らは決して、悔しくないわけではなく、悔しがる自分を見られることが恥ずかしいという感情から自分を抑えているだけなのだと思います。
要するに、リーダーである我々がアプローチ方法を工夫して、彼らの悔しさを引き出してあげる必要があるのではないでしょうか?
【原文】
戦伐(せんばつ)の道、始めに勝つ者は、将兵必ず驕る。驕る者は怠る。怠る者は或いは終に衄(じく)す。始めに衄する者は、将兵必ず憤る。憤る者は厲(はげ)む。厲む者は遂に終りに勝つ。故に主将たる者は、必ずしも一時の勝敗を論ぜずして、只だ能く士気を振厲(しんれい)し、義勇を鼓舞し、之をして勝って驕らず、衄して挫けざらしむ。是れを要と為すのみ。〔『言志晩録』第119条〕
【意訳】
戦争の王道において、始めに勝利をつかむと、将軍も兵士も必ず慢心を起こす。慢心を起す者は怠ける。怠ける者は場合によっては最後に敗戦を喫する。始めに敗戦すると、将軍も兵士も必ず発憤する。発憤する者は奮い立つ。奮い立つ者は最後には勝利をつかむ。それゆえ、将軍たる者は、一時の勝敗にこだわらず、よく士気を励まし奮い立たせ、義勇心を鼓舞し、兵士に対して勝っても慢らず、敗けても挫折しないように導く。これが肝要なことなのだ。
【一日一斎物語的解釈】
企業間競争は、勝ったり負けたりの連続である。リーダーはメンバーに対し、常に「勝って奢らず怠けず、負けて腐らず挫けず」という考え方を意識させねばならない。

