一日一斎物語 (ストーリーで味わう『言志四録』)

毎日一信 佐藤一斎先生の『言志四録』を一章ずつ取り上げて、一話完結の物語に仕立てています(第1066日目より)。 物語をお読みいただき、少しだけ立ち止まって考える時間をもっていただけたなら、それに勝る喜びはありません。

2020年03月

第1875日 「我慢」 と 「自然」 についての一考察

今日の神坂課長は、喫茶コーナーで大竹課長と会話をしているようです。

「タケさん、なんか元気がないね」

「だって、志村けんが死んじゃったんだぜ。俺の子供の頃のヒーローみたいな人だからさ。まだ70歳だよ!」

「あのニュースはビックリしました。カミさんとは、個人のコメントもないし、かなり危ないかもなんて話はしていたのですが、本当に現実になると言葉が見つからないですね」

「俺、はじめてだよ。芸能人の訃報を聞いて泣いたの」

「そういえば、目が赤いですね」

「今日は食事をする気も起きないから、ランチは抜くかな」

「COVID-19 は糖尿病を持っていると重症化するらしいですよ。タケさん、気を付けた方が良いんじゃないの? いっそのことこれを機に炭水化物を減らしたら?」

「親父が糖尿病患者だからな。血は受け継いでるかもなぁ。でも、炭水化物のない食事はひもじいもんね?」

「だったら、酒をやめる?」

「それは人生の楽しみを失うようなものだしなぁ」

「どっちかを我慢することが必要なんじゃないの?」

「そうだけどなぁ。ところで、神坂君。今日も薄着だねぇ」

「子供は風の子っていうけど、俺は今でも心は五歳児ですから。この程度の寒さでカーディガンとかセーターを着るなんて、考えられませんよ」

「寒くないの?」

「寒いですよ。でも、寒くないと思い込むんです。『心頭を滅却すれば火もまた涼しです」

「滅却できてないから、寒いんでしょ?」

「あ、なるほど。そうだ、タケさんも心頭を滅却すれば、空腹を感じなくなるんじゃない?」

「神坂君、俺たちが心頭を滅却できると思うかい?」

「道は果てしなく遠い気がします」

「そうだろう。まずは我慢かなぁ」

「そうです、まずは糖分を減らす我慢から始めましょう! 志村さんが教えてくれた気がしますよね。COVID-19 は誰でも罹患する病気だし、世間が思っている以上に重症化のリスクも高いということを」

「それは思った。あの人は俺たちにずっと最高の笑いを届けてくれた。そして最後には、自分の命と引き換えに、病気に対する備えの大切さを教えてくれたのかもな」

「そうかもしれませんね。これで、日本国民全体が外出を自主的に控えるようになるでしょうね」

「やっぱりあの人は最後まで俺のヒーローだったなぁ」


ひとりごと

今回のストーリーはいつも以上にこじつけ感が強いかも知れません。

しかし、そうしてでも志村けんさんについて触れたかったのです。

東村山音頭、カラスの勝手でしょ、ひげダンス、アイーン、だいじょうぶだぁ、だっふんだ、などなど、数々の逆を世に送り出した天性のお笑いスターであり、我々世代のヒーローのひとりでもあったのが志村さんでした。

タモリさんもたけしさんも、お笑いの第一線からは退いている感もある中で、まだまだ現役でお笑いをやり続けている大御所は、さんまさんと志村さんくらいだったでしょう。

本当に残念ですし、衝撃的なニュースでした。

これで、日本国民全体に良い意味での自粛ムードが進むはずです。

志村さんの死を無駄にしないためにも、そうすべきですね。


【原文】
衣薄くとも寒相を著けず。食貧しくとも餒(だい)色を見(あらわ)さず。唯だ気充つる者能くすることを為す。然も聖賢の貧楽は、則ち此の類に非ず。〔『言志晩録』第241条〕

【意訳】
薄着であっても寒そうな仕草は見せず、空腹であってもひもじい様子をみせない。これは気力の充実した人にしかできないことである。しかしながら、聖人や賢人が貧を楽しむというのは、こういうことではない

【一日一斎物語的解釈】
薄着で寒さに耐えることも、空腹を表情に出さないことも、気力が充実していればこそ可能であるが、努力をしてそのレベルを維持しているうちは本物ではない。


志村けん

第1874日 「恥」 と 「悔」 についての一考察

神坂課長のところに善久君がやってきました。

「課長、明後日に食道ステントの症例があって、予定ではC社の笹尾さんが来てくれる予定だったのですが、コロナ関係の緊急会議で来れなくなったそうです」

「ほぉ、それはチャンスだな」

「え?」

「お前がしっかり勉強して立ち会えば、お前の株が上がるじゃないか」

「でも、ステントの立ち会いなんてやったことないです」

「正直に言えよ。勉強はしてきたが、自分はまだステント症例に立ち会ったことがないので、勉強させてくださいって」

「素人を送り込んだのかといって怒られませんか?」

「誰だって最初は素人じゃないか。どんな営業マンだって、勉強して、恥をかいて、後悔をして、成長するんだよ」

「恥をかいても良いのですか?」

「恥はかかなきゃだめだ。恥をかいて初めて学ぶことが多いからな。恥をかくことを怖がるな」

「は、はい」

「絶対にうまくいくように立ち会おうなんて思わなくていい。ドクターも初めて使うわけではないだろう。とにかく勉強させてもらうというスタンスで行け!」

「うまくいかなくても良いのでしょうか?」

「良くはないが、そういう時もある。そこで、しっかり悔やむんだ。そして反省して次に活かせ」

「はい」

「あそこにいる大累は、それこそありとあらゆる失敗をした男だ。かつては『失敗のデパート』とまで呼ばれたこともある」

「ははは。そうなんですか?」

「すみませーん! そこのお二人、こっちまで聞こえているんですけど!」

「あれ、大累。聞こえちゃった?」

「完全に聞こえるように言ってるでしょう。俺の部下もいるんですから、そういうことは小声で話してもらえませんかね!」

「なぁ、大累。恥をかくことと、後悔することは大事だよな?」

「そうですね。今の若い人は特に恥をかきたがらないけど、恥をかかないと学べないことって絶対にありますからね」

「ほら、善久。恥と後悔のスペシャリストのありがたい教えだ。ちゃんとメモしておけよ!」

「善久君、たしかに俺はかつて『失敗のデパート』と呼ばれたけどな、そこにいるおっさんの呼び名もすごかったぞ」

「え、神坂課長はなんて呼ばれていたのですか?」

「『失敗のエンサイクロペディア』、つまり失敗の百科事典だよ」


ひとりごと

誰しも恥はかきたくありませんし、後悔もしたくないでしょう。

しかし、人生には恥をかいてこそ学べる事、後悔をしてこそつかめるものがあるものです。

特に若いうちに、たくさんの恥と後悔を経験して、人生後半に向けて準備をしておくべきなのです。

そのために、リーダーである皆さんは、部下や後輩の失敗を暖かく見守る広い度量を持たねばならないのでしょう。


【原文】
人は恥無かる可からず。又悔無かる可からず。悔を知れば則ち悔無く、恥を知れば則ち恥無し。〔『言志晩録』第240条〕

【意訳】
人間は恥を知らなけれならない。また、後悔の念を抱くということも必要である。後悔の念を抱けば、最終的には悔い改める必要はなくなるし、恥を知ることができれば、恥をかくこともなくなるものだ

【一日一斎物語的解釈】
恥を知ること、後悔することは、人生において必要欠くべからざるものである。


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第1873日 「旧KKD」 と 「新KKD」 についての一考察

今日の神坂課長は、ネットニュースをみて呆れています。

「この首相夫人は、どこまでバカで天然なんだ?」

「ああ、例の花見の投稿写真の件ですか?」
本田さんが応対しています。

「そうだよ。はっきり言って見た目もそれほど美人でもないし、安倍さんはどこが気に入ったんだ?」

「見た目は関係ないのでは? しかし、東京都が外出自粛要請を出した後にこの写真を投稿する神経には驚かされますね?」

「この人はな、ワクチン不要論を唱えているらしいんだ。その理由が凄いぞ」

「どんな理由なんですか?」

「『私はインフルエンザに罹ったことがないから、ワクチンは要らないと思うと言ったらしい」

「本当ですか?」

「そう聞いたよ。その後、もし罹ってしまったらどうするのかと聞かれて、『そうしたら、別の建物にひきこもればいい』と言ったそうだ」

「天然過ぎますね。だいたい今までインフルエンザに罹っていないからと言って、今後も罹患しないという保証はどこにもないですから」

「これが首相夫人だからな。安倍さんもなぜ擁護するような発言をするんだろうな。『きびしく指導しますとでも言っておけばいいのに」

「そういう根拠のない自信で行動をする人が一番始末に負えないですよね」

「そ、そうだな」

「あれ、どうしたんですか?」

「いや、俺自身が根拠のない自信だけ、気合いだけで切り抜けてきた男だから、耳が痛いなと思って」

「私は神坂課長のことをそんな風にはみていませんよ」

「本当?」

「意外と冷静に成功確率を読んで行動しているように感じています」

「あれ、そうかな? なんだか嬉しいな」

そこに石崎君が帰社したようです。

「おー、石崎。山根クリニックの商談、どうなった?」

「もう少し検討したいと言われてしまいました・・・」

「マジか? お前な、気合いが足りないんだよ、気合いが!」


ひとりごと

かつて、KKDが重要だと言われた時代があります。

KKDとは、勘と経験と度胸を指します。

今の時代は、これを旧KKDと呼ぶようです。

では、新KKDとは何か?

それは、仮説と検証とデータの3つだそうです。

新KKDをベースにそこに適度に旧KKDを混ぜるのが理想かも知れませんね。


【原文】
凡そ事を為すに、意気を以てするのみの者は、理に於いて毎(つね)に障碍(しょうがい)有り。〔『言志晩録』第239条〕

【意訳】
何事を行うにも、意気込みだけで始める人は、道理から見れば常に危険と隣り合わせである

【一日一斎物語的解釈】
気持ちだけで、根拠のない行動は危険である。


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第1872日 「外物」 と 「緩急」 についての一考察

今日の神坂課長は、佐藤部長の部屋に居るようです。

「人間って面白いですよね。急ぎの仕事をしている時には、なぜか気持ちも焦ってしまいます。逆に、じっくりと取り組むときには、心も落ち着いています」

「そうだね。心というのは、外の事に惑わされやすいものだよね」

「それですそれ! それを言いたかったのです」

「本来、心は常に安定していることが理想だけれど、それができるのは聖人君子だけかも知れないねぇ」

「部長はいつも冷静ですよね」

「そう見える? それなら良かった。実際にはそうではないからね」

「そうですか?」

「私はかなりのせっかちだよ。じっくりとひとつのことに取り組むのは苦手で、だからこそ営業の世界に飛び込んだんだ」

「どういうことですか?」

「営業というのは成果が出やすいでしょう。お客様に誠意をもって接すれば、自然と売上はついてくるからね」

「なるほど」

「もっとも、営業の世界に長く居れば居るほど、実はそうでもないことがわかってきたけれどね」

「え?」

「お客様、特にドクターとの人間関係を構築するには、勉強をしなければいけないし、長い時間をかけて少しずつ信頼を得ていかなければならない。そういう人間関係を築けなければ、売れ続ける営業マンにはなれない」

「それに気づいたのですね?」

「うん。それでいて、信頼を失うときは一瞬だ。気を許せば積年の苦労が全部水の泡になってしまう」

「私もその手の苦い経験がたくさんあります」

「つまり、どんな仕事でも、心を安定させていなければいけないということだよ」

「我々に比べて、ドクターは常に人の命と格闘していますから大変ですよね。自分の握るメスが目の前の患者さんの命の行方を左右するわけですから」

「だからこそ我々が、安全で質の高い医療を提供できるように、しっかりとお手伝いをしなければならないんだね」

「そうかぁ。我々の提供する医療機器の良し悪しによって、ドクターの心の安定度も左右されるかも知れないのですね?」

「大事な仕事をしているんだよ、我々も!」

「身が引き締まります!!」


ひとりごと

外物に影響されない心を作り上げることは容易ではありません。

急ぎの時こそ心は落ち着いていなければならず、ゆったりとした状態のときには心を引き締めねばならないのです。

外物に影響されるのではなく、外物とバランスをとれる心を作り上げましょう。


【原文】
昼夜には短長あり、而も天行には短長無し。惟だ短長無し。是(ここ)を以て能く昼夜を成す。人も亦然り。緩急は事に在り。心は則ち緩急を忘れて可なり。〔『言志晩録』第238条〕

【意訳】
(地球が太陽をめぐるのは、三百六十五日四分の一と数字的に定まっていて、地軸が二十三度傾いているから、昼夜長短の差ができる)。それゆえに昼夜には長短があるが、天の運行に長短はないのだ。天の運行に長短がないからこそ、昼夜があるのである。人間もこれと同じである。緩急というのは物事にあるのであって、心は緩急を忘れていつも一定であればそれで良い

【一日一斎物語的解釈】
仕事には急ぎもあれば、じっくり取り組むべきものがあるが、心はつねに緩急なく一定に保っておくべきだ。


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第1871日 「せっかち」 と 「のんびり」 についての一考察

営業部特販課の大累課長が雑賀さんと来年度末更新の大型案件について打ち合わせをしているようです。

「雑賀、A医大のMRI更新の件はどうなってる? 1年後とはいえ、そろそろドクターと仕様の確認が必要なんじゃないか?」

「まだ1年先ですよ。半年前くらいからで十分ですよ」

「お前、1億を超える大型案件だぞ。そんな呑気なこと言ってる場合じゃないだろう」

「大累課長は気が短すぎますよ。私はドクターもしっかり押さえていますから、大丈夫ですって!」

「お前さ、2年前に同じことを俺に言ったのを覚えているか?」

「あっ」

「T厚生病院のMRIの商談を落としたときも、同じことを言ったよな?」

「あれは、急遽ドクターが異動となるという想定外のことがあったから・・・」

「今回だって4月に異動があるかも知れないじゃないか」

「それは4月になればわかることですから」

「今動けば、情報くらい取れるだろう。キーマンに異動がないかは確認しているのか?」

「まだですけど・・・」

「今すぐ行ってこい! 今日はもう3月27日だぞ。そのくらいの情報を取れないでどうするんだよ!!」

「わかりましたよ、行ってきますよ」

雑賀さんは慌てて出かけたようです。

「雑賀は相変わらずだな」

「あー神坂さん、聞いてました?」

「あれだけデカい声でやりとりされれば、嫌でも耳に入ってくるよ」

「神坂さんはどう思います?」

「今回の件に関しては、大累の意見が正しいだろうな」

「ですよね!」

「ただ、たしかにお前はせっかち過ぎるところもある。俺も同じくせっかちだ。一方、雑賀とか廣田とか石崎なんかは意外とのんびり屋だよな」

「たしかにそうですね」

「お互いにそういう自分の性格をよく把握して、急ぎ過ぎず、のんびりし過ぎず、タイムリーに行動することを心掛けたいよな」

「神坂さん、たまには良い事も言うんですね」

「たまに? 俺はいつだって紅茶のような男だよ」

「紅茶?」

「常にセイロン(正論)しか言わないからさ」

「・・・」


ひとりごと

人間だれしも性格に癖があります。

せっかちもいれば、のんびり屋もいます。

そうした性格を変えるということは、簡単なことではありません。

どちらが良いか悪いかと考えるよりも、自分の性格をよく把握して、悪い傾向が出ないように抑制すればよいのでしょう。

一斎先生の言うように、天の運行のように自然に振舞えるのは、聖人君子だけです。

厳に、一斎先生ですら、自分の性格に癖があることを認めているのですから。


【原文】
人の事を做すは、須らく緩ならず急ならず、天行の如く一般なるを要すべし。吾が性急迫なるも、時有りて緩に過ぐ。書して以て自ら警む。〔『言志晩録』第237条〕

【意訳】
人が事をなす場合は、すべてにおいてゆっくり過ぎても急ぎ過ぎても宜しくない。ただ天の運行のように自然であるべきである。私の性質はせっかちであるが、時にはゆっくりし過ぎてしまうこともある。ここに自ら書して戒めとしたい

【一日一斎物語的解釈】
仕事を処理する際には、急ぎ過ぎず、ゆっくり過ぎず、そのベストのタイミングを逸しないことが肝要である。

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第1870日 「鋭進」 と 「退歩」 についての一考察

「課長、私の担当病院はどこも外来患者さんが減った影響で内視鏡検査も落ち込んでいます。おかげで、消耗品の売上がいつもの3〜4割減ですよ。期末だっていうのに、これじゃ予定どおりの売上も利益も見込めません」
石崎君が嘆いています。

「それはお前の担当病院だけじゃないよ。どこも同じさ」
神坂課長です。

「でも課長、このままじゃ今期の計画をクリアできません」

「これは天変地異みたいなものだ。ジタバタしてもはじまらないよ」

「計画が達成できなくても良いのですか?」

「そりゃ達成したいよ。でもな、ここで無理をしても仕方がないだろう。患者さんも無暗に病院を訪れることを控えているし、病院からの活動自粛の要請もある。それは甘んじてうけるしかないよ」

「畜生、せっかく今期は達席できると思ったのに!」

石崎君は涙ぐんでいます。

「石崎、その悔しさを忘れるな。どうやら神様は、お前が簡単に売上計画を達成してもらっては困ると思っているようだ。もう少し試練を経験しろってな」

「課長は余裕ですね」

「俺も同じ経験をしたからな。今から9年前にな」

「あ、東日本大震災ですか?」

「そうだよ。あの時は、メーカーさんの工場も軒並み被害を受けて、出荷できない状況となった。俺は大口の商談の納品日直前だったんだ。それがあの震災で納期に間に合わすことができなくなった」

「それがあれば売上達成だったのですか?」

「そうだ。そしてその年度のトップセールスになれるはずだった・・・」

「駄目だったのですか?」

「うん。清水に持っていかれた。あいつはタッチの差で大口を納品し終えていたからな」

「そんなことが・・・」

「でも、震災もCOVID-19も天変地異だ。恨もうにも何を恨んで良いかわからない。そんなときに無理をしても何もいいことはない。ここは一歩引く勇気を持つしかない」

「私達が下手に動いて感染を広げてしまったら、医療人として失格ですもんね」

「そうだよ。俺たちは医療に携わる人間だからこそ、感染を避けなければいけないんだ」

「でも、悔しいです! ちょっと叫んでもいいですか?」

「ここでか? ま、まあ、いいよ」

「カミサマのバカヤロウ!!」

「なんだか複雑・・・」


ひとりごと

やるべきことをやらずして結果に不満を持つのは問題外です。

しかし、やるべきことをやっても結果が出ない時もあります。

無理をしなければならない時もあれば、一歩下がる勇気を持つべき時もあります。

人生は思い通りにならないからこそ、面白いのかもしれません。


【原文】
鋭進の工夫は固より易からず。退歩の工夫は尤も難し。惟だ有識者のみ庶畿(ちか)からん。〔『言志晩録』第236条〕

【意訳】
勢いをもって前進することも容易なことではない。しかし一歩退く工夫こそが最も難しいことである。それが可能なのは、物事の事理に明るい人だけであろう

【一日一斎物語的解釈】
進むことも容易ではないが、一歩退くことの方がはるかに難しい。


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第1869日 「トラブル」 と 「誠意」 についての一考察

営業2課の若手・梅田君がトラブルを起こしたようです。

「梅田、何をやったんだ」

「はい。ちょっと軽はずみなことを言ってしまって、院長先生に激怒されました」

「なんて言ったんだ?」

「スコープ(内視鏡)に穴が開いて修理する必要があるのですが、すぐに代替え品が手配できない状況だったんです」

「よくあるケースじゃないか」

「はい。O社さんに電話したら、いまあるのは動物実験用のスコープだけだ、と言われまして・・・」

「まさか、お前?」

「はい。『動物実験用ならすぐ手配できるのですが』と言ってしまいました」

「おいおい、それはダメだろう。言う前に気づいてくれよ!!」

「すみません。明日の検査を待っている患者様のために、なんとかしたいという思いが強くて・・・」

「その気持ちは大事だけどさ。さすがに動物実験用はなぁ。それで、代品の手配はできたのか?」

「はい。O社さんで手配してくれて、明日の朝にS急便の支店留めにしてもらいました」

「よし。では今からクリニックに行こう。まだ診察しているだろうから、診察終わりに謝罪して、代品のことを直接伝えよう」

「よろしくお願いします」

「梅田、こういう時は言い訳はするなよ。ただ丁重にお詫びをしろ。お前が本当に申し訳ないと思っているなら、言い訳なんかしなくても伝わるものだ」

「はい・・・」

「心配するな。出入り禁止だって言われたわけじゃないんだろう?」

「はい。すぐに代品を手配して持ってこい!と怒鳴られましたけど・・・」

「昔、同じような状況のときに、『先生、そんなに言われても、ないものはないんです』といって、出禁になった奴がいた。それに比べればお前の方がなんとかしたいという気持ちがあるだけマシだ」

「そんな人がいたんですか?」

「その後、大変なことになってな。結局、社長が直接謝罪して、なんとか収まったんだよ」

「その人は、もう辞めてしまったのですか?」

「いや、辞めてないよ」

「そうなんですか!」

「誰か知りたそうだな?」

「いや、別にそういうわけじゃ・・・」

「今、お前の目の前にいる奴だよ」


ひとりごと

営業の仕事をしていると、よく起こるのが、言った言わない論争です。

そういうときの営業マンの決まり文句は、「そういうつもりで言ったのではない」です。

しかし、「つもり」は関係ありません。

コミュニケーションにおいては、相手がどうとったかがすべてです。

そういうときは、言い訳をせず、誠の一字で乗り切れ、と一斎先生は言います。

そのとおりだと思います。


【原文】
形迹(けいせき)の嫌(けん)は口舌を以て弁ず可からず。无妄(むぼう)の災は智術を以て免る可からず。一誠字を把って以て槌子(ついし)と為すに如くは莫し。〔『言志晩録』第235条〕

【意訳】
何らかの形跡が残っている嫌疑については、口頭で弁解すべきではない。正しいものにふりかかった予期せぬ禍については、頭で考えて策を講じるべきではない。ただ誠の一字をもって、相手の心に小槌を打ち込む以外に方法はない

【一日一斎物語的解釈】
自分の行動や言動が引き金となったトラブルについては、弁解をせず、ただ自分の想いを素直に伝え、理解を求めるしかない。


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第1868日 「指導」 と 「肚落ち」 についての一考察

「雑賀、席を立つときは椅子をしまえって言ってるだろう!」

大累課長が雑賀さんを叱っています。

「はい、はい。そうでした、そうでした」

「てめぇ、馬鹿にしてんのか?!」

「もう、うるさいなぁ。次からちゃんとやりますから。じゃ、行ってきます」

「おい、雑賀! てめぇ!!」

「大累君、そんなに口やかましく言ったら逆効果になりまっせ」

「神坂さん、今の雑賀の態度を見ました? あいつ、完全に俺のことを舐めてますね」

「よかった。お前も部下に舐められているんだな。安心したよ」

「何を馬鹿なこと言ってるんですか?」

「俺も石崎には完全に舐められているからさ。同じ穴の狢が居てくれるとホッとするわけよ」

「傷をなめ合うのはやめましょうよ」

「でも、ひとつお前に自慢できることがあるぞ。ほら、我が営業2課のデスクをみたまえ!」

「おー、全員が椅子をしまって外出しているじゃないですか!!」

「ふふふ。どうだ、参ったか!」

「どうやって、これを実現したんですか? わかった! もし椅子をしまわずに外出したら査定を下げるとか、5分間スピーチをやらせるとか、罰を与えたんでしょう?」

「ゴン」

「痛てぇな、何するんですか!!」

「君、いつまでも俺を昔のパワハラ上司だと思うなよ。俺だって成長しているんだ」

「いま、俺をなぐったじゃないですか! 完全なパワハラですよ」

「あ、本当だ。いや、違う。パワハラ上司は卒業した。あとはパワハラ先輩を卒業できるかどうかだ」

「意味不明なこと言ってないで、どうやってメンバーに椅子をしまわせたのかを教えてくださいよ!」

「簡単だよ。まずは俺と山田さんの二人が率先して椅子をしまうことを実践したんだ。そして、もし椅子を出しっぱなしの奴がいたら、そっとしまうことを二人でやり続けた」

「よく我慢しましたね」

「かなり我慢したぞ。何度もさっきのお前みたいに吠えそうになったけど、その度に山田さんがアイコンタクトしてくれた」

「どのくらいでこうなりました?」

「約1年かな。善い行いというのは、まず上に立つ者が率先垂範しないとな。そのうえで、あまりガミガミ言わずに、椅子をしまうことの重要性をさりげなく語り続けるんだ。そうすれば、こうなるさ」

「なるほどな。あ、良いことを思いついた! 雑賀と話をして、二人でそれを実践してみます。そうすれば、奴もやらざるを得ないですからね」

「それは妙案かもな。問題は椅子をしまうことの意味を理解させることだな」

「そこなんですよ。神坂さん、そこはお願いします!」

大累課長が缶コーヒーを手渡したようです。

「なんだよ、安い報酬だなぁ。わかったよ、話してみよう」


ひとりごと

リーダーとして、メンバーを諭すときには、この心がけが重要です。

一方的に言いくるめたり、強制的に命令をしても、メンバーの行動は変わりません。

そういうやり方をすると、リーダーが見ている時だけ偽りの行動をするようになります。

必要性をいかに認識してもらうか、これは永遠の課題です。


【原文】
責善の言は、尤も宜しく遜(そん)以て之を出すべし。絮叨(じょとう)すること勿れ。讙呶(かんどう)すること勿れ。〔『言志晩録』第234条〕

【意訳】
人に善が備わることを求める言葉は、一歩下がった立場で言うべきである。くどくどと話したり、口うるさく言うことがあってはいけない

【一日一斎物語的解釈】
他人に善い行いを求めるときは、上からしつこく、口やかましく伝えてはいけない。それではかえって逆効果となる。


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第1867日 「叱責」 と 「成長」 についての一考察

神坂課長が善久君を叱っているようです。

「なぜ、他社の状況をしっかりと確認しなかったんだよ!」

「他社が来ていることを知らなかったので・・・」

「お前はいつもそうやって勝手に判断をするよな。自分は完璧だとでも思っているのか?」

「思っていません・・・」

「ここに来ての商談ロストは致命的だぜ。挽回する余地はあるのか?」

「・・・」

見かねた佐藤部長が声をかけたようです。

「神坂君、あとでちょっと来てくれる?」

善久君とのやりとりを終えた神坂課長は佐藤部長の部屋に入って行きました。

「参りました。このタイミングでAランクで読んでいた商談をロストですよ。善久のやつはいつも期末に商談を落とすんですよ」

「それなんだけどね。なぜ毎回同じことを繰り返すと思う?」

「えっ? それは・・・。私の言うことを理解していないからでしょうか?」

「叱られている善久君を客観的に見ているとね、下を向いているだけで、心の耳は塞がっているように見えたんだ」

「心の耳ですか?」

「神坂君の剣幕が凄いから、彼は怖いんだろうね。とにかく心を閉ざして、嵐が過ぎるのを待っている、そんな感じに見えたよ」

「私の話を聞いていないということですか?」

「他人を叱責するときは、やり過ぎないように。そう一斎先生は言っている。7〜8割程度にして、自暴自棄にならず、自分のミスを認めて改善しようと思わせるように仕向けなければ駄目だ、とね」

「私は完膚なきまでに叩き潰してしまっているのですかね?」

「これは相手にもよるよ。石崎君ならああいういい方でも、『ナニクソ』って思って、奮起するんだろう。でも、善久君はそういうタイプではないよね」

「たしかにそうですね。やる気を無くさせてしまっては、元も子もないですね」

「わかってくれるね」

「はい。ありがとうございます。それで、お願いがあるのですが」

「なに?」

「今回は、部長から善久に話をしてもらえませんか? この後、私が話をしても、やつの心はすぐには開かないと思うんです。次にこうした機会があったときは、しっかり意識して叱責するようにしますので」

「OK。こういう役割分担もチームには必要だね。では、今回は私が話をしよう」

「よろしくお願いします」


ひとりごと

この一斎先生のご指摘は心に刺さります。

小生は、この完膚なきまでに叩くタイプのリーダーでした。

メンバーは、話を聞くというより、嵐が過ぎ去るのをじっと待つという心境だったのでしょう。

叱責の目的は何か?

それは、メンバーの成長にあるはずです。

それを忘れてしまえば、ただ人間関係を悪くするだけで終わってしまいますね。


【原文】
人の過失を責むるには、十分を要せず。宜しく二三分を余し、渠(かれ)をして自棄に甘んぜず、以て自ら新にせんことを覔(もと)めしむべくして可なり。〔『言志晩録』第233条〕

【意訳】
他人の過失を責める際は、やり過ぎないことだ。7~8割程度の指導に留め、その人が自暴自棄になることなく、気持ちを新たにして改善ができるように指導していけばそれで良い

【一日一斎物語的解釈】
他人の過失を責め過ぎてはいけない。叱責の目的は、その人の成長を促すことにあることを忘れてはいけない。


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第1866日 「田んぼ」 と 「苗」 についての一考察

今日の神坂課長は休日をゆっくり自宅で過ごしています。

リビングで妻の菜穂さんと会話をしているようです。

「今日は珍しく出かけないのね?」

「たまにはな。家でゆっくり競馬と競艇を観戦しようかなと思ってる」

「そうか、今無観客でやってるから、競馬場や競艇場へ行けないのね」

「そういうこと」

「ギャンブルで借金とかしてないでしょうね?」

「その辺はちゃんと弁えていますから。だいたい俺の競馬歴はもう20年以上だぜ。今更そこまでハマらないよ」

「それなら良いけど」

「ちょっと真面目な話をするけどさ」

「なによ」

「こんなダメな父親の息子にしては、二人ともまともに育ったなと思って。それはみんなお前のお陰だと思って感謝しているよ」

「あら、どうしたの突然。わかった、お小遣いが欲しいのね?」

「素直じゃないねぇ。せっかく俺が本心から言ってるのにさ」

「だってそんなこと言われたことないもん!」

「この前な、ある本に書いてあったんだよ。子供にとって父親は種で、母親は田んぼのようなものだって」

「どういうこと?」

「つまり、息子は父親の才能を継承して生まれて来るけれど、それを活かすも殺すも母親次第だ、という意味だよ」

「勇に才能があったっけ?」

「まあ、そこは置いとけよ。要するに、菜穂という田んぼがシッカリしていたから、息子二人の苗はスクスクと成長してくれたということだよ」

「そんなこと言われたことないから、恥ずかしいわ」

「感謝してるよ」

「よし、今日は勇の好きなおかずを作ってあげよう!」

「おー、それはありがたい。いつも無視され続けているからな」

「だって、何が食べたいか聞いたら、だいたいカレーかハンバーグっていうじゃない」

「そのハンバーグが食べたいんだけど」

「わかったわ。今日はハンバーグにします。息子二人も、食の好みは父親とまったく一緒だからね」

「あざーす!」


ひとりごと

この一斎先生の言葉は、現代においてはやや時代錯誤と言われてしまうかも知れません。

しかし、平均的に言えば、現代日本においても、子供が接する時間は父親よりも母親の方が多いでしょう。

そういう意味では、子供の成長に母親の果す役割は依然として大きいと言えそうです。

世のお母さんは、自分は田んぼだと思って、息子という苗を育ててください。


【原文】
人の生るるや、父の気は猶お種子のごとく、母の胎は猶お田地のごとし。余、年来人を閲(けみ)するに、夫の性厚重にして、婦は順良或いは慧敏(けいびん)なれば、則ち生子多く才幹有り。夫は才幹有りと雖も、而も婦は暗弱或いは姦黠(かんかつ)なれば、則ち生子多く不才或いは不良なり。十中の八九是(かく)の如し。然れども未だ必ず然りとは謂わず。〔『言志晩録』第232条〕

【意訳】
人が生まれる際、父の気質はまるで植物の種子のようで、母の胎内は田地のようである。私は、長きに渡り人を観察してきたが、夫の性がどっしりと落ちついており、妻はおとなしく素直であるか、あるいは聡明でてきぱきと働くようであれば、その子供は多くはゆたかな才能を備えている。夫が才能ゆたかであっても、妻がおろかで気が小さく、よこしまで悪賢いようであると、その子供の多くは才能に乏しいか性質の良くない子供となる。十のうち八か九はそのとおりであるが、必ずそうだとも言い切れない

【一日一斎物語的解釈】
子供の能力形成において、母親の役割は非常に重要である。


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