今日の神坂課長は、自宅で昼食を食べているようです。
「久しぶりにペヤングソース焼きそばを食べたけど、シンプルな味付けでいいな」
「俺はUFOの方が好きだな」
次男の楽君です。
「マジで? お前、濃い味に慣れすぎなんじゃないの。この素朴な味の良さがわからないかねぇ」
テレビからはCOVID-19に関するニュースが流れています。
「いろいろな人が出てきて、好き勝手なことを言ってるから何がホントのことかがわからないよね?」
「ドクターといっても、感染症が専門ではない人もかなり発言しているからなぁ。惑わされない方がいいぞ」
「違うものなの?」
「そりゃ、それぞれのスペシャリストだからね。今は感染症を専門に扱う人たちの意見を尊重すべきだとは思うよ」
「これだけ情報があると、病院に行っても担当の先生の意見を信用できなくなっちゃうなぁ」
「一旦病気になって、主治医の先生が決まったら、すべてをその先生に任せるべきだよ」
「ネットと違うことを言っていても?」
「仮に新型コロナウィルス感染症に罹ったとしても、症状は人それぞれなんだ。誰にでも効くような特効薬はまだ出てきていないし、一番症状を把握している目の前の先生に任せるのが一番安心なんだよ」
「俺の友達のお母さんは、ちょっと症状が良くならないとすぐに医者を変えたがるらしいよ」
「そういうのは一番良くない。診察の途中で変わられるのはドクターも困るだろうし、逆に途中で来られた新しいドクターだって、その患者に不信感を持つよな」
「なんで?」
「また、自分のところも途中で逃げ出すんじゃないかってさ」
「ああ、そうか。それだと、ちゃんと診てもらえないかもしれないね」
「ドクターも人間だからな。患者さんが信頼してくれていれば、より誠意をもって診断し、治療にあたってくれるんだよ」
「じゃあ、俺は一回病院に行ったら、そのお医者さんを信用するよ!」
「その方が治りも早いぞ。病は気からとも言うだろ。この先生に任せれば安心だと思っていれば、病気も早く良くなるぞ」
「本当?」
「間違いない! それが『誠』ってやつなんだ」
「まこと?」
「そう。患者が医者を信頼し、医者が患者を信頼する。そういう心を『誠』って言うのさ」
「あ、そういえば俺の友達に、『まこと』って名前の奴がいるよ」
「ほう、どういう字を書くんだ」
「『磨己人』っていう難しい字」
「すげぇ名前だな。でも、意味を考えるとなかなか博のある親かも知れない。己を磨く人になれってことだろ?」
「そうなの? そいつに名前の意味を聞いたら、よくわからないと言ってた」
「そりゃ完全に名前負けだな」
ひとりごと
病気に罹ったら、ネットの情報に惑わされることなく、主治医の先生を信頼しましょう。
間違いなく、病状をしっかりと把握して、その人にとって最適の医療を提供してくれるはずです。
まずこちらが相手を信頼する。
それが相手から信頼を得るための最も確実な道なのです。
そして、それを誠と呼ぶのです。
【原文】
事を做すには、誠意に非ざれば、則ち凡百成らず。疾(やまい)に当たりて医を請うが如きも亦然り。既に托するに死生を以てす、必ず当に一に其の言を信じて、疑惑を生ぜざるべし。是の如くば則ち我れの誠意、医人と感孚(かんぷ)して一と為り、而して薬も亦自ら霊有らん。是(これ)は則ち誠の感応なり。若し或いは日を弥(わた)り久しきを総て未だ効験を得ずして、他の医を請わんと欲するにも、亦当に能く前医と謀り、之をして其の知る所を挙げて、与(とも)に共に虚心に商議せしむべくして可なり。是の如くにして効無くんば則ち命なり。疑惑すべきに非ず。然らずして、衆医群議し、紛錯(ふんさく)決せず、室を道に築くが如きは、則ち竟に是れ益無きのみ。〔『言志晩録』第271条〕
【意訳】
人がなにか事を為す際に、誠がなければどんなことでも首尾よくいかない。病気になって医者に診断をしてもらうときも同じである。自分の死生を委ねるのであるから、とにかくその医者の言葉を信じて、疑いを持たないことである。そうすれば自分の誠が医者の誠と呼応して一つとなり、薬も効能を発揮するであろう。これは誠同士の感応なのだ。もし数日経過しても病状に変化がないようであれば、別の医者に診てもらいたいと思っても、まずは最初の医者とよく相談をして、把握していることを話してもらい、共に腹を割って協議するようにさせるべきである。こうしても効果がないようであれば、それは運命というものだ。医師に疑念を抱くものではない。そうではなくて、医者同士が集まって協議をし、結論が出ぬまま紛糾し、路傍の人に家を建てる相談をするような状態では、結局何の意味もなさないであろう。
【一日一斎物語的解釈】
病気になったら、担当する医師を信頼し、すべてを任せることだ。氾濫するネット上の情報に惑わされて、医師を疑うなどもってのほかである。

