営業2課の善久君が神坂課長に商談の相談をしているようです。
「院長先生は、新しい内視鏡が欲しいと言っているのですが、正直に言ってオーバースペックな気がします」
「ワンランク下の機種は紹介したのか?」
「いえ、上位機種が欲しいと言うので紹介はしていません」
「年間の検査数はどれくらいなんだ?」
「たぶん、150件くらいだと思います」
「それだと、5年でもペイできないな」
「はい」
「上位機種だと1千万円、下位機種だと4百万円。金額が倍以上違うわけだな」
「私にとっては大きな商談です」
「で、お前はどっちが売りたいんだ?」
「そう聞かれると、やっぱり上位機種が売りたいです。けど・・・」
「ご施設のことを思うと、正しい商売ではないと思うんだな?」
「そうなんです。課長はどうすべきだと思いますか?」
「お前に任せるよ」
「えっ?」
善久君はじっと考え込んでいます。
「わかりました。下位機種も紹介した上で、正直に私の気持ちを伝えます」
「善久、ありがとう。お前が自分でそう判断してくれたのがうれしいよ。自分の売上という我欲に負けずに、お客様にとってベストの提案をする。それが真の営業人だからな」
「はい。課長がいつもその話はしてくれていますので、それが正しい選択肢だと理解できます」
「まあ、それでももし院長先生が上位機種が欲しいというのなら、それはそれでありがたいことだからな」
「はい。正直に話をしたうえで、そちらを選んでいただけるなら、喜んで買っていただきます」
「ちょっと期待してるだろう?」
「はい、そうだったらいいなぁとは思います。でも、下位機種を買っていただくことになっても、全力でサポートします!」
「善久、お前も成長したな」
「はじめて課長に褒められました」
「それは大袈裟だろう。今までだって褒めたはずだぞ」
「でも、褒められてこんなにうれしいのは初めてです」
「明日の結果がどうなろうと、お前のステージがひとつ上がったことは確かだ。自信をもって営業の道を突き進め!!」
ひとりごと
営業という仕事をしていて、時々直面するのが今回のストーリーのようなケースです。
このとき自分の我欲に負けて、損得を判断基準としてしまうと、お客様のことを考えない自分勝手な提案となってしまいます。
常に判断基準はお客様にとってベストもしくはベターな提案となっているかどうかです。
その判断軸を持っていれば、末永いお付き合いが可能となるのです。
【原文】
真の己を以て仮の己に克つは天理なり。身の我れを以て心の我れを害するは人欲なり。〔『言志耋録』第40条〕
【意訳】
真の自己が仮の自己に打ち克つのは天の道理である。また肉体の私が心の私を害するのは我欲があるからである。
【一日一斎物語的解釈】