一日一斎物語 (ストーリーで味わう『言志四録』)

毎日一信 佐藤一斎先生の『言志四録』を一章ずつ取り上げて、一話完結の物語に仕立てています(第1066日目より)。 物語をお読みいただき、少しだけ立ち止まって考える時間をもっていただけたなら、それに勝る喜びはありません。

2020年08月

第2018日 「敬」 と 「誠」 についての一考察

今日のことば

【原文】
坦蕩蕩(たんとうとう)の容(かたち)は常惺(じょうせいせい)の敬より来り、常惺惺の敬は活潑潑(かっぱつぱつ)の誠より出ず。〔『言志耋録』第92条〕

【意訳】
心が平らかで伸びやかな様子というのは、常に心が覚醒して明らかとなっている敬の気持ちが築き上げ、常に心が覚醒して明らかな敬とは心が生き生きと息づいている誠から生じている

【一日一斎物語的解釈】
周囲の人からみて、泰然としている人というのは、常に人を敬い、自らを慎む心が形となってあらわれているのだ。そして、その敬し慎む心は、自らの誠から生じているのだ。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、N鉄道病院名誉院長の長谷川先生を訪れたようです。

「先生、ご無沙汰しておりました。この時期にどうかとは思いましたが、お顔を拝見したくで、お邪魔させていただきました」

「ははは。こんな老人の顔を見ても仕方がないでしょう?」

「いえ、先生のお顔を拝見すると、なぜか心が落ち着くんです」

「ほぉ、私の何が神坂君を落ち着かせるのかなぁ?」

「実は、佐藤一斎先生の『言志四録』の中に、『傍からみてゆったりとしている人というのは、敬の心がそうさせていて、その敬の心というのは、己の誠から生じている』というのがあったんです。これを読んだときに、真っ先に私の脳裏に浮かんだのが長谷川先生でした」

「それは過分な褒め言葉だね」

「先生は、それこそ世界中のドクターから尊敬を集めていらっしゃいますが、先生自身も常に人を敬い、慎みの心をお持ちなんですよね?」

「そうだねぇ。私が得意とするのは、大腸癌に関する診断と治療の研究だけだよね。とても狭い範囲のスペシャリストなんだ。それ以外に関しては、素人だからね。他の分野で素晴らしい活躍をされている人をみれば、素直に尊敬の気持ちは湧いてくるもんだよ」

「やっぱりそうなんですね。私みたいなちっぽけな人間は、相手が何かで優れていると聞いたら、その人を尊敬する前に、『俺だって、この分野なら負けないぞ』という競争心が先に出てしまうんです。だから、素直に人を尊敬できないんですよね。でも、結局そのせいで、人から尊敬されないんだ、ということに気づかされたんです」

「なるほどね。素晴らしい気づきだよ。やっぱり素直に人を観る目を養った方が、人生はうまくいくもんだしね」

「はい。もう一つ、一斎先生から学んだことは、そういう風に他人を尊敬できる人というのは、結局、自分に嘘をつかない人だということです。それが誠ということなんですね?」

「神坂君は成長したねぇ。私は、人間という生き物は、いくつになっても成長できるということを君から教えてもらったよ。40歳を超えてからの神坂君の成長には目を見張るばかりだよ」

「ありがとうございます。やっぱり長谷川先生に褒められると、めちゃくちゃ嬉しいです。結局、褒めてもらいたくてここに来たのかなぁ? 見返りを求めているようでは、まだまだですね。(笑)」


ひとりごと 

誠という言葉は、死後になりつつあるのでしょうか?

私にも誠という名の親友がいますが、最近の若い人にはこの「誠」という名前は聴かなくなりました。

人間の徳目の根源は、誠にあります。

誠とは、言葉を変えれば忠信となります。

つまり、他人にも自分にも嘘をつかないことを言うのです。

誠を失えば、人類は滅びてしまうのではないでしょうか?

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第2017日 「慎独」 と 「人生の主体」 についての一考察

今日のことば

【原文】
居敬の功は最も慎独に在り。人有るを以て之を敬するならば、則ち人無き時は敬せざらん。人無き時自ら敬すれば、則ち人有る時は尤も敬す。故に古人の「屋漏にも愧じず、闇室をも欺かず」とは、皆慎独を謂うなり。〔『言志耋録』第91条〕

【意訳】
常に敬する心(敬い慎む心)を保つ工夫は慎独にある。人が居るときだけ慎むならば、人がいない時には慎まなくなるであろう。人が居ない時に慎むならば、人の居る時には当然のように慎むはずである。 たとえば『詩経』に「屋漏に愧じず(人が見ない所でも恥じる行動をしない)」とあり、程子が「闇室を欺かず(暗い処でも良心を欺くことをしない)」と言うのは、みな慎独のことを言っているのである

【一日一斎物語的解釈】
人を敬する心を養う最善の工夫は、慎独にある。人が見ていないときに、他人を敬い、自分自身を慎むことができたなら、そこに「敬」の心は完成する。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、A県立がんセンターの多田先生のところにいるようです。

「先生、さっき階段に紙屑が落ちていたのですが、他人が見ていないときでも落ちているゴミを拾うというのは難しいことですね」

「誰も褒めてくれないからな。結局、見返りを求めているうちは、慎独を実行することは難しいんだ」

「たしかに、人間って誰かに褒めてもらうのが好きですよね」

「そうだな。しかし、褒めてもらうということも、自分の行為の見返りとして要求しているわけだよな。その気持ちを捨てられるかどうかだよ」

「やっぱり独りを慎むというのは、並大抵のことじゃないんですね」

「他人の目を意識しなくならない限り、慎独は積めないからな」

「他人の目を意識せず、見返りを求めず、ただ自分が正しいと信じた道を行く。カッコいいけど、難しいですねぇ」

「そうやって独りを慎む工夫を続けていると、人の悪い点より良い点が見えるようになる。そうすれば、その人を敬う気持ちが生まれるだろう」

「はい」

「そうやって自然に周囲の人に対する敬意を表すようになると、いつしか自分自身が尊敬される人になるんだよ」

「なるほど。私が部下から尊敬されないのは、自分自身が皆に敬意を払っていないからなんですかね?」

「そういうもんだよ。他人を尊敬できない奴を誰が尊敬すると思う?」

「そのとおりですね」

「たとえ後輩であろうとも、自分より能力が高い奴がいれば、それを認めて敬意を払うべきだ。特に医者というのは、科学者であり、技術者でもある」

「はい」

「そういう人間を束ねていくには、技術力だけでなく、人間力を高めていく必要がある。それには慎独が最適なんだよ。しかし、勘違いするなよ。慎独というのは、人が見ていないときに特別なことをするわけではない。そばに人が居ようと居まいと、普段通りに行動することが重要なんだ」

「はい。私はやっぱり人目が気になりますが、これからはそこからの脱却をテーマに過ごしてみます」

「頑張れ、と言いたいところだが、俺は今のままの馬鹿で真っ直ぐなお前が好きだけどな」

「先生、せっかく精進しようと思っているのに、せっかくの気勢を殺がないでくださいよ~!」


ひとりごと 

ストーリーの中にも書きましたが、慎独というのは、何か特別なことを実施するわけではなく、人前であれ独りであれ、常に変わらずに自分のやるべきこをとやり続けることを言うのでしょう。

他人の目を気にして生きることや、見返りを期待して生きていては、人生の主体を他人に譲ることになってしまいます。

人生の主役は自分であることを心に刻み、自分の意志で人生を切り開きたいですよね。


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第2016日 「緊張」 と 「良績」 についての一考察

今日のことば

【原文】
敬する時は、身強健なるを覚ゆ。敬弛めば則ち萎苶(いでつ)して、或いは端坐する能わず。〔『言志耋録』第90条〕

【意訳】
敬の心を発揮しているときは、自分の身体までが強く健やかになったように感じるものだ。逆に、敬の心がゆるむと、身体がなえしぼんで、しっかりと座ることすらできなくなる

【一日一斎物語的解釈】
敬すると心に緊張感を呼び起こし、身も引き締まる。逆に、敬する心を失うと、身も心も弱ってくる。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、ご満悦の表情でネットニュースを見ているようです。

「神坂課長、すごく嬉しそうですね」
石崎君が声を掛けたようです。

「そりゃ、そうだろう。菅野がまた完封で、虎軍団に1対0で勝利だぞ。爽快極まりないじゃないか!」

「やっぱり、それですか。(笑)」

「超一流の投手というのは、1対0のような僅差で勝っている時の方が、アドレナリンが出て好投するもんだよな」

「相手が阪神というのも、あるんじゃないですか? 伝統の一戦ですから」

「たしかにな。菅野の中に阪神に対する敬意があるんだろう。相手を敬うからこそ、ピリッとした緊張感をもって勝負できる。その結果、身も心も引き締まるんだろうな」

「それでアドレナリンが出るんですね。営業マンも同じですかね?」

「それはあるかもな。ポンコツの同業さんと競合するより、やり手のライバルと戦う方が燃えるし、ときに良いアイデアが浮かぶもんな」

「ということは、神坂課長も超一流ということですか?」

「お前、今頃何を言ってるんだよ。そんなの当たり前じゃないか。しかし、ジャイアンツの若手投手は幸せだよ。球史に残る名投手の投球を間近で見て学べるんだからな」

なぜかニヤニヤしながら、石崎君を見つめています。

「あっ、そういうことですね。はい、私もとっても幸せです。神坂課長という超一流の営業マンの仕事を間近で見れるんですから」

「棒読みだな。まったく感情が入ってないじゃないか」

「課長、『敬』という字には「うやまう」という意味の他に、「つつしむ」という意味があると、以前に仰ってましたよね?」

今度は、ニヤニヤしながら石崎君が神坂課長を見つめています。

「あっ、そういうことか。そうだな、俺は幸せだよ。優秀な部下がいつもサポートしてくれるからな」

「課長の方が棒読み度が強いですよ。(笑)」


ひとりごと 

緊張感をもって仕事をすることは大切ですね。

緊張するからこそ、身も引き締まり、頭もフル回転するので、良い結果が出やすくなります。

ただし、緊張しすぎると、身体がこわばり、結果も芳しくないものに終わります。

やはり、緊張感を適度に保つための秘訣は、しっかり準備すること。

これに優るものはありません。


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第2015日 「活敬」 と 「死敬」 についての一考察

今日のことば

【原文】
敬は須らく活敬を要すべし。騎馬馳突(ちとつ)も亦敬なり。彎弓貫革(わんきゅうかんかく)も亦敬なり。必ずしも跼蹐畏縮(きょくせきいしゅく)の態を做さず。〔『言志耋録』第89条〕

【意訳】
敬は活き活きした行動的の中で発揮することが必要である。騎馬で疾走し突進するときにも敬を発揮し、弓を引き絞り敵の甲冑を射抜くときにも敬を発揮する。必ずしも、天を畏れて背をかがめ、恐れて萎縮するばかりが敬ではない

【一日一斎物語的解釈】
敬するとは、ペコペコ頭を下げることではない。堂々とした態度の中に相手への経緯と慎みの念を抱くことが大切である。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、営業2課の石崎君とクレーム処理に訪れたようです。

「石崎、お前、ちょっとペコペコし過ぎだぞ」

「でも、中身が空っぽの状態で納品してしまったんですよ。恐縮するに決まってるじゃないですか!」

「もちろん、ご迷惑をかけたという点では、お詫びする気持ちは必要だ。しかし、もう少し毅然とした態度で接して欲しいな」

「常にお客様に敬意をもって接しろ、って課長はよく言っているじゃないですか!」

「本当に人を敬うということは、相手も立て、自分も立たないとダメだ。お前のさっきの態度は、いわゆる慇懃無礼ってやつだよ」

「納得できないですよ! しっかり謝ったのに、私のどこがいけないんですか!」

「お詫びは、一度深々と頭を下げればいいんだ。お前みたいに何度も何度もペコペコするのは、みっともないだけだ」

「酷いですよ、『みっともない』なんて、そこまで言わなくても・・・」

「大事なことは、しっかりとお詫びした後に、具体的にどう行動するかだ。謝って終り、という問題ではないだろう」

「それはそうですけど、ちゃんと謝らないと話が先に進みませんよね?」

「だから、一度しっかりと頭を下げて、お詫びの言葉を言えばいいんだ。後は、再発防止をどう徹底するかだ。メーカーさんは出荷時の検査の個数を増やすと言っている。そして我々も、事前確認をしっかりやる。目視にプラスして、ちょっと持ち上げてみる程度しかできないけどな」

「それと交換品をすぐに手配することですね?」

「そのとおり。一番の問題は、検査を止めてしまうことだ。もしかしたら、患者様に帰宅してもらわなければいけないかも知れない。今回は予備があったから、事なきを得たけどな」

「はい」

「謝罪は必要だ。でも、一番お客様が望んでいることは、早く正常な商品をお届けすることと、再発防止策を徹底することだからな」

「まだ、なんとなく腹に落ちませんけどね」

「たとえばお前は、深々とお辞儀をされて謝罪されるのと、頭をペコペコ何度も下げて謝罪されるのとでは、どちらに誠意を感じる?」

「まあ、それは深々とお辞儀をする方でしょうね」

「それは何故だと思う?」

「さあ? なぜでしょう?」

「敬意を感じるからだよ。ペコペコしていると、その場をなんとかやり過ごそうという意識を感じてしまうから、敬意を感じることはできないんだよ」

「なるほど。もっと威厳があった方が、かえって敬意を感じるんですね? 意識してみます!」


ひとりごと 

最近は見なくなりましたが、かっては、電話機に向かってペコペコと頭を下げながら電話をしているサラリーマンがいましたね。

当時は、子供心に、みっともないな、と思ったことを思い出します。

活きた「敬」を発揮しなければ、誠意は伝わらないでしょう。

皆様もお気をつけください。


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第2014日 「災祥」 と 「根源」 についての一考察

今日のことば

【原文】
災祥(さいしょう)は是れ順逆の数、弔賀は是れ相待の詞、之を本始に帰すれば、則ち弔賀も無く、又災祥も無きのみ。〔『言志耋録』第88条〕

【意訳】
災いとめでたいこととは物事の順逆であり、弔いごととお祝いごとというのは相対する一対の事柄である。根源まで突き詰めれば、弔いごともお祝いごともなく、災いもお目出度いこともない

【一日一斎物語的解釈】
善き事の先に災いがあり、弔いごとの先に祝いごとがある。吉凶の根源は一に帰する。


今日のストーリー

神坂課長が朝刊を読んでいるようです。

「おいおい、このまま行くと今年のGDPは年率換算でマイナス27.8%だってよ!」

「リーマン直後のときでも、マイナス17.8%だったそうですよ。日本は大丈夫ですかね?」

大累課長もネット記事を見て同調しています。

「このタイミングで、安倍さんが検査で病院に入った、っていう記事も流れてますよ!」

「おいおい、まさかここでケツをまくるつもりじゃないだろうな?」

「体調を万全にするための検査となっていますが、どの記事も『病院に入った』と書いてあって、入院と書いていないところが微妙ですね」

「あの人は、元々UC(潰瘍性大腸炎)を持っている人だからな」

「体調を崩しているという噂はずっとありましたよね。ここで指導者が斃れたら、ますます日本は窮地に追い込まれますよ」

「しかし、一斎先生は、『吉凶の根源は同一だ』と言ってるからな。この世界的な危機の根源をしっかりと見つめ直して、経済を回しながら、疾病対策をとるべき時期に来ているんじゃないか?」

「O村さんも緊急事態宣言を出している場合じゃないですね。このままだと今期の後半は医療機器の買い控えが相当進みますよ、きっと」

「こんな記事が出たら余計にそうなるな。松下幸之助さんは、『不況またよし』と言ったらしい。いろいろな意味で今までのやり方を総点検して、ウィズ・コロナを真剣に考えないとな」

「こんな最悪の状況でも、この先に明るい未来は本当にやってくるんですかね?」

「ただ待っていたら来ないよ。みんなで知恵を絞って行動しないと。ただステイ・ホームしているだけでは、経済は回復しない」

「難しい判断を迫られますね」

「そこで安倍さんにはリーダーシップを発揮してもらわないとなぁ。逃げたわけじゃないと信じたいけど、前科もあるからな」

「来年の今頃は笑ってオリンピックを応援していたいですよね!」

「そうなるように、俺たちに何ができるか考えよう!!」


ひとりごと 

いよいよ日本経済も深刻な局面に入ってきたようです。

ここからは、感染対策と経済活動をいかにバランスを取っていくかが極めて重要になります。

災いも慶事も根源がひとつだとするなら、今こそこの状況をしっかりと捉え直して、各自ができることに取り組むしかありません!!


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第2013日 「苦楽栄辱」 と 「人生の呼吸」 についての一考察

今日のことば

【原文】
寒暑・栄枯は天地の呼吸なり。苦楽・栄辱は人生の呼吸なり。即ち世界の活動たる所以なり。〔『言志耋録』第87条〕

【訳文】
寒暑や栄枯盛衰は天地の呼吸のようなものである。苦楽や栄誉恥辱は人生の呼吸のようなものである。それはすなわち世界が活動している証拠といえるのだ

【一日一斎物語的解釈】
どんな楽しい出来事も、どんな辛い出来事も、長い人生の一呼吸に過ぎない。それらすべてが生きている証なのだ。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、YouTube動画で「孔田丘一の儒学講座』を観ているようです。

「このクソ暑い中でも、まだお迎えが来ないから、今日も暇つぶしに動画を配信します。これを観ているアンタも相当ヒマなんだろうねぇ」

「やかましいわ、COVID-19で外に出れねぇんだから、仕方ないだろ!」

「どうせコロナで外出できないとかなんとか言って、コロナを怨んでるんじゃろうな。しかし、これもまた天地の呼吸に過ぎんのじゃよ、諸君! まあ、この場合は天が病に罹ったという感じかな。ガッハハハ」

「なにが面白いんだよ!」

「このクソ暑いのも、冬に寒くなるのも、また物事が栄枯盛衰を繰り返すのも、すべては天地の呼吸なんじゃ。そして、人間にも苦しい時期もあれば、絶好調の時もある。これもまた人生の呼吸のようなものなんだ」

「なるほど」

「いいか、諸君。世界が動いているから栄枯盛衰がある。人は活動するからこそ、栄誉恥辱があるんじゃ。だからって立ち止まってはいかん。前に進みなさい。後ろに下がったところで、何も解決はしないんだから」

「今、すごくつらい時期にある若者もおるじゃろう。しかし、自分の命を粗末にしてはいかんよ。アンタの体のすべては、貴いご両親からの贈り物であり、いわば父母の遺体ともいえるものだ。大切にお預かりして、寿命とともにお返しするのが真っ当な生き方なんだ」

「相変わらず口は悪いけど、良いことを言うんだよな」

「生きて居れば、また必ず良いこともある。もちろん、また辛いことにもめぐり会うじゃろう。それはすべてがアンタの人生の一呼吸なんじゃよ。そして、人間は呼吸をしなければ生きていけないように、辛い経験もなければ、人生に深みが出んのだ。味わい深い人生を生きたいのなら、苦労に立ち向かい、逆境に飲み込まれなさい。そして、また這い上がりなさい!」

「この爺さん、今日はやけにアツいな」

「少し前に、有名な俳優さんが自殺したじゃろ。わしはああいうことが残念でならないんだよ。とても辛い経験をしたのだろうとは思うよ。でもね、それは長い人生においては、たった一呼吸の出来事なんだよ」

「俺もそう思う」

「諸君、逆境を楽しもう。その先にはまた楽しいことも待っているんだからな。さて、そろそろ終わるとするかな。これ以上話していると、わしが辛くなってくる。諸君、自分の体を傷つけてはいけないよ!」

「・・・。なんだか、今日はドンと来たな。そうか、今日はお盆の時期だもんな。あの爺さんの親族にも戦争で命を落とした人がいるのかもな。よし、明日からまた仕事だ。逆境を楽しんでやろうじゃないか!!」


ひとりごと 

この「苦楽・栄辱は人生の呼吸なり」という言葉は、『言志四録』全1133章の中でも、名言の部類に入る言葉ではないでしょうか。

どんな楽しいことも、どんな辛いことも、長い人生の中の一呼吸に過ぎない。それこそ、生きている証なんだよ。

だから、そんなことに一喜一憂せずに、前を向いて進みなさい。生きていることに価値があるのだから。

そんな風に一斎先生が語っているように感じます。


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第2012日 「不易」 と 「流行」 についての一考察

今日のことば

【原文】
古人、易の字を釈して不易と為す。試みに思えば晦朔(かいさく)は変ずれども而も昼夜は易らず。寒暑は変ずれども而も四時は易らず。死生は変ずれども而も生生は易らず。古今は変ずれども而も人心は易らず。是れ之を不易の易と謂う。〔『言志耋録』第86条〕

【意訳】
古人(漢の鄭玄)は易を不易(易簡・変易を加えて易の三義という)だと解釈した。試しに考えてみると、暦は晦(つごもり)からついたち)へと移り変るが、昼と夜は変わらない。寒暑は変って行くが、春夏秋冬は常に順番どおりに繰り返される。ひとりの人間は生まれていつかは死ぬが、次々に新たな生が生まれて来ることは変らない。昔と現在で時間は異なるが、人間の心は易わらない。これを不易の易というのだ

【一日一斎物語的解釈】
変化の中にも一定の法則がある、これを不易という。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、相原会長と zoom 飲み会をしているようです。

「相原会長、ご無沙汰しています。こんな形ですみません。本当はお伺いしたいんですけど・・・」

「コロナに感染したらイチコロだからね!」

「そういうわけじゃないんですけど、やっぱり高齢の会長のところには行きづらくて」

「こうして気にしてくれるだけ、うれしいよ。どう調子は?」

「その質問は?」

「あ、もちろん競馬と競艇ね。神坂君は私のギャンブルの師匠だから」

「それ、奥様とかはどう思われているのでしょうか? うちの主人に変なことを教えて、けしからん社員だと思ってないですか?」

「あ、思ってるみたいだよ」

「あー、ますます会長のご自宅には行きづらい」

「ははは。冗談だよ。それにしても歴史は繰り返されるんだね。スペイン風邪とかSARSとか次々に新しいウィルスが生まれて、そのたびに多くの人の命が失われていくんだね」

「日本では死亡者数はそれほどでもないですけど、世界的にはとんでもない数になっていますね。たしかに、ウィルスはその都度違いますが、まるで定期的に流行がやってくるようですね」

「不易流行だね」

「なんですか、それ?」

「世の中には変わらないものと変わるものがある。実は変化のなかに不変のものがあったりするんだよ」

「ああ、そういうことですか。たしかに、そうですね。今回のCOVID-19が沈静化しても、またいつか新しいウィルスが生まれてくるんでしょうね」

「そう。疫病の流行は歴史的にも何度も繰り返されているからね。かつては、それは君主の不徳の致すところだとされた。それで歴代の天皇は、般若心経を書いて寺社に奉納したりしているんだよね」

「今となっては非科学的な気もしますが、しかし、もしかするとそうなのかも知れませんね。私たちは宇宙の摂理の中で生かされているらしいですから」

「うん。それにギャンブルで大損をする人も性懲りもなく、沢山いるよね」

「勝てるわけないのに、ですね」

「わかっちゃいるけどやめられない!ってやつだね」

「さて、会長。メインレースが始まりますよ。動画はうまく共有できるかな? お、できたかな。会長、動画観れますか?」

「うん、観れる。さあ、また無駄遣いを楽しもう!」


ひとりごと 

どれだけ化学が進歩しても、意外と人の心は変わらないものです。

二千五百年前の孔子の時代も、現代も、人間は同じように人間関係に悩み、同じように出世に躍起となっています。

特に人間の心というものが、一番成長の速度が遅いのかも知れません。


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第2011日 「酷暑」 と 「学び」 についての一考察

今日のことば

【原文】
春風以て人を和し、雷霆(らいてい)以て人を警め、霜露(そうろ)以て人を粛し、氷雪以て人を固くす。「風雨霜露も教えに非ざる無し」とは、此の類を謂うなり。〔『言志耋録』第85条〕

【意訳】
春風のように人と相和し、雷鳴と稲妻のように人を戒め、霜や露のように人の心を引き締め、氷雪のように人の心を堅固なものとする。『礼記』にいう「風雨霜露も教えに非ざる無し」とは、こうしたことを言うのである

【一日一斎物語的解釈】
どんな事象も学びにできないものはない。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、行きつけの喫茶店の個室を借りて読書をしてるようです。

「しかし、暑いなぁ。チャリンコで来たのは大失敗だ。Tシャツがびしょ濡れだよ」

しばらく涼んでいると注文したアイスコーヒーのLサイズが運ばれてきました。

「デカ! マスター、これはデカいねぇ」

「500mlだからね。でも、汗かいているし、これくらいでちょうど良いんじゃないの?」

「たしかに。たぶんこれでも足りないから、後でお替りよろしくね!」

マスターが部屋を出たので、神坂課長はマスクを外したようです。

「今年は暑さに加えて、このマスクがなぁ。さて、勉強、勉強」

今日も『言志四録』を取り出したようです。

「なるほど、春風も雷鳴も霜も雪もすべて人間の態度に置き換えてみれるわけか。まてよ、だとすると、この暑さはどう考えればいいんだ?」

「ダメだ、暑いという言葉からは、どうしても修造が浮かんでくる。まてよ、それでいいのか? 修造のように、やたらポジティブに人の背中を押せ、という解釈でもいいか?」

「いや、しかし俺が修造のノリで石崎とかに話しかけたら、確実に無視してくるか、露骨に嫌な顔をするんだろうな」

「本当は春風のように接したい気持ちはあるんだけど、いまさらキャラ変更したら、みんな戸惑うだろうなぁ」

そのとき、携帯電話が鳴りました。

「あれ、会社の携帯じゃないか、誰だ? うわぁ、石崎か、またトラブルでも起きたのか? はい、もしもし」

「あ、神坂課長。お休みのところすみません。実は・・・」

その日の朝、内視鏡のデモで検査に立ち会った際に、内視鏡画像の色調整ができず、そのまま検査を実施してもらったようで、ドクターがご立腹だという話でした。

神坂課長は、今後の対応についてアドバイスをしたようです。

「これからもう1例あるんだよな。とりあえず、それで様子をみてくれ。石崎、お前なら大丈夫だ! 逆境に感謝しよう。ありがとう、逆境!」

「はい、やってみます」

「あれ?」

「なんですか?」

「いや、今さ。松岡修造を意識して暑苦しくポジティブに話しかけてみたんだけど、気づかなかった?」

「え? いつもの神坂課長と何も変わりませんでしたけど・・・」

「マジか! 俺はもともと真夏のように暑苦しかったのかぁ!!」


ひとりごと 

今年も猛暑がやってきましたね。

こんなに暑い夏なのに、今年は外出時にはマスクが不可欠です。

脱水症にならない様に注意してお過ごしくださいね。

それにしても、一斎先生なら、この暑さからどんな学びを得るのでしょうか?


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第2010日 「陰の極」 と 「陽の極」 についての一考察

今日のことば

【原文】
天地間の事物は必ず配合の理有り。極陽の者出ずる有れば、必ず極陰の者有りて来り配す。人の物と皆然り。〔『言志耋録』第84条〕

【意訳】
世の中の事物というものはすべて均衡がとれているものである。極端に陽なものが出ると、次には必ず極端に陰なものが出現する。人間も物もすべてこの理が支配している

【一日一斎物語的解釈】
陰陽の変転の理からいえば、極端に陰の状態となれば、次には極端に陽な状態が訪れるはずである。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、家てゆっくりお盆休みを過ごしているようです。

「マジか? 新幹線の乗車率が15%だってよ」

「高速道路もガラガラらしいわよ。今日、友達がアウトレットに行ったらしいんだけど、人がどれくらいいるかとビクビクして行ったら、ガラガラで拍子抜けしたってLINEで送ってきたよ」

奥さんの奈穂さんと会話しているようです。

「子供たちもどこにも行けないから可哀そうね。いつまでこんな状態が続くのかなぁ」

「ワクチンが開発されるまでは続くだろうな」

「どれくらい先なの?」

「早くても1年近くはかかるんじゃないの?」

「えー、じゃあ来年の夏もこんな感じ?」

「でもさ、かならずいつかは収束するんだよ。易の陰陽の原理からいえば、今は極端に陰の時に入った。ということは、この後は極端に陽のときが来るはずだ!」

「イサムは相変わらず呑気ね」

「いや、これは間違いないことさ。どんな楽しい時代が来るのか、今からワクワクしてるんだ」

「それ、外で話さない方が良いんじゃない? 頭がおかしくなったと思われるわよ」

「言いたい奴には言わせておくさ。そのかわり凄い時代が来たら、ほら見ろってクソグソに文句を言ってやる!」

「でも、本当にそうだとしたら、楽しみね!」

「このまま暗黒時代が続くと思うのも自分、明るい未来が待っていると思うのも自分。じゃあ、どっちを取るかって話だよ」

「誰も未来は予測できないもんね」

「そうそう。AIがいくら発達しても疫病の感染までは予測できないだろう。だったら、楽天的に考えて過ごした方がいいだろ」

「ピンポーン」

「あ、荷物が届いたな」

「イサム、また何か買ったの?」

「ネットで鞄を頼んだんだ」

「また? この前も鞄を買わなかった? ウチには毎日何か届くよね?」

「言っただろ、俺は楽天でいくって!」


ひとりごと 

今年のお盆はいつもと違う不思議なお盆ですね。

これを極陰と捉えるなら、一斎先生が言うように、この後には極陽の時がくるはずです。

それを楽しみに、今はできることをしっかりとやっていきましょう。

あ、お盆ですから、帰省できなくても、ご先祖様への感謝のお祈りは忘れずに行いましょう!


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第2009日 「変化」 と 「不変」 についての一考察

今日のことば

【原文】
天道は変化無くして而も変化有り。地道は変化有りて而も変化無し。我れ両間に立ち、仰いで観、俯して察し、裁成して之を輔相(ほそう)す。乃ち是れ人道の変化にして、天地に参する所以なり。〔『言志耋録』第83条〕

【意訳】
天の道は変化がないようで変化している。即ち日月星辰は常に変わることなく昼と夜に変化する。地の道は、変化があるようで変化がない。山川草木は常に変化しているようで春夏秋冬を繰り返す。私はこの二つの間にあって、天を仰いで天の理を観察し、俯しては地の理を観察して、天地の道が成就するように治め整え、天地の働きが適時適宜を得るように助けている。これが人道の変化であり天地の理を我が身に留める理由である

【一日一斎物語的解釈】
不変の中に変化を読み取り、変化の中に不変を読み取る。このようにして宇宙の摂理に逆らわずに生きることができれば、大きな問題は起こり得ない。。


今日のストーリー

神坂課長が外回りから帰社したようです。

「暑い! この暑さは命に拘わるな」

「私もさっき帰ったのですが、下着のシャツがびしょ濡れで、今は逆にクーラーに当たって寒いです」
先に帰社していた大累課長が答えたようです。

「これからは着替えが必要だな。野球のアンダーシャツじゃないんだからなぁ」

「今年はCOVID-19のお陰で、季節の変わり目を感じないまま、突然真夏がやって来た感じですね」

「本当だな。今年は花見もできなかったし、季節を感じることがなかったが、さすがに今日は夏を実感したよ」

「明日から休みだし、家族で海にでも行きたいですよ」

「行けばいいじゃん」

「え、良いんですかね?」

「自己責任だよ。まあ、一応県外には出ないようにと言われているから、県内の海水浴場に行けば良いんじゃないか」

「そうか、行ってみようかな」

「しかし、考えてみると、今年はCOVID-19の影響でいつもと違う毎日を暮らしているようだけど、ちゃんと季節は移り変わっているんだな」

「変化しても変化しないものがありますね」

「俺らがガキの頃に比べると真夏の気温は5℃以上高くなっている気がするよな。春夏秋冬は今も昔も変わらないけど、その中にも変化がある。つまり、変化の中に不変ものもがあり、不変のものの中にも変化の兆しはあるということか」

「それ、我々のビジネスに関しても大事なことですよね。変わらないものと変化するものとを見極めて、変化するものには競合他社に先駆けて対応していく必要がありますからね」

「そのとおりだな。その変化の兆しを見損なうと、企業が傾く原因となるかもしれない」

「逆に、変えてはいけないものを変えても、企業は傾きますね」

「うん。前にウチの課のメンバーとも話したんだけど、顧客のニーズは変化する。しかし、常に顧客の課題はあり続ける。顧客の欲しいものに目を向けるのではなく、顧客の課題にフォーカスすることが重要だな」

「なるほど。ウチの課でもその議題でディスカッションしてみます」

「なんて、話しているうちに、俺もだんだん身体が冷えてきた。休み明けから着替えを持ち歩こうかな?」


ひとりごと 

変わらないと思うものの中にも必ず変化の兆しはあり、変わっていくものにも一定の変化のルールがあります。

それをよく見極める能力は、ビジネスにおいて大変重要なスキルのひとつでしょう。

ひとつのことに拘り過ぎず、なおかつ流され過ぎず、自分の軸、評価の軸を明確にして生き、そして仕事をしていかねばなりません。


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