一日一斎物語 (ストーリーで味わう『言志四録』)

毎日一信 佐藤一斎先生の『言志四録』を一章ずつ取り上げて、一話完結の物語に仕立てています(第1066日目より)。 物語をお読みいただき、少しだけ立ち止まって考える時間をもっていただけたなら、それに勝る喜びはありません。

2020年10月

第2089日 「子供」 と 「大人」 についての一考察

今日のことば

【原文】
小児は喚(よ)びて慧児(けいじ)と做せば則ち喜び、黠児(かつじ)と做せば則ち慍(いきどお)る。其の善を善とし悪を悪とすること、天性に根ざす者然るなり。〔『言志耋録』第163条〕

【意訳】
子供に賢い子だといえば喜び、悪い子だといえば怒るものだ。このように、善いことと悪いことを弁えることは、本来天から与えられた特性であり、穢れのない子供はそれをそのまま発揮することができるのだ

【一日一斎物語的解釈】
本来、人間は善悪を弁える力を備えている。子供の頃には自然に発揮できたこの力は、生きていく中で弱まっていくので、注意が必要である。


今日のストーリー

今日も神坂課長は、新美課長とランチに出かけたようです。

「子供って素直で面白いぞ。良い子だと言えば喜ぶし、悪い子だと言えばムッとするからな。裏表がないというか、わかりやすいよ」

「ウチはまだ生まれて間もないので、そういうのを知るのはもう少し後ですかね。でも、楽しみです」

「ウチは二人とももう生意気なガキになっちまったからな。あの頃のような素直さがだいぶ失われつつあるなぁ」

「高校生くらいから、もうそんな感じですか?」

「うん。たとえば誉めてやっても、素直に喜んだりはしないぜ」

「でも、本当は嬉しいんじゃないですか?」

「そうだといいけどねぇ・・・」

「私たちも高校生くらいからそういう純真さを失っていったのでしょうかね?」

「そうかもなぁ。まともに親父と口をきかなくなるのもその頃だったもんな」

「だからこそ、正直に生きろということを子供に言わなければいけないんですね?」

「言ったところで、どれだけわかってもらえるかは疑問だけど、やっぱり言わないよりは言った方が良いと信じたい」

「はい」

「ウチの会社でひねくれ者といえば、清水か雑賀だろうな」

「ははは。それは同感です」

「でも、実はあいつらはものすごく素直な奴なんだと思うよ。ただ、照れ屋だから、ああいう態度を示すんだろうな」

「あ、そうかも知れません。清水さんに商談を決めてくれてお礼を言うと、必ず『あの程度の商談でお礼を言われてもな。次はもう少し大きいのを狙うよ』って言われるんですけど、やっぱり表情は嬉しそうですからね」

「わかりやすい奴だな。人生の折り返しを迎える俺たちとしても、ここでもう一回素直で純真であるためのネジを巻きなおさないといけないな」

「どうやってですか?」

「古典だよ、特に東洋の古典を学ぶのが一番だ。短いフレーズで心にスッと入ってくる言葉がたくさんある」

「部長も神坂さんも『言志四録』が愛読書でしたよね。私も読んでみようかな?」

「『読んでみようかな?』なんて言ってたらダメだ。『読みます!』って言いきらないと!」


ひとりごと

皆さんは褒められた時、素直に喜べますか?

もし、裏を読んだり、皮肉を言ったりしてしまう人は注意が必要です。

もって生まれた善悪を見極める心を失いつつあるのかも知れません。


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第2088日 「子供」 と 「嘘」 についての一考察

今日のことば

【原文】
小児を訓うるには、苦口を要せず。只だ須らく欺く勿れの二字を以てすべし。是を緊要と為す。〔『言志耋録』第162条〕

【意訳】
子供を教える際は、苦言を呈する必要はない。ただ「うそをつかないこと」ということを伝えるだけでよい。これが最も大事なことである

【一日一斎物語的解釈】
子供の教育において一番大切なことは、嘘をつかないことである。正直さに勝る美徳はない。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、営業1課の新美課長の相談を受けているようです。

「神坂さん、子育てって楽しいですけど、難しいですね」

「そうか? 何が難しいの?」

「可愛いから叱れないんですよ」

「ああ、そういうことね」

「神坂さんは、お子さんを育てることに関してどんなポリシーを持っているんですか?」

「ポリシー?! そんなのないなぁ。ただ、すくすくと育ってくれればいいとしか思っていない。勉強なんかできなくても良いと思っている。もちろん、勉強したいというなら存分にすればいいけどね」

「叱ることはないですか?」

「あるよ。それこそビンタしたこともある。二人とも男子だからな」

「うちも男の子なんですけど、なかなか厳しく叱れないんですよ」

「まだ生まれたばかりだろう? 別に叱る必要はないと思うよ」

「そうですかねぇ」

「あ、ひとつだけポリシーがあるかも?」

「なんですか?」

「俺は、人間の徳の中で最高の徳と言えるのは、正直さとか素直さじゃないかと思っているんだ。だから、嘘をつくな、ということは厳しく言っているな。嘘をついた時は、けっこう厳しく叱るようにしている」

「なるほど」

「じゃあ、俺が嘘はついていないかと言えばそれは?だけどさ。なるべく子どものうちに嘘をつくことは良くないことだと理解させたいしね」

「神坂さんは、私の眼からみたら、真正直な人ですけどね」

「あらそう? それは嬉しいね」

「とても参考になりましたよ。自分の息子には、私みたいな性格ではなく、神坂さんみたいな男らしい男に育って欲しいと思っていたので、一度聞いてみたかったんです」

「どうした、新美。お前が俺をそれほど褒めるのには裏があるだろう?」

「神坂さん、素直に受けとめましょう!」


ひとりごと

嘘をつかないこと、これはそう簡単ではありません。

生きている中で嘘をついたことがない人はいないでしょう。

しかし、嘘をつかないように意識することならできるはずです。

そして、嘘をついてしまったら反省して、その嘘を撤回する強さを持ちたいものですね。


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第2087日 「アメ」 と 「ムチ」 についての一考察

今日のことば

【原文】
女子を訓うるには、宜しく恕にして厳なるべし。小人を訓うるには、宜しく厳にして恕なるべし。〔『言志耋録』第161条〕

【意訳】
婦女子を指導する場合には、はじめに思いやりのある言葉をかけ、その後に厳しい言葉を使うべきである。小人物を指導する場合には、最初に厳しい言葉を与え、その後に思いやりのある言葉をかけるのが良い

【一日一斎物語的解釈】
相手の性格に応じて、アメとムチを使い分ける必要がある。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、佐藤部長の部屋にやってきたようです。

「おはようございます。ちょっと、よろしいですか?」

「うん、どうぞ」

二人はソファーに対面で座ったようです。

「実は、今朝読んだ『言志四録』の言葉が、女性や子供には最初に思いやりのある言葉をかけ、その後に厳しいことを指摘する。しかし、一般の男性には、まず厳しい言葉をかけてから、後に思いやりのある言葉をかけよ、とありました。今の時代はそれではダメな気がしますが、どう思いますか?」

「今の若い男性は、最初に厳しい言葉をかけるとシュンとなってしまうもんね」

「やっぱりそうですよね。結局、それだけ男が柔になったということでしょうね」

「残念ながら」

「私が高校球児だった頃なんて、監督から褒められることはほとんどなかったですよ。四打数四安打しても、叱られていましたから」

「でも、神坂君の場合は、それで発奮したわけだよね?」

「そのとおりです。『クソ、絶対監督を見返してやる!』って思いましたよ」

「ところが今は、そんなこと言ったら凹んでしまうか、もしかすると、『なぜ四安打もしているのに、叱られなければいけないのか、理由を教えてください』なんて子がいるかもね」

「いますよ、絶対! 雑賀とか善久の顔が浮かんできます。(笑)」

「今は男女で分けるというより、相手の性格をよく観察して、どちらを選ぶかを決定しなければいけないんだろうね」

「そう思います。石崎はある程度キツイことを言っても発奮するかも知れませんが、同じことを善久にしたら、3日は落ち込んだままですよ。(笑)」

「ははは。そうかもしれないね。それだけ、リーダーは大変になったということだよ。でも、そこにやりがいを感じて欲しいとは思うよ」

「はい。時代に合わせて、古典の解釈もある程度はフレキシブルに運用すべきですね!」

「うん、それはいつの時代も変わっていないよ。孔子だって、『詩経』や『書経』をその時代に合わせて解釈し直しているからね」

「なるほど。実は、これから善久の尻を叩かないといけないんです。その前に、部長に確認しておきたかったんですよ。お邪魔しました!」

「頑張って! 目的は、善久君が成長することだよ!」

「はい、承知しています!!」


ひとりごと

時代が変わったのか、男が柔になったのか、一斎先生の言葉をそのまま当てはめることができない時代となりました。

今は、相手に応じて、アメとムチを使い分ける必要があるということでしょう。

ただし、アメだけ、ムチだけではダメでしょう。

リーダーには、この両方を臨機応変に使い分ける技術が求められます。


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第2086日 「簡潔明瞭」 と 「平静温和」 についての一考察

今日のことば

【原文】
人を訓戒する時、話は簡明なるを要し、切当なるを要す。疾言すること勿れ。詈辱(りじょく)すること勿れ。〔『言志耋録』第160条〕

【意訳】
人を指導する際には、話は簡潔かつ明瞭にすべきであり、なおかつ核心をつくようにすべきである。一気にまくし立てて、罵るようなことはしてはならない

【一日一斎物語的解釈】
お説教は長々とするものではなく、簡潔に核心を突く話をすべきである。決して、声を荒げてはいけない。 


今日のストーリー

今日の神坂課長は、ちょっと落ち込んでいるようです。

「あれ、神坂さん。どうしたんですか? 珍しく凹んでませんか?」
大累課長が茶化しています。

「うるせぇ。『珍しくは余計だ!」

「でも、元気なさそうに見えますよ、珍しく」

「てめぇ、殴られたいのか?!」

「すぐそうやって声を荒げるところが、神坂さんのダメなところですね」

「そ、それだよ。さっきもつい石崎を怒鳴りつけてしまってさ。今、反省しているわけさ」

「あー、そういうことですか。神坂さんでも反省することはあるんですね」

「最近は、毎朝、『言志四録』を一章ずつ読んでから家を出ているんだけどな。今日の言葉は、『人を戒めるときは、簡潔明瞭に、一気にまくし立てず、罵ることのないように』ってやつだったんだよ」

「それを読んだ日にブチ切れですか? それはダメでしょう!」

「そうなんだよな。最初はそのつもりでいたんだけどさ。あいつが、自分に矢印を向けずに、他人のせいにばかりしているのを聞いているうちに、つい・・・」

「気持ちはわかりますけどね。俺もさっきまで雑賀とバトルしてましたから」

「平常心を保つというのは、なかなか大変だよな」

「お互い、クセの強い部下を持っていますからね」

「しかし、それを言うなら、お前とか俺を部下に持つ佐藤部長が一番大変かもな」

「あ、それは間違いないですね!」

「同意している場合かよ。俺たちみたいな輩を相手にしても、サイさんとか佐藤部長は全然キレないだろ、あれって凄いことだよな」

「まったくです。もっと学ばないといけませんね」

「あれ、お前にしては珍しく謙虚だな」

「『珍しく』は余計ですよ!!」


ひとりごと

昨日に引き続きこれもまた耳の痛い章句です。

小生のかつてのマネジメントスタイルは、完全に恫喝タイプでした。

しかし、これではこちらの意図は伝わりません。

そもそも脅しでメンバーを管理するリーダーというのは、自分に自信がないことを露呈しているものです。

簡潔明瞭、冷静かつ温和な口調で語りなさいと、一斎先生は教えてくれています。

若き日に戻りたい!


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第2085日 「荐(しきり)」 と 「偶(たまたま)」 についての一考察

今日のことば

【原文】
少壮の書生と語る時、荐(しきり)に警戒を加うれば則ち聴く者厭う。但だ平常の話中に就きて、偶(たまたま)警戒を寓すれば、則ち彼に於いて益有り。我れも亦煩瀆(はんとく)に至らず。〔『言志耋録』第159条〕

意訳
若くて意気盛んな学生と語り合うときは、あまりしつこく警告や戒めの言葉を与えれば、聴く者は嫌がるものである。通常の会話の中に、さりげなく訓戒の言葉を差し挟めば、彼らにとっても有益であろう。話をする自分にとってもその方がわずらわしさがなくてよいのだ

一日一斎物語的解釈
若者に説教などの指摘をする際は、さりげない会話の中に戒めを含めて話すとよい。その方が聴く者にも、話す者にも有益であろう。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、元同僚の西郷さんと食事をしているようです。

「いやぁ、若い奴に説教するのって難しいですよね。さあ、今から説教をするぞ、という段になると露骨に嫌な態度を取りますからね」

「若い頃の神坂君もそうだったじゃない?」

「げっ、そうでしたっけ?」

「昔、西村さんが神坂君に説教をしたとき、神坂君はおもむろに鞄から競馬新聞を取り出して読み始めたことがあったよね。西村さんはその競馬新聞を取り上げて、カンカンになって怒っていたっけなぁ」

「そ、そんなことありましったけ? あ、でもあったかも・・・」

「ははは。凄い若者が入って来たなと思ったよ」

「サイさんは若い人に説教をしなければいけない時は、どんなことを心がけていましたか?」

「さあ、今から説教をしますよ、という雰囲気を作らないようにしていたかなぁ」

「え、どうやって?」

「たとえば、指摘したいことがあったら、本人の過失として話すのではなく、以前にこんな人がいたんだよ、と他人の話をするとかね」

「なるほど」

「自分のことでなくても、自分と同じことをしている人の話というのは気になるよね。それで、自分に照らして反省してくれればいいなと思って、話をしていたね」

「さすがですね。私の場合はストレートに、『お前のダメなところはココだ!』とやってしまいます。それこそそれがダメなんですね」

「まあ、そういう言い方だと耳をふさがれてしまう可能性は高いよね」

「なるほどなぁ」

「種明かしをすると、これは孔子のやり方なんだ」

「え、孔子のですか?」

「うん。孔子は弟子を戒めるときは、『我々が目指す君子と呼ばれるような人は、つねに〇〇をしている』といった話をする。実は、その〇〇こそが、話をしている当人ができていないことなんだけどね」

「おお、マイナス面を語るのではなく、プラス面を語るわけか」

「そう。こうすると、君子を目指す弟子としては、それを改善せざるを得ないでしょ?」

「いやぁ、良いことを聞かせてもらいました。私も明日からさっそくそういう話し方をしてみますよ」

「神坂君の素晴らしい所は、過ちを即改善するところだよね。『過ちて改めざるこれを過ちという』と孔子も言っている」

「そういえば、かつてサイさんは、いつもそんな風に私を褒めてくれていましたね。私はサイさんの掌の上で転がされていたんだなぁ」


ひとりごと

小生が『論語』に出会ったのは、部下指導で挫折し、新たなマネジメントスタイルを探していたときでした。

この物語でも書いたように、孔子の弟子に対する指導方法に感動し、自らも実践することを心がけました。

それまでの私は、それこそ「さあ、説教をするぞ」という姿勢で、滔々とお説教を垂れていました。

それでは、叱責も耳には入りませんね。

ちなみに、上司に叱責された時に競馬新聞を取り出したのも、誰あろう、若き日の小生でした・・・。


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第2084日 「老人」 と 「過去」 についての一考察

今日のことば

【原文】
「老成人を侮ること無かれ、孤有幼(こゆうよう)を弱しとすること無かれ」とは、真に是れ盤庚(ばんこう)の明戒なり。今の才人往往此の訓(おしえ)を侵す。警む可きなり。〔『言志耋録』第158条〕

【意訳】
『書経』盤庚上篇に「老成人を侮ること無かれ、孤有幼を弱しとすること無かれ世の中の経験を積んで成熟したお年寄りを馬鹿にしてはいけない。また、孤児や幼児を弱いからといって見くびってはいけない)」とあるが、これは実に盤庚の箴言である。近頃の知恵のある人はしばしばこの教えを犯している。警めるべきことである。

【一日一斎物語的解釈】
社会的弱者と言われる人達に対して、侮るような発言や行動は厳に慎むべきだ。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、営業2課の石崎君と同行中のようです。

「課長、すみませんでした。レジの前に並んでいたジジイが、小銭入れか一円玉をたくさん出して支払っていたので、遅くなりました。もう勘弁してほしいですよ!」

「石崎、そういう見方は気をつけた方がいいぞ」

「え?」

誰だって年をとれば、目も悪くなるし、動きも鈍くなる。でも、そのお爺さんもかつては俺たちお同じようにバリバリ働く営業マンだったかもしれないぞ」

「そうかも知れないですけど、やっぱり遅すぎますよ」

「そこで急いだって、たかが2~3分だろ。そんな時間をケチるより、やさしくお爺さんを見守ってあげるか、もっと積極的に一緒にお金を数えてあげるくらいのことをしても良いんじゃないのかなぁ」

「まあ、たしかに自分の爺ちゃんだったら、そうするでしょうね」

「お前のお爺さんがそうだったように、きっとそのお爺さんも、この日本を創ってきた大功労者のひとりなんだと思う。今を見るんじゃなくて、そういう人の過去を想像すると、イライラする気持ちもスーッとなくなるもんだぜ」

「はぁ」

「社会的弱者と言われる人たちも、俺たちと同じ人間だ。馬鹿にするような発言や行動をしてはいけないと思わないか?」

「それは、そうですね。でも、課長がそういうことを言うとは意外です。どっちかというとイライラするタイプだと思っていました」

「ピンポーン。大正解! 実は、俺もそういうタイプだよ。でさ、そんな話を佐藤部長にしたら、今俺が話したことを言われたわけさ」

「なんだ、そういうことですか! やっぱりなぁ」

「おいおい、そこで感心するなよ。俺は部長からそう言われて、ガーンと来た。それ以来、そういう場面ではお手伝いをしてあげることにしたんだ」

「私もそうします。なんか、さっきのお爺ちゃんが心配になってきたなぁ。震える手でメモを見ながら、なにか買い忘れたとか言ってたんです」

「ちゃんと買えたかな?」

「ちょっと見てきます!」


ひとりごと

高齢者ドライバーの後ろについた時なども、あまりのスローな運転にイライラしてしまうことがあります。

しかし、いつかは自分もそういう年齢に達し、思うように行動できない時がきます。

だからこそ、その人の今ではなく、過去を思い、感謝の気持ちで接してあげることが必要なのでしょう。


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第2083日 「天」 と 「善」 についての一考察

今日のことば

【原文】
罪無くして愆(とが)を得る者は非常の人なり。身、一時に屈して名は後世に伸ぶ。罪有りて愆を免るる者は奸佞(かんねい)の人なり。志を一時に得て、名は後世に辱められる。古に謂う、「天定まりて人に勝つ」と。是れなり。〔『言志耋録』第157条〕

【意訳】
罪も無いのに罰を受ける者は大人物である。その身はある一時期に屈辱を受けたとしても、その人の名は後世まで伝わるものだ。罪を犯しながら罰を免れる者は心がねじ曲がり人にへつらう類の人物である。一時は自分の求めるものを手に入れたとしても、その名は後世において辱めを受けることになる。昔の人は「天定まりて人に勝つ」と言ったが、まさにこのことを言っているのである

【一日一斎物語的解釈】
自分では正しいと思って行なったことも、時代によっては、期待する評価とは真逆の評価を下されることもある。しかしその行為が道理に適っているならば、いつかは必ず正当な評価を受けるものだ


今日のストーリー

今日の神坂課長は、営業2課の梅田君を励ましているようです。

「梅田、落ち込む気持ちはわかるけど、次にどう活かすかが大事だからな」

「はい・・・」

「今回の商談の敗因をどう自己分析しているんだ?」

「今でもY社の提案より私の提案の方が、絶対にご施設のお役に立つと信じています。でも、事務長は価格重視でY社の提案を受け入れました」

「なるほど。たしかにY社の提案は、保守の部分でちょっとインチキくさいところがあるよな。動産保険だけで修理代金を全額まかなえる訳ではないからな」

「そうなんです。内視鏡については、絶対に保守契約に入っておくべきだと思っています」

「それは俺も100%同意するよ」

「はい!」
「なぁ、梅田。今回は悔しい結果となったが、俺もお前の提案の方がご施設にとってメリットのある提案だと信じる。Y社は目先の売上をとるために、ある意味ご施設に嘘をついていると言ってもいいかも知れない」

「そう思います!」

「ただし、最終的にはお客様が満足すればそれで良いんだ。今回のY社の提案が間違っているかいないかは、1~2年以内にはわかるだろう。なぜなら内視鏡というものは、だいたい1.5年に1回くらい修理が発生する器械だからな」

「はい」

「世の中には詐欺まがいなことをしても、平気で罪を免れている奴らもいる。しかし、いつまでもそんな悪事が通るはずがない。いつかはバレる。そして、その罪を償わなければならない日が来るんだ」

「私は別に詐欺まがいのことはしてませんけど・・・」

「ははは。わかってるよ。お前はその逆で、お客様のことを考えた真っ当な商売をしている。短期的に見ればロスト商談となったが、長い目で見てもらえれば、お前の正しさは証明されるはずだ」

「そうですね。そう信じます!」

「そうと決まったら、気持ちを切り替えて、次の商談に取り組もうじゃないか!」

「はい!!」


ひとりごと

昔の人はよく、「お天道様は見ている」と言っていました。

正しい商売を続けていれば、短期的には顧客を失うことがあっても、他社の対応を知った顧客は必ず戻ってきます。

そして、そうやって戻ってきてくれた顧客は、末永くお付き合いしてくれるものです。

「天定まりて人勝つ」のです!


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第2082日 「在野」 と 「主流」 についての一考察

今日のことば

【原文】
世に惜しむ可き者有り。亀玉大宝(きぎょくたいほう)の瓦礫に渾(まじ)るは惜しむ可し。希世(きせい)の名剣、賤人之を佩(お)ぶるは惜しむ可し。非常の人材、舎(す)てて用いられざるは尤も惜しむ可し。〔『言志耋録』第156条〕

意訳
世の中には惜しむべきことがある。大亀の甲羅や玉石などの宝物が瓦礫の中に混じっているのは惜しむべきである。稀代の名剣が身分の低い人の身につけられているのも惜しむべきである。有能な人材が在野にあって用いられないのは最も惜しむべきことである

一日一斎物語的解釈
優秀な人材が組織の中で適切に登用されないことほど、もったいないことはない。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、Aがんセンターの多田先生を訪れているようです。

「部長、N大の番場先生は、凄い技術もあるし、知名度もある割には出世されていませんよね。何故でしょうか?」

「あいつは大人し過ぎるんだよ。この世界は、ある程度自分でアピールしていかないと表には立てない世界だからな」

「そういうものですか。でも、私が言うのも失礼かも知れませんが、なんだかもったいないですよね?」

「本来は能力の高い者が最前線に立つべきだからな。俺は自分が一番だと思ったから、とにかく自己アピールできることはなんでもやったよ」

「さすがです。(笑)」

「しかし、本来は『野に遺賢なし』といってな。ああいう人材を上の人間がちゃんと評価して、登用してやる必要がある。俺とかお前のように人間的に出来ていない奴は放っておいても、出てくるが、人間的に出来ている奴に限って、前に立とうとしないからな」

「多田先生と同列に並べて頂いて恐縮です。でも、中村教授ならその辺はしっかり観られているのではないでしょうか?」

「実は、番場は出身がJ大だからな。生え抜きかどうかというのも微妙に影響するのが、日本の医局制度の問題だろう」

「なるほど」

「そこまで思うなら、お前がもっとサポートしてやってくれよ。あいつをイベントの演者にするとかな」

「なるほど! いくつかメーカーさんと相談してみます」

「必要なら俺も力を貸すぞ。一緒に演者をやってもいいし、司会をやってもいいぞ」

「本当ですか? 多田先生はそういうイベント嫌いで有名なので、どこのメーカーさんも多田先生に声を掛けづらいそうですよ」

「俺はひとつのメーカーの色がつくのが嫌なんだ。だから、学会やペーパーで勝負するのが俺のポリシーなんだよ」

「その多田先生が、番場先生のためなら、イベントに出ても良いということですね?」

「気が変わる前に動いた方がいいぞ!」

「はい、すぐにO社とF社に相談してみます!!」


ひとりごと

優秀な人が必ずしも評価されないということは、いつの時代にも、どこの世界にもあることです。

そういう人が身近にいるなら、全力でサポートするのも、ひとつの生き方かも知れません。

特に、ある程度の年齢に達したら、優秀な後輩のサポートに回るような先輩になりたいですよね!


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第2081日 「適所」 と 「幸福」 についての一考察

今日のことば

【原文】
草木は固より山野の物なり。山野に在れば則ち其の所を得て、人の灌漑を煩わさず。会(たまたま)奇花異草有りて、其の間に生ずれば則ち花匠(かしょう)抜き取りて以て盆翫(ぼんがん)と為し、之を王侯に普(すす)む。第(た)だ花匠に於いては幸たるも、而も花卉(かき)は則ち不幸と為す。人事も亦或いは此に類す。〔『言志耋録』第155条〕

【意訳】
草や樹木は本来山野に存在するものである。山野にあれば自ら生きるべき場所を得て、人から水を与えてもらう必要もない。ところが、時に珍しい草花がその中にあると、植木職人がそれを抜き取って盆栽とし、王様や諸侯に進上する。これは植木師にとっては幸いであるが、草花にとっては不幸なことである。もしかすると人間社会の出来事もこれと同じなのかも知れない

一日一斎物語的解釈
花にも咲くべき場所があるように、人にも自身の能力を発揮するのに最適な場所が存在する。人の上に立つ者は、適材を適所に配置すべきである。それは、お互いにとって幸せなことである。


今日のストーリー

「雑賀、お前、あの大口商談を決めたらしいな!」

神坂課長が、営業部特販課の雑賀さんが大口のIT商談を受注したと聞いて、雑賀さんのデスクにやってきたようです。

「あ、神坂課長。情報が早いですね。ありがとうございます!」

「あの商談は、ウチの中じゃお前以外には決められなかっただろうなぁ」

「そう思います」

「ははは、相変わらず謙虚さは足りねぇな」

「雑賀、そういう時は嘘でも、『みなさんのお陰です』とか言うもんだろ!」
上司の大累課長が指摘しています。

「しかし、やっぱりどんな人材にも長所がある。そこを見て、しっかりと伸ばしてあげるのが上司の仕事だよな、大累」

「なんか、含みのある言い方ですね?」

「バレた? だってお前は、『雑賀は営業は無理だ』って言ってたんだからな」

「はい、よく言われていました。あ、今でも言われます」

「ウソつけ! 最近は言ってねぇぞ!!」

「ウチは商社だからな。営業がダメだったら、他の部署に行ってもらうってわけにはいかないんだ。なんとかお前の特性を活かせる場所を探すしかなかったんだよ。お前がIT関連の仕事を受け持つことで、大累もお前もハッピーになれたんだから、よかったよな!」

「もっと早く私の良さを見つけてもらいたかったですよ」

「この野郎、あんまり調子に乗るなよ。調子に乗るとロクなことはないぞ」

「そうだぞ、雑賀。経験者の意見は丁重に承っておけよ!」

「大累に言われたくはないわ!」

「お二人は仲が良いですよね」

「そういう風によく言われるんだけどよ。なあ、大累。俺たちって仲が良いのか?」

「みんなわかってないですよね。神坂さんみたいな狂犬の相手は、俺にしかできないってだけなのに」

「そういうことを言うなら、俺も言わせてもらうぞ。お前みたいな生意気なだけで、何もできなかった奴が課長になれたのは、誰のお陰だと思ってるんだ!」

「まあまあ。お二人がそうやって喧嘩ばかりしないように、適材を適所に配置した佐藤部長はさすがですよね?」

「たしかに・・・」

「雑賀、お前が言うな! 神坂さん、納得している場合じゃないですよ!!」


ひとりごと

どんな人にも必ず長所と短所があるものです。

いま一緒に働いているメンバーが、ベストメンバーだとするなら、短所にはある程度目をつむり、長所を伸ばすことを意識すべきです。

そもそも他人の短所に気づくということは、自分自身が同じ短所を持っている証拠です。

他人の短所は自分のミラーなのですから。


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第2080日 「現状」 と 「理想」 についての一考察

今日のことば

【原文】
必ずしも福を干めず。禍無きを以て福と為す。必ずしも栄を希(こいねが)わず。辱無きを以て栄と為す。必ずしも寿を祈らず。夭せざるを以て寿と為す。必ずしも富を求めず。餧えざるを以て富と為す。〔『言志耋録』第154条〕

【意訳】
必ずしも幸福を求めず、ただ禍がないことをもって幸福とする。必ずしも栄誉を願わず、ただ恥辱を受けないことをもって栄誉とする。必ずしも長寿を祈らず、早世しないことをもって長生きとする。必ずしも富を求めず、飢えないことをもって富とする。このような考え方でよい

【一日一斎物語的解釈】
たとえプラス面がなくとも、マイナス面がなければ良しとする。これが足るを知ることである。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、大累課長と一緒に最寄り駅まで歩いているようです。

「♪なんでもないようなことが、幸せだったと思う~♪」

「古い歌を歌ってますねぇ」

「いや、この歌詞は真理を突いてるじゃないか。みんな幸せになりたいと思っているけど、不幸でないなら幸せなんだよ」

「どうしたんですか、急に」

「ちゃんと仕事があって、素晴らしい上司に恵まれ、優秀な部下を持ち、そしてお前のような可愛い後輩もいる。これって幸せなことだよな」

「神坂さん、死ぬんですか?」

「縁起の悪いことを言うなよ! 純粋にそう思う今日この頃なのさ」

「たしかにそうかも知れませんね」

「それにだ。有名になりたいと思っていても、いざ有名になったらなにかと大変だろう。長生きしたいと思っても、いざ長生きしたら、それは大概病気と闘いながら生きていくことになる」

「そうですね。金持ちになりたいと思いますけど、金があったらあったで、金の猛者になりかねませんしね」

「要するに、みんなプラスアルファを求めるんだけど、マイナスがないならそれで良しとすべきなんだよな。それが『足るを知る』ってことなんだと思う」

「現状に満足した方がいいですね」

「そういうことだよ」

「俺も、神坂さんみたいな頼れる兄貴みたいな先輩にめぐり会えて幸せですよ」

「そう思ってくれるか? あれ?」
大累課長はニコニコしながら、赤い暖簾を見ています。

「そういうことかよ! わかったよ、軽く一杯だぞ」

「さすが阿吽の呼吸!!」

「ちっ、でもお前のそういうところが可愛いんだよな」


ひとりごと

吾々人間は、往々にして今よりお金が欲しい、今より高い地位が欲しい、今より長生きしたい、今より幸せになりたいと思いがちです。

しかし、果たして現状は本当に不満な状態でしょうか?

実は、こうして日々生活ができているなら、もう十分に幸せなのではないでしょうか?


そんなことを深く考えさせられた章句です。


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れみれみ