一日一斎物語 (ストーリーで味わう『言志四録』)

毎日一信 佐藤一斎先生の『言志四録』を一章ずつ取り上げて、一話完結の物語に仕立てています(第1066日目より)。 物語をお読みいただき、少しだけ立ち止まって考える時間をもっていただけたなら、それに勝る喜びはありません。

2021年04月

第2270日 「役職」 と 「時宜」 についての一考察

今日のことば

【原文】
天道は漸を以て運(めぐ)り、人事は漸を以て変ず。必至の勢は、之を卻(しりぞ)けて遠ざからしむる能わず、又、之を促して速やかならしむる能わず。〔『言志録』第4条〕

【訳文】
天地の道はゆるやかに運行し、人間の身の上に起るあらゆる出来事もゆっくりと変化していく。そこには必ずそうなるという勢いがあるもので、これを勝手に退けて遠ざけることもできなければ、これを促して急がせることもできないものだ。

【一日一斎物語的解釈】
自分の身の廻りに起こる出来事は、すべて時宜を得たタイミングで起こるもので、必然のことである。求めても手に入らず、抗っても無駄な抵抗にすぎないのだ。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、同期の鈴木さんと軽くやっているようです。

「マスクしながらの会食なんて、面倒だよな。早くワクチンを打って、普段の生活がしたいよな」

「それはまだ当分先だぜ。協力な変異株が出てきたら、今のワクチンで対応できるかどうかもわからないらしいしな」

「みんなそろそろ限界に来ているな」

「ここが我慢のしどころだ。しばらくは、上手にお付き合いするしかないだろうな」

「ウィズ・コロナってやつか。ところで、話って何だよ?」

「実はな、神坂。ここだけの話だが、経理課を部に格上げすることになって、その部長に打診されたんだ」

「お前がか? マジか! 凄いじゃないか、おめでとう!!」

「ありがとう、と言いたいところだけど、素直に喜べないんだよな」

「タケさんか?」

「うん、ずっと先輩として一緒に仕事をしてきただけに、俺の方が先に部長になるというのはなぁ・・・」

「でも、タケさんは総務畑で、お前は経理畑だから、そんなに気にすることもないんじゃないの」

「それはそうなんだけど・・・」

「鈴木、こういうことってすべて必然だと思わないか?」

「え?」

「部長になりたい人は他にもいるだろう。でも、お前はたしかに経理部門をしっかりまとめているし、社長の誉れも高い。これはそうなるべくしてなったことだ。それを断ることの方が多くの人達に迷惑をかけるんじゃないのか?」

「・・・」

「それに、タケさんはそんなことでお前に冷たく当たったり、遠ざけたりする人じゃないはずだぜ」

「うん、それはわかってるよ」

「せっかく期待して任せてもらえる仕事を自ら断るなんて、俺の辞書にはないぞ!」

「たしかに、お前の辞書にはなさそうだ。(笑)」

「俺だって、課長になれと言われた時には、ちょっと考えたよ。こんな男が人の上に立って良いのか、それなりに迷ったよ」

「そういえば、そうだったな。3日連続でお前に連れまわされたのを思い出した」

「でも、すべてが巡り合わせだと思うことにしたんだ。とにかく全力でやってみようってな」

「神坂、ありがとう。どうやら断る選択肢はなさそうだな」

「俺に背中を押して欲しくて相談したんだろ?」

神坂課長が鈴木課長にウィンクをしたようです。


ひとりごと

昇格や重職を打診されることは、決して偶然ではないはずです。

すべてのタイミングが合って、その役が自分に回ってくるのでしょう。

それなら断るべきではありません。

前を向いて、自分の力の限りを尽くしてみるしかないですね!


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第2269日 「仕事」 と 「自慢」 についての一考察

今日のことば

【原文】
凡そ事を作すには、須らく天に事うるの心有るを要すべし。人に示すの念有るを要せず。〔『言志録』第3条〕

【意訳】
何事を行うにおいても、すべて天の意に従う心を持つべきである。人に功を誇ることを目的とするような心がけではいけない。

【一日一斎物語的解釈】
人に誇ることを目的に仕事をしてはいけない。あくまでも宇宙の摂理に適った仕事を意識すべきである。


今日のストーリー

営業2課の石崎君と善久君が雑談コーナーにいるようです。

「ザキ、雑賀さんからzoomのやり方を教えてもらった?」

「うん」

「さすがは雑賀さんだな。ITのことは良く知っているよね」

「うん。ただねぇ・・・」

「なに?」

「めっちゃ自慢気に説明してくるんだよ。俺ってすごいだろうオーラが強すぎて、疲れちゃうんだよね」

「ははは。それも雑賀さんらしいね」

「ガンちゃんが先に雑賀さんに教わったって聞いたから、ガンちゃんから聞けばよかったよ」

「でも、教えてもらう立場だから我慢しないとな」

「ハンパない自慢だぜ。途中から意識が朦朧としてきたよ」

「大袈裟だなぁ」

「きっとゼンちゃんだって、頭がクラクラしたはずだよ。あ、ちょうどいいところにガンちゃんが来た」

「あー、二人ともここにいたのか」

「ガンちゃん、雑賀さんの自慢タラタラによく耐えたね」

「え? あー、zoomの話?」

「そう」

「たしかに、けっこう自慢話は聞かされたな」

「人に自慢することを目的に仕事をするのはどうかと思うよなぁ」

「いやいや、雑賀さんだって、別に自慢するためにITを学んでいるわけじゃないでしょう。会社のために、勉強しているんだと思うけどなぁ」

「そうかなぁ」

「そうだよ。雑賀さん自身がITに興味があって、ちょうどウチの会社にはITに詳しい人がいないから、自然の流れで雑賀さんがIT担当になったんだと思うよ」

「そうか。まぁ、俺たちは雑賀さんを反面教師にさせてもらって、後輩に何か聞かれた時には自慢しないように意識しような」

「もともと、ガンちゃんも僕もそんなつもりはないけどな。一番気をつけなきゃいけないのはザキでしょ!」

「ゼンちゃん、それはないよ!!」

「僕もそう思う」

「ガンちゃんまで!!」


ひとりごと

自慢話を聞かされることほど苦痛なものはありませんね。

しかし、世の中には、人に自慢をしたくて仕方がない人がいるものです。

実はそういう人こそ、自分自身に自信がない人なのです。

広い心で聴いてあげるか、敢えてストレートに指摘するか、対応のむずかしいところです。


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第2268日 「天」 と 「人」 についての一考察

今日のことば

【原文】
太上は天を師とし、其の次は人を師とし、其の次は経(けい)を師とす。〔『言志録』第2条〕

【意訳】
学問をするにあたっては、天を最上とし、次いで人を師と仰ぎ、その次に経書を師とすべきである。

【一日一斎物語的解釈】
書物から学べることがすべてではない。人から学び、天(宇宙の摂理)からも学ばねばならない。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、営業部特販課の願海君に声を掛けられたようです。

「おぅ、どうした願海?」

「最近、コロナの影響で思うように営業ができなくて焦っています」

「それは皆一緒だろう? で、なんでそれを俺に?」

「神坂課長は最近すごく勉強をされていると、大累課長から聞きました」

「大累がそんなことを? だったらお前も読めって言いたくなるな。(笑)」

「私も本を読んだり、セミナーに出たりして知識は詰め込んでいますが、実践の場面が少ないのが悔しいんです」

「それは考え方次第だよ」

「え?」

「あえてこういう言い方をするけど、COVIDー19のお陰で、zoomという手段が活用できることがわかった。メーカーさんはいち早くzoomでどんな営業ができるかを考えているぜ」

「あぁ、そうですね」

「俺も先日、とある病院のME(臨床工学技士)さんとzoomで面談をしたんだけど、思った以上に効果があったぞ」

「そういうやり方があるんですね」

「これまたCOVIDー19のお陰で、ドクターもzoomでの面談を受け容れる土壌ができたしな」

「ITなら雑賀さんに聞けば、いろいろ教えてもらえそうですね。やっぱり神坂課長に聞いてよかったです!」

「うん。俺がお前にとって頼りになるかは置いておくとして、やはり書物や動画で学ぶことには限界があるよな。デキる人から学ぶという意識は重要なことだ。俺がデキる人かどうかは置いておくとしてもな。(笑)」

「はい。神坂課長はデキる人だと尊敬しています」

「俺はそういう言葉に弱いんだ。すぐに調子に乗るから、そのくらいにしておこう。しかしな、願海」

「はい?」

「人から学ぶだけでも足りないらしいぞ」

「え? では、他に何から学ぶんですか?」

「天、つまり宇宙の摂理だよ。誰かと比べて優っているとか劣っているとか言って一喜一憂するようでは三流なんだそうだ。そうではなくて、何をすることがその時その場で善なのかを考える。そこが重要なんだよ」

「同期に負けたくないと思っているのは、小さいことなんですね」

「小さいね。日本一の医療器屋を目指そうぜ。宇宙の摂理に逆らわず、常にその時の最適解を提示できる一流の営業人になるんだ」

「でっかい話ですね」

「そっちの方が俺は燃えてくるからさ」

「私も燃えてきました。さっそくzoomでお客様と面談を始めてみます!!」

「感即動だな。素晴らしいじゃないか!」


ひとりごと

西郷南洲翁は、「他人と比べるな、天と自分を比べろ」と言っています。

大事なことは、誰かに勝つことではなく、誰かを幸せにすることではないでしょうか?

天網恢恢疎にして漏らさず、とは老子の言葉ですが、天のように広い心で善を施すことを考えていれば、結果は自然についてくるはずです。


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第2267日 「宇宙の摂理」 と 「感染症」 についての一考察

今日のことば

【原文】
凡そ天地間の事は、古往今来、陰陽昼夜、日月代るがわる明らかに、四時錯(たがい)に行(めぐ)り、其の数皆前に定まれり。人の富貴貧賤、死生寿殀(じゅよう)、利害栄辱、聚散離合に至るまで、一定の数に非ざるは莫し。殊に未だ之を前知せざるのみ。譬えば猶お傀儡(かいらい)の戯の機関已に具われども、而も観る者知らざるがごときなり。世人其の此の如きを悟らず、以て己の知力恃むに足ると為して、修身使役として東に索(もと)め西に求め、遂に悴労(すいろうい)して以て斃る。斯れ亦惑えるの甚だしきなり。(文化十年五月二十六日録す)〔『言志録』第1条〕

【意訳】
この世の出来事は、昔から現在に至るまで、陰と陽があり、昼と夜があり、太陽と月とが交互に輝き、春夏秋冬が順に運行しているが、それらは皆あらかじめ定まったことなのだ。また、人の富貴と貧賤、死と生、長寿や短命、利益と損害、名誉と恥辱、聚合と離散なども、すべてあらかじめ定まっていないものはない。人がこれを前もって知らないだけのことである。それはたとえば、あやつり人形のからくりは、はじめから具わっているにもかかわらず、観客がそれを知らずに観ていることと同じである。世間の人々は、そのようにあらかじめ定まったものがあることを理解せず、自分の知恵や力量でなんとかなるものと考えて、一生涯苦労して、東へ西へと奔走し、遂には疲れ果てて倒れてしまう。これは心の迷いの甚だしいものである、と一斎先生は言います。

【一日一斎物語的解釈】
宇宙の摂理・大自然の法則に則って生きることが、正しい生き方である。無理に逆らったところで、一人の力ではどうすることもできはしないのだ。


今日のストーリー

神坂課長がデスクで新聞を読んでいます。

「しかし、COVIDー19は一向に収まる気配がないなぁ」

「緊急事態宣言を出すと収まって、解除すると一気に増加する。その繰り返しですもんね」

山田さんが会話に加わっているようです。

「そろそろ新型コロナウィルスがどういうウィルスかも分かってきたわけだし、いつまでも未知のウィルスへの対処方法を続けていて良いのかね?」

「どういうことですか?」

「多くの罹患者は重症化せずに済むことを考えると、どうやったら罹患しないかではなく、どうしたら罹患するかをハッキリさせて、それを防ぐという限定的な対策を講じる時期に来ているんじゃないのかと思うんだよね」

「あー、そうかも知れませんね。ある程度は集団免疫を作っていかないといけないのかもしれません」

「うん。そもそも人類の歴史は、未知のウィルスとの格闘の歴史だ、なんていう歴史家もいる。つまり、ウィルスというのは、神様が創り出した人間への警鐘なんだと思うよね

「はい、それは感じますね」

「だとしたら、そういう宇宙の摂理みたいなものに、全面的に逆らうのでなく、どう折り合いをつけていくかが大事だと思うんだよね」

「そうですね。ただ、スウェーデンのように何もせずに集団免疫で対抗しようとして失敗した国もあります。政治としては難しい選択なんでしょうね」

「そうだね。でも、アジア人は明らかに罹患者数も死者数も少ない。それがウィルスの型だけの問題なのか。そこをしっかり分析して報告して欲しいよ」

「欧米に比べて、アジアでの罹患者数は少ないですからね。ただ、インドでは爆発的に増加し始めたらしいですね」

「そうなんだよね。そうなると、アジア人は特殊な免疫を持っているわけではないのか・・・」

「GWはおとなしくしているべきなんでしょうね」

「子供たちには可哀そうだけど、大手を振って旅行をするわけにはいきそうもないね」

「神様は私たちに何を知らせようとしているのでしょうか?」

「陰で俺が『カミサマ』と呼ばれているのは知っているけど、そいつは俺にはわからないよ。でもさ、実はそれを解明することこそが、COVIDー19を収束させる鍵なのかも知れないね」

「はい。しかし、それは私たちにはわかりそうもありませんから、まずはうがいと手洗いですかね」

「うん、このウィルスの特殊なところは、ヒトーモノーヒトの感染のウエイトが高いところにある。金属の上で3時間、段ボールだと24時間、マスクのようなものだと数日間生きているという報告もあるらしいから、とにかく何か触ったらアルコール消毒、というのが今のところ最善策ということになりそうだね」

「はい」

宇宙の摂理に逆らわず、ウィズ・コロナで当面は凌いでいくしかないんだな。そろそろ疲れてきたけどね。思い切り酒を飲んで騒ぎたいよね」

「飲みたいですね!!」


ひとりごと

一日一斎物語もいよいよ三周目に入りました。

小生のライフワークでもあり、まだまだ続けていく所存です。

少なくとも、COVID-19が収束するまでは、絶対に終わらせません!!


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第2266日 「天寿」 と 「先祖」 についての一考察

今日のことば

【原文】
吾が軀(み)は、父母全うして之を生む。当に全うして之を帰すべし。臨終の時は他念有ること莫かれ。唯だ君父の大恩を謝して瞑せんのみ。是れ之を終を全うすと謂う。〔『言志耋録』第340条〕

【訳文】
自分の身体は、父母が生を全うして生んでくれたものである。したがって当然、自分もまた生を全うしてこれをお返しするべきである。臨終に際しては、他に何も考える必要はない。ただ父母からの大きな恩に感謝をして瞑目するだけでよい。これが終わりを全うするということなのだ

【所感】
死に際しては、父母から受け継いだ身体を祖先にお返しするという意識さえあればそれでよい。


今日のストーリー

神坂課長の母親が新型コロナウィルス感染症に罹患したようです。

「親父、お袋は大丈夫なのか?」

「幸い、熱もなく、少し喉が痛い程度らしい」

「それはよかった。ただ、急変する可能性もあるからな。心配だな」

「一応、ホテルに宿泊することになって、いまはバタバタしているよ」

「親父にうつらないといいけどな」

「母さんはどこでうつされたのかよくわからないと言っている。俺もうつってるかもな」

「親父もPCR検査はしたんだろ?」

「ああ、明日には結果が出るだろう」

「なにかあればすぐにそっちに行くから、遠慮するなよ」

「近くにさつき(神坂課長の妹)がいるからな。なにかあれば電話で相談するさ」

「まぁ、そうだな。医療器械屋の俺より、看護師のさつきの方が頼りになるか。(笑)」

「残念だがな。(笑)」

「本当に無理はするなよな」

「わかってるよ。せっかくここまで生きられたんだ。コロナで死ぬのはゴメンだよ」

「うん」

「親から受け継いだこの身体だ。できれば、天寿を全うして安らかに死にたいしな」

「そうだよ。コロナ死の場合は、まともに死に目にも遇えないからな」

「そろそろお迎えの来る頃だろうけど、今回は違うと信じているよ。もう少し頑張って、孫たちの社会人になる姿が見たいからな」

「それまでは、その身体をご先祖にお返しするのは待ってもらってくれよな」

「そのつもりだ。もちろん、母さんもな」

「とにかく無事を祈っているよ」

「お前もな。仕事柄、普通の人よりはリスクも高いだろう」

「それはそうだな。とにかく、何かあったら、遠慮せずに連絡をするんだよ」

「ありがとう」


ひとりごと

最晩年の一斎先生のお言葉だけに、死に対するものが続きますね。

我が身は父母の遺体とは、『孝経』の中の有名な言葉です。

なるべく傷をつけずにお返しするのが、子としての、子孫としての義務のようです。

皆さんもくれぐれも新型コロナウィルス感染症には気を付けつつ、経済を回していきましょう!!


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第2265日 「死期」 と 「而今」 についての一考察

今日のことば

【原文】
誠意は是れ終身の工夫なり。一息尚お存すれば一息の意有り。臨歿には只だ澹然として累無きを要す。即ち是れ臨歿の誠意なり。〔『言志耋録』第339条〕

意訳
心を誠にすることは、一生を通じて心に留めておくべきことである。一息つくにも一息の心が宿っている。臨終に際しては、ただ淡々として煩いのない心の在り様であるべきだ。これこそが臨終における誠の心なのである

一日一斎物語的解釈
生を全うして死期が迫ったときは、ただなすがままに身を委ね、粛々としてお迎えを待つ心境でいよう。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、ひとりで行きつけの喫茶店の個室を借りて、いろいろと考え事をしているようです。

「最近、やたらと人の死に直面するよな。これは天からのメッセージなのかも知れないな」

「いったい俺に何を気づけというのだろうか?」

持ってきた数冊の本を気まぐれにめくりながら、また考えています。

「あらためて実感するところだけど、人間って生まれることも死ぬことも自分で好きなようには選べないんだよな」

「だけど死後の世界が、この現世よりも厳しい世界のようには思えない」

「そう考えると、『生きることは苦しいことだ』という言葉も肚に落とせるよな。前世・現世・死後とすべてを一気通貫でみれば、ひとりの人間の幸不幸もちゃんとバランスが取れているのかも知れないぞ」

苦めのコーヒーに角砂糖3つが神坂課長の定番です。

「うん、旨い。ここのオリジナルブレンドは俺の好みにピッタリだ。至福の時間だな」

「待てよ、生きることは苦しいことばかりじゃない。こうやって幸せな時間もある。もしかしたら、死後の世界は苦もなければ、楽もないのかな?」

「だとしたら、今を精一杯楽しんで、時には苦しんで、泣いて、また笑って、酒を飲んで、くだを巻いて、疲れたら寝るという生き方は生きている今しか味わえないんだな」

「あれこれ死後のことを考えても仕方がないな。コロナ禍と言われる今だって、もしかしたら貴重な体験なのかも知れない」

二杯目のコーヒーを注文して、また書籍に目を通しています。

「一斎先生の最晩年の言葉には、むしろ葛藤を感じてしまうなぁ。本当は淡々と死を迎えるべきなのに、それが出来ない自分と戦っている一斎先生が見えてしまう」

「でも、そこが人間臭くていいのかな? 間違いなく俺は、死ぬ間際まで死を安らかに受け容れられるなんてできそうもないもんな

「生まれてから四十数年、考えてみればいろいろあった。結婚してガキが生まれ、まさかの兄の死も経験した」

「人生は一寸先ですら、よくわからない。だけど、坂村真民さんのように、『一寸先は光』だと信じて、自分のできることに全力投球でいくしかないな!」

コーヒーを一気に飲み干した神坂課長は、個室を出て支払いを済ませ、ようやく春の兆しが見え始めた4月の午後の街中へと消えていったようです。


ひとりごと

死後の世界をどう捉えるかによって、今の生き方も変わるのではないでしょうか?

死後の世界はきっと、現世よりは穏やかな世界のはずです。

しかし、その分楽しみも少ないかも知れません。

苦中楽有りです。

今を精一杯生きて、たくさん笑って、たくさん泣きましょう!


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第2264日 「死後」 と 「現世」 についての一考察

今日のことば

【原文】
臨歿の工夫は宜しく一念に未生の我れを覔(もと)むべし。「始め原(たず)ね終(おわり)に反(かえ)り、死生の説を知る」とは是れなり。〔『言志耋録』第338条〕

【意訳】
臨終を迎えるにおいては、まだ自分が生まれる前の自我というものを探求すべきである。『易経』に「始めを原ね終に反り、死生の説を知る(生まれる前のことを考えてみれば、死後のこともわかるはずだ。それが死生を知るということだ」とあるのは、このことを言うのである

一日一斎物語的解釈
死後の世界を知りたいなら、生まれる前の世界を想像せよ。自分がどのように生まれて来たかに思いを馳せれば、生の意味も明白となろう。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、営業2課の善久君と同行中のようです。

「昨日、K厚生病院へ行ったら、地下で遺体と思われるものをベッドに乗せて運んでいるところに遭遇しました」

「地下には霊安室があるからな」

「はい。後で松田先生に聞いたんですけど、大腸癌の患者さんだったようです」

「女性か?」

「はい」

「女性の死因の一位は、大腸癌による死亡だからな」

「課長、死後の世界ってどうなっているんですかね?」

「そんなの俺が知ってるわけないだろう。善久は死ぬのが怖いか?」

「めちゃくちゃ怖いです」

「そうか。それなら、生まれる前の世界を想像してごらん」

「生まれる前の世界ですか? うーん」

「怖い世界か?」

「いえ、母親の胎内で安全に守られているイメージがあります」

「うん、決して怖い世界ではないだろ?」

「はい」

「死んだら、またその世界に戻っていくんじゃないかな?」

「あぁ、そうなんですかね?」

「完全に守られていて、ストレスも悩みもない世界にさ」

「それならいいですね」

「だから、生きている間くらいは、ちょっとシンドイことがあっても、哀しいことがあっても、なんとか乗り越えていきたいよな。死ねばまた守られた世界で暮らせるんだからさ」

「そんな風に考えると、死ぬのが怖くなくなりますね」

「だろ? かといって、自分から命を絶つのはダメだぞ。生きている間は、なんとかして生き抜いていかないとな」

「はい! とにかく、今の仕事を頑張ります!」

「仕事だけか? 恋愛も楽しんだ方がいいぞ。女がいてこそ男は輝くからな」

「そっちはちょっと自信がないですけど・・・、頑張ります」


ひとりごと

死後の世界がどうかなどと考えても仕方がありません。

きっと素敵な世界だろうくらいに考えて、とにかく今できることを精一杯楽しむべきでしょう。

もしかしたら、生を生き抜いた人とそうでない人とで、死後の世界の入り口が違うかも知れませんよ。


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第2263日 「生死」 と 「昼夜」 についての一考察

今日のことば

【原文】
釈は死生を以て一大事と為す。我れは則ち謂う、「昼夜は是れ一日の死生にして、呼吸は是れ一時の死生なり。只だ是れ尋常の事のみ」と。然るに我れの我れたる所以の者は、蓋し死生の外に在り。須らく善く自ら覔(もと)めて之を自得すべし。〔『言志耋録』第337条〕

【意訳】
仏教では死生を第一義の重大事としている。私はこう言いたい、「昼と夜はそのまま一日の生と死であり、呼吸もまた一瞬の生と死である。つまり死生とは日常のことなのだ」と。自分が自分であることの意味は、死生とは別のところにある。よく自分のことを探求して、その真意を会得せねばならない

一日一斎物語的解釈
死生にとらわれてはいけない。自分の本分をよく見極め、自分の存在意義を弁えて生きねばならない。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、G市民病院の安田消化器内科部長を訪れたようです。

「安田先生、少し元気がないようですが、体調でも悪いんですか?」

「ははは。お前は人の気持ちを察する術に長けているな。実は、昨日患者さんが亡くなってな。まだ43歳の働き盛りの男性だったんだが、発見時にはすでにステージⅣの膵臓がんでな」

「膵臓がんは、5年生存率が10%未満ですもんね。まして、ステージⅣだと厳しいでしょうね」

「うん。その患者さんから『私の命は先生に預けます』と言われてな。やるだけのことはやったつもりだが、結局助けることができなかったんだよ」

「そうですか、ほぼ私と同年代です。身につまされます」

「しかし、彼が立派だったのは、死生を超越していたことだった」

「どういうことですか?」

「自分は毎日、昼と夜を経験することで、疑似的に生と死を経験できている。夜を迎えてその日の自分を後悔するような生き方をしていたら、実際の死に際してもきっと後悔するだろう。そう思って、毎日を精一杯生きてきたから、もしここで寿命が尽きるなら、ジタバタせずに受け入れるつもりだ、と言っていた」

「すごい! 私は同世代ですが、そんなに腹を括れません!」

「俺もそうさ。しかし、俺は彼をもっと生かせてあげたかった。自分のできることはすべてやり切ったと思う反面、まだ何かできたのではないかと自分を責めてしまうんだよ」

「その患者さんと最後に交した言葉は、どんな言葉だったのですか?」

「『先生、ありがとう』と握手しながら言ってくれた。手を握る力は本当にか弱かったけどな」

「安田先生、患者さんがそう言ってくれたなら、後悔する必要はないですよ。先生に診てもらえて良かったと思っているはずです」

「そうだな。俺にはまだたくさんの患者さんがいる。彼の命の分まで、他の患者さんの命を長らえないとな。それが天が俺に与えた使命なんだと思う」

「本当に微力ではありますが、私もご協力させてください。私の使命は、ドクターの医療行為のご支援をさせて頂くことです。がんで死ぬ人を一人でも減らすために、力を尽くします!」

「そうだな。神坂は、俺にとって大切なパートナーだよ。これからもよろしく頼むな!」

「もったいないお言葉です。こちらこそ、よろしくお願いします!」


ひとりごと

やって後悔するより、やらずに後悔することの方がはるかに長く心に残ります。

やって失敗すれば、諦めがつきます。

しかし、やっていないことは、やれば成功できたのではないか?という疑問が永遠に残ります。

死ぬ間際になって後悔しないためにも、日々を大切に、今すべきことに全力を尽くす生き方をしたいものです。


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第2262日 「大往生」 と 「全精力」 についての一考察

今日のことば

【原文】
凡そ生気有る者は死を畏る。生気を全く尽くれば此の念も亦尽く。故に極老の人は一死睡るが如し。〔『言志耋録』第336条〕

意訳
総じて生きる気力のある人は死を恐れる。生気がまったく尽きてしまえばそんな思いも消え失せてしまう。したがって超高齢の人は眠るように安らかに死んでいく

一日一斎物語的解釈
天寿を全うした人は、眠るように安らかに死んでいく。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、佐藤部長の部屋に居るようです。

「N大学病院の元院長・瀬戸田先生が亡くなったらしいですね」

「うん。こういうご時勢だから密葬らしいけどね」

「私は最晩年に少しだけ接しただけだったんですけど、部長はだいぶお世話になったのですよね?」

「長谷川先生が教授だった頃の病院長なので、お世話になったよ。というか、器械の値段が高いといつも叱られてばかりだったけどね。(笑)」

「怖い先生だったのですか?」

「いまならパワハラで訴えられるんじゃないかと思うようなエピソードがたくさんあるドクターだったなぁ」

「部長もやられましたか?」

「よく物は投げつけられたよ。あの長谷川先生ですら、瀬戸田先生にはまったく頭が上がらなかったからね」

「信じられません」

「『俺は100歳まで現役で通すぞ!』が口癖の先生だった」

「すごい生への執着ですね」

「ところが、晩年はめっきり優しくなってしまったようでね。長谷川先生や中村教授が訪れてもニコニコしながら、『いつお迎えが来ても喜んでお受けするつもりだ』と言っていたらしいよ」

「やるべきことをやった人の余裕でしょうかね?」

「そうかも知れないね。お二人とも、そんな優しい瀬戸田先生を見るのが、かえって辛かったらしい」

「なんとなくわかる気がします」

「最後は、お二人も一緒に看取ったらしいんだけど、本当に眠るように亡くなったらしいよ」

「そうですか。不謹慎な言い方かも知れませんが、素敵な最期だなと思ってしまいます」

「享年97歳。あと三年で100歳だった。でも、きっと思い残すことはなかったんだろうね」

「はい、そんな気がします。自分の生を精一杯生きて、最後は眠るように死んでいく。私の理想の死に方かも知れません」

「私もそう思う。そのためにも今を精一杯生きないとね」

「はい。『あの時こうすれば良かった』なんて思いがあったら、安らかに死ねませんからね!」


ひとりごと

年齢を重ねるにつれ、死に対する恐怖は薄れていくもののようです。

とはいえ、まだまだやりたいことがあります。

日を愛しみ、時を大切にして、できることに力を尽くす。

安らかにお迎えを待つためにも、そこに徹するのみです。


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第2261日 「生死」 と 「今生」 についての一考察

今日のことば

【原文】
人身の気脈は潮(うしお)と進退し、月と盈縮(えいしゅく)すれば、則ち死生は固より定数有り。但だ養生して以て享くる所の数を全うするを、斯(これ)得たりと為す。長生久視は道(い)うに足らざるのみ。〔『言志耋録』第335条〕

【意訳】
人間の身体を流れる血液は、潮の満ち干きと共に進退し、月の満ち欠けと共に収縮する。つまり、死生はもともと定められたものに過ぎない。ただ養生をして、ありのままに天寿を受け容れて、生を全うすることが人間としての生きかたなのだ。不老長寿などということは、取るに足らない問題なのだ

【一日一斎物語的解釈】
人の死生は天によって定められており、自らの手ではどうすることもできない。不老長寿を望むことなど、そもそも不可能なのだ。それよりも唯一自らの手でなんとでもできる「生きる」ことに全力を尽くせばよいのだ。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、営業2課の石崎君と同行中のようです。

「課長、この前M社の小田さんから熟睡できるアプリをもらったんです。課長も飲んでみますか?」

「サプリ? 要らないよ。俺はそんな人工的なもので自分の人生をコントロールしたくないからな」

「そんなに意地を張ることもないですよ。飲むとぐっすり眠れます。熟睡と寿命は相関があるらしいですよ」

「良く寝ると寿命が延びるってことか?」

「はい。というか、ちゃんと寝ないと早く死ぬといった方が合ってるかも知れませんけど」

「俺は四十歳を超えてからは、こう思うようになった。自分の人生の長さというのはある程度決まっているのではないかってな」

「決まっている?」

「天命ってやつだよ。生まれること死ぬことは自分でコントロールできないからな。お前だって、生まれたくて生まれてきたわけじゃないだろう?」

「まぁ、それはそうですけど・・・」

「死ぬのも一緒だ。自分の死を自分でコントロールできないからな。自殺は別だけどさ。だから、自分自身でコントロールできるのは『生きる』ことだけだ。どう生きるかだけは自分でなんとでもなるだろ?」

「はい、そういう意味では、サプリだってどう生きるかにおいて重要じゃないですか?」

「まぁ、無意味ではないかな」

「熟睡できた方が、日中全力で働けるじゃないですか」

「お前は、サプリ屋の回し者か?」

「課長の二十代はどんな感じだったのですか?」

「今とは時代が違ったし、会社ももっと小さかったからな。夜中まで働いていたよ。それこそ睡眠時間は1日4~5時間だったな」

「しんどくなかったですか?」

「全然。毎日楽しかったよ。いまの若い奴は自由に残業できないことが可愛そうに思うくらいだ」

「そのくらい働かないと課長みたいな四十代にはなれませんか?」

「どれくらい働くかという時間は置いておいて、真剣に仕事に取り組む意識は間違ってなかったと思うぞ。そうやっていつもお客様のことを考えて働いたから、こんな俺が人の上に立てるようになったんだと思う」

「生きることに全力を尽くすというのは、仕事に全力を尽くすということなのですか?」

「仕事と遊びの両方に決まってるだろう。仕事と酒と女とギャンブルだな」

「私は仕事と女に力を尽くします」

「何の宣言だよ!!」

「ところでサプリはどうします?」

「やっぱりお前はサプリ屋の回し者だな!!」


ひとりごと

小生が学ばせていただいている永業塾の塾長・中村信仁さんは、「生まれることと死ぬことは自分ではどうしようもできない。しかし、唯一生きることだけはなんとでもなる」と言います。

ならば、生きることに全力を尽くせばよいわけです。

生きることにおいて仕事が占める割合は大きいでしょう。

充実した仕事をせずに、生きることを充実させることはできませんね!


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