一日一斎物語 (ストーリーで味わう『言志四録』)

毎日一信 佐藤一斎先生の『言志四録』を一章ずつ取り上げて、一話完結の物語に仕立てています(第1066日目より)。 物語をお読みいただき、少しだけ立ち止まって考える時間をもっていただけたなら、それに勝る喜びはありません。

2021年06月

第2331日 「才」 と 「私」 についての一考察

今日のことば

原文】
古今姦悪(かんあく)を為す小人は、皆才、人に過ぐ。商辛(しん)の若(ごと)きは、最も是れ非常の才子なり。微・箕・比干の諸賢にして且つ親有りと雖も、其の心を格(いた)す能わず。又其の位を易(か)うる能わず。終(つい)に以て其の身を斃して、而かも其の世を殄(た)つ。是れ才の畏る可きなり。〔『言志録』第65条〕

【意訳】
古今を通じて、悪行を為す小人物は、皆才能はすぐれていた。殷の紂王は最もすぐれた才能を悪に活かした代表といえる。微子や箕子や比干などの堅臣や親族でさえ、彼を改心させることはできず、結果として討ち亡ぼされ、さらにはその家も途絶えてしまった。才能の用い方の恐るべき事例である。

【一日一斎物語的解釈】
才能が人徳に優っているタイプの人間は、わが身どころか、家・組織・会社・国家を崩壊させる可能性を有している。才能と共に徳を磨くことを忘れてはいけない。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、営業部の佐藤部長と同行中のようで、訪問先に向かう車中に居るようです。

「そういえば、フカエモンが逮捕されてしまいましたね」

「粉飾決算は不正会計だからね。逮捕されても仕方がないよ」

「赤字を出すことをプライドが許さなかったのでしょうか?」

「今はコロナ禍の中にあるから、正直に決算を上げても許されると思うんだけどなぁ」

「天才、策に溺れるって感じですかね?」

「そうなんだろうね。たしかに彼には人がうらやむほどの才能がある。ただ、それに見合うだけの徳を養ってこなかったことが、こういう結果を招いたんだろう」

「徳と才のバランスですね。昨日本田君とそんな話をしました。せっかく才能や能力に恵まれていても、それを過信すると痛い目に遇うという話なんですが」

「そのとおりだね。これは一斎先生が言っているんだけど、かつて殷の紂王という暴君がいた。彼は政治上の手腕に長けていたんだが、女性に溺れた。そして、酒池肉林の放蕩経営で庶民を苦しめた。優秀な部下たちを次々に粛清し、独裁体制を築いていった」

「いまの北朝鮮のようですね」

「うん。その結果は、周の武王に討たれた。しかも、紂王一人が殺害されただけでなく、数百年続いたとされる殷という王朝を終わらせてしまったんだ。たった一人の過ちによってね」

「なるほど、しかしそれは会社や組織にも当てはまりますね」

「『長と名のつく人が自分のことばかり考えて、メンバーやお客様をおろそかにすれば、あっという間に組織や会社は崩壊してしまうだろうね」

「フカエモンのライフシェア社も潰れますかね?」

「彼無しで再生できれば潰れないだろう。問題は、果たしてそれだけの人材が残っているかだね」

「彼も粛清人事をやっていそうですもんね」

「そうだね。おそらくは内部告発が発端だろうしね」

「対岸の火事だと笑ってはいられませんね」

「神坂君もメンバーには厳しいからねぇ、気をつけてよ」

「部下に粛清されないように、気をつけます!」


ひとりごと

リーダーたる人が「私」にこだわり、私腹を肥やせば、本人だけでなく組織までもが崩壊する、と一斎先生は言います。

そんな事例は、これまでの世界中の歴史において繰り返されてきました。

私欲に勝る公欲を持ち、世のため人のために尽くせるリーダーでありたいものです。


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第2330日 「能力」 と 「失敗」 についての一考察

今日のことば

原文】
才は猶お剣のごとし。善く之を用うれば、則ち以て身を衛(まも)るに足る。善く之を用いざれば、則ち以て身を殺すに足る。〔『言志録』第64条〕

【意訳】
才能とはもろ刃の剣でもある。うまく活用すれば身を守るものともなり、活用を誤れば自分の身を危険に晒すことにもなる。

【一日一斎物語的解釈】
才能は両刃の剣である。使い方を誤れば、かえって我が身を危険に晒すことにもなりかねない


今日のストーリー

今日の神坂課長は、新聞記事を読んでいるようです。

「やっぱり逮捕されちゃったな、深江健」

「飛ぶ鳥を落とす勢いのベンチャー社長でしたからね。何をやっても大丈夫とでも思ってしまったのでしょうか?」

営業2課の本田さんがお付き合いしています。

「官憲を敵に回すとこうなるという見せしめかもね」

「少し前に、サッカーチームを買おうとして大騒ぎになりましたし、目立ちたい人なんでしょうね」

「京大出身の超エリートで、既に学生時代に起業して大成功している人だから、調子に乗っちゃうのも分らなくはないけどね」

「すごく頭の良い人なんでしょうね?」

「いわゆる天才なんだろうなぁ」

「勿体ないですね」

「昔から『能ある鷹は爪を隠す』というけど、才能があるからといってそれをひけらかすと、結局は自分で自分の首を絞める結果を招きがちなんだろうな」

「ということは、才能のない私は大丈夫ということですね。(笑)」

「同じく! しかし、フカエモンほどの才能は無くても、自分の得意分野においては気をつけろってことかもよ」

「たしかにそうですね。私も以前、プレゼンには自信を持っていたのですが、それが過信となって大きな商談をロストしたことを思い出しました」

「俺もトークに自信を持ちすぎて、失敗したことは数知れずだ」

「才能は両刃の剣だということでしょうね」

「しっかりと磨いて、つねにピカピカの状態にしておかないと、すぐに錆びちゃうのが真剣だからね」

「私たちの能力も、いざというときに役に立つように、地道に磨きを掛けながら温存しておきましょう!」

「磨きすぎて使わないうちに折れちゃったりして・・・」


ひとりごと

これまでの自身の失敗を顧みると、自分の苦手の分野で失敗することは少なく、むしろ得意分野で思わぬ轍を踏むということが多いように思います。

まさに、能力は両刃の剣だということでしょうか?

得意分野であるからこそ、更に磨きをかけ、安易に活用しないように意識することが重要なようです。


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第2329日 「断念」 と 「決行」 についての一考察

今日のことば

原文】
凡そ事吾が分の已むを得ざる者に於いては、当に之を為して避けざるべし。已むを得べくして已めずば、是れ則ち我れより事を生ぜん。〔『言志録』第63条〕

【意訳】
自分の分に応じて為すべきは為し、為さざるべきは為さずという姿勢こそが、我が身を平穏に保つ秘訣である、と一斎先生は言います。

【一日一斎物語的解釈】
やるべきでないことに手を出せば、自ら大きな禍(わざわい)を引き起こすことになるものだ。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、ネットニュースを見ているようです。

「予想通り東京は感染者が増えている。この状況で世界中から人を受け容れるなんて正気の沙汰じゃないよな」

「本当に誰のためのオリンピックなんでしょうね?」

山田さんも同意しています。

「そりゃ結局、IOCのためのオリンピックなんじゃないの?」

「各国の主力選手も軒並み出場を取り止めていますよね」

「台湾の野球チームは出場を辞退。キューバは予選敗退。一番興奮するはずの野球なのに既に興味が薄れてきたよ」

「それより好調ジャイアンツの試合がなくなる方が残念ですね」

「いや、本当にそう! 一気に虎のしっぽを捕まえるところまで来た。あと数試合のうちに、頭までパクりとやっておきたいよ」

「ちょっと前まで諦めムードだった神坂課長が息を吹き返しましたね。(笑)」

「その辺は現金なやつですから。(笑) そういえば、毎週楽しみに観ていた大河ドラマまでオリンピック期間中は放送を中止するらしい。ふざけるな、と言いたいよ」

「どちらかといえばスポーツ好きの神坂課長がそんな感じでは、全体的に今一つ盛り上がりに欠けるかもしれませんね」

「参加する選手には申し訳ないけど、そういう国民が大半じゃないのかな」

「もちろん利権の問題はあるんでしょうけど、やっぱりやるべきではないと思います」

「うん。やるべきことを避けてはいけない。逆に、やるべきでないことを無理して決行すれば、自ら大きな禍を引き起こすことになる、というようなことを一斎先生は言っているんだ。山田さんの言うとおり、ここは開催を中止または延期すべきであって、無理に決行することはとんでもな禍を招くことになるかもしれないね」

「果たしてその禍って何なのでしょうか?」

「日本も欧米各国のように急激に死者が増えるとか?」

「恐ろしいですね」

「どうなるかは、わからないけどね。いずれにしても日本が変異株のデパートと化すことは必至じゃないのかなぁ」

「そんなデパートで買い物をする人は居ないでしょうけどね」

「たしかにね。それこそ、そんなデパートは営業を自粛してもらわないと困るね!」


ひとりごと

為すべきことは為し、為すべきでないことは為さない。これがその身を平穏に保つ秘訣だと一斎先生は言っています。

小生はこの言葉を読んで、ストーリーにもあるように、オリンピックのことが真っ先に浮かびました。

IOCのごり押しや脅しがあるのか否かは知りませんが、まだ今なら間に合うのではないでしょうか?

声を大にしてオリンピックを中止すべきです。


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第2328日 「美点」 と 「空気」 についての一考察

今日のことば

【原文】
凡そ人と語るには、須らく渠(かれ)をして其の長ずる所を説かしむべし。我れに於いて益有り。〔『言志録』第62条〕

【意訳】
人と語り合う場合には、相手に長所を語ってもらうべきである。そうすれば、そこから学ぶこともできるのだ。

【一日一斎物語的解釈】
人と接する際は、相手の長所を学ぶべきである。そこから得られるものは大きいはずだ。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、オンラインの読書会に参加したようです。

「本日の司会を務めます、照井です。よろしくお願いします。今日が久しぶりの参加という方も多いようなので、まずは自己紹介をお願いします。なお、その際はご自身で自分の長所だと思う所を教えてください」

司会の照井さんと7人の参加者は次々に自己紹介をしたようです。

その後は、本日の課題本『啓発録』について、照井さんが出したお題に対して、2班に分かれて、各自がアウトプットをしていきました。

その休憩時間のことです。

「照井さん、神坂です。先ほど、自己紹介のときに皆さんに長所を言うようにと指示されましたよね。でも短所については触れないようにされていました。何か理由があるのですか?」

「初めて会う方にわざわざ自分自身の短所を伝える必要はないかなと思ったのが一番の理由ですかね」

「なるほど、たしかにそうですね」

「それに、短所だと『他人のフリみて我がフリ直せ』という考え方になって、ネガティブになりがちです。でも、長所については、もし自分にはない長所なら、そこから学べることは多いのではないでしょうか」

「おっしゃるとおりですね。いわゆる美点凝視でいく方が、その後の会話もポジティブで明るくなりますしね」

「はい、そう思っています。この会ではもうひとつ、相手の意見を否定しないということを基本ルールにしています。そのことで、皆が遠慮せずに言いたいことが言える雰囲気ができあがります」

「なるほど、参考になります。私の部署で会議をやると、私がついつい部下の発言を否定しまいがちです」

「それだと、だんだん意見が言えない雰囲気になっていきませんか?」

「言われてみれば・・・。いつしか私のワンマンショーになっていることもしばしばで・・・」

「ははは。部下に自由に意見を言わせて、最後に神坂さんがどの意見を採用するかを決めれば良いのではないでしょうか?」

「そこは多数決ではなくていいんですかね?」

「はい。リーダーの一番の役割は『決める』ことです。そこは、部下に譲るべきではないと思います」

「決めることか。たしかにそこを部下に委ねたら、業務放棄ですね!」

「はい」

「ありがとうございます。とても勉強になりました。あ、そろそろ後半の部の開始時間ですね?」

「はい。それでは皆さん、後半の部に入ります。各グループの代表の方のアウトプットをお願いします。まずはAグループからお願いします」


ひとりごと

美点凝視、これは常に意識をしておくべきことです。

気を抜くと、他人の欠点に目がいきがちなのが小生の悪い癖ですが、皆さんはどうでしょうか?

長所から学ぶという姿勢は、自分自身もポジティブに捉えられますし、相手も気分がよいでしょう。

そして、組織内に美点凝視が徹底されれば、各自の短所は自然と解消されていくのかも知れません。


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第2327日 「一芸」 と 「語り」 についての一考察

今日のことば

原文】
一芸の士は、皆語る可し。〔『言志録』第61条〕

意訳】
一芸に秀でた人は、皆相通じる共通の思考があるので、共に語り合うことができるものだ。

【一日一斎物語的解釈】
一芸に秀でた者にしか通じ得ないもがあり、語り合えないものがある


今日のストーリー

今日の神坂課長は、新美課長とランチに出かけたようです。

「昨日さ、YouTubeで一流の営業人のパネル討論会を見たんだよ」

「あ、それ私も見ました。保険とか家のセールスの人達の討論会でしょ?」

「そうそう。保険、家、車の営業人が多かったな」

「でも、超高額の医療機器セールスマンも居ましたね」

「俺たちが普段扱っている医療機器とは訳が違うよな。1台3億とかの世界だからさ」

「当社の個人年間計画より高い金額ですからね。コツコツ消耗品の売り上げを積み上げていく我々の仕事がちっぽけに感じてしまいました」

「たしかにね。しかし、業界が違っても売れる人というのは、考え方は一緒なんだな」

「そうですね。一流の人達にしか通じ合えないものがあるように感じましたね。だからこそ語り合えるみたいな雰囲気がありました」

「お客様のためとはいえ、『そこまでやるか?』ということを皆やってるもんなぁ」

「お客様が癌の告知を受ける場面に立ち会うって言ってた保険のセールスマンがいたのには驚きました」

「ウチの会社に出入りしているような保険のおばちゃんとはちょっと訳が違うな」

「同じ営業マンとして見習うべきことが多かったです」

「俺もあの人たちの中に混じって、ディスカッションしたいなぁと思っちゃったよ」

「さすが神坂さんだな。私はそんなとこに出たら、ビビッて何も言えそうもありません」

「ははは、新美らしいな。ところであの動画、今度の営業部の会議のときにみんなで見るのもいいかもな?」

「あー、それは面白いですね。みんなの反応も気になります」

「でも、みんなが大物狙いになっても困るか?」

「消耗品を売るのが馬鹿らしく思われたらマズいですね」

「そうだな。俺たちの仕事は、消耗品をコツコツ積み上げて売り上げのベースを作り、そこに器械売りをプラスオンして計画をクリアしていくしかないからなぁ」

「そうですね」

「ただ、中堅メンバーだけを集めて見せるのは良いかもしれないな。佐藤部長と相談してみよう」

「はい。一流の営業人の考え方を知っておくことは重要だと思います!」


ひとりごと

一芸に秀でた人には、彼らにしかわからない思考や世界があるのでしょう。

テレビなどでも、異なるスポーツのアスリートが対談をする際、お互いに相通じるものを感じて盛り上がる場面を見かけます。

それはもしかしたら宇宙の摂理のようなものを体得することなのでしょうか?

凡事には関係のない世界だと思わず、学び・気づき・実践のサイクルを回して、少しでもそうした一流の人に近づける努力を続けましょう!


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第2326日 「読書」 と 「活学」 についての一考察

今日のことば

【原文】
古人は経を読みて以て其の心を養い、経を離れて以て其の志を弁ず。則ち独り経を読むを学と為すのみならず、経を離るるも亦是れ学なり。〔『言志録』第60条〕

【意訳】
昔の人は、経典を読んで精神を修養するのみならず、経典を離れて実地の生活において己の志の実現を図ったのだ。ただ経典を読むだけが学問ではなく、経典を離れた実際の生活の中にこそ真の学問があるのだ。

【一日一斎物語的解釈】
読書を活かすには、仕事や生活の中で読書を活かし、実体験から学ばねばならない。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、営業2課の梅田君と同行しているようです。

「課長はよく本を読めと言いますけど、本を読むと仕事ができるようになるのですか?」

「なるよ。ただな、仕事ができる人になりたいから本を読むというのではダメかもな」

「え? 課長は仕事ができる人になるために本を読んでいるのではないのですか?」

「うん」

「じゃあ、何のために?」

「立派な人になるためだ」

「なんですか、それ?」

「違う言葉で言えば、人格を磨くためだ」

「なんだか難しいですね」

「まぁでも、最初は仕事に活かすつもりで読めば良いよ。とにかく本を読んで、良いなと思ったら実践することだ」

「読むだけじゃダメだということですね」

「その通り!」

「本当は本を読んだら一旦本から離れろと昔の偉い人は言ってるけどな」

「どういうことですか?」

「仕事や生活の中で色々な経験をすると、ある時。そうか、これが本に書いてあったことかとわかる時が来る。そこで、もう一度本を読み返してみる。そうすると本の学びが本物になるんだよ」

「そうですか? じゃあまずは仕事に使えそうな本を探して読んでみます」

「どうせなら、難しそうな本とじっくり取り組んでみろ」

「え、でも理解できなかったら、仕事に活かせないんじゃないですか?」

「わからなくても良いから一所懸命に本と格闘すればいいんだ」

「全部理解できなくても良いのですか?」

「そう。さっきも言ったように、本から離れてもちゃんと頭の中の引き出しにしまっておけば、必要なときに自然と降りてくるよ」


ひとりごと

読書による学びをいつすべきか?

小生は、平時だと思っています。

何かあって心が落ち着かない時に学んでも、それを存分に活かすことはできないでしょう。

平時に学び、非常時にその学びを活かす。

逆に言えば、緊急時に読書を活かしたとき、本当の学びを手に入れるということでしょう。


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第2325日 「艱難」 と 「修身」 についての一考察

今日のことば

原文】
凡そ遭う所の患難変故、屈辱讒謗、仏逆の事は、皆天の吾が才を老せしむる所以にして、砥礪切磋(しれいせっさ)の地に非ざるは莫し。君子は当に之に処する所以を慮るべし。徒に之を免れんと欲するは不可なり。〔『言志録』第59条〕

【意訳】
いわゆる艱難辛苦に遭うことは、辛いことではあるが、これは天が吾々自身を磨くためにあえて課されたものである。だからこそ逃げずに敢えてその試練に立ち向かうことを考えねばならない。

【一日一斎物語的解釈】
艱難辛苦は我が身を磨くために必要不可欠である。決して逃げることなく、真正面から取り組むべきだ


今日のストーリー

営業2課の石崎君が神坂課長に呼ばれたようです。

「お、少年。少しは眠れるようになったか?」

「神坂課長、いろいろとご配慮ありがとうございました」

「え、何のこと?」

「多田先生に電話してくれたことです」

「なんだ、多田先生、バラしちゃったのか。内緒にしておいてくれればよかったのに。(笑)」

「すごくうれしかったです」(この件については、第2325日参照)

「実は、善久が心配してメールをくれたんだよ。それで、俺から電話しようかとも考えたんだけど、ちょうどお前が多田先生のところに行く日だと気づいて、多田先生にお願いしたんだ」

「ゼンちゃんが?」

「お前は愛されているなぁ。善久だけじゃないぞ、善久の後には本田君も梅田も俺にメールしてきたよ」

「・・・」

「しみったれてんじゃねぇよ! それで、弟はどうだ?」

「多田先生に言われたことを話してみました。神坂課長のことも」

「は? 多田先生、また余計なことまでしゃべってくれたんだな。(笑)」

「弟はバカなことはこれっぽっちも考えていないと言ってくれました。生まれたばかりの赤ん坊の顔をみたら、ここでへこたれるわけにはいかないと」

「そのとおりだ! 人間に降りかかる困難は、すべてお天道様、いやお前たちのご先祖様が弟さんに与えた試練なんだ。愛のある試練なんだから、必ず抜けだす糸口も用意されているはずだ」

「はい。私が心配していることも嬉しいと言ってくれました」

「きっとお前の弟なんだから、お前と同じでたくさんの人に愛されているだろう。みんなが応援してくれるさ」

「そう信じます!」

「石崎、飯は食ってるのか?」

「それが、あんまり食べれていません」

「何が食いたい?」

「そうですね、やっぱりお刺身とかがいいですねぇ」

「今週から『季節の料理 ちさと』がお酒解禁となったんだ。久しぶりに行くか?」

「是非、行きたいです! 今日はお礼に私が奢ります!」

「バカ、俺はまだ部下に奢られるほど落ちぶれちゃいないぞ。うまい刺身があるといいな。じゃあ、今日は定時で上がれるように段取り良くやれよ!!」

「はい!!」


ひとりごと

艱難汝を玉にす。

この章句を読むたびに思い出されるのがこの名言です。

できれば困難に出会わないに越したことはありません。

しかし、人間とは不思議な生き物で、困難に遭わないと自分を客観的に振り返って、自分を磨いていくことができないものです。

だからこそ、ご先祖様が定期的に困難を与えてくれているのでしょう。


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第2324日 「竹」 と 「節」 についての一考察

今日のことば

原文】
山獄に登り、川海を渉り、数十百里を走る。時有りてか露宿して寝(い)ねず。時有りてか饑うれども食わず、寒けれども衣(き)ず。此れは是れ多少実際の学問なり。夫(か)の徒爾(とじ)に明窓浄几(めいそうじょうき)、香を焚き書を読むが若きは、恐らくは力を得る処少なからん。〔『言志録』第58条〕

【意訳】
山岳に登り、川を渡り、海に出たり、数十kmの距離を走る。あるいは衣食住に事欠くようなときもある。そうした経験こそが活学と呼べるものであり、ただきれいな机に座って、良い香りに包まれて読書をするだけでは、実力などつくものではない。

【一日一斎物語的解釈】
人は生活する上で多くの困難に出会うことで、真の学問を体得するものだ。


今日のストーリー

営業2課の石崎君がA県立がんセンター消化器内科の多田先生を訪ねたようです。

「どうした石崎。また神坂に叱られたのか?」

「あ、いえ、違います・・・」

「お前らしい笑顔が消えてしまっているじゃないか。話してみろ」

「実は弟が務めている会社が潰れてしまったんです。去年、新築で家を建てて、子供も生まれたのに・・・」

「COVID-19の影響か?」

「はい。弟は系列の居酒屋の店長でした。COVID-19の前までは、すごく繁盛していて、収入もかなりあったようです」

「なるほどな。それで、お前が相談に乗っているわけか」

「相談に乗るといっても、私には何もしてあげられません。貯金もそれほどある訳じゃないですし」

「そうだな。しかし、そういう困難というのは、結局自分自身で乗り越えるしかないんだ」

「でも、兄として何もできないのが情けなくて・・・」

「お前、寝てないな?」

「はい、3日くらい食事もあまり喉を通りません」

「そのままだとお前が鬱になるぞ。神坂にも相談していないのか?」

「はい、ちょうど出張中でして、来週の月曜日まで出社しないんです」

「憎むべきはCOVID-19だが、憎んだからといって何かが変わるわけじゃない。お前は、神坂の兄さんが事故死したのを知っているだろう?」

「はい、もちろんです」

「その時の神坂はいまのお前と同じような感じだった。目標とする兄を失って、あいつ自身が生きる希望を失いかけていたからな」

「そこまで落ち込んでいたんですか? 私たちにはそういう姿を見せませんでした」

「あいつはそういう奴だ」

「多田先生はなんて声をかけたのですか?」

「どれだけ本を読んでも、今のお前の経験を超えるような学びは得られない。辛いだろう、悔しいだろう。そういう想いを生きる力に変えて、命ある限り精一杯生きるしかないんだ、というような話をしたかな」

「弟も変なことを考えないか心配です」

「所帯を持ち、新しい命を授かったんだろ。もう、お前の弟だけの命ではなくなったんだ。それなら命ある限り、やれることをやれと伝えてみろ」

「はい」

「止まない雨はない。COVID-19だっていつかは収束する。『今』だけを見るな。結婚して、子供が出来た時の幸せな気持ちを思い出せ。そして、この先に待っているもっと幸せな未来を見据えるんだ。そう伝えてやれ」

「そうですね。私たちは辛いことがあると『今』しか見えなくなります。でも、きっと弟の未来は、この経験で磨かれてもっと素晴らしい未来になるんですよね?」

「間違いないよ」

「多田先生、ありがとうございます」

「実はな、石崎」

「はい?」

「昨晩、神坂から電話があってな。お前が落ち込んでいるらしいと聞いたから、話を聞いて欲しいと言ってきたんだよ。同僚からお前が元気がないというのを聞いたんだろうな」

「え、そうでしたか・・・。神坂課長・・・」

「良い上司に恵まれたな、石崎」

「はい。きっと弟にもそういう人が周りにいてくれるはずですね。多田先生に言っていただいたことを弟にも伝えます!!」


ひとりごと 

竹という植物は、あれだけ細い姿のままスクスクと天に向かって伸びていきます。

それを可能にしているのが、竹の節なのだそうです。

節があるから、竹は細くても真っ直ぐに伸び続けられるのです。

我々が経験する困難は、まさに人生の節を作っているのかも知れません。

その困難があるからこそ、人は真っ直ぐに生きて行けるのではないでしょうか?


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第2323日 「人材」 と 「植物」 についての一考察

今日のことば

原文】
草木を培植して、以て元気機緘(きかん)の妙を観る。何事か学に非ざらん。〔『言志録』第57条〕

【意訳】
草木を育て、その生生過程を観ることで、人材育成に関して学ぶことは多い。

【一日一斎物語的解釈】
人材育成に関しては、植物の育成から学ぶことは多い。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、緊急事態宣言解除によりお酒も解禁となったので、さっそく「季節の料理 ちさと」へやってきたようです。

「うわぁ、大盛況じゃない。こりゃソーシャルディスタンスをとるのも大変なくらいだね」

「あ、神坂君、あら大累君も新美君も来てくれたの?」

「そりゃ、おめでたい日ですからね。あ、そうだ。ママ、これお祝い」

神坂課長は花束を手渡したようです。

「うわぁ、奇麗な花束ね。三人からのプレゼント?」

「そのとおり! さ、お酒のオーダーストップの時間がくる前に駆け付け三杯と行こうじゃないか」

「神坂さん、お酒を控えるとか言ってませんでした?」

「今日ぐらいいいだろう」

「あ、そういえば、御社からはほかにもお花が届いたのよ」

「佐藤部長でしょ? 今日は会合があって来れないと残念がっていたからね」

「正解! あとひとりは誰でしょう?」

「えー、誰だろうな? ウチにそんなセンスのいい奴いたっけな?」

「答えは雑賀君よ。『今日はうるさい課長連中が行くから、自分はお花だけで勘弁してくださいだって」

「あいつ、一言余計なんだよな」

「でも、雑賀はそういう優しいところがあるんだよな。大累の教育の成果だな」

「尊敬しますよ、大累さん」

「人材育成は、植物を育てるのに似ていますよね。無理して引っ張ろうとすれば、かえって枯れてしまうし、なにもやらなくても育たない。飼料を与えるタイミングが本当に難しいですから」

「あー、以前に佐藤部長に言われたことがあったな」

「はい。『人を教育するときは菊職人が菊を作る様にはしないで、百姓が菜っ葉や大根をつくる様にすべきである。菊職人というのは、形の悪い菊や出来の悪い菊はどんどん捨ててしまう。しかし、百姓が菜大根を作る時というのは、一本一株も大切にし、上出来なものもそうでないものも、形のよい物も悪い物でも、すべて精魂を込めて食べれるように育てあげる。同じように、人の個性は様々だから、その長所を伸ばして立派な人になってさえくれればよいのだ』という言葉です

「お前、完璧に覚えてるのか?」

「あれを聞いたときは衝撃でしたから。これは我等がA県出身の細井平洲先生の言葉だそうです」

「そうだったな。たしかにかつの俺は、菊職人のようにすぐにメンバーにダメ出しをしていたなぁ」

「私もです。あの言葉を聞いて、もう一度雑賀と向かい合うことができたんです」

「あら、偶然ね?」

「ママ、なにが?」

「今日のお通しは食用菊のおひたしなの」

「なんと菊つながりですか!」

「おい、あと30分しかないぞ。急いで飲もう!!」

「そんなに慌てなくても・・・」


ひとりごと 

ストーリーの中で紹介した細井平洲先生の言葉は、小生が大切にしている言葉でもあります。

人を育成する立場にある人には、ぜひ心に刻んでおいて欲しい言葉です。

パワハラ上司だった小生がもっと早くこの言葉と出会っていたら・・・。

しかし、名言も人物と同様、出逢いは必然、ベストのタイミングでしか出会えないのでしょうね。


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第2322日 「飲酒」 と 「身上」 についての一考察

今日のことば

原文】
勤の反を惰と為し、倹の反を奢と為す。余思うに、酒能く人をして惰を生ぜしめ、又人をして奢を長ぜしむ。勤倹以て家を興す可しとすれば、則ち惰奢以て家を亡すに足る。蓋し酒之が媒(なかだち)を為すなり。〔『言志録』第56条〕

【意訳】
勤勉と怠惰、倹約と奢侈はそれぞれ相反するものであるが、酒を飲む習慣が怠惰と奢侈を生む元となることがある。勤勉・倹約が家を繁栄させるとすれば、怠惰・奢侈は家を没落させる原因となる。酒を飲むことが家を没落させる仲介役となることがあるので気をつけねばならない。

【一日一斎物語的解釈】
酒に溺れてしまえば、組織・一家を没落させることにもなりかねない。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、N大学医学部附属病院の倉庫脇にある休憩室で雑談中のようです。

「菊池君、上方器械の大坂社長が退任したらしいね」

「お、さすがは情報通の神坂さん、関西の情報も早いですね。そうなんです、正式には今月の取締役会で承認されるみたいですけどね」

「最近、社員さんも大量に流出していたし、その責任を取ったという格好か?」

「表向きはそういうことみたいですが、実際には違うみたいですよ」

「え、そうなの?」

「あの人が大の酒好きなのはご存知ですよね?」

「もちろん。一緒に呑んだこともあるしな。陽気な楽しい酒だった記憶がある」

「最近の社員さんの流出で、酒に溺れ、会社に出てこなかったり、音信不通になることが多かったみたいです」

「それは駄目だよなぁ。酒で身を滅ぼしたか。良い人だっただけに残念だなぁ」

「残った社員さんは、大坂さんを信奉している人達ですから、なんとか酒をやめさせようと色々やったみたいなんですけどね・・・」

「結局、やめられなかったのか?」

「そういうことみたいです」

「でも、彼は創業家の五代目か六代目じゃなかった? おまけにあの人は息子さんが早くに亡くなっていたよね。誰が代わりをやるの?」

「上方器械は既にクドウグループの傘下にありますから、恐らくはクドウから新社長が派遣されると思います」

「そうだった、日本一の医療商社クドウに身売りしていたんだったね。またひとつ老舗が無くなるのか・・・」

「関西では最古のディーラーだったはずです」

「そうだよ。創業150年周年を迎えたばかりだよ。あの時は盛大なパーティをやって、大坂さんも上機嫌だったのになぁ」

「お酒は怖いですね。神坂さんも気をつけてくださいね」

「いや、そうなんだよ。最近、ちょっと酒については考え直さないといけないかなと思っていたところなんだ」

「俺もちょっと酒を控えようかな?」

「あら、残念。今日から『季節の料理 ちさと』がお酒解禁となるので、誘おうかと思ってたんだけどな」

「神坂さん、お付き合いしますよ。控えようと思っているのは、来月からですから!」

「そういうこと言う奴は、だいたい控えやしないんだよ!!」


ひとりごと 

若い人はご存知ないでしょうが、民謡の『会津磐梯山』という唄の歌詞に出てくる小原庄助さんは、朝寝・朝酒・朝湯が大好きで、それで身上(しんしょう)をつぶした、とあります。

さすがに朝酒はしなくとも、このコロナ禍の中で、抱えた悩みを人と共有できず、ついついお酒にはしってしまう人も多いのではないでしょうか?

小生の場合は下戸ですから、お酒の心配はないのですが、ギャンブルは競馬に競輪、競艇とやりますので、そちらで身上をつぶさないように気をつけます!


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れみれみ