一日一斎物語 (ストーリーで味わう『言志四録』)

毎日一信 佐藤一斎先生の『言志四録』を一章ずつ取り上げて、一話完結の物語に仕立てています(第1066日目より)。 物語をお読みいただき、少しだけ立ち止まって考える時間をもっていただけたなら、それに勝る喜びはありません。

2021年07月

第2362日 「司令塔」 と 「組織」 についての一考察

今日のことば

原文】
地をして能く天に承けしむる者は、天之を使(せ)しむるなり。身をして能く心に順(したが)わしむる者は、心之を使しむるなり。一なり。〔『言志録』第96条〕

【意訳】
地をしてよく天の命を受けしめるのは、天が地を支配してそのようにするからである。身体をしてよく心の命を受けしめるのは、心が身体をとりしまっているからである。それは地が天に従うと同じである。

【一日一斎物語的解釈】
地が天の命令をしっかりと受け取るのは、天が地をよく統率するからである。体の各器官が心の指示に従うのは、心が体を管理しているからである。どちらも同じ自然の理である。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、前日のオリンピック、サッカー男子の試合について話をしているようです。

「これまで戦ってきた相手に比べれば、楽に試合ができるかと思ったけど、そうはいかないもんだなぁ」

「ニュージーランドは守備が固かったですね」

営業2課の本田さんがお相手のようです。

「組織でしっかり守れていたよねぇ。司令塔がしっかりしていたんだろうな」

「サッカーの場合、ピッチの上では監督やコーチより、司令塔の役割を果たす選手が試合の結果を左右することが多々ありますね」

「我が日本も遠藤を中心にして、前線の選手まで全員で献身的に守備をしていたよね」

「だからこそ、0対0でPK戦に持ち込むことができたんですね」

「上意下達で、上からの指示を下が的確に守って行動する組織は強いよな」

「会社の組織も同じですよね」

「そのとおりだね。我が営業2課は、俺の指示が的確に守られているだろうかねぇ?」

「神坂課長には強烈なリーダーシップがありますから、概ね組織として機能しているんじゃないですか」

「そうだと嬉しいな」

「どんなに優れたリーダーが居ても、下にいる者が上からの指示を的確に守って行動できるスキルを身につけていなければ、組織は機能しません。我々も日々精進が必要です」

「お互いに敬意をもって切磋琢磨していこう」

「はい!」

「それにしても楽しみがつながったね。PK線は時の運みたいなところがあるからドキドキしたよ」

「キーパーの谷選手が相手のボールを止めたときには、思わず叫んでしまいました」

「同じく! 日本の金メダルラッシュが続いているけど、球技好きの俺としては、野球とサッカーで金メダルを取ってもらいたいんだよ」

「私はそれにプラスしてゴルフですね。松山選手にも金メダルを手にしてもらいたいです!」

「明日以降もスポーツの醍醐味を満喫できそうだね!」


ひとりごと

確固たる指揮官の下、有能なメンバーが指示に応じて臨機応変に対応する。

これが理想的な組織の姿でしょう。

一斎先生は、それお天と地、あるいは心と諸器官に例えています。

いずれにしても、上は上なりに、下は下なりに努力をし続けることが必須条件となりそうですが。


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第2361日 「心」 と 「器官」 についての一考察

今日のことば

原文】
耳・目・口・鼻・四肢・百骸(ひゃくがい)、各おの其の職を守りて以て心に聴く。是れ地の天に順うなり。

【ビジネス的解釈】
人体の諸器官は心と連動して、各々の役割を全うしている。これは地が天の道に従っていくのと同じようなことである。

【一日一斎物語的解釈】
リーダーは、それぞれのメンバーの個性を発揮させつつ、統括していかなければならない


今日のストーリー

今日の神坂課長は、営業2課の石崎君と同行しているようです。

「石崎、人間の身体ってすごいと思わないか?」

「何がですか?」

「手や足、耳や口が全部連動して人間を支えているだろう。すべてが寸分の狂いもなく連動するというのは、奇跡だよ」

「オリンピック選手を見て、そう感じたんですか?」

「そう、そのとおり。人間の能力には限界がないのかも知れないと思ってしまうな」

「毎日、感動をプレゼントしてもらっていますね」

「うん。やはり、始まってみれば、スポーツの素晴らしさには素直に感動するよな」

「はい」

「ところで、一斎先生は身体の各機関を動かしているのは心だと言っている」

「え、脳じゃないんですか」

「俺も最初はそう思った。でも、脳は各機関に指示をしているだけで、全体のバランスを保っているのは心なのかも知れないと思うようになったんだ」

「じゃあ、ウチの会社で言えば、課長が脳で、佐藤部長が心ですね」

「あ、なるほどな。きっとそうだな。お前、時々鋭いことを言うよな」

「時々ではないと思いますけど・・・」

「細かいことは気にするな。脳なのか心なのかは置いておいて、いずれにしても指示を出すリーダーというのは、メンバーの個性をしっかり把握して、最大のパフォーマンスを発揮してもらえるサポートをすることが役割なんだろうな」

「私も将来はリーダーになりたいです!」

「なれるよ。常に周囲の人に感謝と敬意をもって接することができればな」

「頑張ります。そういえば、メダルを取った選手もみんな周囲のサポートに感謝するコメントをしますよね?」

「うん。感謝の気持ちを忘れたら、人間は驕る。人を動かす原動力は、感謝と敬意なんだ。俺は最近ようやくそれに気づいた。だけど、お前は若い。今からそれを意識すれば立派なリーダーになれるさ」

「はい!」

「ところで、お前が一番感謝と敬意を表すべき人は誰だと思う?」

「さぁ? 誰でしょうか?」

「俺に決まっているだろう!」

「また、始まりましたね。でも、課長」

「なんだ?」

「本当に敬意をもって欲しいなら、自分からそういうことを言わない方が良いと思いますけど」

「・・・」


ひとりごと

連日、日本選手が健闘して、メダルラッシュが続いています。

この日のために血のにじむような努力をしてきた選手たちの頑張る姿に、感動しない人はいないでしょう。

コンマ何秒という世界で、身体のすべての器官を見事に連動させるアスリートは、身体だけでなく、心も磨き上げているのでしょう。

それと同じように、人の上に立つリーダーも、メンバーに最高のパフォーマンスを発揮してもらうべく、自らを磨き、修養を重ねていかなければなりませんね。


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第2360日 「敬意」 と 「謙虚」 についての一考察

今日のことば

原文】
人は須らく地道を守るべし。地道は敬に在り。順にして天に承くるのみ。〔『言志録』第94条〕

【意訳】
人は地道を守っていくべきである。地道は謙(卑下)の徳をもっていて、人を尊び己を慎むという敬を意味する。すなわち、人は柔順に天に従っていくのである

【一日一斎物語的解釈】
すべてのビジネスはお客様を喜ばせるためにある。そのために必要なことはお客様を敬い、自らを慎むことだ。謙虚であれば、仕事の神様に受け容れられるはずだ


今日のストーリー

今日の神坂課長は、営業2課の梅田君と面談中のようです。

「お前、あんな温和な先生を怒らせるなんて、相当のことをやったんだろうな!」

「それが、私は亀井先生が何で怒っているのか、まったく見当がつかないんです・・・」

「そんなわけないだろう!」

「そう言われましても・・・」

「どんなやり取りをしたんだ?」

「亀井先生のご希望の商品は、先生のご施設にはオーバースペックだという話をしました」

「なるほど。それで?」

「先生は、『自分が欲しいと言っているのだから、良いじゃないかと言われたのですが、私は『先生に最適の商品は絶対にその商品ではありませんと答えたんです」

「それから?」

「そうしたら、『もう帰ってくれ』と言われて、最後に『もう君の顔は見たくない』と言われたんです」

「あちゃー、出禁ってやつだな」

「そうだと思いました。それで、亀井先生にお声を掛けたのですが、もう振り向きもせずに奥に入っていかれたんです」

「でも、だいたい分かったぞ」

「え、本当ですか?」

「お前にはお客様に対する敬意が不足しているんだな。お客様に対して謙虚さを失ったら、そういうことになるんだよ」

「でも、課長は以前に、お客様と対等のパートナーになれと仰ったじゃないですか!」

「それはその通りさ」

「訳が分かりません!」

「対等とは言っても、俺たち営業マンはお客様に商品を買ってもらう立場だ。だからお客様に対しては常に謙虚でいなければいけないんだよ。謙虚でいるためには、お客様に対して常に敬意を持っていないとな」

「下手に出たら対等でなくなりませんか?」

「俺が言う対等というのは、上からものを言うなとか、下手に出るなとか、そういうことじゃないんだよ」

「・・・」

「お客様が課題を解決する手段として商品を選ぶ際に、頼りにされるアドバイザーになれ、という意味だ」

「そういう意味だったんですか・・・」

「お前は、最後に商品を押しつけてしまった。それじゃ、押し売りと一緒だよ。自分の意見はハッキリ言うべきだが、選ぶのはお客様であることを忘れてはいけないぞ」

「はい。たしかに、押し売りと言われても仕方がなかったかも知れません」

「よし、明日の朝イチでクリニックに行って、先生にお詫びしよう。出禁だけはなんとか解いてもらえるはずだ」

「よろしくお願いします!!」


ひとりごと

敬意を失ったとき、人は勘違い街道を進み始めます。

かつての小生は、まさに勘違い街道の暴走族でした。(笑)

相手に対して敬意をもって接すれば、どんな厳しい言葉でも聴き入れてもらえるのかも知れません。

敬意と感謝を表せば、思いは伝わるはずです。


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第2359日 「自然」 と 「学習」 についての一考察

今日のことば

原文】
布置宜しきを得て、而も安排(あんばい)を仮らざる者は山川なり。〔『言志録』第93条〕

【意訳】
うまく布(し)き並べられて、さらにほどよくすることを要しないのは、山や川の自然である。

【一日一斎物語的解釈】
山や川のような自然の配置には少しの無理もない。組織形成の際には大いに参考にすべきである。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、総務部の居室で西村部長と談笑しているようです。

「ここのところずっと旅に出れてないだろう。それでDVDを買ったんだよ」

「アダルトですか?」

「バカたれ! そんなもの買うわけないだろ!」

「あ、そうですね。あれは、買うものじゃなくて、借りるものか」

「そういうことじゃないわ!!」

「で、なんのDVDですか?」

「『日本の名所100選』という10巻もののDVDだよ」

「凄いのを買いましたね」

「おととしまでは、サトちゃんや神坂君と時々旅に出てたのに、最近はステイホームだからね」

「そうですね。しばらく行ってませんねぇ」

「それで、せめて動画で旅行気分を味わおうと思ってね」

「そういうことですか。たしかに大自然の空気を思い切り吸い込みたいですね」

「今回、動画で大自然の景色を観てみると、あらためて山や川の配置には隙がないなと思ったよ」

「奇跡の調和を感じますね」

「見えない誰かがレイアウトをしているんじゃないかと思うよね」

「組織運営にも参考になりますね」

「お、やっぱり神坂君は成長しているな。君の口からそんな言葉が出るとはな」

「ひとり一人の個性を把握して、最大限に能力を発揮させる配置をする。勉強になります」

「うん、どんなことからも学ぶことはできるんだね。もちろん、アレからもね!」

「酒ですね。でも・・・」

「なんだよ?」

「西村さんが酒から学んでいるとは思えないなぁ。毎回、飲むと終着駅で駅員さんに起こされていますよね?」

「そうだよ。そして、お酒はほどほどに飲むのが一番だということを教えられているわけさ」

「・・・」


ひとりごと

大自然の見事な調和には、一斎先生ならずとも何者かの存在を感じてしまいます。

そして、多くのことを学ぶことができます。

人はどんなことからも学べますが、特に宇宙の摂理を反映した大自然の調和から学べることは多いように感じます。


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第2358日 「努力」 と 「開花」 についての一考察

今日のことば

原文】
已むを得ざるに薄(せま)りて、而る後に諸(これ)を外に発するは、花なり。〔『言志録』第92条〕

意訳
やむにやまれぬこととなって、はじめて蕾を打ち破って外に開くのが花である

【一日一斎物語的解釈】
もうこれ以上はできないという所まで努力を続けた末に、ぱっと花開くのが人の才能である。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、出社早々ネットニュースでオリンピックのサイトを見ているようです。

「日本選手団、調子良いじゃないか」

「昨晩の卓球混合ダブルスの金メダルは感動しました」

石崎君が応対しています。

「凄かったなぁ。特にファイナルセットの猛攻は、どっちが王者なのかわからなくなるくらいだった」

「悲願の金メダルのはずですけど、まったく涙がなかったのも清々しくて良かったですね」

「うん、勝って涙を流すのも悪くないが、笑顔の金メダルは最高だったな。やっぱり男はああじゃなくちゃな」

「伊藤選手は女子ですよ」

「わかってるよ! 水谷君も泣いてなかったじゃないか」

「よく、試合には流れがあると言いますけど、昨日の試合は実力的に勝っていたように見えましたけどね」

「ずっと中国に負け続け、それでも下を向かずに練習を続けてきた。そういう努力の結晶がまさに昨日の試合だったんじゃないかな」

「でも、あんな大舞台でそれが実るなんて最高ですね」

「大舞台だからこそ、努力が花を開いたんだよ。死ぬほど辛い練習だったんだろう。それをやり切ったという自信が奇跡を起こさせたんじゃないかな」

「私たちの仕事でもそういうことってあるんですかね?」

「あるよ。『努力は裏切らない』って言葉は、別にスポーツの専売特許ってわけじゃないはずだ」

「神様っているのかも知れませんね」

「卓球の神様、サッカーの神様、そして営業の神様。きっと、どんな職種にも神様がいて、努力した人間には恵みを与えてくれるんだよ、きっと!」

「営業の神様に認めてもらえるような努力をしたいな!」

「お前は幸せものだよ」

「え、何故ですか?」

「だって、お前のそばには俺という営業の神様が居て、近くでお前に直接恵みを与えているんだからな」

「はぁ?」


ひとりごと

火事場の馬鹿力という言葉もあります。

人間は時に、普段は考えられないような力を発揮することがあります。

しかし、何も努力せず、何も考えていない人にはそうした力は与えられないのでしょう。

やはり、努力という肥料を与えない限り、成功の蕾は花開くことがないはずです。


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第2357日 「月見」 と 「摂理」 についての一考察

今日のことば

原文】
人の月を看るは、皆徒に看るなり。須らく此に於いて宇宙無窮の概を想うべし。〔『言志録』第91条〕

意訳
人が月を眺めるときは、皆ただぼーっと眺めるだけである。しかし本当は宇宙の無限極まり無いことを想うべきなのだ。

【一日一斎物語的解釈】
月はいろいろな姿を我々に見せてくれる。しかし、その美しさだけに心を奪われるのではなく、その姿が宇宙の摂理を教えてくれていることに思いを馳せるべきであろう


今日のストーリー

今日の神坂課長は、仕事を終えて佐藤部長と歩いて駅に向かっているようです。

「今日は月がデカいですね。これがスーパームーンですか?」

「いや、スーパームーンというのはおおよそ年に一回しかないんだ。今年のスーパームーンは5月だったよ」

「そうなんですか。そういう決まりがあることすら知りませんでした」

「とはいっても、実は明確な定義はないようだけどね。地球と月の距離が近いときに満月になると、平均的な満月よりも大きく、明るく見えるようになる。そういう月のことを言うらしいよ」

「勉強になります」

「月と地球の距離が一番遠い時に比べれば、直径で約14%大きくなり、約30%程度明るく見えるらしいから、かなりの違いだよね」

「じゃあ、今日の月もそこそこは地球に近い月なんでしょうね」

「うん、そうだね」

「こうやってあらためて見ると、月は美しいものですね」

「だから、昔からお月見をしたんじゃないの?」

「そうか。私はてっきり酒を飲むための口実だと思っていました」

「ははは、あながち間違っていない気もするけど。ただね」

「はい?」

「一斎先生は、その美しさに見とれて、月が教えてくれることを見落としてはいけない、と言っているんだよ」

「月が教えてくれることですか?」

「うん。月の満ち欠けは、物事が常に変わり続けることを教えてくれる。月は、ずっと満月でいるわけではなく、三日月へと変わるでしょ?」

「なるほど」

「しかし、いつしかまた満月に戻る。つまり、月の形は変わるけれど、月の存在は不変だということを教えてくれている。易の言葉でいえば、『不易流行』だね」

「そんなこと考えたこともなかったです。でも、それを聞いて思ったのですが、四季も同じことを教えてくれているんですね」

「うん。ただ、四季は世界のすべての国で感じられるわけではない。その点、月は世界のどこからでも眺めることができるよね」

「あぁ、そうか」

「月というのは、我々人間に宇宙の摂理を教えてくれる最も身近な存在なのかも知れないね」

「今回の新型コロナウィルス感染症も、何かを教えてくれているんでしょうね?」

「そうだろうね。むしろ、何か大切なことを学び取らなければいけないよね」

「あー、わかりましたよ。月見酒だなんだと酒の口実を探してばかりいないで、しっかりと宇宙の摂理を読み取れというメッセージなんじゃないですか?」

「そう思ったなら、それを実行すればいいんだよ。受け取る人がそれぞれに宇宙の摂理を感じて、自分の行動を変えればそれでいいんだよ、きっと」


ひとりごと

自然の美しさに見とれているだけではいけない。

そこに隠れている宇宙の摂理を読み解け!

これが一斎先生のメッセージなのでしょうか?

コロナ禍だからこそ、噛みしめたい言葉です。


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第2356日 「百年再生」 と 「日々精進」 についての一考察

今日のことば

【原文】
百年再生の我無し。其れ曠度(こうど)すべけんや。〔『言志録』第90条〕

【意訳】
自分という者は、百年経ったら再びこの世に生まれて来るというのではないから、空しく過ごしてよかろうか。一日一日を有意義に過ごさなければいけない。

【一日一斎物語的解釈】
私という人間は百年で生まれ変わりはしない。したがって、空しく日々を過ごすようではいけない。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、高校時代の恩師を尋ねたようです。

「杉田先生、体調はいかがですか?」

「もうすっかり良くなったよ。しかし、あの病気は本当にやっかいだな。あっちの世からお迎えが来た夢も見たよ」

「まだまだ、この世にやり残したことがあるんじゃないですか?」

「そうだな。今、教師として歩んできた道のりを本にしようという話が来ているんだ」

「凄いじゃないですか!」

「森信三先生も、生涯に一冊は本を書けと言っている。俺もそんなチャンスを頂けて有難いよ」

「杉田先生の教師道を本で読める日を楽しみにしています」

「そうだな、お前には一冊謹呈するよ」

「いえ、しっかりお金を払って買わせて頂きます!」

「そうか。『百年再生の我無し』だ。次に生まれ変われる保証がない我が身だ。残された時間を大切にしながら、生きた証を残してみるよ」

「一斎先生の言葉ですね!」

「ほぉー、お前、佐藤一斎を知っているのか?」

「私の上司が信者なもので、いつの間にか私も一斎先生の信者のひとりになりました」

「そうだったのか。お前もまだ若いと思っているうちに、すぐにお迎えが来てしまうぞ。日々を大切に生きろよ」

「はい。兄があっさり逝ってしまったので、兄の分まで長生きするつもりでいます」

「ただ長生きするだけでは駄目だぞ。この国のお役に立たないとな」

「はい。自分の持ち場で精一杯を尽くします」

「うん。俺の生徒の中で一番の劣等生だと思っていたお前が、今では一番成長したのかもしれないなぁ・・・」

「え、俺って、先生の生徒の中で一番の劣等生だったんですか?!」


ひとりごと

数ある『言志四録』の名言の中でも大好きな章句のひとつがこの、「百年再生の我無し」です。

百年経って生まれ変われる保証はどこにもありません。

たった一回の人生を、楽しみ、そして苦しみながら、精一杯あがいて生きていくしかないですね。


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第2355日 「毀誉」 と 「時期」 についての一考察

今日のことば

原文】
当今の毀誉は懼るるに足らず。後世の毀誉は懼る可し。一身の得喪は慮るに足らず。子孫の得喪は慮る可し。〔『言志録』第89条〕

【意訳】
自分自身に対する毀誉褒貶は恐るに足りないが、後世までもその毀誉褒貶が遺ることは恐ろしい。我が身の利害得失は心配に及ばないが、子孫の代までの利害得失はよく考えなければならない。

【一日一斎物語的解釈】
今現在の自分に対する毀誉褒貶はそれほど怖くないが、後になって受ける毀誉褒貶は恐ろしい。また、自分だけの利害得失は心配に及ばないが、子孫の代での利害得失についてはよく考えておかねばならない


今日のストーリー

今日の神坂課長は、社内でネットニュースを見ているようです。

「やっぱり、オリンピックの音楽担当を辞退したのか」

「あー、栄枝永吾のことですか?」

石崎君が反応したようです。

「たしかにオリ・パラの音楽担当の人がこういう発言をするのはマズいとは思うけど、これ相当前の話だもんな」

「私もちょっと変な感じがします。これって、誰かのやっかみなんじゃないですか?」

「なんとなく敵も多そうなキャラだからな。足元を引っ張られた感じだな」

「最近はどうなんですかね?」

「反省しているというコメントを以前に出しているようだし、現行犯ではないよなぁ」

「以前に発言したことが後で蒸し返されることもあるんですね。やはり、日ごろから失言には気をつけないといけないですねぇ・・・」

「なんだよ、その目は?」

「課長は失言のデパートみたいな人だなぁと思いましてね」

「やかましいわ!! しかし、ちょっと怖くなった」

「あまり目立たず、大人しくしていれば大丈夫ですよ」

「そ、そうだな、俺は芸能人じゃないしな。って、なんでお前に慰められなきゃならないんだよ!!」

「そういえば、もうひとり、開会式のプロデューサーも解雇されましたね。この人は芸人時代に、人種差別ネタをやっていたらしいです」

「過去のことで、将来痛い目に遭うのは、自業自得とはいえ辛いだろうなぁ」

「もっと恐ろしいのは、自分が死んだ後にそういう言葉や行動が掘り起こされて、子孫にまで悪影響が及ぶことでしょうねぇ・・・」

「たしかにな。お前みたいな性悪の部下を持つと、そういうことを心から心配しなければいけなくなる」

「課長、大丈夫ですよ。定期的にご飯を奢ってもらえれば、黙っておきますから」

「そういう奴が一番信用できねぇんだよ!!」


ひとりごと

失言は失言として罰せられて当然ですが、後日蒸し返されて制裁を受けるということは良いことなのでしょうか?

人は不完全であり、誰でも過ちを起こすことはあり得ます。

しっかりと反省しているなら、その人に再度チャンスを与えるような組織や国であってほしいと願います。

もちろん、オリ・パラは特殊だということは認識したうえで、同じ前科者として、あえて批判を恐れずに書かせて頂きました。


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第2354日 「着眼」 と 「成果」 についての一考察

今日のことば

原文】
着眼高ければ、則ち理を見て岐せず。〔『言志録』第88条〕

【意訳】
高い視点でものごとを見ることができれば、自然の道理が見えて、迷うことがない。

【一日一斎物語的解釈】
高い視点で物事を判断すれば。宇宙の摂理を体得して迷わず行動できるはずだ。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、YouTubeで『孔田丘一の儒学講座を観ているようです。

「お、爺さん。久しぶりに動画をアップしているじゃないか! 元気になったのかな?」

「皆さん、こんにちは。それとも夜中に観ているなら『こんばんはかな? まぁ、そんなことはどうでもいいのじゃが、お久しぶりです。孔田丘一帰って参りました」

「おかえり、爺さん!」

「ワシに会えなくて寂しいという気持ち悪い連中が仰山いるらしくてな。毎日のようにメッセージが来ていたんじゃ」

「しかし、正直に言おう。そんな皆さんからの励ましのメッセージは本当に力になった。だから、こうして戻ってこれたんじゃろうな」

「さて、諸君。コロナウィルスの猛威はワシの入院前とあまり変わっておらんようじゃな。そんな中でオリンピックが始まった。諸君はオリンピアンと一般の選手との違いはどこにあると思われるかな?」

「練習量じゃないのか?」

「努力? 練習量? もちろん、それもあるじゃろう。しかし、最大の違いは着眼点の高さじゃよ」

「着眼点?」

「諸君、目線を上げなされ。下を向いて歩いていたら、目の前をチャンスが通り過ぎても気づかないんじゃ。目を真っ直ぐに向けていては、目線より上にあるものには気づけない。つねに高いところから下を見下ろす意識をもつことがなにより大切じゃてな」

「なるほど」

「オリンピックに出場したいと思っているような選手では、オリンピックに出れんのじゃ。オリンピックに出場してどんなパフォーマンスを見せたいか、それを常に考えているようでなければダメなんじゃ」

「仕事も同じですぞ。売上100%を達成しようなどと考えている営業マンは、80%で終ってしまうんじゃ。ライバルの誰よりも早く、課題を解決できる提案をすることを常に意識しておる人が、結果的に売り上げを達成するんじゃよ」

「数字なんぞ、追いかけてはイカン! 自分の理想を追いかけるんじゃ!!」

「『理想を追いかけろ!か、さすがは爺さん、良いこと言うぜ」

「そのために高い理想を持ちなさい。そして、冷静かつ客観的に現状を把握しなさい。その理想と現状とのギャップを『問題』と呼ぶのじゃよ」

「そのとおりだなぁ」

「高い理想を掲げ、冷静に現実を見つめれば、何をすべきかは必ず見えてくるんじゃ!!」

「ちょっと久しぶりで熱くなり過ぎてしもうたな。今日はこの辺で休ませてもらうよ」

「爺さん、やっぱりアンタは俺の師匠のひとりだ」

「最後に言っておかねばならないことがある。今の話は昨日、とあるテレビ番組で、アメリカの金メダリストが話していたことのパクリじゃ。ははは」

「マジか、このジジイ! 感激して損したぜ。でも、久しぶりに会えてうれしいよ!」


ひとりごと

高い理想を掲げない限り、大きな仕事はできません。

着眼点を高く持ち、その地点から現状を見下ろしてこそ、どこに行くべきか、何をすべきかが見えてくるのです。

このシンプルな一斎先生の名言を心に刻んで、目線を上げて日々精進しましょう!!


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第2353日 「摂政」 と 「政権」 についての一考察

今日のことば

原文】
託孤(たくこ)の任に当る者は、孤主年長ずるに迨(およ)べば、則ち当に早く権を君に還し、以て自ら退避すべし。乃ち能く君主両全ならん。伊尹(いいん)曰く、「臣、寵利(ちょうり)を以て成功に居ること罔(な)し」と。是れ阿衡(あこう)が実践の言にして、万世大臣の亀鑑(きかん)なり。〔『言志録』第87条〕

【意訳】
先君の遺児を託され、その補佐の任に当る大臣は、幼君が相当の年輩になって政治を執ることができるようになれば、お預かりしていた政権を早くお返しして、自分はその地位から退くべきである。そうすれば、君臣共に安全といえる。昔、殷の湯王に仕えた大臣伊尹が「臣は君に寵愛されて自分に利する処があるからといって、功なり名遂げた後までも、その地位に居ることはしない」といったのは、伊尹が実際に行なった言葉として、万世までも大臣の模範となる。

【一日一斎物語的解釈
先代から若の教育を託された者は、若が適齢期になれば、すぐに権力を若に返し、自らは退くべきである。これで会社が安泰となるのである。これは常に幹部社員が心得ておくべき大切なことである


今日のストーリー

今日の神坂課長は、佐藤部長の部屋に居るようです。

「S医療器は大変なことになっていますね」

「うん、消滅の危機に晒されているね。私は、先代の遠山社長にはお世話になったから、とても残念な気持ちで一杯だよ」

「大累もそう言っていました」

「専務の梶山さんは昔から息子さんを小ばかにしているところがあったからね。こうなることを危惧していたんだ」

「そうでしたか。それに比べると、ウチは安泰ですね。ジュニアはしっかりと丁稚奉公していますし、戻って来ても佐藤部長や西村部長がしっかりサポートされるでしょうから」

「ジュニアが戻ってきたら、新しい会社を引っ張っていくのは、西村さんや私ではなく、神坂君の世代だよ」

「え、私ですか?」

「神坂君、大累君、新美君がジュニアを盛り立てて、一緒に成長していって欲しいと願っているよ」

「そうなるのかなぁ・・・。でも、部長もフォローをお願いしますね!」

「もちろん私もこの会社には愛着があるし、社長には心から恩を感じているから、出来る限りのことはやらせてもらうつもりだよ」

「あー、よかった。なんか、さっきの言い方だと、部長は近々この会社を去るのかと心配になりました」

「ははは。残念ながら、こんなロートルにはどこも声を掛けてはくれないさ」

「そんなことはないと思いますけどね。でも、安心しました」

「かつて周公旦は、兄の武王が早くに亡くなり、息子の成王が聖人するまでの間、成王を教育しながら、摂政として自ら政治を行った。そして、成王が成人するとさっと退いて、自分は成王のサポートに回ったんだ」

「たしかその周公旦という人は、孔子が理想とする人でしたよね?」

「そう、孔子にとってのアイドルのような存在だね」

「S医療器の先代も周公旦のような幹部に若の教育を委ねたかったでしょうね」

「天国で悲しんでいるだろう」

「とにかく、S医療器が穴を開けるようなことがあれば、すぐにフォローできる体制を敷いておきます!」

「うん、そうしてください。我々の使命は、この地域の医療が患者様にとって、安全・安心かつ迅速に行われるようにお手伝いをすることだからね!!」


ひとりごと

かつて、秀吉の参謀だった加藤清正は、幼少の秀頼のサポート役として二条城に参内し、無事に徳川家康との謁見を終えた後、『論語』にある六尺の孤を託すという章句を思い出して涙を流したと言われています。

先代が若くして亡くなり、若君がまだ一人前でないような状況で、経営を任されたならば、しっかりと若君を育てながら、自分自身が経営を行い、若君が成長した後は、経営権を速やかに若君に戻すべきだ、と一斎先生は言います。

得てして権力を握ってしまうと、それを返すのが惜しくなるのが人間の性ですが、仙台への恩に報いるためにも、気持ちよく権力を移譲して欲しいものです。


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