一日一斎物語 (ストーリーで味わう『言志四録』)

毎日一信 佐藤一斎先生の『言志四録』を一章ずつ取り上げて、一話完結の物語に仕立てています(第1066日目より)。 物語をお読みいただき、少しだけ立ち止まって考える時間をもっていただけたなら、それに勝る喜びはありません。

2021年08月

第2393日 「賢人」 と 「凡人」 についての一考察

今日のことば

原文】
聖人は強健にして病無き人の如く、賢人は摂生(せっせい)して病を慎む人の如く、常人は虚羸(きょるい)にして病多き人の如し。〔『言志録』第127条〕

【意訳】
聖人は身体が強く健康で病気のない人のようであり、賢人は努めて病気にならないように気をつけている人のようであり、普通の人は体が弱く病気がちな人のようである。

【一日一斎物語的解釈】
超一流のビジネスマンは、意識しなくとも禍の根源を生むような行動はしない。一流のビジネスマンは、常に意識をして禍が降りかかることのないように心がけている。三流のビジネスマンは、そうした意識がないために、容易に禍に巻き込まれてしまう。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、営業2課の石崎君をランチに誘ったようです。

「今日はラーメンの気分なんだけど、いいか?」

「ラーメンなら毎日でもいいです」

「それはマズいぞ。俺の知っている人でずっと独身で通した人がいてな。その人はほぼ毎日ラーメンを食べていたんだ」

「うらやましい」

「その結果、どうなったと思う?」

「どうなったのですか?」

「40代で高血圧症になって、50代前半で脳卒中で倒れたんだよ。命はとりとめたけど、左半身に麻痺が残った」

「それってラーメンの食べ過ぎなのですか?」

「もちろんそれだけが原因ではないだろう。しかし、やはり何らかの関係はあるんじゃないかな」

「気をつけます」

「そうだな。俺のその知人は、聖人・賢人・凡人に分ければ、やはり凡人にあたるだろうな」

「どういうことですか?」

「そもそも聖人という人は、何も意識せずともバランスの良い食生活が出来る人。そして、賢人と言うのは、身体を気遣って大好きなラーメンであっても週に一回程度の抑えられる」

「なるほど。でも、凡人は自分の欲に負けてしまうわけですね?」

「そういうことだ。まぁ、これは食事に限らないかもな。超一流の営業人は意識しなくても、クレームになるようなことはしない。一流の営業人となると、意識して慎重にお客様に接するからクレームには至らない。しかし、三流の営業マンは、そういうことに関心がないから、大きなトラブルを巻き起こすわけだ」

「私はまだまだ三流です」

「そのとおりだ! だがな、俺の若い頃よりはよっぽどしっかりしているよ。ちゃんと意識をすれば、必ず超一流になれるさ」

「本当ですか?」

「うん、ラーメンを我慢することは、そのための大事な練習かも知れないぞ」


ひとりごと

意識せずとも道から外れないのが聖人、意識して道から外れないようにするのが賢人、意識せず道から外れてしまうのが凡人、ということでしょうか?

これはどんな業界のどんな仕事にも当てはまる真理かも知れません。

まずは凡人の域を脱し、賢人のレベルを確保したいところですね。


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第2392日 「競合」 と 「戦略」 についての一考察

今日のことば

原文】
周官に食医有りて飲食を掌(つかさど)る。飲食は須らく視て常用の薬餌(やくじ)と為すべきのみ。「食(し)は精なるを厭わず。膾(かい)は細なるを厭わず」とは、則ち是れ製法謹厳の意思なり。「食の饐(い)して餲(あい)し、魚の餒(だい)して肉の敗るるは食わず、色の悪しきは食わず、臭の悪しきは食わず」とは、則ち是れ薬品精良の意思なり。「肉多しと雖も、食気に勝たしめず」とは、則ち是れ君臣佐使分量の意思なり。〔『言志録』第126条〕

【意訳】
『周官』という書物には、食医という飲食を司る役職についての記載がある。飲食はすべて常用の薬と視るべきである。「飯はどれだけ精白でもよく、肉の切り身はどれだけ細くてもよい」とは、食事を作るときには丁寧に注意深くせよという教えである。「飯の腐って味が変わってしまったものや、魚が腐って形が変わってしまったものは食べず。色の悪くなったもの、臭いの悪いものは食わず」とは、素材を精選せよとの教えである。「おかずとしのて肉が多くても、飯よりは多く食べない」とは、主食と副菜とのバランスについての教えである。

【一日一斎物語的解釈】
食事を作る際には、素材を精選し、主食と副菜のバランスを考慮した上で、丁寧かつ注意深く調理することが重要である。これと同じように、仕事においても、注力する製品を決め、その製品を拡販するための施策を綿密に練り上げ、主力製品と新規製品との活動のバランスを考慮した上で、実行に移すべきである。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、営業会議の司会を務めているようです。

「今期のO社の注力製品である結石除去用のバルーンについては、拡販できている人とそうでない人との差が大きくなっている印象だな。売り上げが伸びていない人は、しっかりと他社との差別化ポイントを把握できてるのかな。善久はどうだ?」

「はい。B社に比べて価格メリットがあることでしょうか?」

「価格については、最初にプッシュするポイントではないな。まずは、仕様面で評価を得る必要がある。本田君はどんなアプローチをしているのかな?」

「この商品の特徴は、採石量の多さです。B社に比べて一回の使用で1.5倍の結石を掻き出すことができます」

「そこだよ、善久。まずは、仕様面で優位性を訴え、ドクターの興味を惹いたところで、価格メリットを打ち出すんだ」

「はい。次はそういうアプローチで攻めてみます」

「石崎は、せっかくバルーンを他社から奪った割に全体の消耗品金額が伸びていないな。なにか逆にロストした製品があるんじゃないのか?」

「すみません。昨日わかったんですが、ガイドワイヤーを一部奪回されました」

「そうだろうな。いいか、みんな。注力商品に力を入れるのは当然だ。しかし、その間に他の製品をロストしては、結局プラスマイナスゼロになってしまうんだ」

「はい」

「浴槽にお湯を注ぐことを考えてみてくれ。梅田、浴槽にお湯を満たしたかったら、何をする?」

「はい、お湯の蛇口をひねってお湯を出します」

「そうだな。それで確実にお湯は溜まるか?」

「え、溜まると思いますが・・・」

「風呂の栓が抜けていてもか?」

「あ?」

「せっかく風呂に湯を注いでも、下の栓が抜けていたらお湯は溜まらないんだ。新規製品のPRに力を入れるのはいいが、既存製品を守ることを忘れていては、結局ベースとなる金額は増えないんだ」

「なるほど」

「注力製品に関しては、競合製品との性能的なメリットをしっかり把握する。そして、既存製品に関する競合の動きもしっかりと把握しながら、新規製品をPRする。これが重要なんだ。これが消耗品拡販の基礎だと思って、しっかり頭に叩き込んで欲しい」

「はい!」


ひとりごと

食物に関する章句ですが、思い切ってビジネスへと拡大解釈してみました。

販売の世界では、大きな機械を獲得することに目が向きがちですが、実はいかに消耗品を獲得するかが重要です。

なぜなら、消耗品は売り上げのベースになるからです。

しかし、消耗品の競合は激しく、どうしても価格勝負になりやすいという欠点があります。

その価格下落による消耗戦をいかに回避し、他社と差別化できるかを考えて行動するのが、販売の醍醐味ともいえるでしょう。


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第2391日 「信念」 と 「逆境」 についての一考察

今日のことば

原文】
已む可からざるの勢いに動けば、則ち動いて括られず。枉(ま)ぐ可からざるの途(みち)を履めば、則ち履んで危うからず。〔『言志録』第125条〕

【意訳】
已むに已まれぬ思いで動けば、邪魔されることはない。曲げることのできない義を貫けば、実践しても危機に陥ることはない。

【一日一斎物語的解釈】
もうこれ以外に方法はないと信じて突き進めば、人を動かせないことはない。自分が正しいと信じることを貫けば、どんなに厳しい場面でも乗り越えることができる。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、ネットニュースを見ているようです。

「しかし、大谷翔平という選手は規格外だな」

「今までのプロ野球の常識を完全に覆しましたからね」

野球の話題に強い本田さんが話し相手のようです。

「日本ハムで二刀流でいくと宣言したとき、ほとんどの解説者が無理だと言ってたよな」

「メジャーに行くときも、多くの解説者は向こうでは無理だと言いましたよ」

「しかし、実際にはこの活躍だろう。二刀流の選手がこのまま行けばホームランキングだぜ」

「おそらく投手としても10勝は確実でしょう。チームナンバー1の防御率を誇る投手がリーグのホームラン王ですよ。訳がわからない状態です」

「昨日なんて、一番ピッチャー大谷だからな。ピッチャーが一番を打つってどういうことだよ。(笑)」

「漫画の世界でも想像できないレベルです」

「周囲が何と言おうと、彼は二刀流でやれるという自信があったんだろうな」

「一昨年、怪我をした時に、これで投手か野手のどちらかに専念するんだろうなと思っていました」

「ところがどっこい、見事な二刀流の復活劇だもんな。自分は二刀流でチームに貢献するという信念で怪我を乗り越えたって感じか」

「誰より大変なことなのに、楽しそうにやってますからね」

「信じた道を貫く覚悟があれば、茨の道も乗り越えることができるんだな」

「我々も信念をもって仕事をしなければいけませんね」

「そのとおりだよ。周囲が何と言おうと、真っ当な商売を心がけよう!」

「はい。先義後利ですね!」

「うん。一時の利益に惑わされることなく、お客様の課題解決のために最適な提案をするという信念をブラさずに行こう」

「そうは言っていても、もうすぐ9月です。期末が近づくと、つい利に奔りたくなる自分がいます」

「そういうときこそ、大谷翔平を思い出して、義を貫く信念を呼び起こそうじゃないか!」


ひとりごと

連日の大谷翔平選手の活躍はお見事です。

彼が高校時代に書いたというマンダラシートは有名ですが、彼の中では二刀流で成功することこそが、追い求めた野球なのでしょう。

信じて進む人間の意志は強固です。

信念があれば、逆流にさえ打ち克つことができるのでしょう。

Otani san

















エンゼルス・大谷翔平【写真:AP】

第2390日 「顧客」 と 「営業」 についての一考察

今日のことば

原文】
雲烟は已むを得ざるに聚り、風雨は已むを得ざるに洩れ、雷霆(らいてい)は已むを得ざるに震う。斯に以て至誠の作用を観る可し。〔『言志録』第124条〕

【意訳】
雲や煙はやむを得ずして集まり、風雨もやむを得ずして吹き荒れ、雷もまたやむを得ずして鳴り響く。これを見てやむに已まれぬ人の誠の心の発露をしることができよう。

【一日一斎物語的解釈】
自然界における現象はすべてやむを得ずして起るものである。同じように人間も已むにやまれぬ想いをもって仕事に力を尽くすべきである。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、落ち込んでいる石崎君を慰めています。

「すみませんでした。出入り禁止になってしまいました」

「お前、なぜ逆切れしたんだ」

「先生があまりにも理不尽だったんです。絶対に使用中に穴をあけたはずなのに、最初から穴があいていたと言い張るので」

「可能性がゼロとは言えないんじゃないか?」

「いえ、納品時にしっかり点検したので間違いないです。それに、あの時近くにいた若い看護師さんが申し訳なさそうにこっちを見ていたんです」

「その娘がやったと思ったのか?」

「はい、直観的にですけど。きっと間違いないと思います」

「結構、高圧的な態度だったんだな?」

「はい、『お前は俺を疑っているのか?とか『お前じゃ話にならないから、上司を呼べ』とか」

「あそこの院長はクレーマーだって噂もあるよな」

「そうなんです。同じような話を同業の方から何度か聞いたことがあるんです。だから、きっと今回もそうなんだろうと思いました」

「事務長をやっている奥さまが出てきたら決まりらしいぞ。向こうから交換品を指定してくるらしい」

「あ、奥さん出てきましたよ。それで、カタログを見せられて、『これと交換しろ』と言われました。それで、我慢ができなくなって、つい大声を出してしまいました」

「それで出入り禁止か?」

「すみません」

「さっき、院長から電話があったぞ」

「え、そうなんですか?」

「担当者を変えろと言ってきた」

「2課の皆さんにご迷惑をかけてしまいますね、すみません」

「いや、誰にも迷惑はかからないさ」

「え?」

「担当を変えろと言われたから、『石崎を担当者から外します。後任はいません』と伝えた」

「どういうことですか?」

「『お取引をやめさせて頂きます』と言ってやったよ」

神坂課長が舌を出して笑っています。

「大丈夫なんですか?」

「そこまでやられて卑屈でいる必要はない。客だからって何を言っても良いと思ったら大間違いだ! そこでキレなきゃ男が廃るぜ!」

「課長・・・」

「已むに已まれぬ想いで、そういう態度をとったというのは、俺にはよくわかる。俺だったらもっと前にキレていたかも知れない」

「メーカーのO社さんには事情を話しておきます」

「さっき俺から支店長に電話して話をしたよ。あの施設にはO社も手を焼いていたようで、これを機にO社も縁を切るそうだ」

「そうだったんですか」

「課長、ありがとうございます! 必ず今期中にO社の商談を決めてみせます!!」

「期待してるよ、少年!!」


ひとりごと

時々、客なら何を言っても良いと思っているお客様に出会うことがあります。

そういう時には毅然とした態度をとるべきです。

小生も過去に2度ほど、こちらからお取引を止めさせてもらったお客様がありました。

営業マンはお客様と対等であるべきです。

お客様と営業万が互いに感謝の念と敬意をもって接する関係を築きたいものです。

そのためにも、営業マンはお客様の課題解決に全力を注ぐ必要があるのです。


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第2389日 「二十代」 と 「四十代」 についての一考察

今日のことば

原文】
人は少壮の時に方(あた)りて、惜陰を知らず。知ると雖も太(はなは)だ惜しむに至らず。四十を過ぎて以後、始めて惜陰を知る。既に知るの時、精力漸く耗す。故に人の学を為すには、須らく時に及びて立志勉励するを要すべし。しからざれば則ち百悔すとも亦竟(つい)に益無し。〔『言志録』第123条〕

【意訳】
人は若く精力盛んなときには、時を惜しむことを知らない。知っているとしても、それほど大いに惜しむことはない。四十を過ぎてようやく時の大切さを知る。その時はすでに精力は衰えている。それゆえ人が学ぶには、若いときに志を立て、勉学に励むべきである。そうでなければ、後にどれだけ悔いてもはじまらない。

【一日一斎物語的解釈】
若い時は時間の大切さに気づかないものだ。そして、四十歳を過ぎる頃になるとようやく時間の大切さに気づくが、その頃にはすでに精力は衰え始めている。だからこそ、四十を迎えるまでの二十代、三十代のうちに志を立て、自らの仕事に励むべきなのだ。四十歳になって、本当に世の中の役に立つ仕事をするためには、若い時に何をしてきたかが重要なのである。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、営業2課の石崎君と同行中のようです。

「石崎、ちゃんと読書は継続できているのか?」

「それが、どうしても深夜0時を過ぎると眠くなってしまって、あまり進んでいないんですよね」

「20代の今を大事にしろよ。あっという間に30歳はやってくるぞ!」

「でも、睡眠時間も大切だと聞きますよ。一日7時間以上寝ている人とそうでない人では、平均寿命に大きな差が出るらしいです」

「無駄に長生きしても、身体が動かなければ、結局やりたいことはできないんだ。20代の2時間と80代の2時間では、出せる成果も違うはずだろ?」

「それはそうですけど」

「俺は20代のときにもっと勉強しておくべきだったとすごく後悔しているんだ。40代になると老眼にもなるし、体力も衰えてきて、深夜の読書はもっとしんどいものになってくるからな」

「でも眠気にはなかなか勝てなくて・・・」

「以前、俺に薦めていたサプリはどうしたんだよ?」

「あー、あれはあまり効き目がない割りに高いので止めました」

「ほら、みろ。だから言っただろう。そういえば梅田はあんな風貌だけど、将来のことをかなり真剣に考えているぞ。気をつけないとあっという間に追い抜かれちゃうんじゃないのか?」

「え、梅ちゃんがですか?」

「あいつは大きな仕事をしたいんだそうだ。だから、20代・30代の時間を大切にしろとアドバイスしてやった。もちろん、読書もな」

「そうか、それで最近、よく本を読むようになったのか。まだまだ、梅ちゃんに簡単に追い越されるわけにはいきません!」

「お前には他にも優秀な同期もいるじゃないか。願海なんか、睡眠時間を削って本を読んでいるらしいぞ」

「そうなんです。でも、ガンちゃんは別格な気がして、ライバルだと思えないんですよねぇ」

「最初からあきらめてどうする! あいつだって人の子だ、カメがうさぎに勝つことだってある。しかし、カメがうさぎに勝てたのは、最後まであきらめなかったからだ」

「ありがとうございます! 最近、ちょっと気が弛んでいました。今日からしっかり読書します!!」

「うん、今という時間は二度と戻らない。20代・30代を大切に過ごせよ」

「はい。あの眠くならないサプリをもう一度取り寄せて飲むことにします!!」

「いや、そういうことじゃないと思うんだけどな・・・」


ひとりごと

若い時に気づかぬうちに失ってしまっている大切なもののひとつが「時間」です。

20代のときの体力と気力を40代以降も維持することは至難の業です。

しかし、これは50代の小生にも言えることかも知れません。

60代・70代ともなれば、今以上に気力・体力とも減退するでしょう。

だからこそ、今やるべきことは今やるしかないのです!!


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第2388日 「心」 と 「技術」 についての一考察

今日のことば

原文】
本然の真己有り。軀殻の仮己有り。須らく自ら認得を要すべし。〔『言志録』第122条〕

【意訳】
人間には心という真の己と肉体という仮の己が存在している。この2つの自己があることを良く理解しておかねばならない。

【一日一斎物語的解釈】
人間には心という真の自己と肉体という仮の自己が存在している。同様に、仕事においても心(マインド)が技術(スキル)を超えなければ、大きな成果は期待できない。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、ネットの記事を見ながらご立腹のようです。

「いつまで中田のことでグダグダ言ってやがるんだ。名前も名乗らず、姿を隠して人を批判している人間の方がよっぽどクズだってことがわかってないんだよ!!」

「謹慎を解くのが早過ぎるっていう論調も多いですね」

本田さんが応対しています。

「たしかに暴力は駄目だよ。しかし、幸い相手も大きな怪我をしたわけではないし、そもそも事を荒立てたくないと言っているんだろう。当の本人がそう言っているなら、それ以上何を罰する必要があるんだよ」

「反省はしているようですしね。きっと、彼なりに背水の陣で巨人でプレーしているはずですから、才能ある若手にチャンスを与えるべきですよね」

「結局、才能の無い奴の嫉妬でしかないんだよ」

「しかし、ここからが中田選手にとっては本当の茨の道が始まるんでしょうね?」

「そのとおりさ。彼には素晴らしい才能と技術がある。しかし、その技術を活かすには、それに優る心が必要なんだよ」

「心が技術を超えない限り、決して技術は生かされない、でしたよね?」

「そう、それだよ。以前に営業関係の講演会で聞いて感動した言葉だ」

「その心が磨かれないと、巨人で結果を出すのは難しいでしょうね」

「清原が最近YouTubeで、自分はそこがダメだったと語っていた。簡単なことではないよな」

「はい」

「我々医療機器業界の営業人も、はじめは製品知識や医学知識を習得すれば売れると考えて、インプットを増やす。しかし、知識だけでは駄目で、販売の技術が必要なことに気づくときがくる」

「はい。私も30代に入ってそれを痛感しました」

「しかし、40代になると、知識と技術だけでも売れないことがわかってくる」

「そこで心つまりマインドが必要になるんですね」

「うん。自分自身の損得勘定で動くのではなく、善か悪かを判断基準にして、お客様の課題解決のお手伝いをする。そういうマインドで行動しない限り売り続けることはできなくなる」

「私も来るべき40代に向けて、心を磨きます!」

「うん。中田翔も30代に心を磨けば、将来はきっと素晴らしい人格を身につけるはずだ。いつか、日本ハムの監督として球団に恩返しをする日が来るんじゃないかな」


ひとりごと

心が真の自己であり、身体は仮の自分である、と一斎先生は言います。

たしかに、心のコントロールが効かずに身体が暴走すれば、怪我をしたり病気になったりすることでしょう。

同じく、心(マインド)が技術(スキル)や知識(ナレッジ)をしっかりとコントロールできていれば、大きな仕事をすることができるでしょう。

心が技術を超えない限り、決して技術は生かされないのです。


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第2387日 「自力」 と 「他力」 についての一考察

今日のことば

原文】
士は独立自信を貴ぶ。熱に依り炎に附くの念起す可からず。〔『言志録』第121条〕

【意訳】
丈夫たる者は他者に頼らず己を信じることだ。権力者や金持ちに助けを求める心を起してならない。

【一日一斎物語的解釈】
仕事を完遂するためには、自分の力を信じて行動すべきである。安易に地位や名誉のある人の力を借りることを考えるべきではない。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、A県立がんセンター消化器内科の多田先生を訪ねたようです。

「バカヤロー、そういう話は二度と持ってくるんじゃねぇぞ!!」

「す、すみませんでした!!」

どこかのメーカーの営業マン2名が這う這うの体で多田先生の部室から出てきました。

「あれ、ヤバい時に来ちゃったかな。出直そうかな・・・」

「神坂か、入れ!」

「あ、いや。今お取込み中では?」

「もう終わったから大丈夫だ」

「では、失礼します。先生、さっきのはたしか・・・」

「あれはC社の営業マンだよ。あいつら俺に名前を貸せと言ってきやがった」

「どういうことですか?」

「新しく発売するデバイスを売り込むのに、俺が高い評価をしているという宣伝をしたい。ついては指導料として毎月3万円を支払うので、了承してくれないかってな」

「使ってもいないうちにですか?」

「そうだ。要するに俺の名前が使いたいだけなんだろう。胃癌治療の成績で日本トップクラスの俺が評価をしていると言えば、飛びつく医者もたくさんいるからな」

「しかし、普通はサンプルを使ってもらって評価を取るのが先ですよね」

「それがC社のやり方なんだ。欧米のメーカーの考えそうなことだよ」

「モノ自体は、先生の目にはどう映っていますか?」

「悪いデバイスではないと思う。しかし、それほど画期的というわけでもないな」

「まずはしっかりと評価を取ればいいのになぁ。もっと自社の製品に自信を持つべきですよね?」

「そのとおりだ。俺は自社製品を愛していない営業マンの話は聞く気にもならない。ちょっとくらい性能的に劣っていても、この製品が大好きですってオーラを出す営業マンがいると、俺はつい使ってやりたくなるんだ」

「そういえば、先生と初めてお会いしたときに、先生にそう言われたことを思い出しました」

「お前は、自分が売り込む製品に絶大な自信を持っていたよな。正直に言って、大した製品じゃなかったはずだが?」

「はい、あの製品は先生には採用して頂きましたが、結局はあまり売れずに廃盤になりました」

「ははは。そうだったよな。しかし、愚直なまでに製品に惚れこむお前に俺は興味を持ったんだよ」

「はい、そう言って頂いてすごくうれしかったことを思い出しました。『いまどき珍しい奴だな』と言われました」

「しかし、物を見る目は腐っていたがな」

「先生、それは言わないでください。若気の至りってやつですから」

「そうかなぁ、今でもお前が紹介する製品はイマイチなのが多いぞ」

「えー、マジですか?!」


ひとりごと

実力をつけることを怠り、他人の権力にすがろうとするのは情けないことです。

他人の力を借りて成功したとしても、それはニセモノの成功です。

自分を信じて取り組んで、仮にうまく行かなかったとしても、それは経験という貴重な財産となり、後の成功に必ず役立つはずです。

自分を信じて、目の前の仕事に取り組みましょう!!


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第2386日 「私欲」 と 「損失」 についての一考察

今日のことば

原文】
己を喪えば、斯に人を喪う。人を喪えば、斯に物を喪う。〔『言志録』第120条〕

【意訳】
自分自身を取り失えば、人が離れてしまう。人が離れると、すべてを失うことになる。

【一日一斎物語的解釈】
見境をなくして自分の私欲だけを求めると、周囲から人が離れていく。人が離れてしまえば、結局はすべてを失うことになる。
今日のストーリー

今日の神坂課長は、佐藤部長の部屋で雑談中のようです。

「やはりS医療器から大量の離職者が出たようですね。噂ですと、営業部員はすべて退職届を提出したそうです」

「そうらしいね。こうなると単独での再生は不可能だろうな」

「どうもY社が吸収するのではないか、という噂が出ていますね」

「どこかがフォローしないとお客様に多大な迷惑がかかる。そうなれば、その施設の患者さんにも影響が及んでしまう。それが心配だよね」

「はい。ウチもS医療器の顧客だった数施設から、S医療器が納めていた消耗品の発注を回してもらっています」

「それは素晴らしい。地域のディーラー全体でフォローするしかないからね」

「正直に言って、売上規模からいくと、配達回数によっては赤字になるような施設もあるんです。でも、今はそんなことは言っていられませんからね」

「うん、そのとおりだよ、神坂君」

「それにしても、天国の先代は泣いているでしょうね」

「現社長は、自分の我欲に溺れて我を見失った。その結果、大切な社員さんを失うことになった。そして、結局は先代が築き上げた会社までも失うことになってしまったんだね」

「私も先代にはお世話になったので、なんだか他人事ではないんですよね」

「うん、それは私も同じだよ。かつては良きライバルでもあり、また時にはお互いに手を取り合ったこともある会社だからね」

「あの馬鹿息子が!」

「しかし、我々はS医療器の事例からも学びを得るべきだろうね」

「はい。人の上に立つ人間は、自分のことを後回しにして、まずはメンバーを立てることを最優先に考えるべきだということを、あらためて学んだ気がします」

「『仁者は、己立たんと欲して人を立て、己達せんと欲して人を達すだね」

「『論語』ですか?」

「そう。孔子の言葉でね。『仁者と呼ばれる人は、自分が立とうと思えば先に人を立て、自分が伸びようと思えば先に人を伸ばす』という意味だよ」

「あー、まさにそれです。遠山社長は、自分の欲を優先し、自分が先に立つことばかり考えていたんでしょうね」

「うん」

「その『論語』の言葉と一緒に、今回のS医療器の事例を心に深く刻みます!」


ひとりごと

欲に溺れて自分を見失うことの代償は、とてつもなく大きなものになり得るということを、この章句は教えてくれます。

小生がここで重要だと感じるのは、リーダーになる前に、しっかりとこうした学びによって、我が身を修めておく必要があるのだ、ということです。

権力を握ってから学ぶのでは遅いのです。

勘違いをしないためにも、少にして学ぶことが重要だと考えます。


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第2385日 「大仕事」 と 「己一個」 についての一考察

今日のことば

原文】
士は当に己に在る者を恃むべし。動天驚地極大の事業も、亦都(すべ)て一己より締造す。〔『言志録』第119条〕

【意訳】
男子たる者は、己独りの力を出し尽くすべきである。どんな大きな事業であっても、すべて独りから始めるのだ。

【一日一斎物語的解釈】
他人に頼らず、自らの力を信じるべきである。どんな大きな仕事も、すべて独りの熱い想いから始まるのだ。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、満足そうにスポーツ新聞を読んでいます。

「課長、さっそく中田選手が結果を出しましたね」

今日は本田さんが話し相手のようです。

「さすがだよな。たった一振りで試合の雰囲気をガラッと変えてしまった。あれは四番を打った男にしかできない芸当だよ」

「すごい当たりでしたね」

「技術だけではあそこまでは飛ばせないだろうな。やはり素質に恵まれた選手なんだよ、彼は」

「しかし、これからも結果が要求されますね」

「それは望むところだろう。男一匹、過ちを犯し、そこから這い上がれるかどうかは、すべて自分次第だよ」

「周りのサポートも重要なのでは?」

「もちろん、そうだね。しかし、彼の場合はもう周囲のサポートによって、こうしてジャイアンツで試合ができている。すでに外堀が埋まっているんだから、あとはやるだけだ!」

「今までの経験を活かせば、きっと活躍する選手ですよ!」

「俺もそう思う。そして、ジャイアンツV3へ向けての救世主となってくれるはずだ」

「もう同じことは繰り返さないで欲しいですね」

「いや、人間の性格はそう簡単に変えられるものではないよ。今後もカッとしたときに手が出そうになることはあるはずだよ」

「そこを堪え凌げるかどうか?」

「とにかく、昨日という一日忘れず、常に感謝の気持ちを持ち続けることだろうな」

「長嶋終身名誉監督の激励を受け、直後にホームランですからね。最高の一日だったんじゃないでしょうか」

「しかし、勝ててないからな。結局ジャイアンツでの通算打率は、5打数1安打の二割でしかない。常に感謝の気持ちをパワーに変え、自分の力を信じて、素晴らしい野球人へと成長して欲しいよ」

「そうですね。しかし、羨ましいなぁ」

「何が?」

「あんな凄い選手が無償トレードで入ってくるんですよ。我が楽天は取り損ねた感じだなぁ」

「それも先人ひとり一人が巨人軍という伝統を守り続けてきた結果だよ。楽天はまだこれからのチーム。歴史を積み上げていかないとね」

「我が社も然りですね!」

「まったくだ!!」


ひとりごと

大きな仕事を成す人というのは、他人に頼り過ぎず、自らを信じて、たとえ独りであっても歩みを止めない人なのでしょう。

「世の中の人は何とも言わば言え 我が成すことは我のみぞ知る」

とは、坂本龍馬の言葉ですが、時にはこのくらいに気概をもって、世の中や会社を今一度せんたく致すべきなのかも知れません。


nakatasho






















スポーツ報知より拝借

第2384日 「目標」 と 「精進」 についての一考察

今日のことば

【原文】
世間第一等の人物と為らんと欲するは、其の志小ならず。余は則ち以て猶お小なりと為す。世間に生民衆しと雖も、而も数に限り有り。玆(こ)の事恐らくは済(な)し難きに非ざらん。前古已に死せし人の如きは、則ち今に幾万倍せり。其の中聖人・賢人・英傑・豪傑、数うるに勝(た)う可からず。我れ今日未だ死せざれば、則ち稍出頭の人に似たれども、而も明日即(も)し死せば、輒ち忽ち古人の籙(ろく)中に入る。是に於いて我が為したる所を以て、諸を古人に校(くら)ぶれば、比数するに足る者無し。是れ則ち愧ず可し。故に志有る者は、要は当に古今第一等の人物を以て自ら期すべし。〔『言志録』第118条〕

【意訳】
世間でも評判となるような人物になろうとする志は小さなものではないかもしれないが、私はまだ小さいと見ている。今現在この世にいる人間は多数いるが、それでも限りある人数である。よって世間で評判となる人物になることは出来ないことではない。既にこの世に居ない人間も含めると、その数は膨大である。その中には、聖人・賢人・英傑・豪傑とされる人が多数ある。私は今生きている人たちの間ではやや優れているとも言えそうだが、明日死んでしまえば古人の名簿に入れられてしまう。そこで私がしてきたことを古人と比較すれば、とても比べものにならない。これは恥じ入るべきことである。だからこそ、志ある人は、世間ではなく古今第一等の人物を目指すべきであろう。

【一日一斎物語的解釈】
自分の志を低く置いてはいけない。少し努力すれば手の届くような志をおいて、それを達成するのでは器の小さい人間だと言わざるを得ない。視野を広げ、自分の目指す分野において歴史上大きな成果を上げている人物と比較して、それに負けない人物、つまり古今を通してのナンバー1を目指すべきである。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、昨日に続き読売ジャイアンツのことを話題にしているようです。

「昨日の中田の打席での立ち姿を見た時に、雰囲気があるなぁと思ったよ。彼はまだまだ過去の人ではないな」

「DeNAの砂田投手は、蛇に睨まれた蛙のようになってましたね」

昨日同様、話し相手は新美課長のようです。

「ストライクをひとつも取れなかったからな」

「打ちそうな雰囲気はありましたよね」

「ぜひ今日からはスタメンで使って欲しいな。ナカジも好調だけど、中田の打席での威圧感は流石だよ」

「これで中田選手を再生したら、いよいよ原監督は巨人軍史上最高の監督と呼ばれる日も遠くないですね」

「それはどうかなぁ? V9を達成した川上哲治という巨匠がいるからな」

「でも、あの頃はドラフトもなかったわけで、能力のある選手はこぞって巨人に入った時代ですからね」

「それはそうだけどね。たしかに、現在の12球団の監督の中では一枚も二枚も上の力量を持っているからな。現役の中で一番の監督だと言われても喜ばないかもな」

「古今東西で随一の名将というくらいのレベルを目指していそうな気がします」

「そういえば、一斎先生が同じようなことを書いているな。『自分は現役の学者の中では優れた位置にいるという自負はある。しかし、死んでしまえば古今東西の学者と比較される。そうなっても恥じないような学者となるべく励みたい』ってな」

「上には上があるんですね。私なんか、佐藤部長や神坂さんより上に行くことすら想像できないですよ」

「小さい野郎だな。俺なんか秒で抜き去らなきゃダメだぜ」

「たしかに比較対照を身近なところに置きすぎると、小さくまとまりそうですね。会社という枠を飛び越し、同業あるいは医療業界という枠をも超越して古今東西の素晴らしいリーダーと自分を比べて精進しなければいけないですね」

「かつての俺は、社内のトップセールスの地位を得ることを最大の目標にしていた。今思うと小さい目標だよな」

「でも、最初に乗り越える壁ではありますからね。ひとつずつ壁を越えていかなければ、目指すべき地位にもたどり着けませんよ」

「そうだな。実は今からクレーム処理に行くんだよ。面倒だから、お前に代わりに行ってもらおうかと思っていたんだけど・・・」

「そんなことでは、伝説の男にはなれませんよ!!」

「おっしゃるとおりです。気を引き締めて行って参ります!!」


ひとりごと

身近な目標を置くことは悪いことではありません。

しかし、ともすると、小さくまとまってしまうことが危惧されます。

目指すべき目標を置くなら、極力大きな目標を置いて、日々精進を重ねるべきでしょう。


matsushita konosuke
















和歌山県ホームページ、「わかやまの偉人たち」より
プロフィール

れみれみ