一日一斎物語 (ストーリーで味わう『言志四録』)

毎日一信 佐藤一斎先生の『言志四録』を一章ずつ取り上げて、一話完結の物語に仕立てています(第1066日目より)。 物語をお読みいただき、少しだけ立ち止まって考える時間をもっていただけたなら、それに勝る喜びはありません。

2021年10月

第2454日 「動揺」 と 「言葉」 についての一考察

今日のことば

原文】
狂を病む人は、言語序無し。則ち言語に序無き者は、其の病狂を去るや遠からず。〔『言志録』第188条〕

【意訳】
気が狂っている人は、言葉に順序がない。つまり言葉に順序が無い人は、気が狂っていると見られても仕方がない。

【一日一斎物語的解釈】
精神的にパニックに陥っている人は言葉が支離滅裂になる。逆に言えば、言葉が支離滅裂な人は通常の精神状態にはないということである。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、善久君と面談中のようです。

「お前は嘘がつけない男だな(笑)」

「え?」

「正直に言えば良いじゃないか。彼女とデートなんだろ?」

「あ、いえ、あの、はい」

「ははは。ザ・しどろもどろか!!」

「でも、重要な会議なのに、休みを取るというのはマズいですよね?」

「お前にとっては会議と彼女とどっちが大事だ?」

「え、それは簡単には選べないですねぇ……」

「じゃあ、会議に出ろ。その日の休みは認めない!」

「えー、困りますぅ」

「どっちなんだよ!!」

「彼女です! ちょうどその日が彼女の誕生日なんです。結婚を考えているので、どうしてもその日に会いたいんです」

「お、プロポーズするのか?」

「いえ、まだですけど、でも大事な日なんです!」

「仕方ねぇな。どうしてもその日じゃないと、O社さんと俺の日程が合わないんだ。会議の日程は変えられないから、今回は欠席を認めよう」

「ありがとうございます!」

「そのかわり、ビシッと決めろよ! 初めて合体する日なんだろ?」

「やめてください、課長」

「お前、顔が真っ赤じゃないか。下戸の奴が無理やり飲まされたときくらい赤いな(笑)」

「課長がいきなり合体とか言うから……」

「お前は、心が動揺すると顔に出るし、言葉も支離滅裂になるから、すぐにバレるんだよ。もう少し平静を装えるように心を鍛えた方がいいんじゃないか?」

「はい、それは私の課題です」

「そうじゃないとこの先も苦労するぞ」

「そうですね」

「だいたい、そんな状態で結婚したら、ぜったいカミさんに嘘がつけないじゃないか」

「え?」

「カミさんに仕事だと言いつつ、実は休んで彼女とデートなんてときに、絶対バレるぞ!」

「課長、そんなことをしているんですか?」

「え、あ、俺の話じゃないぞ。その、そういう話ってよくあるじゃないか。そう思いませんか?」

「課長、言葉が支離滅裂ですけど!!」


ひとりごと 

この章句を読んで、いわゆるクレーマーといわれるお客様と接する際の事を思い出します。

クレーマーは、製品の不良や営業マンのミスに付け込み、なんとか大きな代償を得ようとします。

しかし、言っていることは、かなり支離滅裂であることが多いものです。

クレーマーに接する際には、毅然とした態度で、相手の言葉の矛盾を突くしかありません。

そのためには、こちらは同様せずに、冷静沈着に対応する必要があるのです。


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第2453日 「寝言」 と 「鍛錬」 についての一考察

今日のことば

原文】
昏睡して囈語(げいご)を発するは、心の存せざるを見るに足る。〔『言志録』第187条〕

【意訳】
ぐっすり眠り込んで、寝言を言うようでは、常に全力を尽そうという心を失っていることが露呈してしまう。

【一日一斎物語的解釈】
常に自分の為すべきことを成そうとしている人は、寝ている時でも気を許さないので、寝言を言うようなことはない。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、総務課の大竹課長と一杯やっているようです。

「最近は、日替わりで別の人と飲んでます」

「いきなり飛ばし過ぎじゃないの?」

「ずっと飲みに行けなくて、小遣いも余っているので大丈夫です!」

「そういうことじゃなくてさ……」

「仲間と一杯やってから帰って寝ると、ぐっすり眠れるんですよね」

「一人で飲んでも酒は酒じゃないの?」

「そう思うんですけど、実際、眠りの深さに違いがありそうなんです。最近は熟睡できているからか、寝言も少なくて助かるとカミさんに言われました」

「そういえば、神坂君の寝言はまるで起きていて誰かと話しているような寝言だったなぁ」

「社員旅行では、みんな私と同じ部屋になるのを嫌がるんですよね(笑)」

「そりゃそうだよ。うるさいだけじゃなくて、ちょっと怖いからなぁ」

「人を化け物みたいに言わないでくださいよ。そういえば、儒学では、寝言を言っているようでは鍛錬が足りないと見るんだそうです」

「それは厳しいねぇ」

「独りを慎むというのは、起きているときだけじゃダメなんですよ、タケさん」

「いやいや、寝ている時くらい気を抜きたいなぁ」

「ひとつのことに全力を傾けることを、孟子は『心を尽くす』と言っていて、それが十分にできない人は、まず『心を存す』ことを意識しなさい、と言っています」

「心を存す?」

「結局、ひとつのことに没入できない人というのは、いろいろな物事に気を取られて集中できていない状態なんですよ。だから、まず心を存す、つまり心を一カ所に留めることに努めるべきなんです。ところが寝言を言うというのは、その心を存することすらできていない証拠なんだそうです」

「そうだとしたら、最近、神坂君が寝言を言わなくなったのは、鍛錬を積んだ成果なんじゃないの?」

「おー、そうなのかな? きっと、そうですね。そうか、俺もついにそのレベルに達したか!」

「いや、あの、軽くおだててみただけなんだけど……」


ひとりごと 

寝言を言うようでは、鍛錬が足りない。

あまりに厳しいご指摘です。

しかし、自分が取り組んでいることを夢に見るというのは、心に迷いがある証拠なのかも知れません。

これもまた、禍福終始を知って惑わぬ心をつくりなさい、という教えなのでしょう。


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第2452日 「言」 と 「行」 についての一考察

今日のことば

原文】
言を慎む処、即ち行ないを慎む処なり。〔『言志録』第186条〕

【意訳】
口を慎むことが、行動を慎むことになる。

【一日一斎物語的解釈】
まず口を慎むことが、行動を自制するためにも重要なことだ。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、石崎君の相談を受けているようです。

「課長、私みたいにやり過ぎちゃう人は、どうやって行動を自制すれば良いのでしょうか?」

「お前、それを俺に聞く?」

「だって、課長なら同じことで悩まれたはずだと思いまして」

「鋭いな。と言っても俺の場合、自分がやり過ぎだと気づいたのは、30代後半になってからだけどな」

「遅っ!!」

「だから、俺に聞くかって言ったんだよ!!」

「じゃあ、いいです」

「おい、ちょっと待てよ。せっかく俺が話をしようと思っているのに、それはないだろ!」

「わかりました。一応、聞きましょう」

「なんで俺が聞いて欲しいような状況になってるんだよ! まぁいいや。いいか、よく聞け」

「はい」

「きっとお前は、行動をどうやって抑えようかとしか考えていないんじゃないか?」

「いや、だって、それが目的ですから!」

「甘いな。本当に行動を自制したいなら、まず言葉を慎まなければダメなんだ」

「は?」

「ちょいちょい鼻につく態度だな。いいか、石崎。お前も俺に似て、どっちかと言えばペラペラしゃべるタイプだろ?」

「それは否定しませんけど…」

「そういうタイプはまず言葉を控えめにするんだよ。ついつい大風呂敷を広げてしまって、それをやらなきゃいけない羽目になったことはないか?」

「よくあります!!」

「だろ?」

「そうか、調子に乗って大きなことを言ってしまうから、そのあと無理をしなきゃいけなくなるんですね」

「うん、俺もよくあったよ。『なんであんなこと言っちゃったんだろう』って思ったことがな」

「ありがとうございます。これからは、一言余計なことを言う前に、一度ぐっと飲みこむ努力をしてみます」

「それだけで、だいぶ無理しなくて済むぞ。俺は、それで楽になったからな」

「はい。でも課長の場合は、まだ結構デカいこと言ってると思うんですけど、それで抑え気味だとしたら、以前は一体どんな絵空事を言ってたんですか??」

「うるせぇ、絵空事って言うな!!!」


ひとりごと 

今回の一斎先生の言葉は、小生にとって、目から鱗が落ちる思いがした章句でした。

振り返ってみると、人からみてやり過ぎなことをする時は、大概その前に大風呂敷を広げてしまって、やらざるを得ない環境を自ら作り出していました。

まず、大きなことを言わない。

これだけでも、大いに行動を自制することができるはずです!

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第2451日 「饒舌」 と 「伝達」 についての一考察

今日のことば

原文】
饒舌の時、自ら気の暴するを覚ゆ。暴すれば斯に餒(う)う。安んぞ能く人を動かさんや。〔『言志録』第185条〕

【意訳】
饒舌になる時というのは、己の心の気が暴走している状態である。暴走すれば気を減じてしまう。そんなことでどうして人を動かすことができるだろうか。

【一日一斎物語的解釈】
自ら喋り過ぎる時というのは、自分の気を抑えきれていない状態で、自分の気を無駄に消耗しているに過ぎない。それでは想いは相手に伝わらない。


今日のストーリー

神坂課長が、佐藤部長に声を掛けられたようです。

「神坂君、さっき善久君にお説教をしていたよね?」

「はい。あいつはどうしても慎重すぎるところがあって、せっかくメーカーさんに勉強会をしてもらったのに、それを担当施設に紹介していないんですよ」

「PRのための準備をしていたの?」

「本人はそう言うんですけど、他のメンバーは皆、先週の内にPRしてくれていますからねぇ」

「なるほどね。ところで、神坂君」

「はい。傍(はた)から見ていると、ほとんど神坂君が話し続けていたように見えたんだけど」

「そうかも知れません。善久は、ああいう時になると、口をつぐんでしまうんですよね」

「善久君の表情はちゃんと見ていた?」

「いや、冷静に振り返ってみると、またいつもの独演会になっていたかも知れません」

「独演会か、たしかにそんな感じだったかも(笑)」

「またやっちゃいました……」

「人が饒舌になる時というのは、気の発散を抑えきれないときなんだ。それは気の無駄遣いだとも言える」

「そんなことでは、こちらの想いは相手に伝わらないですね」

「そう思わないかい?」

「反省します」

「神坂君の指摘自体はとても重要なことだよ。大体の勉強会は、残業時間にやっているよね。ということは、社員さんからしたら貴重な自分の時間を割いているわけだし、会社としても残業代を支払っている」

「そうなんです。だからこそ、しっかりとお客様に紹介してもらいたいんですよ」

「働き方改革を実践する上で、こうした勉強会の取り扱いは当社としても課題ではあるからね」

「しかし、その想いが伝わらなければ何にもなりませんね」

「ですね!」

「もう少し冷静に、私の伝えたいことをまとめてから話してみます」

「よろしくね!」


ひとりごと 

皆さんにも、このストーリーと同じような経験があるのではないでしょうか?

小生の場合は、お説教をされる側ではなく、お説教をする側として、これをやっていたなぁとつくづく反省します。

以前にパワハラ講習を受けた際に、講師の先生は、叱るのは5分以内にしなさい、と言っていました。

銚子に乗ってしゃべればしゃべるほど、相手の心の耳は塞がっていくことに気づかなければなりませんね。


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第2450日 「志」 と 「邪」 についての一考察

今日のことば

原文】
人を教うる者、要は須らく其の志を責むべし。聒聒(かつかつ)として口に騰(のぼ)すとも、益無きなり。〔『言志録』第184条〕

【意訳】
人を教える立場にある者は、すべてを自分の志に帰するべきである。やたらと騒ぎ立ててみても、まったく無駄なことである。

【一日一斎物語的解釈】
人に何かを教える立場にある人は、自分の志に忠実であるべきである。志がブレたまま言葉を連ねても、自分の思うようには相手に伝わらないものだ。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、元同僚・西郷さん主催の読書会に参加した後、二人で飲んでいるようです。

「サイさんに解説してもらうと、孔子の指導方法の凄さがよく理解できます」

「やはり偉大な教育者だよね」

「はい。決して本人の欠点を直接指摘せずに、昔の偉人や君子という架空の人物を例に出して、間接的に指摘する。あのやり方はお見事ですね」

「現役のマネージャーである神坂君には、とても参考になるでしょう?」

「はい。でも、サイさんに解説してもらわなければ、こんなふうには理解できなかったと思います」

「お役に立てて嬉しいよ。ところで、神坂君。なぜ、孔子の指導は弟子たちの心に響くのだと思う?」

「え、何ででしょう? もちろん、高度な技術を使っているんでしょうけれど、それだけではないような気がします」

「さすがだね。以前の回で、孔子が『詩経』のことをたった一言で言い表していたことを覚えているかな?」

「あー、なんでしたっけ。あ、そうだ、『思い邪(よこしま)なし』でしたね!」

「大正解!」

「それが孔子の教育と何か関係があるのですか?」

「孔子の教育に対する思いに邪念がなく、まっすぐな思いをぶつけているからこそ、教えが弟子たちの心に響くんだと思っているんだ」

「なるほど。たしかに、上司に利己心や雑念があったら、部下はちゃんとそれを察知しますからね」

「うん、お客様の課題解決のお手伝いをしたい、という軸をブラさずに、上からアドバイスするのではなく、一緒に解決する姿勢であることが大事だね」

「そういえば、サイさんが現役のときは、いつもそうだったなぁ。私に寄り添って、私が肚落ちして結論を出すまで、根気強くお付き合いしてくれましたね」

「答えを出せるのは、課題を抱える本人だけだからね」

「サイさんからの教えで一番心に残っているのはそこです。『我々はお客様の課題そのものは解決できない。あくまでも解決のお手伝いをするだけであって、解決できるのはお客様ご本人でしかないのだ』という教えは、今でも私の軸になっています」

「嬉しいな。それこそが私の現役時代の志そのものだった気がするよ」

「サイさんは常に後輩や部下のことを真剣に考えてくれました。その思いはまさに『思い邪なし』でしたよ。まさに孔子の教育スタイルを実践されていたんですね!」

「恐縮です(笑)」

「今回も大切なことに気づかせて頂きました。やはり、自分の思いに邪念があったらダメですね。『思い邪なし』、この思いでメンバーと真正面からぶつかっていきますよ!」


ひとりごと

人を教える立場にある者は、教育における本末を間違ってはいけない、という教えでしょう。

営業同様、教育においても技術を習得することは大切なことです。

しかし、技術だけで人を動かすことはできません。

最後は、思い、情といったものが、相手の心を動かすのです。

だからこそ、堅固な志を抱き、自分の目の前にいる学ぶ者の成長をだけ考えて、まっすぐに思いをぶつけていく。

これぞ、「思い邪なし」なのでしょう!


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第2449日 「利己」 と 「障碍」 についての一考察

今日のことば

原文】
事を処するに理有りと雖も、一点の己を便ずる、挟みて其の内に在れば、則ち理に於いて即ち一点の障碍(しょうがい)を倣(な)して、理も亦暢びず。〔『言志録』第183条〕

【意訳】
物事を処理する際に道理が通っていたとしても、そこに自分への便益を求める心が少しでもあれば、せっかくの道理もさまたげられて、結局はうまくいかないものだ。

【一日一斎物語的解釈】
ビジネスを進める上でたとえ道理が通っていたとしても、少しでも利己心があるならば、その道理を覆い隠してしまい、結局はうまく進めることができないであろう。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、大累課長と帰りがけに軽くやっているようです。

「神坂さん、今年の巨人は結局負け越しですか?」

「まさか、ここまで転落するとはな。これでクライマックス進出って、恥ずかしいから辞退して欲しいよ」

「でも、たしか以前にもロッテが3位からCSを勝ち抜いて日本一になりましたよね?」

「あれを日本一と呼べるのか? って話だよ。ソフトバンクだって、2位から日本一になってるしな。あんなのはインチキだぜ!」

「じゃあ、神坂さんはCSは巨人に負けて欲しいんですね?」

「負けて欲しいというより、ちょっとだけ意地悪して、最後は負けてやれ、って気分だな」

「3位の癖に上から目線ですね」

「何位だろうと、我がジャイアンツは球界の盟主なんだよ!!」

「それにしても、ここまで失速してるのに、原さん続投というのも驚きましたね」

「そうなんだよ。俺はてっきり阿部にバトンを渡すんだと思っていたからな」

「もう選手たちの心が原さんから離れているんじゃないですか?」

「俺もそう見ているんだよなぁ。きっかけは中田翔の獲得じゃないかと思っているんだ」

「へぇー、何故ですか?」

「あれ、表向きは日本ハムの栗山監督が原さんに『翔を頼みます』と言われて、原さんも『彼をこのまま終わらせてはいけないと思ったから獲得したという話になっているよな」

「えぇ、美談として語られていましたよね」

「俺も最初はそう信じていたんだけど、すぐに中田を使っただろ。俺はあの時に『あれ?』って思ったんだよな」

「中田が打線に加われば、得点力不足を解消できるという打算があったと?」

「そのとおり。少なくとも阿部2軍監督の下で、1ヶ月程度は鍛え直すだろうと思っていたんだけどな」

「たしかにあの辺から勝てなくなりましたね」

「選手の中に、ちょっとシラケたムードが蔓延したんじゃないかな」

「そんな感じの負けっぷりですよね」

「美談に見えたこの話の裏に、原さんの利己心があった。それを選手は見透かしてしまったんじゃないだろうか?」

「我々も気をつけないと、そういう利己心って、意外と簡単に見抜かれますよね」

「見てないようで見てるからな。特に、お前のとこの雑賀とか、ウチの石崎なんてあざといぞ!!」

「気をつけます! でも、中田選手には頑張ってほしいな」

「俺もキャラの立った面白い選手だと思うし、来年こそはしっかりと巨人の一員になって欲しいと願っているよ」


ひとりごと

うまく部下を騙せていると思っても、部下はちゃんと見ているものです。

人の上に立つ人は、利己心をなるべく抑え込んで、利他の心でビジネスをすべきです。

情けは人の為ならず、であって、利他の心こそが、己を利してくれるのですから!!


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第2448日 「妄動」 と 「完熟」 についての一考察

今日のことば

原文】
処し難きの事に遇わば、妄動するこを得ざれ。須らく幾の至るを候(うかが)いて之に応ずべし。〔『言志録』第182条〕

【意訳】
解決することが容易でないことに対処するときは、考えもなく無暗に行動してはいけない。すべて機が熟するのを待って対策を打つべきである。

【一日一斎物語的解釈】
難題に対処する際は、心が定まらないうちに動かないことだ。すべてにおいて機が熟するタイミングを見計らって行動すべきである。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、大学時代の友人、鶴田さんと久しぶりに食事を共にしているようです。

「実はな、神坂。俺は2年前に脱サラをする予定だったんだ」

「マジで? 何をするつもりだったんだ?」

「独立して、今の同僚と二人で小さな旅行代理店をやろうかと考えていたんだ」

「あぁ、その矢先に新型コロナウィルス感染症が一気に蔓延したのか?」

「そういうことだ」

「しかし、開業する前で良かったじゃないか」

「そうだな。今勤めている旅行代理店ですら、かなり厳しい状況に追い込まれているからな。この2年間、ボーナスはゼロだよ」

「それはキツイな」

「実は相棒となるはずだった同僚がかなりイケイケでな。俺の心が定まらないうちに、どんどん話が進んでしまっていたんだ」

「そんな状況で開業しなくて良かったじゃないか!」

「妻にも相談できていなくてな。かといってもう後には戻れないような状況に追い込まれてしまって......」

「それでどうしたんだ?」

「一番、尊敬して、信頼もしている上司に正直に打ち明けたんだ」

「なるほど、それで?」

「『心が定まらないうちに動くな。機が熟すタイミングを待って行動しろ!』と言われた。それで、決心がついて、相棒に断わりを入れた」

「相棒の反応は?」

「ブチ切れられたよ。そして、そいつはひとりで開業してしまった」

「開業したのか?! で、今は?」

「コロナのお陰でツアーも組めず、結局1年で廃業して、今は就職活動中らしい」

「そうか、気の毒なことをしたな」

「もっと早く結論を下していれば、あいつの開業も止められたかも知れないからな。しかし、上司が言ってくれたように、いつかは機が熟すと信じている。その時には、今度はこっちからそいつを誘うつもりだよ」

「受けてくれるかな?」

「わからない。でも、声はかけたい。一緒に描いた夢を夢のままで終わらせたくはないからな」

「そうか。じゃあ、俺は、お前たちが開業したら、最初の客になろう!」

「それはありがたい。『豪華客船で行く世界一周の船旅なんてどうだ?」

「いや、それはちょっと。ちなみに、それっておいくらぐらいのツアーなんだ?」

「2000万円くらいじゃないかな?」

「ゴメン、そっちはキャンセルして、バスでいく東海地方のグルメツアーに変更してくれないか?」


ひとりごと

心に迷いを抱いたまま取り組んでも、良い結果は生まれないでしょう。

夢は描きつつ、今目の前にある仕事に全力を尽くす。

すると、機が熟したかのように、次のステージが向こうの方から迎えにきてくれるのではないでしょうか?


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第2447日 「誘導」 と 「激励」 についての一考察

今日のことば

原文】
人情の気機は、一定を以て求む可からず。之を誘いて勧め、之を禁じて遏(とど)むるは順なり。之を導いて反って阻(そ)し、之を抑えて益(ますます)揚るは逆なり。是の故に賀馭(がぎょ)の道は、当に其の向背(こうはい)を察し、其の軽重を審(つまびらか)にし、勢いに因りて之を利導し、機に応じて之を激励し、其(それ)をして自ら其の然る所以を覚えざらしむべし。此を之得たりと為す。〔『言志録』第181条〕

【意訳】
人の心の機微は常に一定というわけではない。時には勧誘したり、時には禁止したりするのは順当な方法である。導くことでかえって阻害したり、抑えようとしてかえって盛んになることは逆の方法である。そういう意味で人を治める方法は、その時の趨勢を察し、その軽重をしっかりと見極めて、勢いに乗じて導き、機を見て励ましながら、本人自身はそれが人から誘導されたり、激励されたわけではなく、自分の意志でそうなったのだと思わせるのがよい。これを人を動かす方法を会得したというのである。

【一日一斎物語的解釈】
人を教え導くのに確実な方法などない。臨機応変にその時、その人に適したオーダーメードの指導が必要となる。人を動かすコツは、実際にはこちらが導いていながら、当の本人はそれに気づかず、自分の意思で行動したと思い込ませることである。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、営業1課の清水さんに声をかけられたようです。

「話したいことって何だ? まさか会社を辞めるとか言い出すんじゃないだろうな?!」

「この年齢で拾ってくれるところなんてないぜ。それに俺の性格を知ってるだろう」

「たしかに、お前みたいなやっかいな奴の面倒を見るのはご免だな」

「ちっ、あんたにだけは言われたくないぜ(笑)」

「で、用件は?」

「いや、後輩を指導するのって、めちゃくちゃ難しいなと思ってさ」

「ははは、そいつは人の上に立つとまず最初にぶち当たる壁だな」

「そうなのか?」

「なぁ、清水。突然、お前のところに飛び込みの営業マンがやって来て、欲しくもない商品を一所懸命に説明されたらどう思う?」

「そりゃ、ウザイ野郎だなと思うだろうな」

「それだよ。後輩も同じことを思っているんじゃないか?」

「え?」

「欲しくもないアドバイスをされたり、聞きたくもない説教を聞かされたら誰だって嫌だろ?」

「なるほどな。じゃあ、どうすればアドバイスを聞いてくれるんだ?」

「理想的には、相手が聞きに来るのを待つことだろうな」

「しかし、部下や後輩が、必ず先輩や上司にアドバイスを求めて来るとは限らないだろう」

「その通り。だから、押したり引いたり、気づきを与えたり、時にはわざと見放したりしながら、アドバイスを聞きたいと思うように仕向けるんだよ」

「そうか。俺は聞きたくもないアドバイスをしていたのか。言われてみればそうだな。俺の目から見て気になる点があれば、何でも指摘してやろう。それで嫌われても構わないとは思っていた。だけど、そもそもアドバイス自体を真剣に聴いてもらえていなかったわけか」

「そうだと思うね。俺もその点では苦労したからな。いまでこそ、本田君は素直に俺の意見を聞いてくれるけど、以前は俺に対する不信感が相当強かったからなぁ」

「あんたも課長になるまでは、一匹狼みたいなところがあったもんな」

「お前に言われたくはないけどな(笑)」

「たしかにな(笑)」

「できれば、課題解決のヒントだけを与えて、自分で考えさせるんだ。実はそのヒントが重要な気づきを与えているんだが、当の本人は自分の意志で動いたと思っている。これが最高の教育スタイルだと思うんだ」

「そいつはカッコいいな。そう簡単ではないだろうけど、チャレンジしてみる価値はありそうだ。神坂さん、恩に着るよ!」

「清水、やり方はお前自身で考えんだ。お前流のやり方でな!」

去っていく清水さんの後姿を見ながら、神坂課長は心の中でエールを送ったようです。


ひとりごと

心の耳を閉じている部下に、一所懸命にアドバイスを与えたり、お説教をしたりしていませんか?

かく言う小生は、かつて心の目を閉じ、心の耳を塞いでいる後輩や部下に向かって、一所懸命に語りかけていたのでしょう。

常日頃からメンバーの長所や短所をしっかりと見極め、課題を明確にしておくことは重要です。

その上で、メンバーが心を開き質問をしてきた時、日ごろ感じていた短所に気づかせるように、的確なヒントを与える。

これが理想の教育ではないでしょうか?

もし、具体的にその方法を学びたいのであれば、ぜひ小生が主宰する潤身読書会にご参加ください。


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第2446日 「一物の是非」 と 「久遠の利害」 についての一考察

今日のことば

原文】
一物の是非を見て、大体の是非を問わず。一時の利害に拘りて、久遠の利害を察せず。政を為すに此の如きは国危し。〔『言志録』第180条〕

【意訳】
一つの善悪をとりあげて、全体を善悪を判断する。一時の損得に目がくらんで、長期的な利害を察することをしない。このような形で政治を行えば、国は存亡の危機に陥る。

【一日一斎物語的解釈】
一つの事例をとりあげて、全体を判断する。一つの商売の損得だけを見て、長期的な利害を察しない。このような形でビジネスを行えば、企業は長く繁栄できない。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、営業2課の本田さんの相談を受けているようです。

「M社が撤退するので、ウチでその後のフォローをお願いしたいと言われたのですが、課長はどう思いますか?」

「なぜM社は撤退するんだ?」

「あそこは担当者1名で整形外科・消化器内科・泌尿器科を担当しているんですが、整形外科の緊急オペが多過ぎて対応しきれないんだと思います」

「利益もあまり取れないんだよね?」

「整形材料の償還価格は毎年下がっていますからね」

「ということは短期的に見るとメリットは少ないわけだな」

「はい。ただ、3年後に病院移転・拡張の噂もあります。まだ、確定ではないようですが、その際にお役に立つことができれば、見返りも大きいと思います」

「依頼してきたのは、事務長さん?」

「はい。どこのディーラーも受けてくれなくて困っているみたいです」

「本田君は対応できるのかい?」

「私一人では厳しいですが、梅田に協力してもらえれば、なんとかなると思っています」

「なるほどな。梅田にはそのことは話した?」

「はい。やりたいと言ってくれています」

「たしかに短期的な損得でみれば、この話は受けるべきではない依頼だろう。しかし、ウチも長くお付き合いさせて頂いている病院だ。もちろん3年後に移転があれば見返りも期待できるだろう」

「はい」

「しかし、仮に見返りがなくても、ウチで対応できるなら、そのご依頼を受けるべきだよね?」

「はい、医療機関のお役に立つことこそ、我々の存在意義だと思っています!」

「さすがは本田君だ。ただし、一旦引き受けた以上は、『やっぱり無理です』はNGだぞ!」

「重々承知しています。勢いだけでお受けしたら、かえってご迷惑をお掛けすることになりますし、ウチのイメージも失墜します」

「短期的な損得でコトを考えるのではなく、より中長期的な視点が必要だ。そういう視点を失えば、我々は生きていけない。しかし、それ以上に損得より善悪でモノやコトを判断するという軸を忘れない様にしようじゃないか!」

「はい!」


ひとりごと

営業の世界に身を置いていると、どうしても短期の数字に目を奪われがちになります。

しかし、中長期の視点を持つことを忘れてしまえば、損得だけで物事を判断するようになってしまいます。

大事なことは、損得より善悪で判断する視点です。

それを忘れてしまえば、どんな企業も永続は不可能でしょう。


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第2445日 「症状」 と 「投薬」 についての一考察

今日のことば

原文】
虚実強弱を弁じて、而る後、剤投ず可し。時世習俗を知って、而る後、政施す可し。〔『言志録』第179条〕

【意訳】
薬を与える場合には、その人の体質が虚弱であるのか、強壮であるのかをよく見定めた上で与えるべきである。同様に政治を行なう場合も、今の世の中の風俗や慣習をよく把握した上で手を打たなければならない。

【一日一斎物語的解釈】
患者の体質をよく把握して投薬すべきであるように、ビジネスにおいても、まず自社と競合の現状や市況をよく把握した上でマネジメントを行わねばならない。

今日のストーリー

今日の神坂課長は、石崎君が犯したミスについて叱責しているようです。

「お前、前にも同じことをしたじゃないか。なぜ、伝票を切る前に、数字をしっかり確認しないんだよ!」

「一応、確認したつもりなんですけど・・・」

「つもりだろうが何だろうが、結果的に同じミスをしたんだから、それはやってないのと同じだ!!」

「そう言われたら、何も言い返すことはできません」

「そりゃそうだ。言い訳を聞いたところで、お互いに何のメリットもないからな」

「はい・・・」

「それで、今後はどうするんだよ?」

「はい、これからはしっかり確認します。二度と同じミスはしません!!」

「頼むぞ!」

「神坂君」

ここで佐藤部長が声を掛けたようです。

「ちょっと、いいかな?」

神坂課長は佐藤部長の部屋に入って行きました。

「同じミスを繰り返す部下に対して、次はしっかりやれと指示するだけでは宜しくないんじゃないかな?」

「はぁ」

「なぜ、こういうミスが起きたのか。それを色々な角度から考えてみる必要があるのでは? もちろん、石崎君自身にも考えさせないといけないしね」

「たしかに、そうですね。ただ、気合入れろ! はい、気合を入れます! なんて問答では、また同じことになりかねませんね」

「うん。発伝をしたのは、事務員さんよね。石崎君だけでなく、担当の事務員さんとも一緒に具体的な対策を考えた方が良いんじゃないかな?」

「そうですね。今回のミスの根本原因を探って、そこに具体的な対策を打つ必要がありますね。事務の鶴見さんにも入ってもらって打合せをします」

「万病に効く薬はない。名医と呼ばれるドクターは、患者さんの様々な病気の因子を探って、最適な薬を投与するよね」

「仰るとおりです。もう少しで藪医者ならぬ、藪上司になるところでした。さっそく、石崎と鶴見さんと打ち合わせをします!!」


ひとりごと

トラブルの再発防止を図る際、意外と「二度としません!」・「次はちゃんとやります!」という言葉だけを頼りにするケースが多いのではないでしょうか?

これでは、寝坊した人の再発防止策として、「目覚まし時計の数を増やします」という愚策を承認するようなものです。

寝坊の原因は目覚ましの数ではないでしょう。

なぜ、寝坊したのか? 

睡眠時間はしっかりと取れているのか? 

ストレスで眠れないということはないのか?

あるいは、夜遊びが原因ではないのか?

様々な要因を把握して、適切な策を講じなければ、胃潰瘍が原因の腹痛に頭痛薬を出すようなもので、症状が改善されるはずはありません。


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