今日のことば
【原文】
心上に刃(やいば)有るは忍なり。忍の字は好字面に非ず。但だ借りて喫緊寧耐(きっきんねいたい)と做(な)すは可なり。要するに亦道の至れる者に非ず。〔『言志録』第218条〕
【意訳】
忍という字は心の上に刃が乗っており、文字としては良い文字とは言えない。ただし、この字を借りて緊急時に耐え忍ぶという場合に使うのは良いであろう。つまり忍とは道の極まったものではないのだ。
【一日一斎物語的解釈】
心に刃を隠すのが忍である。つまりこれは理想とする心の状態ではない。ただ、緊急時には必要なものとして捉えておくべきだ。
今日のストーリー
今日の神坂課長は、営業2課の善久君と同行中のようです。
「お前、泣いてるのか?」
「いえ、目にゴミが入っただけです」
「昭和のドラマか!」
「課長、悔しいです!」
「そうだろうな。勝てると思った商談をロストした時の気持ちは痛いほどよくわかるよ」
「今までも敗戦はいくつかありました。でも、今回は完全にウチが優位に立っていました。まさか、先生がF社にも声を掛けていたとは…。ショックでした」
「信頼を得るということは、そう簡単じゃないということだよ。しかし、これはお前にとって良い経験になるさ」
「もうこういう経験はしたくないです!!」
「うん。忍耐の『忍』という字があるだろう。あの漢字を思い出してみろ。心の上に刃がある状態を文字にしているよな」
「あぁ、たしかにそうですね」
「心に刃物を隠すというような意味だから、あまり良い印象の字ではないよな。しかし、忍耐というのはそういうことなんだ。我慢しているうちはまだ半人前という事だ」
「はい」
「でもな。今回のような悔しくて辛い場面に遭遇した時には、この字がぴったりだ。心に刃を忍ばせるような気持ちでグッと耐え、そして次のチャンスを狙うんだよ」
「はい。勝手にドクターに信頼されていると思い込んでいた自分が情けないし、おめでたい奴だったと気づきました。でも、この悔しさを晴らしたくてたまりません!」
「俺も同じような経験をし、同じ様に思って踏ん張ってきた。今こそ『忍』の一字だ!」
「はい。課長は今回の件、直接の当事者ではないから冷静でいられるのですか?」
「ははは。一緒に泣いて欲しいか? 俺はそういう経験を重ねて、次第に悔しさを感じるよりも、自分の足りなさを感じるようになってきた。矢印を自分に向けるということだな」
「『忍』の一字は卒業ですか?」
「そうかも知れない。もう『忍』の一字がなくても、大概のことは受け留められるようになったのかもな」
「カッコいいです! 私もそうなれるように精進します!!」
ひとりごと