一日一斎物語 (ストーリーで味わう『言志四録』)

毎日一信 佐藤一斎先生の『言志四録』を一章ずつ取り上げて、一話完結の物語に仕立てています(第1066日目より)。 物語をお読みいただき、少しだけ立ち止まって考える時間をもっていただけたなら、それに勝る喜びはありません。

2021年12月

第2514日 「没頭」 と 「成果」 についての一考察

今日のことば

原文】
自彊不息の時候、心地光光明明なり。何の妄念遊思か有らん。何の嬰累罣想(えいるいけいそう)か有らん。〔『言志後録』第3章〕

【意訳】
人が自ら休まず勉め励んでいる時には、その心は明るく光り輝いている。どこにもみだらな思いや遊びたいという思いなどはありはしない。また心に引っ掛かるような患い事や悩み事などもありはしない

【一日一斎物語的解釈】
仕事に没頭しているときは、心は明るく、余計なことはまったく考えていない。また、うまく行くかどうかと悩むこともない。こうした境地で仕事ができることが望ましい。


今日のストーリー

「梅ちゃん、すげぇけな。また、商談決まったの?」

「年末のこの時期に受注するなんて、奇跡だね!」

営業2課の石崎君と善久君が、商談を決めてきた梅田君を称えています。

「梅田、まるでゾーンに入ってる感じだな」

神坂課長も嬉しそうに梅田君に話しかけています。

「はい、正直に言って今は休みたくない心境です。せっかく仕事が乗ってきたのに、ここで休みになったら、運気が変わってしまうんじゃないかと思って心配です」

「ははは。気持ちは分かるが、休める時は休んだ方がいいぞ」

「はい」

「本当に仕事に没頭している時というのは、疲れを感じないし、余計なことも考えないんだよな。だから、良い運気が溢れ出て、それがお客様にも伝わるんだろう。俺もそう何回もないけど、異常なほど商談が集中した経験があるよ」

「羨ましいな。私はまだ、そんな経験はないです」

「ゼンちゃん、俺もだよ。梅ちゃんに先を越されちゃったな」

「私は今まで、石崎さんや善久さんのように結果が出なくてずっと悩んでいたんです。でも、焦ってばかりいても仕方ないと思って、とにかく目の前の商談に集中することにしたんです」

「そうしたら、ゾーンに入ったの?」

「神坂課長にお客様に『そこまでやるのか』って言われるくらい、プラスアルファの仕事をしてみろ、と言われたので、徹底的にやってみたんです。そうしたら、受注できました」

「さすが、有能な上司は違うな!」

「課長、それ自分で言いますか?(笑)」

「だって、誰も言ってくれないからさ!」

「私が言おうと思ったら、先に課長が言っちゃったんですよ!」

「なんだよ、石崎。もっと早く言ってよ!」

「あの~、もっと私のことを誉めてくれませんか…」

「本当だな。とにかく梅田、来年もその調子で頑張れ! 石崎、善久も梅田に追い越されない様にな!」

「はい!!」

「よし、明日からは休みだ。さっと納会をしたら、今日は早く帰ろう!!」


ひとりごと 

スポーツなどではよく、「ゾーンに入る」と言います。

しかし、これはスポーツに限ったことではなく、営業の世界でも時々あります。

ちょうど小生の部署の3年目の若手がいまゾーンに入っています。

最初は頼りなかった新人君でしたが、3年間毎週面談を続けてきた成果もあるのでしょう。

今は、目も輝いて自信に満ち溢れています。

きっとまた彼には試練も訪れるでしょうが、今は温かく見守るつもりです。


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第2513日 「学習」 と 「行動」 についての一考察

今日のことば

【原文】
自ら彊(つと)めて息(や)まざるは天の道なり。君子の以(な)す所なり。虞舜の孳孳(じじ)として善を為し、大禹の日に孜孜せんことを思い、成湯の苟(まこと)に日に新たにし、文王の遑暇(こうか)あらざる、周公の坐して以て旦を待てる、孔子の憤を発して食を忘るるが如き、彼の徒らに静養瞑坐を事とするのみなるは、則ち此の学脈と背馳(はいち)す。〔『言志後録』第2章〕

【意訳】
自ら勉めて休むことなく動いているのが天の道である。そしてそれは君子の踏むべき道でもある。たとえば、舜帝が朝から晩まで善行をなそうとしたのも、夏の禹王が日々一所懸命に善を尽くそうとしたのも、殷の湯王が日々徳を新たにすると記したことや、周の文王が朝から晩まで食事をする暇がなかったということや、周公旦が夜中に良いことを思いついたときは、朝を待って即実行に移したことや、孔子が学ぶことのために発憤して食事をするのも忘れて努力したということなどは、その例といえるであろう。ただ徒に静かに心身を養い、眼を閉じて坐っているだけで良いとする考え方は、吾々の学派とは全く相容れないものなのだ。

【一日一斎物語的解釈】
日々休むことなく行動することが成功の秘訣なのだ。過去の聖人たちは皆、時間を無駄にすることなく、自分の為すべきことを為してきた。ただ、考えているだけで行動しなければ、何も変えることはできないのだ。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、YouTubeチャンネル『孔田丘一の儒学講座』を視ているようです。

「皆さん、2021年ももうすぐ終わりますな。今年の始めにはワシは年を越すことはなかろうと思っておったが、なんとまだまだ死ねないようです」

「ちっ、この爺さん、まだ死にたくないくせに!」

「こうなったら2021年もとにかく動けるだけ動きますぞ。なんとチャンネル登録者数も1万人を超えましてね。こんな老いぼれの話を楽しみしてくれている人がいるなら、精一杯語り尽くしてやろうと思っているんじゃ」

「自慢かよ!」

「かの渋沢翁は91歳まで生き、死の直前まで働き続けたそうじゃな。大河ドラマの最終回をご覧になった方もおるじゃろう」

「そう思ったらまだまだワシは若輩ものかもしれん。2022年は年間50本の配信をするつもりですので、どうぞお付き合いください」

「すげぇな、ほぼ毎週配信するのか? と言いながら、それを楽しみにしている俺がいるな(笑)」

「さて諸君、ようやくコロナも落ち着いてきた今こそ、動き出すときですぞ!」

「儒学が尊ぶ賢人たちは、皆休むことなく動き続けた。舜帝も禹王も湯王も文王も周公旦も、そして孔子も」

「書で学んだことを頭で理解しようとしてはいかん。行動することで身体に沁み込ませるんじゃよ!」

「自分が今やるべきことはわかっているはずじゃ。それを愚直に処理していきなさい。そうすれば、学びがあんたらの血や肉に変わるからの」

「どれだけ書を読もうが、動かなければまったくの無意味じゃ。活学とはそういうことを言うんじゃ」

「もちろん頭で考えることも大切じゃ。書も読まず、ない頭で考えたところで、ロクな結果にはならんからの」

「書を読んで学び、そこから気づきを得て、それを実践する。そのサイクルを回し続けることで、人は成長し、仕事も実を結ぶのですぞ」

「この講座も同じじゃよ。ただ聞き流して、わかったつもりになられたんではたまったものじゃない!」

「ここで学んだことを諸君らの仕事に置き換えてよく考えてごらんなさい。そして必ず何か新しい行動や思考を導き出すんじゃよ」

「そしてそれを早速明日試すのです。いつかそのうちやるなんて輩は世の中を変えることはできん!」

「思い立った時が行動する時なんじゃ」

「では、2021年の配信はこれで終了と致します。2022年はこの爺が命を削った懇親の配信をしますから、しかと受け留めて、ぜひ実践してくださいな」

「では、諸君。良いお年をお迎えください!!」

「ふふ、爺さん、来年もよろしくな! 長生きしてくれよな!!」


ひとりごと 

人生はただ一回のマラソン競争のようなものだ、と森信三先生は言っています。

つまりは、すでに生まれた瞬間にスタートのテープを切っている訳です。

それならばゴールに向かって走るしかありません。

立ち止まったり、戻ったりしたら、いつまでもゴールテープを切ることはできないのですから!


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第2512日 「人生」 と 「学び」 についての一考察

今日のことば

原文】
此の学は、吾人一生の負担なり。当に斃れて後已むべし。道は固より窮り無く、堯舜の上善も尽くること無し。孔子は志学より七十に至るまで、十年毎に自ら其の進む所有るを覚え、孜孜として自ら彊(つと)め、老の将に至らんとするを知らざりき。仮(も)し其れをして耄(ぼう)を踰(こ)え期に至らしめば、則ち其の神明不測なること、想うに当に何如と為すべきや。凡そ孔子を学ぶ者は、宜しく孔子の志を以て志と為すべし。(文政戊子重陽録す)〔『言志後録』第1条〕

【意訳】
儒学は我々が一生背負っていくべきものである。まさに死ぬまで学びをやめることがあってはならないのだ。道というものは当然極まることがなく、聖人尭や舜の善行でさえ極め尽くすことはできなかった。孔子は十五歳から七十歳に至るまで、十年単位で自らの進むべき道を定め、ただひたすら努め励み、老いが迫っていることすら気づかないほどであった。もし仮に孔子が八十、九十を超えて、百歳まで生きたならば、神のごとくすべてに明るく、人がとても測り知ることのできない境地へと到達したであろうことは、想像に難くない。孔子を学ぶ者は、みなこの孔子の志をしっかりと心に留めて自らの志としなければならない

【一日一斎物語的解釈】
人は生きる限り、学び続けるべきだ。学びをやめるのは死ぬときだ。孔子のように10年単位で自分の課題を設定し、それをクリアしながら自分自身を鍛錬し、成長させていかねばならない。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、佐藤部長と年末の挨拶で同行しているようです。

「私は儒学の勉強をするようになってから、徳川家康公遺訓が儒学の教えをベースに書かれていることを知って感動しました」

「人の一生は重き荷を負うて遠き道を往くが如し。急ぐべからず」

「不自由を常と思えば不足なし。こころに望みおこらば困窮したる時を思い出すべし」

「堪忍は無事長久の基、いかりは敵と思え」

「勝つ事ばかり知りて、負くる事を知らざれば害その身にいたる」

「おのれを責めて人を責めるな」

「及ばざるは過ぎたるよりまされり」

「気持ちよい響きをもった名句だよね」

「ちょうど今年の大河ドラマで、徳川慶喜と渋沢栄一がこの遺訓を一緒に唱えたシーンがあって感動的でした」

「私も観たよ。涙が出たね」

「私はようやく人生を折り返したくらいなのでしょうか? これからもまだまだ遠き道を歩いていかなければならないんでしょうね」

「そのとおり! だからこそ、学び続けることが大事なんだよね」

「はい。学ぶことの楽しさを教えてくれたのは、学校の先生ではなく、佐藤部長でした」

「本物の学びというのもは、楽しいもののはずなんだ。知らないことを知る喜び、学んだことを実践してみる楽しさは何物にも代えがたいものがあるよね」

「おっしゃるとおりです。孔子は十五歳で学問に志しました。私は四十を超えてからです。二十五年も送れていますから、どこまで行けるかわかりませんが、学び続けていきます」

「うん。四十代、五十代、六十代、七十代をどう生きるか。さらに余生があるなら八十代ではどんな人間になっていたいか。そこを明確にしておきたいね」

「はい。一斎先生は『荘にして学べば則ち老いて衰えず』と言っていますよね。渋沢栄一のような元気な六十代を過ごせるよう精進します!」

「私はもうすぐ六十が見えてきた。しかし、『老いて学べば死して朽ちず』だ。まだまだ学び続けるつもりだよ」

「背中を追いかけます!」

「追い越せそうなら追い越していいからね!(笑)」

「実はまだまったく視界に捉えていないので、追いつけるかどうかわかりませんが、いつかは追い抜くつもりで学びますよ!」

「よし、じゃあ私もこのリードを保てるようにしっかり学ぶとしよう」


ひとりごと 

学びとは本来楽しいものなのです。

それなのに、勉強嫌いな子供ができてしまうのは何故でしょうか?

やはり家庭教育、学校教育の双方に問題があるのでしょう。

小生の主査する読書会で、学ぶ楽しさを知ったといってくれる参加者の方がいます。

とても嬉しい言葉です。

学んで、気づいて、実践する日々を送ることが、最高に充実した人生を築く礎となるはずです。

共に学びましょう!!


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第2511日 「準備」 と 「結果」 についての一考察

今日のことば

原文】
凡そ事を作(な)すには、当に人を尽くして天に聴(まか)すべし。人有り、平生放懶怠惰(ほうらんたいだ)なり。輒ち人力もて徒らに労すとも益無し。数は天来に諉(ゆだ)ぬと謂わば、則ち事必ず成らず。蓋し是の人、天之が魄(たましい)を奪いて然らしむ。畢竟亦数なり。人有り、平生敬慎勉力なり。乃ち人情は尽くさざる可からず。数は天定に俟つと謂わば、則ち事必ず成る。蓋し是の人、天之が衷(ちゅう)を誘(みちび)きて然らしむ。畢竟亦数なり。又人を尽くして而も事成らざるもの有り。是れ理成る可くして数未だ至らざる者なり。数至れば則ち成る。人を尽くさずして而も事偶(たまたま)成るあり。是れ理成る可からずして、数已に至る者なり。終には亦必ず敗るるを致さん。之を要するに皆数なり。成敗の其の身に於いてせずして其の子孫に於いてする者有り。亦数なり。〔『言志録』第244条〕

【意訳】
何か事をなすには、人事を尽くして天命を待つべきである。 ある人間はは平生だらしなくて怠け者であった。一所懸命に力を用いてもなんの益も無い。運は天にまかせるといっていては、何事も必ず不成功に終わる。思うに、このような人は、天がこの人から魂を奪い取って、このようにさせたのであり、これもまた運命である。別のある人は、平生とても慎み深く勤勉である。人としてなすべき道理は、どんな場合でも尽くさなくてはいけない。ただし運は天の定めに従うといっているので、何事も必ず成功する。思うに、このような人は、天がその人の心を誘いだしてこのようにさせたので、つまりこれも運命である。しかしながら、人事を尽くしても成功しない人もいる。この人は道理の上からいえば成功すべきであるが、まだ天運が来ていないからであって、天運が到来すれば成功するのである。これと反対に、人事を尽くさなくとも、たまたま成功することがある。これは道理の上からいえば成功しないはずであるが、運がそこに来たのであって、そんな人は、最後は必ず失敗するものだ。要するにみんな運命なのである。事の成敗がその人の代には表われないで、その人の子孫の代になってから、表われることもある。これも又運命である

【一日一斎物語的解釈】
何事も、自分にできるベストを尽くして、結果は時の運に委ねるしかない。しかし、準備をしなければ成功はおぼつかない。時に何の準備もしていない人間が成功することもあるが、そういう人間は長続きはしないし、仮に生を全うできても、その害悪は子孫にもたらされるかも知れない。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、伝説の営業人、中村信仁氏のオンライン講演会を受講しているようです。

「いいですか、皆さん。自信を持てないということは、準備が不足しているということを、誰よりも自分自身が理解している証拠なのです」

「準備が不足すれば、当然うまく行くか否かが心配になり、それが自信を奪うのです」

「私の師匠はよくこう言っていました。『準備も仕事のうち』だと」

「私たちラジオ話芸人は、本番の3時間なり5時間のパフォーマンスに対して報酬が発生します。いくら準備をしても準備に対しては報酬は支払われません」

「しかし、その準備の量と質が本番での自信に変わり、高いパフォーマンスにつながるのです」

「営業の皆さんも同じではないでしょうか?」

「しっかりと準備をすれば、自信をもってプレゼンに臨めます。自信満々のプレゼンは、お客様の心を動かし、魂を揺さぶるでしょう。そしてその結果、受注することができるのです」

「つまり、準備まで含めてかけた時間に対して報酬が発生するのだと理解してください」

「そして、できることならそこにひと手間を加えてください」

「そこまでやるのか?とお客様に思ってもらえるひと手間をかけることで、お客様からの信頼はゆるぎないものになるでしょう」

「使える限りの時間を準備に費やしてください。そうすれば、必ずお客様は首を縦に振りますから!」

「時には、大して準備もしていないのに、大口受注を獲得するような営業マンもいるでしょう」

「しかし、そんな幸運は長続きしません。最後は鍍金が剥がれて、お客様の信頼を失うはずです」

「最低でも10年という長期スパンで、物事を考えてください」

「最初の10年は損得勘定を度外視してお客様のお役に立ってください」

「10年偉大なり、20年畏るべし、30年歴史になる、という言葉があります」

「準備を怠らず、30年間今の仕事をやり続けたなら、あなたなりの仕事道が完成するはずです」

「生まれて、生きて、死ぬ。人間にはこの3つしかありません」

「このうち、生まれることと死ぬことは自分ではどうにもコントロールできません」

「しかし、生きることだけはなんとでもなります」

「いかに生きるか、その軸をどこに据えますか?」

「徹底的に準備をして、結果は天命に任せようじゃないですか!」

「勝負は時の運、結果もまた時の運です」

「しかし、しっかりと準備を行う者に、営業の神様は必ず微笑みかけてくれるはずです」

「どうも、ありがとうございました!!」

講演を聴き終えた神坂課長の目が潤んでいます。

「すごい講演だった。よし、俺も結果を気にせず、今まで以上に準備の時間を大切にしよう!」


ひとりごと 

昔から勝負は時の運だと言います。

同じく、我々の成果というものも時の運に左右されるものなのでしょう。

しかし、しっかりと準備をすればその確率を高めることはできるはずです。

何より準備は自信を与えてくれます。

準備は決してあなたを裏切ることはありません。


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第2510日 「人事」 と 「天命」 についての一考察

今日のことば

原文】
世に君子有り、小人有り。其の迭(たが)いに相消長する者は数なり。数の然らざるを得ざる所以の者は即ち理なり。理には測る可きの理有り、測る可からざるの理有り。之を要するに皆一理なり。人は当に測る可きの理に安んじ、以て測る可からざるの理を俟つべし。是れ人道なり。即ち天理なり。〔『言志録』第244条〕

【意訳】
世の中には立派な人もいれば、そうでない人もいる。彼らが互いに名を成したり失墜したりするのは運命である。そのようになるのには道理がある。この道理には予測可能なものと、不可能のものがある。要は皆ひとつの道理であるには違いないのだ。人間は予測可能な道理に心を安心させて、予測不可能な道理の到来を待つべきである。これが人の道であり、すなわち天の道理なのだ

【一日一斎物語的解釈】
運命には2つある。自分の力で打ち砕けるものを宿命、自分の力ではどうしようもないものを天命という。生きている限り宿命と戦い、天命を待つという生き方が人間としての正しい生き方なのだ。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、「季節の料理ちさと」で一杯やっているようです。

「今日も一人で来たということは、私に何か聞いて欲しいのかな?」

「さすがはちさとママ、そうなんだよ」

「どうぞ、今日はお客さんも多くないし、じっくりお相手ができそうよ」

「それは助かる。じゃ、まず生と適当なつまみをちょうだい」

しばらくして生ビールと数点の料理が運ばれてきたようです。

「さて、神坂君。お聴きしましょうか?」

「ねぇ、ママ。人間ってなんで悩むんだろう。俺の周りには悩んでいる奴がたくさんいるんだ。カミさんもそうだし、部下もみんな悩んでいる。俺くらいかな悩みがないのは」

「さすがは超楽天家の神坂君だね」

「それ、褒めてる?」

「もちろんよ。私のバイブルによると、すべて人間の悩みというのは、比べることから生じているらしいわ」

「へぇー、なるほどね。たしかに誰かと比べて負けていると落ち込むことはあるな。でも、俺はそれをバネにして頑張るけどなぁ」

「もう一つ、自分ではどうしようもないことを自分の課題にしてしまっている人も悩みから抜け出せないよね」

「どういうこと?」

「物事には自分の課題と他人の課題があるの。上司に良い評価をもらいたいと思ったら、誰でも良い成績を上げようと頑張ったり、上司のご機嫌をとったりするわよね」

「俺はご機嫌はとらないけどな」

「さすがね。でもね、どれだけ良い成績をあげても、ご機嫌をとっても、評価をするのは上司であって、自分自身ではないよね。つまり、評価というのは自分の課題ではなく、上司の課題なの。それなのに、良い評価を取ろうと頑張っている人が多いよね」

「たしかに」

「でも、他人の課題にいくら取り組んでも、それは自分ではどうしようもないことなの。だったら、評価なんか気にせずに、お客様のために力を尽くそうと思えば気が楽になるんだろうけど、なかなか難しいことよね?」

「なるほどなぁ。そうだな、目の前の仕事に力を尽くすことはできても、結果は時の運で、自分の期待とは違った結果になったりするもんな」

「それに、自分が頑張ったつもりでも、ライバルがもっと頑張っているかも知れないしね」

「結局は、『人事を尽くして天命を待つ』という言葉に集約されちゃうんだな」

「そうね」

「ママ、ありがとう。今度、悩んでいる奴に出会ったら、今の話をしてあげることにするよ」

「じゃあ、そろそろ今日の特別料理をお出しするわね!」

「ありがとう! でもね、ママ」

「なに?」

「それを食べて『旨い』と思うかどうかは俺の課題だからね!!」

「それは大丈夫! あなたは絶対に『旨い』と言うわ!!」

「ちっ、このババアは無理やり他人の課題を解決しようとしやがる!!」

「何か言った?」


ひとりごと 

人は、ついつい他人の課題に首を突っ込んでいたり、他人と比較したりして、自分ではいかんともし難いことで悩んでしまうものです。

言い古された言葉ですが、やはり人生を生き抜く秘訣は、

人事を尽くして天命を待つ

これに尽きるのではないでしょうか?


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第2509日 「運命」 と 「楽天」 についての一考察

今日のことば

原文】
天定の数は、移動する能わず。故に人生往往其の期望する所に負(そむ)きて、其の期望せざる所に趨(おもむ)く。吾人試みに、過去の履歴を反顧して知る可し。〔『言志録』第243章〕

【意訳】
天が定めた運命は、人の力ではどうすることもできない。人生が時に期待し望む結果とは反対の方向へと進んでしまうのもそのためである。試みに自身の過去を振り返ってみればそれを知ることができるであろう

【一日一斎物語的解釈】
打ち手がすべて思い通りに運ぶことはない。過去の経験に照らしてみれば、望んだ結果と正反対の結果が出ることも多々あるだろう。それを憂う暇があるなら、その結果を素直に受け入れて次の打ち手を考えるしかない!


今日のストーリー

営業1課の新美課長が、元同僚であり元上司でもある西郷さんと食事をしているようです。

「新美君もすっかりマネージャーらしい顔つきになってきたね」

「本当ですか? 西郷課長にそう言っていただけるとすごく嬉しいです」

「私はもう課長じゃないよ。西郷さんでいいよ」

「はい。でも、西郷課長は私の理想の上司なんです。簡単に『西郷さんとは呼べませんよ」

「神坂君なんて、ずっと以前から『サイさん』だよ」

「あの人の距離感の詰め方は天才的なものがありますからねぇ」

「たしかに彼は一種の天才だね」

「あの人はマネージャーとしてもどんどん成長している気がします。背中を見失いそうですよ」

「彼は最近よく勉強しているもんね。新美君だって着実に成長はしているはずだよ」

「そうでしょうか? 自分が思い描いたようにはなかなか進まずに、時々真逆の結果が出たりして眠れない日もあります

「メンバーのサポートで?」

「はい」

「人生なんて大半が思い通りにはいかないものだよ。でもね、思い通りにいかないから面白いということもあるんだよ」

「どういうことですか?」

「すべてが自分の想い通りになるとしたら、最初は楽しいかもしれないけど、すぐにつまらなくなると思わない? 最初から結果が見えていることに、全力を尽くせる人なんていないでしょ?」

「それはそうですね」

「どういう結果が出るかわからない。だから努力する。そして、時には期待したこととは正反対の結果になる。落ち込む。でも、また立ち上がって挑戦する。そういう繰り返しが人を成長させてくれる。人間って不思議だよね。成功からより失敗から多くを学ぶんだよね」

「そうかも知れませんね。そういう意味では、神坂さんは失敗から学ぶ名人かも知れないなぁ」

「ハチャメチャな男だけど、意外と同じ失敗は繰り返さないよね」

「そうなんです。ちゃんと学んで、次に活かしているんです。もしかしたら私に足りないのは、失敗することなのかも知れません」

「うん。少なくとも始める前に失敗することを考えない方がいい。神坂君ほど楽天的になれとは言わないけれど、時にはあまり結果を考えずに、いまやるべきことに力を注いだ方が良いこともあるよ」

「いつの間にか失敗を恐れすぎていたんですね。もっと挑戦してみます!! やっぱり西郷課長、じゃなかった、西郷さんは私にとってはいつまでも上司であり、メンターです。これからもよろしくお願いします!!」

「もちろん、いつでも声をかけてね!」


ひとりごと 

人生は自分の思い描いた通りには進んでくれません。

しかし、55年生きてきて過去を振り返ると、結局はプラスマイナスゼロとなっているように感じます。

そしてようやくこの年齢になると、成功や失敗よりも、いかに楽しめるかが重要になってきます。

運命などというものに振り回されず、失敗をも楽しんでしまう生き方をしてみませんか?


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第2508日 「活」 と 「殺」 についての一考察

今日のことば

原文】
物固より活なり。事も亦活なり。生固より活なり。死も亦活なり。〔『言志録』第242章〕

【意訳】
物は誕生した当初より活きている。事もまた活きている。そういう意味では生も活きており、死ですら活きているのだ

【一日一斎物語的解釈】
すべての事物は皆生きている。それを生かすも殺すも自分次第なのだ。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、久しぶりに行きつけの喫茶店にやってきたようです。

「そういえば最近はひとりで瞑想する時間を作っていなかったな」

いつものように個室を借りて、コーヒーを注文し、今年の手帳をテーブルに広げました。

「今年もいろいろあったが、こうして年末を迎えることができた。それだけで感謝だな」

「帰省は今年も断念したし、年末年始は今年の出来事の棚卸しをしよう」

神坂課長は、手帳を手に取り、今年の出来事を振り返り始めたようです。

「手帳を見返してみると、結局今年もCOVID-19に振り回された一年だったことがよくわかるな」

「それでも秋以降はアポ件数も増えているし、学会にもリアルで参加できた。世界の情勢は不安定だけど、日本はこのまま収束に向かって欲しいな」

「とはいえ、今回の新型コロナウィルス感染症のパンデミックを忘れてはいけない。すべての物事を活かすも殺すも自分次第だからな」

コーヒーのお替りを注文して、瞑想を始めたようです。

「よく、どんな出来事にも意味がある、といわれるけど、本当にそうなんだろうか?」

「いや、意味があるかないかではないだろう。どうせ自分の身の回りに起きた出来事なら、意味を持たせなければもったいないということなんじゃないのかな?」

二杯目のコーヒーが運ばれて来たので、いつものように角砂糖を3つ落としてかき混ぜながら、

「きっとどんな出来事も、プラスにもマイナスにも捉えることができるんだろう」

「だけど、ネガティブになって物事をマイナスに捉えてしまえば、不安や不満が募るだけ。それなら、ポジティブになって物事をプラスに捉えたが方が自分の人生自体をポジティブにできるはずだ!」

「どうせ一度の人生、ポジティブに生きなきゃもったいないじゃないか」

「マスコミはわざわざ不安を煽ろうとする。ネガティブな心に支配されていると、そういう情報でさらにネガティブになってしまう」

「少なくとも日本においては、オミクロン株に感染した人はそれほど重症化していないようだ。そもそも、オミクロン株に感染したのは、ワクチンを2回摂取した人なのか否かも報道しない。報道しないということは、未接種の人なんだろう」

「それにイベルメクチンだ。マスコミは一切報道しないけど、ネットでみれば、イベルメクチンが効かないという記事はほとんどない。むしろ、かなり有効なことがわかる。それなのに政府は認可する動きを見せないし、マスコミも報道しない」

「1錠たった1ドルの薬で世界を救えるかも知れないのに、それよりも大手製薬メーカーの新薬開発を優先させる」

「もう俺はCOVID-19の報道には騙されないぞ。日本はもうCOVID-19を克服した。俺はポジティブに考える。その上で、COVID-19のお陰で手に入れた知見やアイデアをしっかり活用しよう!」

二杯目のコーヒーを飲みほして、神坂課長は元気に街に繰り出しました。

もちろん、マスクはしっかり装着して。


ひとりごと 

どんな出来事も、プラス面とマイナス面を含んでいるはずです。

そのどちらに光を当てるのか?

それは各自に委ねられているのです。

それならば、その出来事をどう自分にとって、あるいは社会にとってプラスに活かすのかを考える方が楽しいし、人生も充実するはずです。

いわば出来事の良い所探しですね!


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第2507日 「不定」 と 「无妄」 についての一考察

今日のことば

原文】
不定にして定まる、之を无妄(むぼう)と謂う。宇宙間唯だ此の活道理有りて充塞し、万物此れを得て以て其の性を成す。謂わゆる物ごとに无妄を与うるなり。〔『言志録』第241条〕

【意訳】
世の中のすべてのものは千変万化するが、それでいて妄動することはなく、一定の理で統一されている。これを『易』では「无妄(むぼう)」という。万物の間にはすべてこの活きた理が充ちて塞がっており、この活きた理を得て、その本性を発揮している。これが『易』でいうところの「物ごとに无妄を与う」というものだ

【一日一斎物語的解釈】
すべての物事には宇宙の摂理が働いている。宇宙の摂理に逆らうことなく、自分の誠を発揮すれば、意義ある人生を送ることができる。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、佐藤部長の部屋に居るようです。

「あっという間に、今年ももうおしまいですね」

「結局は、COVID-19に振り回された一年だったのかな?」

「そうでしょうね。そして、これは地球から我々人類への何かの警鐘なんでしょうね?」

「そうかも知れないね。パンデミックというものは定期的に起きている。そして、それが起点となって時には文明に変化を引き起こす」

「今回でいえば、WEB会議ツールの普及がそれにあたるでしょうね。もう、COVID-19がなくなっても、Zoom主体の会議形態は残るでしょう」

「それでもいつかは収束する。日本に関していえば、もう収束の局面に入っていると思いたい」

「不思議ですね。世の中のものごとはすべて変化しますが、どこかですべてがコントロールされている気がします」

「易の世界ではそれを『无妄(むぼう)』と呼んでいる。一斎先生は『不定にして定まる、これを无妄という』と言っている」

无妄ですか?」

「すべてが一定の理のもとに統一され、動かされているということを意味する言葉だよ」

「なるほど。私だってこの世に生まれたくて生まれてきたわけじゃない。つまり自分の意志とは関係ないものが、自分を支配しているんですかね?」

「それを人は、『サムシング・グレート』と言ったり、『宇宙の摂理』と呼んだりする」

「それに逆らえば、良い結果は得られないわけですね?」

「うん。厳しいことを言えば、宇宙の摂理に従ったからといって成功するとは限らないのかも知れない。でも、大きく道を踏み外すリスクは避けられるんじゃないかな?」

「はい。COVID-19の蔓延という現実を見据え、常にマスクをつけ、三密を回避し、政府からの指示にことごとく従った日本人は、言ってみれば宇宙の摂理に従ったのかも知れませんね。だから、こうして日本がいち早くコロナを克服しつつあるのだと」

「まだ、そういう判断をするのは早計だけど、そうであって欲しいよね」

「結局、人間は宇宙の摂理の上で転がされているんですね」

「そう、孫悟空がお釈迦様の手のひらから逃げられなかったようにね!」

「ということは、我が身に起きた出来事の真の意義を理解することが重要だということですね。宇宙の声なき声を聞くということでしょうかね」

「うん。今回のCOVID-19から我々は何を学び、今後にどう活かすのか? そこが問われているんだろうね」

「人類は万物の霊長である、なんて驕った考えに陥ると、こういう出来事が起きるんでしょうね。私は、『もっと謙虚に万物と共存しなさいというメッセージを受け取った気がします」

「すばらしい考え方だと思うよ」


ひとりごと 

55年も生きてきますと、自分の力ではどうしようもないことがあることを知ります。

むしろ、自分の力で解決できることの方が少ないのかも知れません。

だからこそ、宇宙の声なき声に耳を傾け、万物と共存する道を選ぶべきではないでしょうか?


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第2506日 「極意」 と 「簡潔」 についての一考察

今日のことば

原文】
経を講ずるの法は、簡明なるを要して、煩悉(はんしつ)なるを要せず。平易なるを要して、艱奥(かんおう)なるを要せず。只だ須らく聴者をして大意の分暁するを得しむれば可なり。深意の処に至りては、則ち畢竟口舌の能く尽くす所に非ず。但だ或いは師弟の病を受くる処を察識して、間(まま)余意に及び、聖賢の口語に替りて一二箴砭(しんへん)し、其れをして頗る省悟する所有らしむるも亦儘好し。夫(か)の口舌を簸弄(はろう)し、縦横に弁博し、聴者をして頤(あご)を解き疲れを忘れしむるが若きは、則ち経を講ずる本意に非ず。〔『言志録』第240章〕

【意訳】
経書を講ずるときは、なるべく平易簡明にして、こと細かく解説したり、わざと難しくすべきではない。講義を聴く者が大意を理解できれば良いのだ。経書の真髄といえる部分については、結局いくら語っても語り尽くせるものではない。子弟が苦しんでいることを察して、時には余談も語り、聖賢の言葉に代えてひとつかふたつ戒めを与え、それで大いに悟るところがあればそれで良い。自由闊達に語り、聴く者が大笑いして疲れを忘れるといったような講義は、経書を講ずる上での本懐ではない

【一日一斎物語的解釈】
仕事の説明をするときは、簡単明瞭を心がけるべきで、大まかな概要を理解してもらえればよい。いずれにしても、仕事の真髄といえる部分は、言葉では伝わらない。メンバーの悩みを察して、たとえ話などを用いてヒントを与えることができればよい。自慢話やお説教は決して相手の心には響かない。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、営業2課の大累課長とランチに出掛けたようです。

「神坂さん、さっきのお説教は長すぎますよ」

「どれくらいやってた?」

「45分くらいですかね」

「それはダメだな。以前にパワハラ研修で、『お説教は5分以内』と言われたんだけどな。ハラスメント級だな」

「神坂さんは発言の7割がパワハラですから、もう慣れているとは思いますけどね」

「やかましいわ!」

「ついついお説教をしていると次から次へと言いたくなっちゃいますよね」

「そうなんだよな。でも、一回のお説教ではワンテーマでいくべきだな。あれこれ言い過ぎれば、キャパオーバーになるもんな」

「今日の梅田は、途中から完全に目が死んでましたよ」

「あちゃー、飯にでも誘って許してもらうか」

「営業の極意みたいなものは、結局言葉では言い尽くせませんよね」

「そうだな。もちろん頭で理解することも大事なんだけど、やはり自分で経験しないとな」

「そういう意味では、疑似体験をさせることはできるな。俺たちの失敗事例を話してやると、若手は結構喜ぶよな」

「たしかにそうですね。成功事例は、自慢話だと取られがちですが、失敗事例なら素直に聞いてもらえますよね」

「俺たちだってそうだったじゃないか。上司に自慢話をされることほど、腹の立つことはないよな」

「神坂さんは、昔、上司が説教しているときに、いきなりスポーツ新聞を取り出して読み始めましたよね」

「あったなぁ、すぐに奪われてめちゃくちゃ怒鳴られたけどな(笑)」

「そりゃ、そうでしょう」

「あれは若気の至りってやつだ」

「あんなことする奴、後にも先にも神坂さんだけでしょうけどね」

「俺の前で、スポーツ新聞を取り出す奴に出会ってみたいよ」

「ブチ切れるでしょ?」

「切れたいけど、過去の自分を思い出してしまうかも?」

「ははは。ということで、お説教はシンプルにいきましょう!

「はい、以後気を付けます!」


ひとりごと 

経書の極意も、仕事の極意も、言葉で語り尽くすことは難しいでしょう。

相手の経験や状況に応じて、シンプルに一つの事例を話すことを継続しながら、少しずつ理解してもらうしかありません。

ところが、ついつい一度に多くのことを指摘しまったり、余計な自慢話をして、相手の耳をふさがせてしまうことをしがちです。

かくいう小生はまさにその典型でした。

気を付けましょう!


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第2505日 「読書」 と 「批判」 についての一考察

今日のことば

【原文】
読書の法は、当に孟子の三言を師とすべし。曰く、意を以て志を逆(むか)う。尽(ことごと)くは書を信ぜず。曰く、人を知り世を論ずと。〔『言志録』第239章〕

【意訳】
読書をする時は、孟子が言った三つの箴言を参考にすべきであろう。つまり、第一には、己の心で主体的に著者の志を汲み取る。第二には、経書などの書物に書かれていることのすべてを妄信しない。第三には、古人である著者を知るため、その時代を考察し明らかにする、ということだ

【一日一斎物語的解釈】
ビジネスマンにとって読書は必須のものである。
ただし、以下の点に留意して読むべきだ。
第一、これまでの既成概念にとらわれず、著者の心に自分の心を重ね合わせるように読む。
第二、書かれた内容を妄信せず、広い視点をもって読む。
第三、著者の人となりや、その生きた時代を理解して読む。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、営業2課の石崎君と同行中のようです。

「課長、最近はよく本を読んでいるんですよね?」

「この年になって、今まで勉強して来なかったことを後悔してるんだ。お前も今のうちから読書の習慣をつけておいた方がいいぞ」

「同期の願海がすごい読書家なので、焦る気持ちはあるんですけど、本をどう読んだらいいのかがわからないんです」

「文字を上から下に、左から右に読めばいいんだよ」

「課長! 私は真面目に聞いてるんです!!」

「冗談じゃないか。マジ切れするなよ」

「じゃあ、質問に答えてください」

「なんか、上からだな。まぁ、いいや。俺が一番大事だと思っているのは、自分が選んだ本を読むんだから、批判的に読まないことだな」

「書いてあることを疑っちゃいけないんですか?」

「そうだ、まずは丸受けだよ。ただな、主体的に読むことは忘れちゃ駄目だと思う」

「主体的ですか?」

「積極的に著者の気持ちを理解しようと努力するんだ。他人事として読むのではなく、自分のこととして読むんだな」

「はい」

「それから、書かれていることがすべてだと思ってはいけない」

「でも、課長はさっき丸受けしろと言ったじゃないですか?」

「もちろん、書かれていることを疑うんじゃない。それがすべてだとは思わないことだ。そういう世界があるのか、とか、そういう考え方もあるのか、といった読み方をする」

「広い視野をもって読むんですね?」

「おぉ、さすがだな。最後に、著者はどんな人で、どんな生活をしていたのか、どこの国で生まれ育ったのか、といった情報は得ておいた方がいい」

「いちいちそこから始めたら本にたどり着くまでに時間がかかって仕方ないじゃないですか!」

「今ならネットでサクッと調べられるだろう。それでも良いんだよ」

「あぁ、なるほど」

「つまり、批判的にならず、かといって妄信せず、主体的に、著者の心情を想像しながら読むのが、最良の読書だと思っているんだ」

「す、すごいですね、課長!」

「と、孟子という昔の偉い人が言ってるんだけどな」

「なんだ、受け売りですか?」

「そうだ。でもな、俺はこの言葉を丸受けした。そういう読み方をしたら、本の理解が今までの何倍も深くなったんだ」

「そうなんですか! じゃあ、私もそういう姿勢で読んでみます!!」

「うらやましいよ。その若さで読書の大切さに気づけるなんてな」

「神坂課長のお陰です。感謝してますよ!」

「石崎、そう言ってくれると少しだけ救われるよ。ありがとうな!!」


ひとりごと 

読書の方法は、人それぞれでしょう。

しかし、小生の長年の経験からして、自分に役に立つ読書をしたいなら、批判的に読まないことが第一だと確信しています。

その上で、ここにあげた孟子の教えを実践すると良いでしょう。

読書は、ときに自分を励まし、慰め、一歩を進める勇気をくれます。

ぜひとも本と友達になってください!


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