一日一斎物語 (ストーリーで味わう『言志四録』)

毎日一信 佐藤一斎先生の『言志四録』を一章ずつ取り上げて、一話完結の物語に仕立てています(第1066日目より)。 物語をお読みいただき、少しだけ立ち止まって考える時間をもっていただけたなら、それに勝る喜びはありません。

2022年04月

第2635日 「善」 と 「水」 についての一考察

今日のことば

【原文】
山は実を以て体と為し、其の用は虚なり。水は虚を以て体と為し、其の用は実なり。〔『言志後録』第123章〕

【意訳】
山というものは土、岩、草木などから出来ており実体のあるものであるが、その働きとしてはこれといったものがない。一方、水は無味かつ無色透明であって実体としての存在は希薄であるが、その作用は幅広く万物を潤しており、大いに役立っている

【一日一斎物語的解釈
上善は水の如し。水のような生き方を心がけたいものだ。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、善久君をお供に「季節の料理ちさと」に来ているようです。

「ママ、今日はいつものお酒を!」

「『上善如水』ね!?」

「イエス!!」

「どんなお酒なんですか?」

「ふふふ」

「え、ママ、何で笑うんですか?」

「今にわかるわよ!」

「そうか、善久。何故俺がこの酒を選んだかをそんなに聞きたいか?」

「え、いや、それほどでもないですけど…」

「遠慮するな。じっくりと教えてやろう。これは『老子』という中国古典の中の言葉でな。読み下し文では、『上善は水の如し』となるんだ」

「どういう意味ですか?」

「世の中で最高の善といえば、水のような生き方をすることだ、という意味だよ」

「・・・」

「水というのは、無味無臭だろ? それなのに世の中のすべての物を潤してくれる、無くてはならないものだ」

「なるほど」

「決して目立つことはしないのに、しっかりと世の中の役に立っている。そういう生き方が理想だ、ということだよ」

「とても良い言葉ですし、腹に落ちますね」

「まるで俺のようだろ?」

「え? もう一回言ってもらえますか?」

「まるで俺の生き方そのものだろ?」

「ママ、こういう時はどう反応したら良いんでしょうか?」

「水のように無言が一番じゃないかな」

「・・・」

「おい、なんか言えよ!! それじゃ、水じゃなくて、氷の如しだぜ!」


ひとりごと

水は万物を潤しながら、自らは主張しません。

そして、高い所よりも人が嫌う低いところ低いところへと流れていきます。

しかし、時には岩をも砕く力を発揮します。

このような水の生き方は、人間としても理想の生き方と言えるでしょう。

老子の言うごとく、上善は水の如しなのです。


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第2634日 「名利」 と 「無私」 についての一考察

今日のことば

【原文】
名利は固より悪しき物に非ず。但だ己私の累(わずら)わす所と為る可からず。之を愛好すと雖も、亦自ら恰好の中を得る処有り。即ち天理の当然なり。凡そ人情は愛好す可き者何ぞ限らん。而して其の間にも亦小大有り軽重有り。能く之を権衡(けんこう)すれば、斯(ここ)に其の中を得るは、即ち天理の在る所なり。人は只だ己私の累を為すを怕(おそ)るるのみ。名利豈果たして人を累せんや。〔『言志後録』第122章〕

【意訳】
名利は元来それ自体が悪いものではない。ただこれに自らを煩わされてはいけない。名利を好むことは構わないが、自分に適した所に留まるべきである。それが天の道理に適うのである。人情というものをどうして制限することができようか。しかしその間には大小や軽重がある。そこで自分の分に応じた所に落ち着くことこそが、天の道理に適うということだ。人はただ名利を私しないことを恐れるべきである。名利そのものが人を煩わせるわけではないのだ

【一日一斎物語的解釈
地位や名誉やお金を求めることは人間にとって自然なことである。大事なことは自分の分にふさわしい地位や名誉を手にしたら、そこで全力を尽くすことである。私欲に負けて、分不相応の地位や名誉を求めることが問題なのだ。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、大型書店にやって来たようです。

「善久が西郷さんを勉強すると言ってたな。俺も少しは勉強しておかないと、話をされても理解できないかもな。何か1冊、西郷さんの本でも買ってみようかな」

「どれが良いんだろうなぁ?」

「そうだ、LINEで佐藤部長に聞いてみよう」

LINEを送ってしばらくすると、佐藤さんから返信があったようです。

「やはり、『南洲翁遺訓』ではないかな。西郷さんの語録集か」

『南洲翁遺訓』か。あ、あった。これだ! あれ、結構いろんな出版社から発売されているんだな」

神坂課長は、本を手に取って、パラパラと中身をめくっています。

「へぇー、噂には聞いていたけど、この人は本当に無私無欲の人なんだなぁ」

「『命もいらず、名もいらず、官位も金もいらぬ人は、仕末に困る人なり。この仕末に困る人ならでは、艱難を共にして国家の大業は成し得られぬなり』か。いい言葉だなぁ」

「たしかに、本当に世の中を変える人というのは、地位や名誉なんかに拘っている人間じゃないんだろうなぁ」

「自分の分を弁えて、分相応に生きることが一番なんだよな」

「人間、足るを知ることだ!」

神坂課長は、『南洲翁遺訓』を購入したようです。

「考えたら、善久に知ったかぶりするためにこの本を買いに来たこの俺も、地位や名誉に拘っているってことだな」

「でも、そういう小さい発想で本屋に来たのは問題だけど、結局この素晴らしい本を買えたんだから良しとするか」

「よし、明日は素直に善久にこの本を買ったことを伝えて、一緒に勉強しようと伝えることにしょう!」

帰宅する電車の中で、夢中になって読んでいます。

「凄い本だな。この語録を出したのが、薩摩藩に戦争で敗れた敵軍の人たちだなんて驚きだよ。どれだけ器の大きな人なんだ、西郷さんは!!」

「善久と西郷談義をするのが楽しみになってきたぞ!!」


ひとりごと

もし『南洲翁遺訓』をお読みになったことがないのであれば、是非読んで頂きたい名著です。

この本は、西郷率いる薩摩軍に戊辰戦争で敗れた荘内藩士たちによって書かれた本なのです。

敗戦国が戦勝国の将軍の語録を出版するなど、世界にも類をみない出来事です。

それは、西郷が敗れた荘内藩に対して、極めて寛大な処置をしたことが大きな要因なのです。

この処置を西郷の指示によってなされたことをしった荘内藩は、鹿児島の西郷のところに藩士を毎年のように送り込み、共に働きながら学びました。

そんな庄内藩士の中には、西郷が帰国するように説得したにも関わらず、これを拒否して西南戦争で西郷に付き従い戦死した藩士もいるのです。

そんな背景を知ってこの本を読むと、その言葉の重みや深さも何倍にも大きくなるのです。


nansyuu

第2633日 「継続」 と 「工夫」 についての一考察

今日のことば

【原文】
虚羸(きょるい)の人は、常に補剤を服す。俄に其の効を覚えざるも、而も久しく服すれば自ら効有り。此の学の工夫も亦猶お是(かく)の如し。〔『言志後録』第121章〕

【意訳】
身体の虚弱な人は、つねに栄養剤を服用している。すぐにその効能は発揮されないが、長く服用し続けると効果が出てくるものである。儒学という学問の工夫もこれと同じように、継続することで己の身を修めることができるようになるのだ

【一日一斎物語的解釈
人間力を磨く努力は継続することでしか身につかない。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、善久君が読んでいる本に目が留まったようです。

「なんだその本は?」

「『3分で売れる営業マンになれる本』です。タイトルに惹かれて買ってしまいました」

「いまどき流行りのタイトルだな」

「ダメですか?」

「善久、今から3分やるから英語を話せるようになってくれ!」

「む、無理に決まってるじゃないですか!!」

「3分で英語を話せるようにはなれないと思っているけど、3分で売れる営業マンにはなれると思っているのか?」

「えっ!」

「だから、その本を買ったんだろう?」

「そうですね…」

「すぐ落ち込むなよ。体質を改善するにも時間が必要なように、何事も短時間で劇的に変わることは期待しないことだ」

「はい」

「急成長したものは、急降下するものだからな」

「実力でなく、ラッキーなだけということですね?」

「うん。やはり何事も継続が力になるんだ。そんな本を読むより、伝記でも読んだ方がよっぽど良いぞ」

「伝記ですか?」

「偉人の伝記には、その人が大変な困難や苦労をどうやって乗り越えたかが書いてある。ポジティブな思考習慣と地道な努力がいかに大事かを教えてくれるからな」

「読んでみようかな?」

「うん。別にビジネスマンである必要はない。誰か好きな偉人の伝記を読んでみろよ」

「私は、西郷隆盛に興味があるので、西郷さんの伝記を読んでみます」

「いいね!」


ひとりごと

継続は力なり。

コツコツと地道な努力を積み上げた先に、真の自己変革があるのでしょう。

近道を選ぶことなく、むしろ険阻な隘路を進むような覚悟で、日々を慎んで過ごしましょう!


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第2632日 「前面」 と 「背面」 についての一考察

今日のことば

【原文】
艮背(ごんはい)の工夫は、神(しん)其の室を守る。即ち敬なり。即ち仁なり。起居食息、放過す可からず。空に懸け影を捕うるの心学に非ず。〔『言志後録』第120章〕

【意訳】
内奥に精神を統一する修養法である「艮背の工夫」を行うと、精神が集中し安定する。これが即ち敬であり、また仁である。起居するとき、食事のとき、休息のときのいずれであっても心を放縦してはいけない。空中に物を懸けたり、影を捕らえるように捉えどころのない心の学問ではないのだ

【一日一斎物語的解釈
人間の身体の前面には目耳鼻口と外部と接触する器官が多く存在するため、心が乱されやすい。意識を背面にもっていくことで、精神が安定する。緊急時に冷静な判断をするためにも、平生から意識を背面におく工夫をしておくと良い。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、YouTube動画で『孔田丘一の儒学講座』を視聴しているようです。

「諸君は、艮背(ごんはい)の工夫という言葉をご存知かな?」

「まぁ、知っておる者は少ないじゃろうな」

「人間の前面は、目耳花口と外部と接し、外部から様々なものを取り込む器官が多くあるじゃろ」

「それは、それだけ外部の影響を受け易いということなんじゃ」

「よって、意識を背後にもっていくことで、精神的な安定が得られる。昔の儒者はそう考えたんですな」

「いついかなる場合も、心を開けっ広げにするようでは、修業が足りんのだ!」

「学問というのは、実践が伴わねば意味がない。この艮背の工夫も、実際にやってみなければ、何も学ぶことはできないものだ」

「『仁』とは何か、『敬』とは何かと頭で考え込んでいる暇があるなら、とにかく実践してみることだ」

「結局、『仁』も『敬』も、この艮背の工夫の成果に過ぎんのじゃ」

「外部の刺激に一々反応することをやめて、何事もじっくりと取り組む」

「つねに背面に意識を集中させて、精神を安定させるのだ!」

「そうすれば、どんな禍や幸福が訪れようとも、一喜一憂することなく、平生と同じ対応ができるようになるじゃろうな」

「人間は、平時に訓練していたことだけしか、有事に行動に移せんのです」

「かつての儒者はそのことに気づき、工夫の必要性を説いたんでしょうな?」

「好きなスポーツチームが負けただけで期限が悪くなるような上司に、いったい誰が心を許しますか?」

「そんなことに一喜一憂しているから、肝心の時に木偶の坊となるんじゃよ!」

「そうとわかったら、さっそく今この瞬間から、背面に意識を集中させなさい!」

「今日はこの辺でよかろう。腹が空いたので、夜食にラーメンでもいただきますかな。ははは」

「おいおい、何が背面に意識を向けろだよ! 思いっきり前面に前のめりじゃないか!!」


ひとりごと

艮背の工夫という言葉はあまり一般的ではありませんが、面白い考え方ですね。

たしかに人体の前面は、いろいろなものを体内に取り入れるために開放されています。

それは時に、良くない影響をも受け入れてしまいかねないと考えたのでしょう。

まずは、人体の後ろ側に意識を集める工夫を実践してみましょう!


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第2631日 「矯正」 と 「自覚」 についての一考察

今日のことば

【原文】
弊を矯(た)むるの説は、必ず復た弊を生ず。只だ当に学は己の為にするを知るべし。学は己の為にするを知る者は、必ず之を己に求む。是れ心学なり。力を得る処に至れば、則ち宜しく其の自得する所に任ずべし。小異有りと雖も、大同を害せず。〔『言志後録』第119章

【意訳】
弊害を矯正する説は、結局また別の弊害を生むものである。学問というものはただ自分自身のためにするものであることを知るべきである。学問は自分のためにするということを知っている者は、必ず学んだこと(ここでは弊害の矯正)を自分自身に求めるものだ。これが心の学問である。自分自身のために学問をする力を会得したならば、自分の悟る所に任せればよい。そうしたところで、小さな違いはあったとしても、大きな問題とはならないであろう

【一日一斎物語的解釈
短所を無理に矯正しようとすると、別の弊害が生まれやすい。リーダーはメンバーに自ら学び、気づき、実践する習慣を身につけさせるべきである。そうなれば、日々指導せずとも、メンバーは成長し会社に貢献してくれるものだ。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、新美課長とランチに出かけたようです。

「廣田の弱気な虫はまだ直らないのか?」

「慎重さとも言えますけどね」

「リフレーミングか。しかし、知識豊富な営業マンだけに惜しいよなぁ」

「無理に矯正するのもどうなのかなと思ってここまで来てしまった感じです」

「実際、無理に矯正しても良いことはないよ。自分で自分の欠点に気づいて、自分で改善しようと思わない限り、本当の意味での短所の矯正にはならないからな」

「そうですよね。どうやって気づかせたらいいのか?」

「お客様は営業マンを好きではない、という既成概念に捉われてしまっているのかもな」

「なるほど、そうかも知れません」

「俺たちの最大のミッションは、お客様の課題解決のお手伝いをすることだ。そういう意味では、お客様のコンサルタントになる必要がある」

「しかし、売れない営業マンというのは、自分の売りたい物を売ろうとしますね」

「うん。自分の売りたいものを売ってはいけないし、お客様が欲しいものを売ってもいけない」

「欲しいものもですか?」

「うん。近江商人はそういう格言を残している。客の欲しいものも売るな、ってな」

「その心は?」

「お客様の欲しいものが、お客様にとっての最適商品とは限らないということだよ」

「そうか。我々は常に、お客様にとって最適な商品をご提案すべきなんですね!」

「そう。それができるようになれば、お客様は我々を邪魔もの扱いはしないさ」

「神坂さん、ありがとうございます。廣田君にそういう話をしてみます」

「なんとか殻を破って欲しいな。自分で学び、気づき、実践したことだけが、自分の地となり肉となることに気づかせてあげくれよ」

「はい!」


ひとりごと

短所を無理やり矯正すれば、違う所に弊害が出るものだ、と一斎先生は言います。

自分自身で短所に気づき、改善したいと思えば、黙っていても矯正されるでしょう。

いかに気づき、きっかけを与えるか?

リーダーはそれだけを考えれば良いのです。


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第2630日 「装飾」 と 「自信」 についての一考察

今日のことば

【原文】
門面を装うこと勿れ。家儻(かとう)を陳(つら)ぬること勿れ。招牌(しょうはい)を掲ぐること勿れ。他物を仮りて以て誇衒(こげん)すること勿れ。書して以て自ら警(いまし)む。〔『言志後録』第118章〕

【意訳】
家の外観を飾るな、一家の財産を陳列するな、看板を掲げるな、他人の物を借りて見せびらかすな、これらを書して自らの警告とする

【一日一斎物語的解釈
外面や体裁を飾るような人物になってはいけない。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、奥様の菜穂さんとリビングで会話をしているようです。

「そういえば、最近近所にできた家、かなりド派手だな」

「すごい豪邸よね。ガレージに停まっていた車は、ベンツにポルシェにベントレーだもんね」

「何をやっている人なんだろうな」

「外車販売会社の社長さんらしいよ」

「それで高級外車が並んでいるわけか」

「休日になると、毎晩庭でバーベキューをしているらしいんだけど、お肉もわざわざ松坂牛を取り寄せているんだって」

「お前、妙に詳しいな」

「あそこの奥様は、すごいおしゃべりで、そういうことをペラペラしゃべるんだってさ。ママ友がそう話してたのよ」

「なんだよ、自慢しちゃってるのか」

「自慢したくなる気持ちもわかるわ。高級そうな服装で、外車に乗ってお出かけする身分なら、私も自慢しちゃうかも」

「でもさ、外面や体裁を飾る人って、本当は自信がない人だと思うんだよな」

「そうかなぁ?」

「本当のお金持ちの人って、意外と質素な暮らしをしているものだよ。たぶんコロナ禍で外出できない人たちが、外車を買い求めて、一気にお金が入ったんじゃないのかな」

「奥様はそう言ってたらしいわ」

「だろうな。きっと今まではそこそこの売上で、堅実にやっていたのが、突然のバブルで浮かれてしまったんじゃないか?」

「お金がたくさんあることを見せびらかしたいのね?」

「うん。あのド派手な外観がそれを物語っているよな。派手にやり過ぎて、破綻しないことを祈るよ」

「イサム、負け惜しみ?」

「ははは。そうかもな。でも、俺は仮に金がたくさん入っても、外見を飾るようなことはしたくないな」

「あたしは飾りたい!!」

「やっぱり、お前は俺の妻でよかったな」

「その可能性は限りなくゼロに近いもんね」

「仰せの通り!」


ひとりごと

人間誰しも、今まで手にしていなかったものを手に入れると、他人に誇示したくなるものです。

なにもお金だけでなく、たとえば古典を読んで新たな知見を得ると、他人に話したくなるのも同じことでしょう。

しかし、そういう行為は、客観的にみれば、さもしい行為です。

他人に誇示したい気持ちをグッと抑えて、淡々と日々を送る人こそ、君子と言えるのでしょうね。


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第2629日 「人情」 と 「天理」 についての一考察

今日のことば

【原文】
(し)う可からざる者は人情にして、欺く可からざる者は天理なり。人皆之を知る。蓋し知って而も未だ知らず。〔『言志後録』第117章〕

【意訳】
偽ることのできないものは人情であり、欺くことのできないのは天理である。人は皆そのことを理解している。思うに、理解をしているがしかし実は未だに理解できていないのだ

【一日一斎物語的解釈
嘘はいつかバレること、お天道様がお見通しであることは誰でも知っている。しかし、それでも嘘や偽りが絶えないのは、実はそのことを真に理解できていないからだ


今日のストーリー

今日の神坂課長は、落ち込んで帰ってきた石崎君に声を掛けたようです。

「どうした、少年。犬の糞でも踏んだか?」

「そんなことでこんなに落ち込むわけがないじゃないですか!!」

「マジで怒るなよ。ちょっと和ませてやろうと思っただけなのに」

「和ませるのに、犬の糞を使います?」

「たしかに。まぁ、それはそうと、どうしたんだよ?

「クリニックさんの納品日を間違えていて、事務長さんにこっぴどく叱られました」

「正直に言ったのか、忘れてたって?」

「はい。一瞬胡麻化そうかと思ったんですけど、辻褄が合わなくなるなと思ってやめました」

「それで良いんだよ。嘘つきには最大の記憶力が必要だと言われている。事実でない嘘や言い訳は、時間と共に忘れてしまうから、後々話の辻褄が合わなくなるんだよ」

「経験済みですか?」

「何度もな(笑) やっぱり嘘はダメだよな。微妙な表情や仕草でだいたいバレるし、そもそもお天道様はお見通しだからな

「何ですか、お天道様って?」

「なんだ、今どきのガキはお天道様も知らないのか? まぁ、神様みたいなもんだ」

「カミサマって…」

「俺の訳がないだろ!! 神様仏様の神様だよ!!」

「そういうことですか」

「当たり前だろ。しかし、分かっていてもつい誤魔化したくなるのが人情なのに、お前は偉いな」

「嘘をついてうまく胡麻化せたとしても、ずっと嫌な気持ちが残る気がしたんですよね」

「そうだな。嘘をついた後って、ずっと気分が晴れないもんな」

「はい。その点、正直に謝って、叱られた方がマシだと思ったんです」

「その割には落ち込んでなかったか?」

「そうなんですよねぇ…」

「あっ、そのクリニックてもしかして?」

「星野クリニックです」

「わかったぞ。たしかあそこにはお前のお気に入りのナースがいたよな。その娘に馬鹿にされたんだな? 『石崎君、ちゃんと仕事してね』みたいな感じでさ」

「な、なんでわかったんですか!!」

「だから言っただろう。カミサマはお見通しだって!!」


ひとりごと

お天道様はお見通しだ。

小生が子供の頃には、まだそういう言われ方をしていましたが、今はおそらく通じないでしょうね?

そういう存在を意識しなくなったことで、世の中の犯罪が増えたとみても間違いではないでしょう。

誰も見ていないからやる。

こういう考え方では、世の中は悪の巣窟となってしまいます。

嘘はいつかはバレるものと認識しておきましょう。


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第2628日 「君子」 と 「悪口」 についての一考察

今日のことば

【原文】
人は多く己の好む所を話し、己の悪む所を話さず。君子は善を好む、故に毎(つね)に人の善を称す。悪を悪む、故に肯(あえ)て人の悪を称せず。小人は之に反す。〔『言志後録』第116章〕

【意訳】
人の多くは自分の好きなことを話し、自分が嫌いなことは話さない。君子と呼ばれる立派な人は善を好むので、いつも人の良い点を称賛する。また悪事を憎むので、敢えて人の悪い点を論(あげつら)うことはしない。ところが凡人はこの逆であることが多い

【一日一斎物語的解釈
リーダーは、メンバーの長所だけを褒め、短所についてはあえて吹聴すべきではない。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、やや不機嫌な表情で得意先から戻ってきたようです。

「課長、どうしたんですか? スピード違反で捕まったとか?」

こういうツッコミを入れるのは、もちろん石崎君です。

「やかましいわ、クソガキ! 俺はそう簡単に捕まったりはしないぜ」

「そこは普通、『俺はそんなにスピードは出さないぞ』じゃないですか?」

「気づいたら出ているんだから仕方ないだろ」

「ダメだこりゃ。でも、機嫌はよくなさそうですよ。ジャイアンツは好調なのに」

「N大学で、M社の松原のおっさんと話をしていたんだよ」

「あ、それは不運です」

「だろ? あのおっさんは昔の自慢話と他人の悪口しかネタがないからな。大した会社でもないのに、以前にそこに居たことを自慢げに話すんだよ。結局今はM社じゃねぇか!」

「自慢話に付き合ったんですか?」

「仕方ないだろう。M社からしか買えない商品があって、頼まざるを得なかったんだから」

「そういうことですか。ご愁傷様です」

「その後は部下の悪口のオンパレードだ。人の上に立つ人間は、相手の長所を見て、他人にその長所をはなすもんだよ。欠点や短所は口にしないものなんだ」

「なるほど。じゃあ、課長も外では私のことを褒めてくれているんですね?」

「えっ? も、もちろんだよ。ウチのエースだって言ってるぞ」

「嘘くさいなぁ?」

「バレた? あ、でもな。褒めてもいないけど、悪口も言わないぞ」

「課長もまだまだですね。人の振り見て我が振り直せです。松原さんに会えて良かったじゃないですか」

「たしかに、そのとおりだな。だけど、なんでお前に諭されなきゃいけないんだ?」

「年齢や役職に関係ないく、良いアドバイスはしっかり聞きましょう!」

「なんかムカつく!」


ひとりごと

美点凝視ができたら、その美点だけを他人に語りましょう。

噂話というものは、必ず本人にも伝わるものです。

そして、間接的に人を褒める方が、直接褒められるより嬉しいのが人情なのです。


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第2627日 「聖人」 と 「私情」 についての一考察

今日のことば

【原文】
聖人は万物に順(したが)いて情無し。情無きに非ざるなり。万物の情を以て情と為すのみ。〔『言志後録』第115章〕

【意訳】
聖人と呼ばれる人は万物に対して特別な情をもたない。情がないわけではない。万物の情をそのまま受け入れて情としているのだ

【一日一斎物語的解釈
優れた人材は、何に対しても特別な感情を表さない。それは感情がないのではなく、すべてを受け入れる心構えができているからである。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、佐藤部長の部屋に居るようです。

「相原会長って、どうしてあんなに誰からも好かれるんですかね?」

「やっぱり器が大きいということじゃないかな」

「器ですか。たしかにそうですね。どんな人でも受け入れてくれる仏様みたいな人ですからね」

「聖人君子というのは、誰に対しても特別な感情を抱くことはないんだ。しかし、それは感情がないということではないよね」

「はい。たぶん、人の良い所を見つける、美点凝視の名人なんですね?」

「なるほど、それは素敵なキャッチコピーだね!」

「あんな風に接してもらえると、悪いこともできないですよね」

「神坂君は初めから会長の前だけは、素直だったよね(笑)」

「『だけ』ってことはないですよね? 佐藤部長の前だって…」

「いやいや、私に対しては敵意むき出しだったよ」

「勘弁してください。若気の至りということで!」

「実は神坂君のことで悩んでいた時に、自分と会長との違いはなんだろうと真剣に考えたことがあるんだ」

「そうだったんですか?」

「そして、気づいたんだよ。今、神坂君が言ったとおり、美点に目を向けることができていないことにね」

「そんなに、部長を悩ませていたんですね」

「その当時はね。でも、それが私を成長させてくれたんだ。だから、君には心から感謝しているんだよ」

「部長…」

「神坂君のすべてを受け容れようと決めたら、それまでは欠点だと思っていたことが、なんだか可愛らしく思えてきてね」

「そんなに心境って変わるものですか?」

「私も驚いたよ。そういう心境で接していたら、神坂君が少しずつ心を開いてくれるようになったんだ」

「そして、佐藤部長も仏様になった。次は私の番ですね?」

「なれるかな?」

「なれますかね?」

二人は顔を見合わせて、大爆笑したようです。


ひとりごと

LET IT BE

ビートルズの名曲としても知られるこの言葉の意味は、「なすがままに身を任せる」です。

聖人は、宇宙の摂理に逆らわず、あるがままを受け容れます。

つねに、LET IT BE を地で行くことができる人なのでしょう。


LET IT BE

第2626日 「斉家」 と 「修身」 についての一考察

今日のことば

【原文】
大学は、誠意に好悪を説く自(よ)り、平天下に絜矩(けっく)を説くに至る。中間も亦忿懥(ふんち)四件、親愛五件、孝弟慈三件、都(すべ)て情の上に於いて理会す。〔『言志後録』第114章〕

【意訳】
儒学の経典である『大学』という書物には、意を誠にすることや悪臭を悪(にく)み好色を好むことから始めて、天下を平らかにするには国を治めるべきことや自分の心を尺度として人の心を知ることまでが説かれている。その間には、身を修めるために正すべき忿怒・恐懼・好楽・憂患の四件があること、家を斉(ととの)えるためには、親愛・賤悪・畏敬・哀矜・敖惰の五件によって心が偏ることのないようすること、また国を治めるには孝・弟・慈の三件が必要であることを説いている。これらはすべて情の面からとりあげられている。

【一日一斎物語的解釈】
マネジメントの要諦は、自分自身の感情をいかに適切に処理できるかだと言っても過言ではない。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、元同僚西郷さんと食事をしているようです。

「経営者の方には、『大学』を座右の書にしている人が多いんだよ」

「そうなんですか? 『論語』が多いのかと思っていました」

「もちろん『論語』も多いんだけど、自分を律するという意味では、『大学』の教えを肝に銘じておきたいと思うんだろうね」

「へぇー、簡単に言うと、どんな教えになるんですか?」

「会社をしっかりとマネジメントしたいなら、まず家庭を治めなさい。家庭を治めたいと思うなら、自分の身を修めなさい、というのが基本の教えでね。自分の身を修めるためには、何が大事かも具体的に書かれているんだ」

「なるほど、それは確かに経営者なら学びたくなりますね」

「神坂君のような中間管理職でも、学んでおいて損はないよ」

「はい。さっき聞いていてドキッとしたのは、会社を治める前に自分の家庭を治めろ、ってところでした」

「ははは。それは、神坂君だけじゃないと思うよ」

「やっぱり、そうですよね(笑)」

「家庭を治めるためには、親愛・賤悪・畏敬・哀矜・敖惰の五つが大事だと教えてくれているんだよ」

「どういう意味ですか?」

「人は、親しい対象には偏った見方をしてしまい、さげすむ対象には偏った見方をしてしまい、畏敬する対象には偏った見方をしてしまい、あわれむ対には偏った見方をしてしまい、なれなれしくつきあう対象には偏った見方をしてしまうものだ。常に自分を律して、そうならないようにしなければならない、ということを教えているんだよ」

「なるほど、まずは身近な人としっかりと距離感を学ばなければいけないということですか?」

「おっ、さすがだね。自分の感情をいかにマネジメントするか。身内でそれができれば、外に出ても実践することは容易になるからね」

「『大学』か、読んでみたくなりました」

「自信を持っておススメするよ!」


ひとりごと

修身・斉家・治国・平天下。

この言葉は聞いたことがあるのではないでしょうか?

しかし、この前に、誠意・正心・格物・致知という4つがあり、これを合わせて『大学』の八条目と言います。

『大学』という書は、この八条目について詳しく解説している書です。

人生も仕事も、正しく進めていくための秘訣を教えてくれます。

ぜひ、手に取ってみて欲しい古典のひとつです。 


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れみれみ