今日のことば
【原文】
鶏鳴きて起き、人定まりて宴息(えんそく)す。門内は粛然として書声室に満つ。道は妻子に行なわれ、恩は蔵獲(ぞうかく)に及ぶ。家に酒気無く、廩(くら)に余粟(よぞく)有り。豊なれども奢に至らず、倹なれども嗇(しょく)に至らず。俯仰愧ずる無く、唯だ清白を守るのみ。各おの其の分有り。是の如きも亦足る。〔『言志後録』第184章〕
【意訳】
朝は鶏が鳴いて起床し、人の寝静まる時刻には就寝する。門内は静かに整然として読書の声が部屋に満ちている。妻子も正しい道を踏み行い、その恩恵は家来にも及んでいる。家に酒はなく、蔵には穀物の貯えがある。豊かであるが贅沢ではなく、倹約ではあるがけちではない。天地神明に恥じることなく、ただ清廉潔白を守っている。人にはそれぞれ分限がある。このような生活をしていれば「足る」というべきであろう。
【一日一斎物語的解釈】
豊かであるが贅沢ではなく、倹約ではあるがけちではない。自分の分に応じた知足(足るを知る)を心掛けることが、わが身の修養となる。
今日のストーリー
今日の神坂課長は、相原会長と久しぶりにナイター競艇に来たようです。
「久しぶり過ぎて舟券の買い方、忘れちゃったよ」
「私も競馬中心で、ボートはしばらくご無沙汰でした」
結局、今日は二人とも1レースも当たらず、相原会長の自宅近くの蕎麦屋さんに入ったようです。
「そういえば、この前会長をお送りしたときに、車庫が見えたんですけど、車は日本車なんですね。てっきりBMかベンツに乗っていると思っていました」
「僕は車にはあんまり興味がないからねぇ。でも、軽に乗っているわけじゃないから良いでしょ?」
「もちろん、ケチだなんて言うつもりはないですよ。単純に意外だなと思っただけで…」
「豊かであっても贅沢でなく、倹約してもケチではない。そういう生活を心がけているんだよ」
「それで、今日は二人とも負けたから、寿司屋ではなく蕎麦屋なんですね?」
「でも、ざるそばではなく、天ざるだからね!」
「なるほど、倹約ではあるがケチではないですね(笑)」
「やっぱりそれなりに稼いだ人間には、そのお金を使う義務があると思うんだよ」
「使う義務か! 言ってみたいなぁ」
「あ、ごめんね。自慢している訳じゃないんだよ」
「もちろん、分かっています。でも、仰るとおりだと思います。今は特にCOVID-19の影響で、飲食店は厳しい経営状況ですから、お金を使うべきだと思っています」
「これまでだいぶお世話になってきたもんね!」
「はい。なじみの店が潰れるのは凄く残念だし、悲しいですからね」
「うん。ただし、自分の分を弁えてね。収入より支出が多いような生活はダメだよ。神坂君が破産してしまうからね」
「その辺は心得ているつもりです。最近は本代もバカにならないので、ギャンブルをセーブしているんです」
「酒代は減らさず?」
「それが、私の倹約だがケチではない流儀です」
「さっそく使ったね(笑)」
ひとりごと
豊かであるが贅沢でなく、倹約であるがケチではない。
この絶妙な感覚が良いですよね。
そのためにはまず自分の分をしっかりと弁えよ、と一斎先生は言います。