一日一斎物語 (ストーリーで味わう『言志四録』)

毎日一信 佐藤一斎先生の『言志四録』を一章ずつ取り上げて、一話完結の物語に仕立てています(第1066日目より)。 物語をお読みいただき、少しだけ立ち止まって考える時間をもっていただけたなら、それに勝る喜びはありません。

2023年01月

第2911日 「女性」 と 「教育」 についての一考察

今日のことば

【原文】
方今諸藩に講堂及び演武場を置き、以て子弟に課す。但だ宮閫(きゅうこん)に至りては未だ教法有るを聞かず。我が意欲す、「閫内に於いて区して女学所を為(つく)り、衆(おおく)の女官をして女事をばしめ、宜しく女師の謹飭(きんちょく)の者を延(ひ)き、之をして女誡(じょかい)・女訓・国雅の諸書を購解せしめ、女礼・筆札・闘香(とうこう)・茶儀を并(あわ)せ、各々師有りて以て之を課し、旁(かたわ)ら復た箏曲(そうきょく)・絃歌の淫靡ならざる者を許すべし」と。則ち閫内必ず粛然たらん。〔『言志晩録』第144条〕

【意訳】
最近、各藩では学問所や道場を設けて青年に勉強を課している。ただ大奥に対しては未だに教育方法がないと聞く。私は以下のような期待をしたい。「大奥に区画を設けて学問所を作り、多くの女官に女性にとって大切な道を学ばせ、慎み深い女性教師を招聘して、女性としての戒訓、和歌などの書を購読させ、礼儀作法、習字、香道、茶の湯などにそれぞれの教師をつけて学ばせ、その合間に、琴曲・弦歌などで淫らでないものは許可する」と。このようにすれば大奥は必ず粛然となるであろう

【一日一斎物語的解釈】
男女同権であることにまったく異論はないが、女性には女性ならではの学ぶべき道があるはずだ。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、佐藤部長と同行しているようです。

「私は男女同権には異論はないですけど、それはあくまでも男女公平ということであって、男女平等ではないと思うんですよね」

「たしかに、男性と女性にはそれぞれ違った役割があるはずだからね」

「最近は、『男らしい』とか『女らしさ』といった言葉も、セクハラの対象になるらしいじゃないですか。バカげてませんか?」

「少し行き過ぎている感じもするよね」

「私は男は男らしく、女は女らしくすることは大切なことだと思うんですけどねぇ」

「一斎先生は、大奥の教育に関して面白いことを言っているよ」

「教えてください」

「最近は学問所ができて青少年の教育は進んだが、女性に対しても、女性として大切な道、たしなみ、和歌、書道、茶道、琴などを学ばせる必要がある、と言っているんだ。これ、すなわち女性の教育が進まず、女性たちの生活が乱れていることを嘆いた言葉なだろうね」

「なるほど、もしかしたら今の状況と近いのかな(笑)」

「孟子も『夫婦の別と言って、男女間の役割の違いを大切にせよとしている。神坂君が言うように、『らしさ』というのは大事なことのように思うよ」

「そうなんですよね。ところが、男は女化し、女は男化している。これじゃ宇宙の摂理に反することにならないんでしょうか?」

「その答えは、次の時代になってわかるんじゃないかな?」

「あー、『日本男子よ、紳士たれ!と叫びたいです」

「時代も時代だから、ちょっと抑え気味にしておこうか……」


ひとりごと

ここのところ男女に関する章句が続きます。

時代の違いだと一言で片づけて良い問題なのか?

小生は大いに心配しています。

先日も、小生の勤務先の後輩から「え、清水さんは、ファンデーションを使っていないんですか?」と驚かれました。

「使うか!!」と思わず言ってしまったのですが、男性がお肌に気をつかうなんて、それで良いのでしょうか?


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第2910日 「悪女」 と 「内患」 についての一考察

今日のことば

【原文】
大臣の権を弄するは、病猶外症のごとし。劇剤一瀉して除く可きなり。若し権、宮閫(きゅうこん)に在れば、則ち是れ内症なり。良薬有りと雖も施し易からず。之を如何せん。〔『言志晩録』第143条〕

【意訳】
大臣が権力をもてあそぶことは、外傷を患うようなものである。劇薬を処方して一気に取り除くべきである。しかし、もしその権力が大奥のような深い場所にあるならば、それは内臓疾患のようなものである。たとえ良薬があったとしても簡単に治療することはできないであろう。これをどう処置したらよいだろうか

【一日一斎物語的解釈】
部長や役員クラスの横暴であれば、最悪は罷免すればよい。しかし、社長夫人などに権力が集中すると、簡単には対処できないので困りものである。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、大累課長とランチ中のようです。

「宮本クリニックの事務長がまた解任されたの知ってますか?」

「また? まだ就任して半年も経ってないんじゃないの?」

「3ヶ月です。どこかのディーラーと癒着があったとかなんとか、よくわからない理由でした」

「あの施設はそうやって外科手術ばかりしているけどさ、根本原因である内臓疾患に手を付けないと何も変わらないんだよな」

「内臓疾患って、何のことですか?」

「事務長を名乗る院長の奥さんだよ。あの夫婦はスーパー・クレーマーだからな」

「そうらしいですね。私は担当したことがないから、よく知らないんですけど、本田君が困ってました」

「俺もとうの昔に出禁になってるからね。たぶん、その事務長は真っ当なことを言ったんだと思うよ」

「真っ当なことを言って解任されたんじゃ、たまったもんじゃないですね」

「たぶんなり手がいないからだとは思うんだけど、あそこの事務長の給料はかなり高額らしいぞ」

「にんじんをぶら下げて事務長を雇っては解雇を繰り返しているわけですか」

「たしか、あそこの院長は婿殿だからな。奥様には逆らえないんじゃないの?」

「なるほど、つまりはその事務長が退かない限り、あそこの経営環境は改善しないってことですか?」

「うん。あのババアの顔は二度と見たくないね。めちゃくちゃなことを言っている癖に、こっちが悪いような言い方を平気でしてくるんだからな」

「相当やられたみたいですね(笑)」

「笑い事じゃねぇよ!!」


ひとりごと

大臣クラスの罷免は外傷で、大奥の横暴こそが内患だ、という一斎先生の指摘は面白いですね。

中国の歴史を振り返ると、悪女に操られて国を傾かせた皇帝が何人か思い当たります。

そういえば、昨年の大河ドラマで話題となった北条政子も、日野富子、淀殿とならんで、日本三大悪女と呼ばれています。

しかし、よく考えてみると、女性が権力をもつことが悪いのではなく、女性に簡単に操られてしまう男どもに問題があるように思えてなりません。


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第2909日 「女性」 と 「美麗」 についての一考察

今日のことば

【原文】
婦女の服飾の美麗を以て習と為すは、殆ど不可なり。人の男女有るは、禽獣の雌雄牝牡有ると同じ。試に見よ、雄牡は羽毛飾り有りて、雌牝には飾り無きを。天成の状是の如し。〔『言志晩録』第142条〕

【意訳】
婦女子が服装を美麗に飾ることを風習とするのは宜しくない。人間に男と女の区別があるのは鳥や獣に雌雄や牝牡があるのと同じことである。試みに見てみよ、禽獣のおすには羽毛の飾りがあるが雌には飾りが無いではないか。天然自然の有様はこのようなものである

【一日一斎物語的解釈】
女性が着飾り過ぎて家事をおろそかにするようでは困りものである。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、フミさんこと松本さんと食事をしているようです。

「そうなの? 女は着飾るものじゃないとは、一斎先生も時には酷いことを言うんだねぇ」

「いやいや、時代ですよ、時代。孔子だって、女と徳の無い人間はどうしようもないと言ってたじゃないですか!」

「あー、そうだったね。あれもビックリしたけど、西郷さんの説明によると、一般の人間に向けて言った言葉ではないそうだね」

「そうですよ。それと同じで、一斎先生の時代は男尊女卑の時代ですから、女性が内助の功を尽くすことで、世の中がうまくいっていたんですよね」

「いつからそうではなくなったんだろう……」

「えっ、フミさんの奥様は、お優しい方なんじゃないですか?」

「なにをおっしゃるうさぎさん。普段は猫みたいでも、一度起ったら鬼より怖いよ(笑)」

「ウチは、百獣の王ライオンより怖いです」

「お互い苦労しているんだねぇ(笑)」

「でもね、フミさん。ウチの部長は、それは女が強くなったんじゃなくて、男が弱くなったんじゃないのかって言ってました」

「オー、イエス! ザッツ・トゥルー!!」

「でもねぇ、私は思うんですよ。男って、いくつになっても5歳児の脳みそじゃないですか。昔の女性はそれを掌の上で転がしてくれていたんですよ」

「お釈迦様と孫悟空だね!」

「今じゃ、手のひらじゃなくて、足のひらを見せられてますからねぇ……」


ひとりごと

昨日に続き本日の章句もなかなか扱いづらい章句です(笑)

一斎先生は、獣ですら、雄が立派な毛皮をまとうのであって、雌はそうではないと言います。

これまた、なかなか強烈な譬えですね。

小生がどう思うかって?

それは、ここでは言えません!


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第2908日 「女性」 と 「権利」 についての一考察

今日のことば

【原文】
婦徳は一箇の貞字、婦道は 一箇の順字。〔『言志晩録』第141条〕

【意訳】
婦人の徳とはただ「貞」の一字にあり、婦人の履み行う道はただ「順」の一字にある

【一日一斎物語的解釈】
かつての日本の淑女とは、貞操を守り、夫の後ろからそっとついてきたものだが・・・。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、佐藤部長の部屋にいるようです。

「先日、ある勉強会で日本最初の女性医師・荻野吟子の話を聞きました」

「あの方は立派な方だよね。あの人がいなければ、女性医師の誕生はあと何年先になっただろうか」

「はい。そもそも驚いたのは、明治の初めごろには女性は医者になれなかったということです」

「当時、女性には参政権もなかったからね

「そうなんですね。女性が医師になるという前例がないからと断られたのを、みずから過去の文献を読んで、奈良時代に女性医師がいたという前例を見つけ出して論破したそうです」

彼女のような人がいたからこそ、男女同権が確立されたんだね」

「能力があるのに、その能力が発揮できないというのはもったいないですよね」

「そういう時代だったんだよ。一斎先生ですら、女性は貞操を守り、夫を助けることに尽くすのみだと言っているからね」

「でも、日本の場合は過去に女性の天皇もいましたし、もっと昔には卑弥呼という女帝もいたと言われているのに、その後は男尊女卑になってしまったんですね」

「腕力では女性は男性に適わないからね。ただ、少し極端ではあるよね」

「女性が活躍するのは良いことなんですけど、その一方で最近は女性が男性より強くなってきているのが気になりますねぇ」

「女性が強くなったんじゃなくて、男性が弱くなったのかもよ?」

「あー、そうかも知れません」

「少子高齢化の日本においては、労働力としても女性が必要になってくる。もっともっと女性が社会進出しないといけない時代になったということだね」

「そうなんでしょうけど、あまりに女性が強くなり過ぎている気もするんですよね。封建時代がうらやましい……」


ひとりごと

この時代に、「女性よ、もっと奥ゆかしくあれ!」などと言ったら、このブログも炎上するのでしょうか?

もちろん、職業選択の自由などは、男女間に差があってはなりません。

しかし、母なる大地と呼ばれるように、女性にはおおらかに男性を包んで欲しいと思ってしまいます。

やはり、女性が強くなったのではなく、男性が弱くなっただけなのかも知れませんね。


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第2907日 「勤勉」 と 「覚悟」 についての一考察

今日のことば

【原文】
関雎の化は、葛覃(かったん)と巻耳(かんじ)に在り。勤倹の風は、宜しく此れより基(き)を起すべし。〔『言志晩録』第140条〕

【意訳】
『詩経』国風にある「関雎」の詩が世間に及ぼす感化は、「葛覃」と「巻耳」の篇にある。勤勉と倹約の風紀はこれを基にして起きたものであろう

【一日一斎物語的解釈】
トップが自ら示すべきは「勤勉」と「倹約」である。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、総務課の大竹課長とランチに出掛けたようです。

「そういえば、老舗の川口医療器が廃業したらしいね」

「そうなんですよ。先代の頃は、大手の取引先をたくさん持っていて、とても潰れるような会社じゃなかったんですけどねぇ」

「二代目に問題ありか?」

「大ありです! タケさん、トップが社員さんに率先して示すべきは何だと思います?」

「突然何よ? そうだねぇ、やはり愛敬じゃないの?」

「さすがは藤樹フリークのタケさんだな。もちろんそれもあるでしょうけど、私は『勤勉』と『倹約』だと聞いています」

「なるほど。で、川口医療器の二代目はそのどっちが足りなかったの?」

「両方です! 高級車を乗り回し、夜は女性を侍らせての宴会三昧。あれじゃいくら儲けても、お金が溜まりませんよ」

「先代は質素な人だったよな」

「先代は、愛車のベンツを20年乗っていましたね。しっかりメンテはしていたようですが」

「二代目は勤勉でもないの?」

「半年前くらいに業者の集まりでお会いしたんですよ。何人かで医師の働き方改革の話をしたんですけど、あの人何も知らなかったですよ」

「そりゃひどいな」

「勤勉でもなく、倹約もせず、そして社員さんへの愛敬もない。そりゃ潰れますよね」

「今まで存続できたのは、先代の残してくれた信頼という資産のお陰だったんだろうな。その資産も食いつぶしてしまったわけか。社員さんが可哀そうだな」


ひとりごと

トップが率先すべきは、勤勉と倹約なのだと、一斎先生は教えてくれます。

いくら勤勉でもお金を湯水のように使っていたら次第に業績も傾くでしょう。

また、いくら倹約しても、新しい事を何も学ばなければ、時代に取り残されます。

昨日、トヨタ自動車が社長交代を発表しました。

豊田章男社長は退任会見の中で、「クルマ屋の限界」という言葉を使い、新しい人材でなければ真のモビリティ・カンパニーにはなれないという強い覚悟を語りました。

もしトップ自身が新しいことを学ぶ意欲や能力に劣るなら、早々に席を譲るべきだという決断なのでしょう。

みなさんは学び続けていますか?


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第2906日 「プライベート」 と 「パブリック」 についての一考察

今日のことば

【原文】
人主の閫内(こんない)の事は、外人の知らざる所なり。然るに外廷感応の機は、的(たしか)に此に在り。国風の擘初頭(はく、しょとう)の関雎(かんしょ)は即ち此の意なり。〔『言志晩録』第139条〕

【意訳】
君主の住む奥向きのことは、外にいる人にはわからないことである。ところが、表向きの政治にその影響を感じる兆しが間違いなく垣間見えてしまう。『詩経』国風の開巻第一にある「関雎」という詩はそれを表しているのだ

【一日一斎物語的解釈】
トップの実生活は必ず社風に反映されるものである。慎まねばならない。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、平社長に呼ばれたようです。

「神坂、あいかわらずギャンブルはやってるのか?」

「酒とギャンブルはやめられません……」

「ははは、やめろとは言わないが、節度をもってやってくれよ」

「はい!」

「実は俺もかつては競輪が大好きでな。休みの日になると車券を買っていたんだよ」

「えっ、それは意外です。今はやっていないんですか?」

「今は、G1とグランプリだけを買っているよ」

「なぜ、そうされたんですか?」

「起業するときにやめたんだ。どうせ忙しくなれば、土日もないだろうし、社員のみんなにも社長が競輪をやっているなって吹聴されたら困るしな(笑)」

「そうか、その頃はまだネットで買える時代じゃなかったんですね。あっ、そういうことじゃないですね……」

「ははは、たしかにネットで買えれば続けていたかもな!」

「私生活の乱れは、仕事にも表れてしまうということですね?」

「そうだな。お前もそろそろそういうことを考えてもいい頃だろう」

「競馬と競輪をやめたら、息抜きできるものがなくなっちゃうなぁ。でも、社長がそうしたなら、私も真似をしないといけませんねぇ」

「辛そうだな(笑)」

「相原会長にも誘われますしねぇ……」

「お前、やめる気ないだろ!」


ひとりごと

どれだけ私生活を覆い隠したつもりでも、思わぬところでその兆候が見えてしまうものだ、と一斎先生は言います。

自分の癖は自分では気づかないものだと考えると、納得できるご指摘です。

そうであるなら、トップに立つ者、人の上に立つ者は、乱れた生活を慎むべきなのでしょう。

ギャンブル大好きな私の言動のそこかしこにも、その兆候は表れているんだろうなぁ……。


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第2905日 「外寇」 と 「内治」 についての一考察

今日のことば

【原文】
沿海の侯国皆鎮兵たれば、外冦は覬覦(きゆ)し易からず。但だ内治何如を問うのみ。内治には何の別法有らんや。謹みて祖宗の法を守り、名に循(したが)いて以て実を喪うこと勿れ。敬(つつし)みて祖宗の心を体して、安を偸(ぬす)んで危を忘るること勿れ。然る後、天変畏るるに足らず、人言懲(いまし)むるに足らず。況や区区たる鱗介(りんかい)の族に於いてをや。尚お虞(うれ)うるに足らんや。〔『言志晩録』第138条〕

【意訳】
沿海に臨む諸藩は、みな国家を鎮め守る国防の軍である。容易に外敵が野望を抱いて攻め込むことなどできない。ただ国内が治まっているかどうかが問われるところである。国内の政治について特別な方法があるのではない。謹んで祖宗の遺法を守り、名に従って実を失うことのないようにせよ。敬んで祖宗の精神に従って、安易に流れて、危きを忘れることのないようにせよ。そうすれば、天変地異も畏れるに足らず、他人の毀誉褒貶も戒めとするに及ばない。まして、ちっぽけな魚貝類の如き外敵などはまったく恐れるに及ばない

【一日一斎物語的解釈】
企業間競争に勝つためには、なにより組織内部をしっかりと統制することである。創業の精神を忘れず、創業以来の伝統を守ることが基本であるが、時代に合わせて取捨選択を行うことも忘れてはいけない。そのうえで、常にリスクを恐れずに行動していく必要がある。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、石崎君と同行しているようです。

「課長、競合他社との競争に勝つためにはどうすれば良いのですか?」

「何事も先手必勝だ。相手の動きを事前に察知して、こちらが先に仕掛けるんだ」

「敵を知るということですね!」

「その通り、しかしその前に己を知ることの方がより大事だぞ」

「己を知るって、どういうことですか?」

「敵に勝つためには、まず味方が一枚岩になっている必要がある。内部でいざこざがあるようでは、力を集中できないからな」

「まず味方の問題点を解決しておく必要があるんですね?」

「サッカーや野球だってそうだろ? 味方同士でいがみ合っていたら、敵との勝負に勝てるわけがないよな」

「はい」

「己を知るという意味では、自社の強みを知るということもまた大事だな。会社の存在意義が明確になっている会社は、競争にも強いはずだ」

「でも、時代が変れば、段々そういうものも古い考え方になっていきませんか?」

「そのとおりだ。ただし、企業の存在意義は変わらない。その一方で、時代のニーズに合わせて、変えるべきことは積極的に変えていくことも大切になってくる」

「何を残して、何を捨てればいいのかが難しそうですね」

「それをつかむためには、仲間がみんなで知恵を絞る必要がある」

「一枚岩である意味がそこにあるんですね!」


ひとりごと

スポーツであろうと、ビジネスであろうと、競争に打ち勝つためには、まず内部を固めることが先決です。

有名な『孫子』にも、「敵を知り己を知れば、百戦して危うからず」とあります。

逆にいえば、敵を知っても己を知らなければ、常勝は望めないということでしょう。

本当に戦に強いリーダーは、敵と戦う前に、まず勝てる組織作りに着手するのです。


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第2904日 「他社事例」 と 「自社の強み」 についての一考察

今日のことば

【原文】
説命に、明王、天道を奉若(ほうじゃく)して、邦を建て都を設け、后王、君公を樹(た)て、承(う)くるに大夫、師長を以てすと。此(これ)に据(よ)るに、封建の制は天道なり。唐虞(とうぐ)三代相沿(よ)りて、治を保つこと久遠なりき。秦已(しんい)後変じて郡県と為り、而して世数も亦促せり。余聞く、西洋諸国は地球を周回し、国土を分ちて五大洲と為す。而れども、封建の邦、惟だ我れを然りと為すのみと。亦独立自足して、異域に仰ぐ無く、厪(わずか)に漢蘭の二国有り、渠(かれ)の来りて貿易するを許す。是れ亦良法なり。我が国に在りと雖も、古代は則ち制、漢土に襲(よ)れり。神祖に至りて、群県は其の名を存して、封建は其の実を行なう。神算媲(なら)びし無しと謂う可し。郡県の世、王室政を失い、海内輒(すなわ)ち土崩瓦解す。惟だ封建は則ち列侯各々其の土を守り、庶民も亦皆其の主の為に保護す。是れ其の固き所以なり。然れども国に興廃有るは、則ち気数の自然なれば、人力を以て之を守るは、又人道の当然なり。我れ幸いに此の土に生まれ、堯舜の沢(たく)に沐浴すれば、自ら慶する所以を知らざる可けんや。柳柳州の封建論は、吾が取らざる所なり。〔『言志晩録』第137条〕

【意訳】
本章については、小生保有の解説書では、どれも訳および解説が省かれています。
よって、小生も本日はここに原文を掲載するに留めます。

【一日一斎物語的解釈】
他社の成功事例を導入する際は、そっくりそのまま導入してはいけない。よく中身を吟味し、自社の特性に合わせて仕組みを整えるべきである。また、導入に際しては、何度もその意味を説明し、一般社員まで含めて腹に落とすことを心掛けねばならない。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、大累課長とランチ中のようです。

「聞いたか、大累。M社がコンサルを入れたらしいんだけど、かえって社内が大混乱に陥っているらしいぞ」

「聞きました。なんでも大手企業を得意とするコンサルらしいんですけど、中小企業のことはあまり理解していないんじゃないかと噂になっていますよ」

「おそらくどこかでうまくいった事例をそのまま導入しようとしたんだろうな」

「そうでしょうね。M社は専門商社ですから、大手医療機器ディーラーとは仕事の進め方も違えば、そもそも存在意義も違いますからね」

「そこをよく理解して、他社事例を導入しないと、結局混乱を巻き起こした挙句、契約解消というオチになるんだよな」

「エースの柴田君も退職したらしいですね」

「らしいな。彼は若手のエースで、将来の幹部候補生だったよな。M社としては痛いんじゃないか?」

「自業自得ですけどね」

「トップダウンで事を進めるのは良いんだけど、なぜそれをするかについては、全社員に腹落ちさせる必要があるんだろうな」

「ところがそのコンサルさんは、かなり上から目線でモノを言う人だったらしいですよ」

「俺の言うことを黙って聞けということか。それじゃダメだろうな」

「我々ディーラーは、変わらなきゃいけないことはわかっていますが、いざ実行となると難しいですよね」

「既得権をもった連中は、今までどおりを望むからな」

「他人の振り見て我が振りを直そうぜ!」


ひとりごと

十人十色と言いますが、これは人間だけに当てはまることではないでしょう。

十社十色、各会社ごとに存在意義も違えば、社風も違います。

他社の事例を参考にするのは良いことですが、導入に当たっては慎重であるべきです。

そうでないと、かえって自社の強みを失うことになるかも知れません。


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第2903日 「清さ」 と 「濁り」 についての一考察

今日のことば

【原文】
「水至って清ければ、則ち魚無く、木直に過ぐれば、則ち蔭無し」とは、政を為す者の深戒なり。「彼(かしこ)に遺秉(いへい)有り、此に滞穂(たいすい)有り、伊(こ)れ寡婦(かふ)の利なり」とは、飜(ほん)して政事と做すも亦儘(まま)好し。〔『言志晩録』第136条〕

【意訳】
水があまりきれい過ぎると魚はすまないし、木があまり真直ぐだと蔭ができない」という言葉は、政治を執り行う者にとっての箴言である。「あそこに取り残された稲束があり、ここに稲穂が落ちている。これはやもめのもうけものである」という言葉は、そのまま政治に活用できる言葉である

【一日一斎物語的解釈】
あまりにも厳格に部下に接すると、部下は伸び伸びと力を発揮できない。リーダーには、少しくらいのミスや怠慢には目をつぶる覚悟が必要であろう。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、新美課長と雑談中のようです。

「神坂さん、キレイゴトって大事ですよね?」

「かつてそれを大義と呼んだ時代もあった。大義のない戦(いくさ)をしないというのが武士の本懐だったんだろうな」

「でも、キレイゴトって時に人を追いつめてしまいますよね?」

「そこがリーダーの判断の難しいところだよな。『白河の清きに魚も棲みかねて、もとの濁りの田沼恋しき』という歌を聞いたことがあるか?」

「はい、知っています。白河楽翁公こと松平定信があまりにもクリーンな政治をしたために、庶民の生活はかえって息苦しくなり、かつて賄賂が横行した田沼意次の時代の方がよかったと述懐した歌ですよね」

「さすがだな。でも、そこには鋭い真理があると思わないか?」

「思いますね。やはり、リーダーとしては、小さな過ちには目を瞑るくらいの度量が必要だということでしょうね」

「そのとおりだ。その点、俺は海より深い度量の持ち主だから心配ないが、お前のは子供用のプールより浅いからなぁ」

「どの口が言うんですか! 金魚が泳げるほどの度量もない人が」

「なんだと!」

「ほら、この程度の後輩の減らず口でも我慢できないんじゃ、金魚どころかプランクトンすら住めませんよ!」

「ゴン!」

「痛い! この時代にそういう暴力はいかがなものでしょうか?」

「今のげんこつには大義があった。きっと歴代の武将たちも俺を許してくれるはずだ!!」


ひとりごと

100点満点の人間はいません。

だれしも多少の傷や過ちはあるものです。

何を許し、何を許さぬか?

ここはリーダーとメンバーとの信頼関係醸成に向けての肝と言えるのではないでしょうか?


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第2902日 「良いこと」 と 「悪いこと」 についての一考察

今日のことば

【原文】
世清き時も、亦就(すなわ)ち小失の処有り。世濁る時も、亦就ち小得の処有り。〔『言志晩録』第135条〕

【意訳】
世の中が清く治まっている時にも、少しは良くないこともある。逆に、世の中が濁って乱れている時でも、少しは良いことがあるものだ

【一日一斎物語的解釈】
良いときにもすべてが良いわけではなく、悪いときにもすべてが悪いわけではないものだ。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、新美課長とランチ中のようです。

「人間って勝手な生き物だよな?」

「いきなり何の話ですか?」

「いや、人間ってさ、物事がうまく行っている時には、万事がうまくいくものだと過信するし、逆に悪い事が重なると、すべてが悪い方向に行くように思ってしまうだろ?」

「私の場合、特にネガティブに考えがちなので、うまく行かなくなると、すべてがダメだと思ってしまうところがあります」

「ちゃんと自己分析ができているじゃないか! まったくその通りだと思うぞ」

「そういう神坂さんは、ノー天気だから、物事がうまく行き出すとすぐに調子に乗りますよね」

「やかましいわ! ノー天気って言うな、ポジティブって言え!!」

「ポジティブというのは、物事を前向きに捉えることであって、無謀なことをうまく行くと勘違いして実行することではないですからね!」

「うるせぇな。お前は理屈っぽいんだよ。ネクラで理屈っぽい奴は女にはモテないぞ!」

「もう結婚してますから、別にモテなくても結構です!」

「そういうところが理屈っぽいって言うんだよ! とにかく、お前と俺は真逆の性格のようだが、どちらも行き過ぎの傾向があるみたいだから、お互いに指摘し合って、是正していこうな!」

「はい。その代わり、指摘してもキレないでくださいよ!」

「喜びこそすれど、キレるなんてとんでもないことだよ、新美君!」

「こういう言い方をするときのこの人は一番信用できないんだよな!」


ひとりごと

勝って兜の緒を締めよ。

これは戦に勝つことで驕ることを懸念した北条氏綱の言葉だと言われています。

勝って過信し、負けて落ち込んでいるだけなら、負け続けること必定です。

つねに、良い事の中に悪い事の兆しを探り、悪い事の中から善い事の兆しを見つけ出せるような視野を持ちたいものですね。


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