一日一斎物語 (ストーリーで味わう『言志四録』)

毎日一信 佐藤一斎先生の『言志四録』を一章ずつ取り上げて、一話完結の物語に仕立てています(第1066日目より)。 物語をお読みいただき、少しだけ立ち止まって考える時間をもっていただけたなら、それに勝る喜びはありません。

学び

第1742日 「伝統」 と 「継承」 についての一考察

今日の神坂課長は、地元の神社で開催されている流鏑馬を見学に来たようです。

次男の楽(がく)君が一緒にいるようです。

「とうさんは子供の頃、この流鏑馬に憧れていたんだ。いつか馬に乗って、馬上から的を射抜いてやるって思っていたんだよ」

「へぇー、それで実現したの?」

「いや、馬に乗る機会もないままだ」

「なんだよ。思うだけじゃなにも叶わないじゃん」

「厳しいこというなぁ。まあ、そのとおりだけどな。(笑)」
そのとき、馬に乗った小学校高学年の男の子が、ふたりの前を疾走していきました。

「昔の侍は、ああやって皆、馬を操り、馬上から弓を射ることができたんだ。すごいよな」

「うん恰好いいね。でも、なぜ馬に乗れる人が減ってしまったのかなぁ?」

「鉄砲の影響だよ。鉄砲は弓に比べて、はるかに遠くの敵を撃ち抜くことができるからな」

そうか。それで弓も廃れてしまったんだね。僕の学校の弓道部は、部員が3人しかいないよ」

「それは寂しいな。古来からある伝統的な競技だし、残ってほしいよな」

「この流鏑馬はたしかに恰好いいけど、普段の弓道はあまり興味がないな」

「それは残念。お前がここを疾走する姿を見てみたかった」

「あの弓は木でできているのかな?」

「今日のような神事で使われる弓は通常、梓弓(あずさゆみ)と呼ばれるんだ」

「梓って何?」

「一般的な木の名称だよ。ただ、現代では梓と呼ばれる木は存在していない。どの木が梓と呼ばれた木なのか、今では諸説あるようだ。いずれにしても、神事で使われる弓を一般的に梓弓と呼ぶようになったらしい」

「でも最近の弓道の弓はグラスファイバーとかカーボンファイバー製らしいよ」

「そうなのか? カーボンファイバーの弓で流鏑馬をやられたら、雰囲気が台無しだな」

「たしかに、そうだね。木製の方が雰囲気がでるなぁ」

「鉄砲が登場するまでは、馬の上で操作する武器としては、弓が一番使い勝手がよかったらしい」

「そうだろうね。刀だと敵に近づかないと斬れないし、長刀では、馬上でコントロールできないもんね」

「こういう行事を見ると、そういうことがリアルに想像できるねぇ。伝統的な行事を残すのは大変なことらしいけど、ぜひ継承して欲しいな」

「とうさん、今から練習してみたら? 諦めずにチャレンジしてみるべきじゃない?」

「今更か?」


ひとりごと

実は小生、一度も流鏑馬を観たことはないのですが、流鏑馬が実施されている神社には何度か足を運んでいます。

その場所で、目を閉じると、流鏑馬の情景が浮かび、さらに戦国時代の戦のシーンが脳裏に浮かびあがります。

古き良き時代の伝統とは、人間の歩んできた歴史の足跡でもあります。

ぜひ、末永く継承して欲しいものです。

【原文】
我が邦は古より弓箭(きゅうせん)に長じ、然も古に於いては皆木弓にて、即ち謂わゆる梓弓なりき。或いは謂う。木弓は騎上最も便なりと。須らく査すべし。〔『言志晩録』第108条〕

【意訳】
我が国は昔から弓術に長じており、しかも昔はすべて木製の弓、すなわち梓の木で作った弓であった。ある人が言ったことばに「木弓は馬上で操作するのに最も適している」とある。よく調査してみるべきだ

【一日一斎物語的解釈】
伝統の継承は、多くの無形文化における大きな課題となっている。先人が刻んできた足跡を消さないためにも、伝統の継承を考えたいものだ。


yabusame

第1741日 「技術」 と 「現場」 についての一考察

今日の神坂課長は、同業F社の市川さんとN市立大学病院内科外来前の待合いで談笑しています。

「そういえば、市川さん。御社の玉川君は元気でいいですね。ドクターにもドンドン積極的にPRをしているので、感心しますよ」

「ははは。そう見えますか? それは良かった。実はあいつ、入社当時は本当に人前で話すのが苦手でね。面接をして何を質問しても、ほとんど答えが返ってこなかったんですよ」

「へぇー、とてもそうは見えないけどなぁ。なにか、秘策でもあるの?」

「秘策はないですよ。ただ、これはマズいと思って、新人の年は毎朝、朝礼で1分間スピーチをさせたんです」

「毎朝!?」

「そう。スピーチをしたら、メンバーみんなでフィードバックをしてね。そうしたら1年目が終わる頃からメキメキ成績が上がり始めました。だから、スピーチをさせたのは良かったのかなと思っています」

「素晴らしいね。ウチもやってみようかな?」

「会話力は営業の基礎的な技術のうちでも最重要ですからね。それに、スピーチのネタを調べることで、いろいろな知識も身についていくようです」

「なるほどなぁ」

「ところで、神坂さんは課長さんですよね? 相変わらず現場でバリバリやっているんですね。うちの課長はほぼデスクに座っていて、指示をするだけですよ」

「デスクに座って指示をするだけで、組織が動くならそれが一番じゃないの? 残念ながら俺はそれが苦手でね。現場の臭いを感じていないと、まともな指示ができないタイプだからさ」

「現場の臭いか、それは重要ですよね」

「俺は、現場に行けなくなって、陣頭指揮を取れなくなったら引退するよ。デスクに座っているだけなら、ただのポンコツになってしまうからね」

「この前、オタクの善久君に会ったんですけど、神坂さんは自分が困ったときにはすぐに同行してくれるから心強いと言ってましたよ」

「善久がそんなこと言ってたの?」

「ええ、自分も将来はああいうリーダーになりたい、と言ってましたね」

「あいつ、俺にはそんなこと一度も言ってくれたことないのにな」

「照れくさいんでしょう。でも私も、陣頭指揮を執るということは大事なことだと神坂さんから教わりましたよ」

「それしかできないだけなんだけどね。でも、そう言われるとうれしいな。市川さん、コーヒーでも奢るよ!」


ひとりごと

それぞれの職種には、絶対に磨くべき技術があるはずです。

営業においては、やはり会話力・話術でしょう。

また、解決すべき課題は現場にあります。

リーダーとなり、人の上に立ったとしても、現場から遠ざからないようにすべきでしょう。


【原文】
国初の武士は、上下皆泅泳(しゅうえい)を能くし、調騎と相若(ひと)し。今は則ち或いは慣(なら)わず。恐らくは欠事ならん。軍馬は宜しく野産を用うべし。古来駿馬は多く野産なり。余は少時好みて野産を馭(ぎょ)したりしたが、今は則ち老いたり。鞍に拠りて顧眄(こべん)する能わず。嘆ず可し。〔『言志晩録』第107条〕

【意訳】
江戸初期の武士は、上役から下級武士まで皆水泳が得意であり、騎馬の術と同様に修練していた。ところが今は泳ぎを習得しない。大事なことが欠落してしまった。戦につかう馬は野生の馬を用いるべきである。昔から優れた馬の多くは野生の馬であった。私は若い頃好んで野生の馬を馭したが、今は年老いてしまった。漢の馬援が老齢をおして出陣し馬上にあって周囲にその力を示したようなことはできなくなってしまった。残念なことだ

【一日一斎物語的解釈】
営業マンの基礎的な技術として、話術を磨くことは重要であるが、これを実践している営業マンは少ない。営業マネージャーは、メンバーにしっかりと話術を磨かせることを怠ってはいけない。また、営業マネージャー自身は、自ら率先して陣頭指揮を執ることを怠ってはいけない。現場から離れれば現場が見えなくなるものだ。


fantasy_dullahan

第1740日 「チーム」 と 「個人」 についての一考察

営業2課のミーティングはまだ続いているようです。

「営業マンのテリトリーというのは、各課長がそれなりに配慮して決めているんだ。もちろん佐藤部長にも相談しながらな」

「ベテランが大手施設を担当して、若手は中小病院を担当するということですか?」

「善久、それほど単純ではないよ。各メンバーの成長を意識して決めている部分もある」

「そうなんですか?」

「大手の施設でも、ベテランがフォローできる体制にあるなら、思い切って若手に任せるケースもあるぞ」

「じゃあ、私もゼンちゃんも大手を任せてもらえないのは、若いからというだけではないのですか?」

「石崎、そのとおりだ。もちろんお前たちの実力も考慮してはいるが、フォローできる体制がとれるかどうかも重要だからな」

「私たちは、まだまだ知識も技術も足りていませんからね」

「善久、それはそうだが、それ以上に足りていないのは、経験とマインド、つまり心構えだよ」

「技術だけでは売れないって、よく課長は言いますよね?」

「そうだ。心と技術と知識のバランスが良くないと売れ続ける営業人にはなれないんだ」

「そうかぁ、早く大手施設を担当したいなぁ」

「お前たちも来年は4年生になるんだよな。俺が今まで担当していた施設を任せていくつもりだよ」

「本当ですか?」

「嘘を言っても仕方ないだろう。だから、来年に向けて、テクニックだけでなく、心を磨けよ!」

「心ってどうやって磨けば良いのですか?」

「お客様のために、自分ができることを手を抜かずにやる。そういう意識で仕事をすれば、自然と心が磨かれるはずだ」

「わかりました! ゼンちゃん、手を抜かずに頑張ろうぜ!!」


ひとりごと

営業チームは常にチームセリングを意識しなければいけません。

個人ではなく、チームで商談に取り組むことで、お客様の真の課題解決のお手伝いができるのです。

そのためには、技術以上に心を磨く必要があります。

心が技術を超えない限り、技術は生かされない(中村信仁さんの言葉)

のです!


【原文】
都城に十隊八方の防火を置く。極めて深慮有り。蓋し専ら撲滅に在らずして、而も指揮操縦の熟するに在り。侯家も亦宜しく其の意を体し、騎将をして徒らに其の服を華麗にし、以て観の美を競わしむる勿るべし。得たりと為す。〔『言志晩録』第106条〕

【意訳】
江戸城下には十隊の火消組を四方八方に配備している。これは極めて深い考えがあるのだ。私が思うに、ただ火を完全に消し去ることだけでなく、戦闘時において指揮命令系統を熟達させることにあるのだろう。大名家もその意図をよく理解して、騎馬隊の大将に対し徒にその服装を華美にして、その美を見せることを競わせるようなことをしてはならない。誠に結構なことである

【一日一斎物語的解釈】
営業部隊のリーダーは、常にチームセリングを意識し、テクニックに走りすぎないように配慮すべきである。


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第1739日 「心」 と 「規律」 についての一考察

今日の神坂課長は、営業2課の課別ミーティングを開催したようです。

「O社さんがなかなか新製品を出してくれないから、最近はF社さんにやられっ放しですよ」

「石崎、メーカーさんのせいにしても何も変わらないぞ」

「でも、課長。やっぱり性能差があると難しいですよ!」

「もちろん製品の性能は、お客様が重視する大きな要素だろう。しかし、画質が違うといっても、F社の内視鏡で見えて、О社の内視鏡で見えない病変などないはずだろう?」

「それはそうですけど、やっぱり画質が良い方が売りやすいです」

「俺たちはディーラーだ。メーカーさん以上にお客様と密着して、お客様の課題解決のお手伝いをしなければならない。性能差を巻き返せるだけの関係づくりを目指そうじゃないか」

「・・・」

「それに俺たちはチームで販売をしているんだ。お前が担当する前にその施設を担当してた先輩もいる。もちろん俺にも顔があるご施設がたくさんある」

「僕たちは、ひとりじゃないんですね。そういえば、この前も課長が院長の奥様にフォローの電話を入れてくれたお陰で、なんとか商談を勝ち取ることができましたね」

「頼りになる上司がいるとありがたいだろ?」

「まあ、そうですね。ウザいときの方が多いですけど」

「なんだと、クソガキ!」

「ほら、またウザい上司が登場だ!」

「山田さん、なんとか言ってやってよ」

「わ、私ですか? 急に振られましても・・・」

「それはそうだな」

全員、爆笑しています。

「ひとつだけ言えるのは、私たちは良いチームだということです」

「山田さん、それ! それを言って欲しかったんだ。その良いチームをつくったのは誰だ、石崎?」

「えーと、山田さんですか?」
石崎君が舌を出しています。

「このガキ、本当に生意気だな」


ひとりごと

知識や技術も大事ですが、やはりその土台には心があります。

頼るべきは人の心と規律だという一斎先生の言葉は、業種を問わずどんな組織にも当てはまることではないでしょうか。

小生がずっと身を置いている営業部門においては、まさに至言ともいえる教えです。


【原文】
器械を頼むこと勿れ。当に人心を頼むべし。衆寡を問うこと勿れ。当に師律(しりつ)を問うべし。〔『言志晩録』第105条〕

【意訳】
戦争においては、武器に頼ってはいけない。人の心を頼りにすべきである。軍勢の多い少ないを問うてはいけない。軍の規律を問わねばならない

【一日一斎物語的解釈】
営業部隊の成果は、営業のツールや人数にあるのではなく、メンバーのマインドとチームワークに懸かっている。


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第1738日 「攻撃」 と 「防御」 についての一考察

今日の神坂課長は、F医科大学病院の内視鏡センターでのプレゼンの準備をしているようです。

「本田君、順番はウチが先、Y社が先?」

「まだ決まっていないと思いますが、後の方が良いですよね?」

「なぜ?」

「相手の出方をみて修正できますから」

「なるほどね。そういう考え方もあるが、俺は先手必勝を好むんだよね」

「先の方が有利だというのですか?」

「うん。先手でプレゼンをして、Y社の弱点であり当社の強みとなっているところを強調して、印象づけるんだよ」

「ほぉ」

「すると、後手のY社さんのときに、必ずドクターはそこを質問する。必然的にY社は弱みの言い訳をしなければならなくなる」

「なるほど」

「つまり、一所懸命にマイナスをゼロにする作業に追われるわけだ」

「面白いですね」

「そのためには攻めのプレゼンが必要になる。かといって、相手を露骨に誹謗中傷するのはダメだよね」

「そうでしょうね」

「兵法の鉄則は相手の背後を取ることであり、相手の守りの手薄なところを攻めることだ。これは商売でも同じだよね」

「たしかにそうですね。『孫子の兵法』はよく解説本やビジネス版の新刊が出ていますもんね」

「ははは。それを買って付け焼刃のクセに偉そうに話しているのが俺です」

「でも、おっしゃるとおりですよ。小宮先生のところにお邪魔して、順番を先にしてもらえるようにお願いしてきます」

「ぜひ、そうするといいよ。あとは、相手が突いてくると思われるウチの弱点に対してのカウンタートークをどう作り上げるかだ。言い訳をして、マイナスをゼロにするのではなく、マイナスを視点を変えて一気にプラスに変えるようなカウンターを打ちたいな」

「では、次はその点についてディスカッションしましょう!」


ひとりごと

『孫子の兵法を商売に適用した本は数多発売されています。

小生が好きなのは、NIコンサルティングという会社の社長をしている長尾一洋さんの本です。

長尾さんは自ら「孫子兵法家」と名乗り、ビジネスに『孫子』を応用しており、ブログもたくさん書いています。

小生も「論語活学人(ろんごかつがくびと)」を名乗り、『論語』をビジネスや実生活に応用するための勉強を続けています。


【原文】
敵背後に在るは、兵家の忌む所、実を避けて虚を擣(う)つは、兵家の好む所、地利の得失、防禦の形勢、宜しく此れを以て察を致すべし。〔『言志晩録』第104条〕

【意訳】
敵が自分の背後にいることは、兵法家の良しとしない所である。また敵の兵力が充実している所を避けて、手薄な所を攻めることは、兵法家の良しとする所である。地形の有利不利や防御の状況などは、こうした点を踏まえて考察することが重要である

【所感】
ライバルの動きを事前に察知し、ライバルの守りが手薄なところを攻めることが商売を成功させるポイントである。


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第1737日 「他人を知ること」 と 「自分を知ること」 についての一考察

今日の神坂課長は、営業2課の石崎君と商談の打合せをしているようです。

「石崎、P社の動きはつかんでいるのか?」

「当然ですよ! 彼を知り己を知れば、百戦して危うからずだ、って課長が教えてくれたじゃないですか」

「えらい自信だな。それで、P社はどういう手を打ってきているんだ?」

「エコー装置との抱き合わせですね。エコーの価格をドンと下げて全体を安く見せてきています」

「なるほどな。それに対してお前はどうするつもりなんだ?」

「姑息な手は使いません! 私は院長先生の信頼を得ていますので、堂々と内視鏡だけで商売するつもりです!」

「おいおい、それはダメだろう! ウチもエコーを担ぐべきだろう?」

「大丈夫です! お任せください」

「本当に大丈夫なのか? 正直に言うけど、相当心配なんだけど・・・」

その日の夜、石崎君が帰社しました。

「石崎、どうだった? しっかり注文をもらったか?」

「課長、あの院長はとんだタヌキ爺です! 石崎君は頑張ってくれているけど、値段が高すぎるからゴメンね、と言われました」

石崎君はかなりご立腹の様子です。

「だから、言ったのに。やっぱり、エコーの提案もした方が良かったんだろう?」

「そうみたいです。信頼を得るのって難しいですね」

「今朝、『彼を知り己を知れば、百戦して危うからず』って言ってただろう。実は難しいのは敵を知ることではなく、自分を知ることだと言われているんだよ」

「そうなんですか?」

「お前は院長の信頼を得ていると思っていた。しかし、実際には価格差を埋めるだけの信頼を得てはいなかった。やや自分に甘い評価を下して
しまったということだよな?」

「結果的にはそういうことになりますね」

「まあ、お前はこれからの営業マンだ。これはとても良い経験になったはずだ」

「でも、もう負けは決まってしまいました・・・」

「大丈夫だ! 実は、院長の奥様に電話しておいた。もし、そういうことになったら、もう一度提案を持っていくから、院長にうまく話をして
くれって頼んでおいたよ」

「マジですか! それはズルいですよ! それならそうと言ってくださいよ」

「お前、俺がフォローしてやったのに、ズルいとはなんだ! よし、今日はしっかりお説教だな」

「あ、それはまたにしてください。そうとわかれば、今からエコーの見積りを持って、もう一回行ってきます!」

「あいかわらず生意気なクソガキだな!!」


ひとりごと

孫子の兵法の数ある名言の中でも、最も有名な言葉のひとつでしょう。

しかし、この順番に注意が必要です。

孫子も、彼を知る以上に己を知ることの難しさを指摘するために、己を知ることを後に置いているのです。

一斎先生は、他人には春の風のように暖かく接し、己には秋の霜のように対処しなければいけない、と言っています。

自分を知るのは本当に難しいですね!


【原文】
彼を知り己を知れば、百戦百勝す。彼を知るは難きに似て易く、己を知るは易きに似て難し。〔『言志晩録』第103条〕

【意訳】
『孫子』の名言に「彼を知り己を知れば、百戦百勝す」とある。彼つまり敵(相手)を知ることは難しいようで簡単であるが、自分を知るということは容易なようで実は難しいことだ

【一日一斎物語的解釈】
敵を知る以上に自分を知ることは容易ではない。


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第1736日 「ライバル」 と 「競争」 についての一考察

今日の神坂課長は、同業他社Y社の井上さんと病院の駐車場で談笑しているようです。

「そういえば、神坂さん。B医科理科が内部崩壊しているって聞いてる?」

「ああ、その噂は聞いていますよ。社長派と専務派に分かれて血みどろの抗争劇を繰り広げているって」

「このままだと分裂必至かな。B社が衰退するのは、我々にとって悪い話ではないですけどね」

「でもさ、なんだか寂しくない? 同じ業界を長年にわたって盛り上げてきた会社が人間関係から崩壊するなんて、俺はすごく残念なんだよね」

「神坂さんらしいな。そんなこと言ってると御社こそ生き残れませんよ!」

「まあ、そうだろうけどね。社長と専務は社員さんのことを本気で考えているのかねぇ?」

「考えていないでしょう! 考えていたら、外に聞こえるほどのバトルを繰り広げないはずですからね」

「そうだよね。なぜ、もっと社員さんのことを考えてあげられないのかねぇ」

「あそこの社是は、『社員は宝』でしたよ」

「口だけかよ! たしか50名くらいはいるよね?」

「そのくらいでしょうね。この数年でK社がだいぶ引き抜きましたけどね。10名以上は採用したんじゃないかな? K社はしてやったりと思っているでしょうね」

「そういう思いなのかな? 同じ業界の仲間が困っているから手を差し伸べたということじゃないの?」

「表向きはそういうことを言っているようですが、K社がそんなこと考えるわけないでしょう。有力なメンバーを引き抜いて、B社に壊滅的な打撃を与えようというのが本音ですよ」

「寂しいね。同業同士で助け合いながら盛り上げていくという考え方はできないのかなぁ?」

「神坂さん、人が良すぎますよ。あの会社を選んだのは、そこの社員さんなんだから、ある程度は自己責任で解決するしかないでしょう」

「井上さんはドライだよなぁ。俺はそうは考えられないなぁ。何人かは知っている人もいるからね」

「ウチは静観するスタンスのようです」

「ウチも採用するのは難しいだろうな」

「まだ分裂が確定したわけでもないですから、様子を見ておきましょうよ」

「そうですね。でも、俺の部下が去っていくのを想像しただけで、ブルーな気分になりますよ」

「お互いにそうならないように、しっかり心をつかむしかないですね!」


ひとりごと

ライバルがいるからこそ頑張れる。

スポーツの世界ではよく聞く言葉です。

しかし、これはビジネスにおいても同じではないでしょうか?

正々堂々と戦ってライバルを倒すのは快感ですが、ライバルが自滅するのを見るのはさみしいものです。


【原文】
前徒戈(ほこ)を倒(さかさま)にし、後を攻めて以て北(に)ぐ。武王の心、此の時果たして何如。以て快と為すか。蓋し亦惻然(そくぜん)として痛み、或いは愧ずる有らん。〔『言志晩録』第102条〕

【意訳】
『書経』には「前徒戈(ほこ)を倒(さかさま)にし、後を攻めて以て北(に)ぐ(周の武王が殷の紂王と戦った際、紂王軍の前方部隊が反逆して後方部隊を攻撃したため、紂王軍は壊滅した)」とある。このときの武王の心境はどのようなものだったであろうか。快感を感じていたのか。私が思うのは、武王は憐れに思い胸を痛めたか、反逆の罪を犯したことを恥じていたのではなかろうか

【一日一斎物語的解釈】
ライバル企業が内部崩壊をすることを、喜ぶべきか、悲しむべきか。共に業界を盛り上げるという観点に立てば、やはり悲しいことではないだろうか。


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第1735日 「覇者のリーダーシップ」 と 「王者のリーダーシップ」 についての一考察

今日の神坂課長は、N大学消化器内科教授の中村先生のお部屋にいるようです。

「神坂君、人の上に立つことはむずかしいよね?」

「はい。私のように数人の部下がいるだけでも大変なのですから、中村先生のように大勢の部下をお持ちの方の気苦労は計り知れません」

「そう言ってもらえるだけでもうれしいよ」

「いろいろな部下がいますからねぇ」

「そうなんだ。私はできる限り王者のリーダーシップを追及しているんだけど、なかなか難しい」

「王者のリーダーシップですか?」

「そう。たとえば自分の組織の優秀な部下から慕われるだけでは、それは覇者のリーダーシップなんだ。それに対して、すべての部下の心をつかむのが王者のリーダーシップだよ」

「私ですら全員から慕われているかは微妙です。先生の医局は30名以上いらっしゃいますよね。相当大変なことじゃないですか?」

「そうだよ。それでもそれを理想として追求しているんだ。覇者のリーダーシップは、いわばルールや規則で人を統治すれば可能なんだけど、王者のリーダーシップは心と心で触れ合わない限りなし得ないことなんだ。だからこそ、追及すべき価値があると思っているんだ」

「すごいですねぇ。そんなこと考えたこともなかったです」

「ははは。たとえば、鎌倉幕府や室町幕府といった武家政権は、力で庶民を統治しようとした。一方、江戸幕府は力と心の両面での統治をしようとしたんだ。そこが徳川家康のすごいところだよね」

「心の統治というのは、儒学のことですか?」

「おお、さすがは最近よく勉強している神坂君だね」

「中村先生に褒められると、めちゃくちゃ恐縮します」

「ははは。江戸幕府は大いに学問を奨励した。それが260年以上の長期間にわたって政権を保ちえた最大の理由ではないかと思うんだ」

「当時の日本の識字率は、諸外国に比べて圧倒的に高かったそうですよね?」

「うん。何より大事なことは、官僚である武士たちもしっかりと学問をしたことだよ。やはり人の上に立つ者は学び続けないとね」

「あ、先生。面会時間をオーバーしていました。講演の件は先ほどお話したとおりでよろしくお願いします。それから、今回もとても勉強になりました。ありがとうございました」

「本当だ、もう30分経ったんだね。神坂君といると時間の経つのが早いね。君は王者になれる資質を持っていると思うよ」

「中村先生、それは私にとっては最高のお言葉です。これで3年は頑張れます!」


ひとりごと

徳川家康は、兵法書『三略』を愛読したと言われています。

もしかすると、この一斎先生が取り上げた章句を実践したのかも知れませんね。

そう考えると、織田信長はやはり覇者だったと思わざるを得ません。

その結果として、光秀の謀反を呼んでしまったのでしょう。


【原文】
「務めて英雄の心を攪(と)る」とは、覇者之を以(もち)う。「天下の従う所を以て、親戚の畔(そむ)く所を攻む」とは、王者之を以う。〔『言志晩録』第101条〕

【意訳】
兵法書の『三略』にある「務めて英雄の心を攪る(できる限り英雄や豪傑の心を把握する)」とは、法と罰で人を統治する覇者が用いる方法である。『孟子』にある「天下の従う所を以て、親戚の畔く所を攻む(万民が心から服従して来るような人が、親戚でもそむき去るような人を攻める)」とは、徳と礼で人を治める王者のとる手法である

【一日一斎物語的解釈】
真のリーダーは、優秀な成績を収めている部下からだけでなく、すべての部下から慕われるものだ。


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第1734日 「初心」 と 「基本」 についての一考察

シンガーソングライターの笠谷俊彦は、アルバムの楽曲づくりの大詰めを迎えていたが、どうしても納得のいくメロディがつけられない曲があり悩んでいた。

「もしもし、ふちさんですか、笠谷です。ちょっと相談に乗ってもらえませんか?」

笠谷は、今回のアルバムの作詞を担当したふちすえあきの下を訪ねた。

「なんだ、笠谷。えらくげっそりしてるじゃないか」

「最近、あまり眠れていないんです。どうしてもメロディが降りてこない曲がありまして」

「どの曲だ?」

「『生まれてきた意味を』です」

「ははは。その曲はアルバムのハイライトとなる曲だぞ」

「わかっています。だから、どうしても納得のいくメロディを紡ぎたいのです」

「笠谷、お前はまた売れる曲を書こうと思っていないか?」

「え?」

「このアルバムは誰のためのあるんだ?」

「そ、それは、俺のように挫折して苦しんでいる人たちのためです」

「そこを忘れるな。それこそがこのアルバムの根底にあるものだ。挫折した人の心に生きる勇気、再び立ち上がる力を与えることができるアルバム。それが俺たちが作り上げたいものだったよな?」

「はい」

「スランプの時ほど、基本に忠実に、初心に戻るんだ。お前が歌手になる前にお前の心を震わせた曲を思い出せ」

「俺のヒーローは長渕剛さんです。久しぶりに長渕さんの曲を聴いてみようかな?」

「それもいいだろう。笠谷、焦るな。お前が納得するまで、もがき苦しむんだ。お前のこれまでに経験した苦しみや悲しみをさらけ出せ!」

「ふちさん、ありがとうございます。もう一度、苦しんでみます」

「その前に一軒、付き合えよ」


ひとりごと

ここで一斎先生が取り上げた兵法書『呉子』の言葉は、「反本復始」という四字熟語としても知られています。

その意味は、繰り返し本質に問いかけて答えを見つけるということでしょう。

そのためには、初心を忘れず、基本に忠実に仕事を進めていくしかありません。

悩んだとき、立ち止まったときこそ、初心と基本に復えるべきなのです。


【原文】
「道とは本に反り始に復る所以なり」と、語は呉子に見ゆ。吾れ意(おも)わざりき。兵家の此の道学を講破せんとは。〔『言志晩録』第100条〕

【意訳】
「道とは本に反り始に復る所以なり」とは、兵法書の『呉子』にある言葉である。兵法家である呉起がこのような道の心理を喝破するとは、私は思いもしなかった

【一日一斎物語的解釈】
迷ったら常に初心に戻り、基本を徹底する。これがスランプを克服する最大のコツである。


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第1733日 「信念」 と 「実行」 についての一考察

今日の神坂課長は、営業部の緊急会議に参加しています。

どうやらA医科大学病院の内視鏡室で大きなクレーム事象が発生したようです。

「大累、これはマズいな。もしかすると一ヶ月分の画像データが録画されていないかもしれないということだろう?」

「そうなんです。雑賀はしっかりと録画できることを確認して修理品を納めています。録画されていないことが判明した後の確認でも正しく操作すれば録画可能な状態だったようです」

「ということは、看護師さんの操作ミスの可能性が高いということか」

「私は雑賀を信じたいです。雑賀の言う通りなら、看護師さんの操作ミスを疑うしかありません」

「難しい対応を迫られるな」

「はい。いつもお世話になっている辻さんという看護師さんが録画担当です。辻さんの責任にするのは心が痛みます」

「しかし、ウチの説明不足となれば、賠償責任を問われる可能性もあるだろう?」

「はい。それは避けたいところです」

「部長、どうしましょう?」

「『自ら反りみて縮ければ、千万人と雖も吾れ往かん』だ。雑賀君はしっかりと説明したと言っているなら、そのことをしっかりと病院関係者に説明した上で今後の解決方法を探るしかないだろうな」

「そうですね。よし、大累。とにかく現場に行こう。雑賀が孤立無援の状態にあるのを救ってやらないとな」

その日の夜遅く、神坂課長と大累課長が雑賀さんを連れて戻ってきました。

「神坂君どうだった?」

「なんとか、解決できました。辻さんが自分の非を認めてくれました。雑賀にはいつもお世話になっているし、たしかに説明は聞いたと」

「やはり操作ミスだったの?」

「はい。画像選択の切り替えボタンを押し忘れていたようです」

「辻さんは大丈夫なの?」

「実は院内の画像の管理状況を調べたところ、直近の3ヶ月分はサーバに動画を保存していることがわかりました。そこからドクターが必要としている動画を取り出すことができました」

「それはよかった! 雑賀君、ご苦労様だったね。ひとりで不安だったでしょう?」

「いえ、大累課長が私を信じてくれていると思っていましたから、不安はなかったです!」

「雑賀・・・」

「よし、少しほとぼりが冷めたら、辻さんを誘って食事会を開こうじゃないか。な、大累」

「神坂さん、いいですね! 雑賀、辻さんの予定を確認しておいてくれな!」


ひとりごと

一斎先生が取り上げたこの孟子の言葉は、ひとりで難しい仕事に挑戦する人の背中を押してくれます。

かつての維新の志士たちも、この言葉に大いに勇気づけられたようです。

正解は常に多数決の中にある訳ではありません!

人生には、自分が信じた道を愚直に進まねばいけない時があるはずです!!


【原文】
「自ら反(かえ)りみて縮(なお)ければ」とは、我れ無きなり。「千万人と雖も吾れ往かん」とは、物無きなり。〔『言志晩録』第99条〕

【意訳】
『孟子』公孫丑章句上には、「自ら反りみて縮ければ、千万人と雖も吾れ往かん」とある。「自ら反りみて縮ければ」とは、無我の境地である。また「千万人と雖も吾れ往かん」とは、何物もその身を縛るものはないので、無物の境地だといえる

【一日一斎物語的解釈】
無我の境地と無欲の境地をもって仕事に当たれば、困難をも乗り越えることができる。


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