一日一斎物語 (ストーリーで味わう『言志四録』)

毎日一信 佐藤一斎先生の『言志四録』を一章ずつ取り上げて、一話完結の物語に仕立てています(第1066日目より)。 物語をお読みいただき、少しだけ立ち止まって考える時間をもっていただけたなら、それに勝る喜びはありません。

佐藤一斎

第2858日 「危急」 と 「平時」 についての一考察

今日のことば

【原文】
国乱れて身を殉ずるは易く、世治まって身を韲(さい)するは難し。〔『言志晩録』第91条〕

【意訳】
国が乱れている時に自分の身を国に捧げるということは難しいことでない。泰平の世の中において粉骨砕身して我が身を捧げることは難しい。

【一日一斎物語的解釈】
会社の状況が厳しい時に力を尽くすことはそれほど難しくない。しかし、会社が安泰の時に身を粉にして働くことは容易ではない。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、新美課長と飲んでいるようです。

「人間って不思議な生き物ですよね?」

「なんの話だ?」

「いや、人間って逆境に立つと火事場の馬鹿力が出て、それをなんとか乗り越えられるじゃないですか。それなら、なんでもない時にそうしていれば良いのに、それができないんですよね」

「たしかに、そういうところはあるな。試験前にならないと勉強をしなかったりとかな」

「あれ、神坂さんは試験前でも勉強しなかったって言ってませんでした?」

「俺はレアケースだ! 世間一般の凡人の話をしているんだよ!」

「今のところ、ウチみたいな小さな医療器械屋も生き残ってはいますけど、この先どんどん厳しくなると思うんです」

「そうだな」

「それなのに業界全体として、危機感が希薄じゃないですか?」

「平時のときに危機に備えておけってことか。そのとおりだけど、そのためにお前は何をすべきだと思っているんだよ?」

「ありきたりと言われそうですけど、モノ売りからコト売りへ転換すべきだと思っています」

「そのコトが問題なんだよな。どんなコトを扱うかだよ」

「そうなんです。病院経営のコンサルティングかと思ってはいますが、すでに大手のコンサル会社がいますしね」

「俺たちの強みは、医療器械の知識とドクターとのコネクションだろう。それを武器にするしかないと思うぞ」

「そうですよね。そういうことを今のうちに考えておくべきだと思いませんか?」

「トップは考えているかも知れないが、社長や専務と話をしたことはないな」

「火事場の馬鹿力で乗り越えられればいいですけど、そうでなければ大変なことになりますからね」

「うん。一度佐藤部長に相談してみるか?」

「はい。もし上層部でそういう会議があるなら、私も参加したいです!」


ひとりごと

たしかに我々は、危急のときに備えて平時に手を打つことを忘れがちです。

それでもなんとか乗り越えることはできるものですが、その保証はありません。

平和の今こそ、自分の家族や後輩たちの未来のためを考えねばなりません。

自分の人生の10年後、会社の10年後を見越して、今何をすべきかを真剣に考えておくべきです。


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第2857日 「副業」 と 「本業」 についての一考察

今日のことば

【原文】
士にして文に志すは、是れ武に居て文を学ぶなり。虚文にして以て柔惰(じゅうだ)なること勿れ。虚武にして以て躁暴(そうぼう)なること勿れ。〔『言志晩録』第90条〕

【意訳】
士の身分で文学に志すということは、すなわち武士が文学を学ぶということである。内容のない文章や詩歌を作って軟弱かつ怠惰になってはいけない。また虚勢を張って騒々しく乱暴になるようなこともいけない

【一日一斎物語的解釈】
本業以外のことをする際には、行き過ぎないことが肝要である。本業に支障を来すようでは本末転倒である。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、出社して新聞を広げているようです。

「大手企業はどこも副業を認め始めているんだなぁ」

「そうみたいですね」

「あ、そういえば山田さんはすでに副業をしているよね!」

「僧侶の仕事ですか? まぁ、副業というほど収入を得てはいませんけどね」

「副業をするにも、俺には営業以外に収入を得るような特技はないからなぁ」

「無理に副業しなくてもいいんじゃないですか(笑)」

「そうだけど、これからガキ二人が私大にでもいくようになったら金がかかるからさぁ」

「そこは頭が痛いですよね」

「俺の友達で、サラリーマンの傍ら中古CDの通販を始めた奴がいるんだけどね」

「稼いでいるんですか?」

「最初は赤字だったんだけどね。COVID-19のお蔭で、家にこもったおっさん連中がCDを注文し始めたようで、最近は黒字らしいんだ」

「ビジネスはタイミングですね。私の友人も保険のセールスをしながら、お蕎麦屋さんを開業した人がいますよ」

「儲かってるの?」

「始めたばかりですけど、まあまあ順調なようです」

「しかし、副業を始めたら本業が疎かになることはないのかな? 俺の場合はきっと副業に夢中になって、本業が傾いちゃう気がするんだよね」

「それぞれに関連性があれば良いんでしょうけど、そうでなければ、難しいと思いますよ」

「あー、シナジー効果か。たしかに、そうかもね」

「神坂課長、ユーチューバーはどうですか?」

「ネタがないよ! でも、やってみたいなぁ……。ダメだ、うまくイメージがまったく湧かない(笑)」

「我々は本業に集中するしかなさそうですね!」

「そうだね。次のステージが迎えに来てくれるまで、『いまここに力を尽くそう!」


ひとりごと

最近の大手企業では、副業を認めざるを得ない環境になりつつあるようです。

副業を認めない企業には若い有能な人が寄り付かないのでしょうか?

そもそも、副業ではなく複業の時代とも言われます。

どちらも本業だと捉えて複数の仕事をこなしていく人が増えているようです。

小生にはそういう起用さがありません。

結局、最後までしがないサラリーマン人生を送るのでしょうか……。


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第2856日 「職種」 と 「人格」 についての一考察

今日のことば

【原文】
凡そ士君子たる者、今皆武士と称す。宜しく自ら其の名を顧みて以て其の実を責め、其の職を務めて以て其の名に副うべし。〔『言志晩録』第89条〕

【意訳】
人の上に立つ士君子とされる人は、今は皆武士と称している。それらの人はよくその名声を鑑みて自分の実績を反省し、その職を全うしてその名にふさわしい人物となるべきである

【一日一斎物語的解釈】
士業を営むものは、その名に副った仕事ができているかを常に反省し、その名にふさわしい人物とならねばならない。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、仕事から帰社してネットニュースを見ているようです。

「おぉ、懐かしいな。こいつ、今は何をしてるんだろう?」

「誰のことですか?」

石崎君が反応したようです。

「ほら、いただろう。号泣議員」

「あー、あの人ですか。私は今でも嫌なことがあると、あの映像を見てストレスを発散しています」

「あんな画像でストレス発散になるか?」

「あれほど笑える画像はないですから。爆笑しているうちに、気持ちが軽くなるんですよ」

「なるほどな。どうやら今も自宅にひきこもっているらしいな」

「何も仕事をしていないんですか?」

「この記事によるとそうらしい」

「私はそういう人物が大嫌いです! 誰でも過ちはあります。でも、それを反省して、何か新しいことにチャレンジすべきだと思うんです!」

「少年、俺もまったく同感だ。だいたい仮にも議員先生を名乗った訳だろ。本来は政治家という名に恥じない仕事をし、その名に恥じない人物になるべきだった」

「でも、あの人はその立場を使って私腹を肥やしました。それは悪い事です。でも、反省して、もう一度政治家としてやり直すのか、それとも別の世界で世の中のために働くかすべきです!」

「そうだよな。しかし、あいつほどではないにしろ、政治家と呼ばれる人の中に、その名に恥じない仕事をしている人が何人いるんだろうな?」

「政治家だけじゃないんじゃないですか?」

「たしかにそうだな。弁護士、教師、そうそう俺たちが日々接する医師。そういう「士・師」と名のつく職業の人というのは、特にその名に恥じない仕事をし、恥じない人物になるべきだよな」

「尊敬できる先生もいますからね」

「俺の知っているドクターは、そういう人ばかりだけどなぁ」

「何が違うんですかね?」

「やっぱり志じゃないかな。「志」って、武士の心って書くだろ。江戸時代までは武士が政治家だったわけだ。武士の中には、常にその名に恥じない生き方を模索した人も多かったはずだ」

「そういう志がある人は、自分の職種や役職に恥じない生き方をしてきたんですね?」

「うん。俺たちも営業人として、志を大切にしなければいけない点では同じだな」

「はい!」

「ところで、お前のストレスの原因って主に何なんだ?」

「それは……」

「あぁ、そういうことね……」


ひとりごと

我々は皆、立派な職種名を担って仕事をしています。

なかでも「士・師」がつく職業は、人の上に立つ特に重要な職種であることが多いでしょう。

時にはその名を想い、その名に恥じない仕事・生き方はどうあるべきか?

それを真剣に考え、その名に恥じない人間にならねばなりません。


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第2855日 「呼吸」 と 「勝敗」 についての一考察

今日のことば

【原文】
余は好みて武技を演ずるを観る。之を観るに目を以てせずして心を以てす。必ず先ず呼吸を収めて、以て渠(かれ)の呼吸を邀(むか)え、勝敗を問わずして、其の順逆を視るに、甚だ適なり。此も亦是れ学なり。〔『言志晩録』第88条〕

【意訳】
私は武道の試合を観戦することが好きである。その際は、目で観るのではなく、心で観ることを意識している。必ず最初に呼吸を整えて、選手の呼吸をつかみ、勝敗を問うことなく、呼吸や心の動きを観るのだが、これでその結果を当てることができる。これもまた学問といえるかも知れない

【一日一斎物語的解釈】
勝負事というのは、冷静に呼吸を整え、自分の間で戦う側に勝機が訪れるものだ。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、佐藤部長の部屋に居るようです。

「神坂君、寝不足なんじゃない?」

「そうなんですよ。試合を最後まで見ましたし、インタビューもずっと見てしまいました」

「そんな顔をしているよ」

「今日は日本国中、そんな連中がたくさんいますよ(笑)」

「素晴らしい試合だったね」

「えっ、部長も観たんですか?」

「国民的行事だからね!」

「全然眠そうじゃないですね。部長は一体何者なんですか?!」

「ははは。普通の人間だよ。そうだ、一斎先生は武道を観戦するのが好きだったらしいよ。そして、試合を目ではなく心で観るんだそうだ。そうすると結果が自ずと分かったらしいよ」

「じゃあ、一斎先生なら昨日のジャパンの戦い方を観て、結果が先にわかったかも知れませんね」

「そうだね」

「たしかにPKになった時に、やや日本には動揺があったような気はしましたけどね」

「それは予感というものだよね。一斎先生の場合は、選手の呼吸や間をみて判断できたらしいよ」

「一斎先生こそ何者なんでしょうか(笑) あぁ、負けるとわかっていたら、延長戦になる前に寝たんですけどねぇ」

「いや、勝敗がすべてではないでしょ。あの戦いを日本国民として一緒に見れた事は幸せなことじゃない?」

「そうでした。負けて涙を流す選手を観て、私も一緒に泣きました」

「これまで一度も勝てなかったワールドカップ優勝国に勝つことができて、その瞬間を一緒に観れたんだから、彼らには感謝しかないよね」

「そのとおりですね。四年後にはこの日のことを笑って振り返れるように、きっと選手たちはまた今日から努力を始めてくれるはずです」

「私たちも四年後には、心で試合が観れるように精進しないとね!」

「うーん、そうなんでしょうけど、やっぱりスポーツ観戦に関しては、一喜一憂したいです!!」


ひとりごと

客観的に、冷静に心で試合を観戦すると、勝敗が見えてくるのかもしれません。

しかし、小生もスポーツ観戦については、最後の最後まで勝敗が分らずに一喜一憂したいと思ってしまいます(笑)

それにしても今朝の試合は惜しかった!

試合終了直後はなんとなく心が重たくなりましたが、今では選手、監督、スタッフの皆さんに感謝の意を込めて拍手を送りたいと素直に思います。


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第2854日 「準備」 と 「結果」 についての一考察

今日のことば

【原文】
満を引いて度に中れば、発して空箭(くうせん)無し。人事宜しく射の如く然るべし。〔『言志晩録』第87条〕

【意訳】
弓を目一杯引き絞って的を射れば、矢が当たらないということはない。人生の出来事もこの射的と同じであって、よく考え、よく準備して行動すれば、失敗することはない。

【一日一斎物語的解釈】
考え得る限りの準備を尽せば、結果は自ずとついてくるものだ。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、総務課の大竹課長と雑談中のようです。

「いよいよ今晩ですね。日本サッカー界の悲願成就なるか!」

「楽しみだね。今の日本ならやってくれそうな気がしちゃうけど、そう甘くはないんだろうね」

「これまで3度跳ね返されてきましたからね」

「クロアチアは前回大会の2位なんだよね?」

「それはそうですけど、4年経っていますから、別のチームだと思っていいんじゃないですか」

「まぁ、そうか。ドイツとスペインを撃破した今の勢いなら勝てるね!」

「ここからは、出来得る限りの準備をしたチームが勝つんじゃないですかね」

「そうだね。そういう意味ではクロアチアの方が試合日程が過密なんだよね?」

「そうなんですよ。準備をする時間は日本の方があったはずです」

「その時間を有効に使えたかどうかだね」

「結果がそれを証明するでしょう」

「運も実力のうちと言うように、しっかり準備をしたチームの方にサッカーの神様がご褒美を与えてくれるんだろうな」

「そのご褒美を日本がいただけますように!!」

「今日は早く帰って、メシ食って、風呂入って、酒を準備して試合をみないとね!」

「タケさん、酒を飲んだら寝ちゃうんじゃないですか?」

「それが一番心配なんだよねぇ」

「試合開始までに万全の準備をしてテレビの前に座って、そのまま落ちてしまったとしたら、タケさんはサッカーの神様に見放されたことになりますね!」

「神のご加護を!!」

「酒を飲まなきゃいいだけじゃないの??」


ひとりごと

さぁ、いよいよ本日深夜、日本サッカー界に新たな歴史が加わるかも知れません。

各選手はそれぞれが万全の準備をして臨んでくれるでしょう。

そしてなにより森安監督は、最高の準備をして、ベストの戦術を繰り出してくれるはずです。

とにかく、しっかりと目に焼き付けたいと思っています。


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第2853日 「虚にして実」 と 「実にして虚」 についての一考察

今日のことば

【原文】
体は実にして虚、心は虚にして実、中孚(ちゅうふ)の象即ち是なり。〔『言志晩録』第8条〕

【意訳】
身体は形あるものであり実ではあるが、活動の本源ではないので虚である。心は形ないものであり虚であるが、活動の本源であるから実体である。 『易経の中孚の象はまさにそのことを示している

【一日一斎物語的解釈】
人間は心こそが活動の源であって、身体はその実行部隊に過ぎない。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、佐藤部長の部屋に居るようです。

「部長、『易経』の中孚の卦というのは、どういうことを意味しているんですか?」

「風沢中孚(ふうたくちゅうふ)という卦のことかな? それは真心とか誠を表わす象だと言われているね」

「もう少し教えてください」

「易というのは六本の(こう)から成り立っているんだけど、この風沢中孚の卦は、そのうちの下から数えて三番目と四番目の爻が陰で、その外側の二番目と五番目の爻が陽になっているんだ」

「その形だとなぜ真心とか誠の意味になるんですか?」

「その形が人間の身体と心の関係に似ているからじゃないかな?」

「どういうことですか?」

「人間の身体というのは、実際に形があるけれども、いわば実行部隊であって、司令部ではないよね。一方で、心というのは、実体がないけれどもたしかに存在して身体という実行部隊を動かす司令部の役割を果たしていると見ることができるでしょ?」

「あぁ、なるほど」

「そこから、易でこの卦が出たら、周囲の人に真心で接しなさいとか、誠の心で接しなさいという意味になるんだろうね」

「勉強になります。しかし、面白いですね。心という実体のないものが、身体という実体のあるものを動かしているなんて」

「不思議だよね。確かに存在するはずなのに、人が亡くなるとその痕跡はどこにもないんだからね」

「宇宙の摂理も同じですね!」

「そうだね。まったく姿かたちは見えないけれど、たしかに存在して、この世界を動かしているのが宇宙の摂理だもんね!」

「科学の限界を感じますね」

「そうだね。でも、いつか科学が心の在処を証明する日が来るかも知れないよ」

「そんな日が来ますかね? それならそこまで生きていたいな(笑)」

「残念ながらもう少し先のような気もするね!」

「そうでしょうね(笑) 私も、会社に居なくても、ちゃんとメンバーがサボらずに仕事をしてくれるような存在になります!」

「といいながら、神坂君がサボってたりして!」

「部長!!」


ひとりごと

易の「風沢中孚」の卦を、一斎先生は、陰である心を陽である身体が包んでいる状態と見立てたようです。

沢中孚の卦は下記のイラストにあるとおりです。

たしかに考えてみると不思議ですね。

虚にして実の心が、実にして虚の身体を支配している訳ですから。


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より

第2852日 「至静」 と 「至動」 についての一考察

今日のことば

【原文】
治心の法は須らく至静を至動の中に認得すべし。呂涇野謂う、「功を用いる必ずしも山林ならず、市朝も亦做し得」と。此の言然り。〔『言志晩録』第85条〕

【意訳】
心を治める方法は、出来る限り静かな心を極めて忙しい中に認めるべきである。明代の儒者・呂涇野は「精神修養の功を積むのは、必ずしも静かな山林に行かずとも、喧噪の街中でもなし得るものだ」と言った。此の言葉はまったくその通りである、

【一日一斎物語的解釈】
精神の修養は必ずしも静寂の中で積む必要はなく、むしろ喧騒の中で積むべきかもしれない。


今日のストーリー

神坂課長のところに、石崎君がやって来たようです。

「課長、会議資料作成なんですけど、集中したいので近くのコワーキングスペースでやっても良いですか?」

「ここじゃうるさいか?」

「いろいろと気が散るんですよね。特に」

「特になんだよ?」

「言いにくいんですけど、課長の声がデカくて、全然集中できないんですよ」

「言いにくいなら言うなよ。俺の声がデカいのは生まれつきなんだよ。生まれてすぐに俺の泣き声がうるさいといって、何回かクレームが来たらしいからな」

「さすが、筋金入りですね!」

「やかましいわ! まぁ、そうしたいなら構わないぞ。ただな」

「はい?」

「そんなことで集中できないようでは、お前は腹の座った立派な営業人にはなれないかもな」

「なぜですか?」

「精神の修養というのは、静寂の中で積むより、むしろ喧噪の中で積むべきものだとも言われているんだ。つまり、バカでかい音が鳴り響く中でも、常に集中できるような人間が一流だということだな」

「そうなんですか? それならここで頑張ります!」

「いいよ、無理するな。徐々にそういう精神力を身につけていけ、ということだよ」

「では、今日は近くのコワーキングスペースに行ってきます」

「うん」

「あっ、それなら私も」

「おー、善久もか? いいよ」

「では、私もいいですか?」

「え、本田君も?」

「私も行ったことがないので、一度行ってみます」

「山田さんまで? そして誰もいなくなった……」


ひとりごと

小生も若い頃は、静かな場所でないと読書ができませんでした。

しかし、いつの間にか、ある程度周囲がざわついていても読書ができるようになりました。

ただ、小生の場合は、修養の結果ではなく、年齢とともに鈍感になっていっただけのようにも思えます。

いずれにしても、喧噪の中で精神を磨くという意味の、

至静を至動の中に認得すべし」

という言葉は覚えておいて損はないでしょう。


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第2851日 「診断」 と 「治療」 についての一考察

今日のことば

【原文】
霊薬も用を誤れば則ち人を斃し、利剣も柄(へい)を倒(さかさま)にすれば則ち自ら傷(きずつ)く。学術も方(ほう)に乖(そむ)けば則ち自ら戕(そこな)い又人を賊(そこな)う。〔『言志晩録』第84条〕

【意訳】
よく効く薬も服用法を誤れば人を殺すことになる。切れ味鋭い刀も柄を逆さまに持てば自分を傷つける。同様に、学問も正しく活用しなければ己を損い人をも害することになる

【一日一斎物語的解釈】
何ごとも使い方を誤れば、かえって他人や己自身を傷つけることになる。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、新美課長とランチに出掛けたようです。

「新美、絶対的な善なんてないんだよな?」

「どうしたんですか、いきなり」

「どんな立派な考え方も、時と場合によっては、正しくないときもあるんだよな」

「それはそうでしょうね」

「実は俺の高校時代の友人がヤバいんだ。ステージⅣの肺がんでな」

「えっ、それは辛いですね」

「家族は皆知っているのに、本人だけが知らないんだよ。細菌性の肺炎だと思っているんだ」

「あー、さっきの話は癌の告知のことを言っていたんですね?」

「うん。人を騙すことは悪だとされるよな。しかし、寿命があと1年だという事実を伝えることの方が実はもっと大きな悪だとも思うよな」

「そうですね……」

「あいつの前で笑顔でいることが辛かったよ。俺はあいつを騙していたんだからな」

「でも、それでいいんじゃないですか?」

「ご家族も本人には伝えないという道を選んだというし、それに従うしかなかった。でもな、あいつと俺はお互いに嘘はつかないという約束をしていたんだよな」

「私は、神坂さんがその友人を騙しているとは思わないですよ」

「新美」

「その人のためになる嘘を言う事は騙すことにはならないはずです。きっと逆の立場なら、その友人も神坂さんに本当のことは言わなかったんじゃないですか?」

「そうかなぁ……」

「応病与薬ですよ。万病に効く薬はありません。ある病気に効く薬も違う病気の患者さんに使えばかえって有害な場合もあります」

「そうだな。新美、ありがとう。最後まであいつに適した薬を配合するしかないな!」


ひとりごと

何事にも万能薬はありません。

やはり、応病与薬で、病気に合わせて薬を変えねばなりません。

つまりは、処置より診断が重要だということです。

診断が間違えば、効果的な処置は望めません。


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第2850日 「宇宙の摂理」 と 「不思議な力」 についての一考察

今日のことば

【原文】
天を以て感ずる者は、慮らざるの知なり。天を以て動く者は、学ばざるの能なり。〔『言志晩録』第83条〕

【訳文】
天の意志を感じるものは、考えずとも分かる知能である。天の意志を受けて動くものは、学ばずとも発揮できる能力である

【所感】
宇宙の摂理を受け容れ、人間に生まれつき備わっている知能や能力を活用すべきだ。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、営業2課の石崎君と同行中のようです。

「世の中には信じられない出来事が起こることがあるだろ?」

「この前のドイツ戦みたいなことですか?」

「まぁ、そうだな。しかし、世の中の出来事に奇跡なんてないんだそうだ」

「えっ、どういうことですか?」

「この世界には誰も逆らえない宇宙の摂理というものがある。その宇宙の摂理に逆らわず、全身で受け容れたとき、信じられない能力が発揮されるんだ」

「スピリチュアルの話ですか?」

「いや、違う。これは太古から不変の決まり事だ!」

「いよいよ新興宗教の教祖にでもなるのかと思いました」

「うるせぇな! だから、そういうものじゃないって言ってるだろ!」

「じゃあ、その宇宙の摂理を受け容れるには、どうすればいいんですか?」

「善か悪かで迷ったら常に善をとる」

「それを続ければ、いつの間にか信じられない能力が発揮されるのですか?」

「俺はそう信じている。でもな、それは簡単ではないぞ。人間は、どうしても損得勘定で物事を考えてしまう生き物だからな」

「でも営業の世界で損得勘定で仕事をしなかったら儲からないじゃないですか?」

「少年、君はまだまだケツが真っ青だな。短期的に考えればそうかも知れない。しかし、長期的な視点で見るなら、善悪で判断することがかえって利益につながるんだよ」

「それが宇宙の摂理なのですか?」

「それもそうだ。しかし、それだけじゃないぞ。宇宙の摂理というものは、もっと大きなつかみどころのない相手なんだよ」

「なんだか漠然としていますね。ところで、課長には宇宙の摂理は身についているんですか?」

「そんなわけないだろ! 身についていたら、とっくに新しい宗教を始めてるよ!!」

「……」


ひとりごと

人間にはまだまだ科学では解明できない不思議な力があるようです。

その力はどんな時に発揮されるのでしょうか?

少なくとも正しいステップを踏んで、自分のでき得るベストを尽くすことが重要なようです。

奇跡は起こるものではなく、起こすものだということでしょうね。(by コブクロ)


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第2849日 「誠」 と 「夢」 についての一考察

今日のことば

【原文】
誠意は夢寐(むび)に兆す。不慮の知、然らしむるなり。〔『言志晩録』第82条〕

【意訳】
真の誠は眠っている間に、その兆しが見えるものである。これは考えずとも自然に発揮される知能がそうさせているのであろう

【一日一斎物語的解釈】
心から願うことは、寝ている間にも脳の中で実現に向けて動いている。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、大累課長と雑談中のようです。

「大累、知っているか? 人間の脳は寝ている間にも進化しているらしいぞ」

「どういうことですか?」

「たとえばリフティングが苦手な少年が、昼間に一所懸命に練習をしたとするだろ。それは昼間の段階では筋肉制御の単純な記憶のままなんだそうだ。ところが、寝ている間に脳がそれを運動センスにまで高めて、運動野に書き込んでいくらしい」

「へぇー、それで翌日にはリフティングがうまくなっているってことですか?」

「うん」

「人間の能力ってすごいですね」

「ただ、俺は思うんだよな。それってその子が絶対にリフティングがうまくなりたいという強い想いがあれば、という条件つきなんじゃないかとね」

「あぁ、それはあるでしょうね。そういう想いが懸命な努力につながって、それを脳が最終的にセンスにまで高めてくれるってことでしょうね」

「そう思うよ」

「そう考えると、睡眠というのは休息だけが目的じゃないんですね」

「うん。運動だけじゃないと思うんだよな。昼間にすごく頭を悩ましたことが、寝ている間に熟成されて、翌朝目覚めたときに答えがまとまっているという経験もあるからな」

「神坂さんでもそんなに頭を悩ますことがあったんですか?」

「うるせぇな。こう見えても俺は繊細なんだよ!」

「自分で言いますか?」

「誰も言ってくれないからな」

「そうか、最近どうも仕事がうまく行かないなと思っていたんですけど、睡眠が足りていなかったのかも知れないな。それで、いつものようなキレッキレのアイデアが浮かんでこないんだな」

「お前こそ、自分で言うか?」

「誰も言ってくれませんからね!」

「寂しいな、俺たち」

「せめて自分だけは自分の応援団長でいましょうね」

「そうだな。寝る前に『俺はビッグだ』って3回唱えてから眠ることにしよう!」

「今どき『ビッグって……」


ひとりごと

夢の効能の話です。

ストーリーの中のサッカー少年の事例は、少しアレンジしていますが、元は黒田伊保子著『英雄の書』に書かれていたものです。

人間の心と体はすべて脳と繋がっているということでしょう。

ところで最近の医学では脳腸相関という言葉がキーワードとなりつつあります。

これは、脳と腸内細菌とが非常に深く関係しているということで、腸内細菌の状況によって病気が解明されつつあります。

これについてはいつかまたストーリーにしてみます。


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れみれみ