一日一斎物語 (ストーリーで味わう『言志四録』)

毎日一信 佐藤一斎先生の『言志四録』を一章ずつ取り上げて、一話完結の物語に仕立てています(第1066日目より)。 物語をお読みいただき、少しだけ立ち止まって考える時間をもっていただけたなら、それに勝る喜びはありません。

佐藤一斎

第1880日 「ドッシリ」 と 「のろま」 についての一考察

今日の神坂課長は一日中社内で仕事をしているようです。

「大手のメーカーさんは次々に自宅待機になっているけど、ウチのようなディーラーは納品があるから、そうはいかないもんな」

隣の大累課長に声を掛けたようです。

「そうですね。だけど、我々マネージャーは担当を持っていないので、納品はありませんからね。用もないのにお客様のところに行くのも難しい状況ですし、今何をすべきかは悩みどころですね」

「そうなんだよな。新規は無理にしても、ウチにとって重要なお客様のところを訪問するチャンスだと思っていたけど、訪問を自粛してほしいと言ってきている施設も増えてきて、それも思うようにはいかないんだよなぁ」

「ここはドッシリと構えておくしかないんですかね?」

「本当はな。だけどよ、お前とか俺の場合、本人はドッシリしているつもりでも、メンバーから見たら、ただ何もしていないという風に見えるんじゃないか?」

「たしかに。そもそもドッシリしているのが苦手なタイプですからね、お互いに」

「そういえば、一斎先生の言葉に、厚重は良いが、遅重はダメ。真率は良いが軽率はダメだという意味の言葉があった」

「難しいですね。どういうことですか?」

「つまり、ドッシリは良いけど、のろまはダメ。正直で素直なのは良いけど、軽はずみはダメという意味だ。ドッシリとのろま、正直と軽率は、似ているようで全然違うから気をつけろ、という意味だろうな」

「なるほど、神坂さんの場合、ドッシリしていないし、軽率に見えますから、気をつけた方がいいですよ」

「やかましいわ。その言葉、そっくりそのままお返しするぜ」

「しかし、こういう会話もいつものテンポでできないですね。これだけ距離が離れていると」

「これがソーシャルディスタンシングということらしい。日本語で言えって感じだけどな」

「社内でここまでやらなきゃいけないなんて、本当にCOVID-19はやっかいになってきましたねぇ」

「すでにお前が罹患者かも知れないからな」

「神坂さんこそ、夜の街を出歩いていた人だからヤバいですよ」

「俺は一杯飲み屋にしかいかない。キャバクラはだいぶ前に卒業してるよ」

「でも、このソーシャルディスタンシングには良いこともありますね」

「なんだよ」

「先輩の暴力が及ばないという」

「そんなことはないぞ」

「痛てぇ。何ですかそれ?」

「割りばしで作ったゴム鉄砲だ。あんまり暇だから作ってみた。これでいつでも攻撃可能だ」

「ガキか!!」


ひとりごと

軽率という言葉は知っていても、真率という言葉を知っている人は少ないのではないでしょうか?

かくいう小生も知りませんでした。

リーダーたるもの厚重かつ真率であるべきだと一斎先生は言います。

ところが意外と自分はそのつもりでも、他人からみると遅重かつ軽率にみられているかも知れません。

いまこそ、厚重と真率の意味をよく理解し、実践すべき時なのではないでしょうか?


【原文】
人は厚重を貴びて、遅重(ちじゅう)を貴ばず。真率を尚(たっと)びて、軽率を尚ばず。〔『言志晩録』第246条〕

【意訳】
人はゆったりと重々しいことを尊ぶが、のろまで鈍いことは尊ばない。また、正直で飾り気がないことは尊ぶが、軽率であることは尊ばない

一日一斎物語的解釈
ドッシリしていることと遅鈍であることは似て非なるもの、正直なのと軽率なのもまた似て非なるものだ。


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第1879日 「自慢」 と 「隠蔽」 についての一考察

定時後、営業2課の石崎君が後輩の梅田君と談笑しているようです。

「お客さんと一緒に旅行に行くなんて、ザキさん、すごいっすねぇ」

「まあね、たぶん俺には人に好かれる何か特別な才能があるんだろうなぁ」

「人に好かれるための努力とかはしていないんですか?」

「全然! 自然に行動すると、お客様に声をかけてもらえるんだよな」

「マジっすか?」

「おいおい、少年。君は体も小さいが、人間も小さいねぇ」

「な、なんですか、神坂課長。盗み聞きですか?」

「誰が盗み聞きやねん! お前ら普通にデカい声で会話してるんだから、聞こえるだろう」

「チビで悪かったですね!」

「アホ、そっちじゃねぇわ。後輩に自慢話をしていることが小さいって言ったんだよ! 一個上の先輩の自慢話なんて参考にもならないよな、梅田」

「い、いや、そんなことはないですよ。ザキさんは、尊敬できる先輩です」

「本当にそう思ってる?」
神坂課長が意地悪い顔で梅田君を見つめています。

「せっかくのコミュニケーションを邪魔する神坂課長の方が人間が小さくないですか? なぁ、梅ちゃん」

「そ、それは・・・」

「やかましいわ! いいか、石崎。後輩に対しては、自慢話なんかしないで、もっと失敗談を話せ。後輩からしたら、そっちの方がよっぽど勉強になる

「そんなに失敗しないですから、俺」

「お前はドクターXか! 俺が、どれだけお前のケツを拭いてきたと思ってるんだよ」

「記憶にないんですよね、あんまり」

「お前は今すぐ政治家を目指せ。営業マンより向いているかもな。いいか、若者よ。他人に長所を語るな。むしろ短所を語れ。自分の短所を素直に認める奴が人に好かれるんだよ

「あっ」

「なんだよ、石崎」

「それです、それ。私はお客様に、自分のダメなところを先に話をします。そういうところがあったら指摘してくださいって!」

「だから、ザキさんはお客様に好かれるんですね?」

「そういうことみたい」

「なるほどな。お客様には好かれるけど、梅田に好かれないのはそこだな。梅田には自慢話ばっかりしているんだろう? じゃあな、お先に帰ります」

「え、梅ちゃん、俺のこと嫌いなの?」

「ちょっと、神坂課長! 勘弁してくださいよ、私は一度もそんなこと言ってないですって!!」

居室に梅田君の声がむなしく響き渡ったようです・・・。


ひとりごと

自分の長所は自慢したくなり、自分の欠点は隠したくなるのが人情です。

しかし、その逆でなければいけないと一斎先生は言います。

たしかに良好な人間関係を築くには、それが一番なのかも知れませんね。


【原文】
己の長処を言わず、己の短処を護せず。宜しく己の短処を挙げ、虚心以て諸を人に詢(と)うべし。可なり。〔『言志晩録』第245条〕

【意訳】
自分自身の長所については語らず、また自分の短所も擁護しない。ただ短所を認めて、真摯に他人に相談するべきである。

【一日一斎物語的解釈】
他人に長所を自慢せず、むしろ短所を素直に認めて虚心坦懐に接する。これこそが人間関係を良好に保つ秘訣である。


senpai

第1878日 「短所」 と 「長所」 についての一考察

今日の神坂課長は、新美課長の相談を受けているようです。

「そうかぁ、相変わらず廣田は自分に自信が持てないんだな」

「はい。私から見たら決して社交性がないわけではないと思うのですが、本人は対人折衝が苦手だと感じているようです」

「要するに結果が出ないのは、対人折衝が苦手だからだと思っているわけだな?」

「えっ? 違うんですか?」

「よく、営業には向き不向きがある、なんていう奴がいるけど、俺はそうは思わない。営業という職種は間口が広いんだ。どんなタイプの人間でも成功できる職種だと思っている。そのかわり究めようと思えば果てしない世界ではあるけどな」

「もう少しわかりやすく教えてください」

「つまり、結果が出ていない営業マンというのは、自分の性格と目指すべき営業スタイルにギャップがあるんだよ。廣田のように話すのが苦手な人間が、流暢に製品説明をする営業マンを目指してしまう。それだと、途中で挫折してしまう」

「なるほど」

「しかし、世の中には話すのがそれほど得意でなくても、ちゃんと結果を出している営業マンだっているだろう。たとえば、お前もそうじゃないか」

「たしかに、若いころは、神坂さんや大累さんみたいにペラペラとあることないことを話すのを見て、私に同じことができるかなと思いました」

「あることないこと、は余計だ! 俺と大累は詐欺師か?!」

「あ、すみません。つい本音が・・・。それで、私はとにかく事実やエビデンスをしっかりと説明できる営業マンになるしかないと思ったんです」

「そういうことだよ。それを廣田に話してやってくれよ。きっとあいつが目指しているのも、俺たちみたいなあることないことを話す営業マンなんじゃないか?」

「きっとそうです」

「おい、そこは否定しろ。人間って自分の長所には意外と気づいていないことがある。それを教えてあげるのも上司の役割だ

「そうですね。彼の分析力は非常に優れています。それを活かした営業活動ができないかを一緒に考えてみます」

「その後の報告を楽しみにしているよ」

「ありがとうございます」

「ただし!」

「?」

俺たちリーダーは、自分の短所をしっかりと見極めて、それを矯正することを心掛けなければいけない。たとえば、俺の場合は、あることないことをペラペラしゃべってしまうことが欠点のようだから、ファクトとエビデンスを語ることを心掛けないとダメだろうな!」

「そうですね、是非頑張ってください!」

「おい、だから、そこは否定しろっつうの!!」


ひとりごと

一斎先生の『言志四録』の素晴らしさは、こうした章句にありますね。

普通の本だと、「短所を捨てて長所を見ろ」だけで終わることが多いのですが、一斎先生は違います。

ただし、「自分自身は短所の矯正を目指せ」と大切な言葉が付け加えられています。

他にも、「人各々分有り、当に足るを知るべし。但だ講学は則ち当に足らざるを知るべし。」という章句があります。

ただ、「人それぞれの分際を理解して足るを知れ」で終わりません。

「学ぶという事だけは、足るを知っていけない、常に不足を覚えよ」と諭してくれます。

これこそが、小生が『言志四録』に惹かれる最大の理由なのです。


【原文】
人各おの長ずる所有り、短なる所有り。人を用うるには宜しく長を取りて短を舎つるべし。自ら処するには当に長を忘れて以て短を勉むべし。〔『言志晩録』第244条〕

【意訳】
人にはそれぞれに長所と短所がある。人を使う際にはその人の長所を活用し、短所は用いないようにすべきである。自らが事に当たる場合は、自分の長所を忘れて、短所を改善するように励むべきである

【一日一斎物語的解釈】
同僚や部下に対しては、長所だけを見て活用することを心掛けよ。しかし、リーダー自らは自身の短所の矯正に務めよ。


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第1877日 「難事」 と 「爽快」 についての一考察

新年度を迎え、営業部では期初会議の資料作成をしているようです。

「じゃあ、石崎君は器械の集計をしてくれる? 私は、デバイス(消耗品)のアイテム別計画値をまとめるから」

「え、山田さん。そっちの方が大変ですから、私がやりますよ」

「大丈夫。長年やってきているから、慣れているのでね」

「カッコいいなぁ。カミサマだったら、絶対面倒な仕事を私に回してきますよ」

「以前の神坂課長ならね。今は違うんじゃないかな?」

「そうですかねぇ? あのオッサンは面倒くさがりだから」

しばらくすると、神坂課長が部長室から出てきました。

「参ったなぁ、COVID-19の影響を数値化してくれと頼まれちゃったよ」

「課長、COVID-19の影響でどれくらい症例が減り、それによってどれだけ売り上げが落ちたかを調べるということですか?」
山田さんが質問しています。

「そう。それと仮にこの状況が7月まで続いた場合の上期の予測も知りたいと言われた」

「なるほど」

「神坂課長、それ私がやりましょうか?」

「お、石崎少年。どうした、4月になって心を入れ替えたか?」

「違いますよ、私は元々ポジティブです! 山田さんが、デバイスの集計をやってくれるというので、それなら私がCOVID-19の件をまとめようかなと思いまして」

「ありがとうな。しかし、これはちょっと心が萎える集計だからな。やっているうちにネガティブになってしまう気がするから、俺がまとめるよ。みんなには担当病院の症例の変化とデバイス毎の売上推移を出してもらうから、よろしくな」

山田さんが石崎君に目配せをしています。

「なんだか良いですね、この職場。上司や先輩が率先して大変な仕事を引き受けてくれるなんて、すごい事だと思います」

「その方が気持ちが良いんだよ。ね、山田さん?」

「そうですね。難しい仕事を後輩に振れば、楽にはなりますが、心苦しく感じますね」

「ところで、少年。お前、また俺の悪口を言ってなかったか?

「えっ、ま、まったく心当たりがないですけど・・・」

「本当か? さっきも部長室でくしゃみが止まらなかったんだよなぁ」

「課長、それってまさか?」

「だ、大丈夫だよ! 今朝検温したときは36.5度だったし、喉も痛くないし、咳もないからな」

「みなさん、ちゃんとマスクをつけましょう!」

「俺をばい菌みたいに扱うなっつうの!!」


ひとりごと

この一斎先生のご指摘は、腹に落ちますし、ちょっと耳が痛いですね。

なるべく大変な仕事は自分が引き受けるという意識を持てば、その仕事をしている間、心は爽快であるような気がします。

逆に、難解な仕事を他人に振って、自分が楽をしている時は、心は晴れません。

面倒な仕事を進んで引き受けることで、自らを鍛錬していきましょう!!


【原文】
人と事を共にするに、渠(かれ)は快事を担い、我れは苦事に任ぜば、事は苦なりと雖も、意は則ち快なり。我れは快事を担い、渠は苦事を任ぜば、事は快なりと雖も、意は則ち苦なり。〔『言志晩録』第243条〕

【一日一斎物語的解釈】
人と一緒に仕事をする際、相手に愉快な仕事をやってもらい、自分は辛い仕事を引き受ければ、仕事自体は辛いかもしれないが心は愉快である。相手に辛い仕事を任せて、自分が楽しい仕事をすれば、仕事は楽しいかも知れないが、心は苦しくなるであろう

【所感】
自分の嫌な仕事、難しい仕事を敢えて引き受けることで、自己貢献感を抱くことができ、心は満たされる。


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第1876日 「ピンチ」 と 「ポジティブ」 についての一考察

今日の神坂課長は、BestFaceというインサイドセールスのツールをつかって、A県立がんセンター消化器内科の多田先生と会話をしているようです。

「多田先生、映ってますか?」

「おお、なんだかみすぼらしいおっさんが映ってるぞ」

「あ、それは私じゃないですね。混線でもしてるのかな?」

「お前だよ!」

「わかってますよ。今から今度デモで使ってもらうデバイスのプレゼン資料を画面に出しますね」

神坂課長は共有画面にパワーポイントの画面を出して説明をしたようです。

「一応、お見積りも作りました。これです」

「今使っているものより安いのか?」

「価格は上がりますが、使用回数が増えますので、結果的には収益改善につながるはずです」

「なるほど」

「先生、右下にあるDLボタンを押してください。この見積りが先生のPCにダウンロードされますから」

「おお、これか。へぇ、便利じゃないか。COVID-19が収束した後もこれでいいぞ。これだとお前の顔もそれほど見ずに済むしな」

「冷たいことを言わないでくださいよ。私はお客様の心に寄りそう営業を心掛けていますから、対面営業が基本です。これは急ぎのときや、先生か私が出張中の際に活用できたらいいなと思っています」

「面倒くさい奴だな。しかし、ITの進歩は目覚ましいな。どいつもこいつも経済が破綻するとか言うが、こうやってITを活用すれば、ある程度ビジネスは回せるはずだよな」

「はい、たしかに我々営業にとっては今は厳しい局面で、新規開拓は不可能に近くなっています。でも、それで気づいたのです。いかに自分たちは新規にばかり目を向けすぎていたかを」

「つねに新規を追いかけて数字をつくる企業は生き残れないな。それは病院も同じで、いかにリピートしてもらうかが重要なんだよ」

「そうですね。ピンチだピンチだと騒いでも何も変わりません。今は既存の大切なお客様との間で何ができるかを考えます」

「そうだな。このツールは患者さんとの間でも使えるかも知れないな。ただ非対面で会話ができるだけでなく、資料をやりとりできるのがいいな」

「このサイトの右上の企業のホームページがあるので、そこから資料もダウンロードできます。でも、もし必要なら私が資料を集めてお持ちしますよ。他の会社にも同じようなツールはありますから」

「いいよ、無理するな。お前との商談は今後全部これでいこう」

「多田先生、そんな寂しいこと言わないでくださいよ」

「そうだ、今度お前が来たら渡そうと思っていた本があったんだ。お、これこれ、この本だ。アマゾンで買ってくれ」

「いやいや先生、近いうちに行きますから、貸してくださいよ」

「話はこれだけだな? じゃあな」

「うわっ、一方的に切断されちゃった。なんか、ピンチをチャンスに変えたつもりが、かえってピンチになった気がするなぁ・・・」


ひとりごと

いまやCOVID-19の世界的な流行によって、”STAY HOME”が合言葉となっています。

そこに志村けんさんの急死も重なり、多くの日本国民にも不要不急の外出を控えようという意識が高まってきたようです。

その影響で、在宅ワーク、いわゆるテレワークやZOOM会議などが一気に広まってきたようです。

元々営業の世界では、欧米を中心に”インサイドセールス”が普及しており、ここではお客様への一時対応はWEB面談ツールを使うことが一般的です。

COVID-19が収まった後には、対面営業と非対面営業のバランスがあらたな課題として重要になってくるかも知れませんね。


【原文
人は苦楽無き能わず。唯だ君子の心は苦楽に安んじて、苦なるも苦を知らず。小人の心は苦楽に累(わずら)わされて、楽なるも楽を知らず。〔『言志晩録』第242条〕

【意訳】
人間であれば必ず苦楽を経験するものである。ただし、君子と呼ばれる立派な人は、その苦楽の中に心の平静さを保つので、苦を苦だと思わない。一方、小人つまり普通の人は、苦楽に一喜一憂して、わが身に楽があることに気づかないものだ

【一日一斎物語的解釈】
仕事で成果を上げる人は、苦境のときこそポジティブに考えて行動できる人である。


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第1875日 「我慢」 と 「自然」 についての一考察

今日の神坂課長は、喫茶コーナーで大竹課長と会話をしているようです。

「タケさん、なんか元気がないね」

「だって、志村けんが死んじゃったんだぜ。俺の子供の頃のヒーローみたいな人だからさ。まだ70歳だよ!」

「あのニュースはビックリしました。カミさんとは、個人のコメントもないし、かなり危ないかもなんて話はしていたのですが、本当に現実になると言葉が見つからないですね」

「俺、はじめてだよ。芸能人の訃報を聞いて泣いたの」

「そういえば、目が赤いですね」

「今日は食事をする気も起きないから、ランチは抜くかな」

「COVID-19 は糖尿病を持っていると重症化するらしいですよ。タケさん、気を付けた方が良いんじゃないの? いっそのことこれを機に炭水化物を減らしたら?」

「親父が糖尿病患者だからな。血は受け継いでるかもなぁ。でも、炭水化物のない食事はひもじいもんね?」

「だったら、酒をやめる?」

「それは人生の楽しみを失うようなものだしなぁ」

「どっちかを我慢することが必要なんじゃないの?」

「そうだけどなぁ。ところで、神坂君。今日も薄着だねぇ」

「子供は風の子っていうけど、俺は今でも心は五歳児ですから。この程度の寒さでカーディガンとかセーターを着るなんて、考えられませんよ」

「寒くないの?」

「寒いですよ。でも、寒くないと思い込むんです。『心頭を滅却すれば火もまた涼しです」

「滅却できてないから、寒いんでしょ?」

「あ、なるほど。そうだ、タケさんも心頭を滅却すれば、空腹を感じなくなるんじゃない?」

「神坂君、俺たちが心頭を滅却できると思うかい?」

「道は果てしなく遠い気がします」

「そうだろう。まずは我慢かなぁ」

「そうです、まずは糖分を減らす我慢から始めましょう! 志村さんが教えてくれた気がしますよね。COVID-19 は誰でも罹患する病気だし、世間が思っている以上に重症化のリスクも高いということを」

「それは思った。あの人は俺たちにずっと最高の笑いを届けてくれた。そして最後には、自分の命と引き換えに、病気に対する備えの大切さを教えてくれたのかもな」

「そうかもしれませんね。これで、日本国民全体が外出を自主的に控えるようになるでしょうね」

「やっぱりあの人は最後まで俺のヒーローだったなぁ」


ひとりごと

今回のストーリーはいつも以上にこじつけ感が強いかも知れません。

しかし、そうしてでも志村けんさんについて触れたかったのです。

東村山音頭、カラスの勝手でしょ、ひげダンス、アイーン、だいじょうぶだぁ、だっふんだ、などなど、数々の逆を世に送り出した天性のお笑いスターであり、我々世代のヒーローのひとりでもあったのが志村さんでした。

タモリさんもたけしさんも、お笑いの第一線からは退いている感もある中で、まだまだ現役でお笑いをやり続けている大御所は、さんまさんと志村さんくらいだったでしょう。

本当に残念ですし、衝撃的なニュースでした。

これで、日本国民全体に良い意味での自粛ムードが進むはずです。

志村さんの死を無駄にしないためにも、そうすべきですね。


【原文】
衣薄くとも寒相を著けず。食貧しくとも餒(だい)色を見(あらわ)さず。唯だ気充つる者能くすることを為す。然も聖賢の貧楽は、則ち此の類に非ず。〔『言志晩録』第241条〕

【意訳】
薄着であっても寒そうな仕草は見せず、空腹であってもひもじい様子をみせない。これは気力の充実した人にしかできないことである。しかしながら、聖人や賢人が貧を楽しむというのは、こういうことではない

【一日一斎物語的解釈】
薄着で寒さに耐えることも、空腹を表情に出さないことも、気力が充実していればこそ可能であるが、努力をしてそのレベルを維持しているうちは本物ではない。


志村けん

第1874日 「恥」 と 「悔」 についての一考察

神坂課長のところに善久君がやってきました。

「課長、明後日に食道ステントの症例があって、予定ではC社の笹尾さんが来てくれる予定だったのですが、コロナ関係の緊急会議で来れなくなったそうです」

「ほぉ、それはチャンスだな」

「え?」

「お前がしっかり勉強して立ち会えば、お前の株が上がるじゃないか」

「でも、ステントの立ち会いなんてやったことないです」

「正直に言えよ。勉強はしてきたが、自分はまだステント症例に立ち会ったことがないので、勉強させてくださいって」

「素人を送り込んだのかといって怒られませんか?」

「誰だって最初は素人じゃないか。どんな営業マンだって、勉強して、恥をかいて、後悔をして、成長するんだよ」

「恥をかいても良いのですか?」

「恥はかかなきゃだめだ。恥をかいて初めて学ぶことが多いからな。恥をかくことを怖がるな」

「は、はい」

「絶対にうまくいくように立ち会おうなんて思わなくていい。ドクターも初めて使うわけではないだろう。とにかく勉強させてもらうというスタンスで行け!」

「うまくいかなくても良いのでしょうか?」

「良くはないが、そういう時もある。そこで、しっかり悔やむんだ。そして反省して次に活かせ」

「はい」

「あそこにいる大累は、それこそありとあらゆる失敗をした男だ。かつては『失敗のデパート』とまで呼ばれたこともある」

「ははは。そうなんですか?」

「すみませーん! そこのお二人、こっちまで聞こえているんですけど!」

「あれ、大累。聞こえちゃった?」

「完全に聞こえるように言ってるでしょう。俺の部下もいるんですから、そういうことは小声で話してもらえませんかね!」

「なぁ、大累。恥をかくことと、後悔することは大事だよな?」

「そうですね。今の若い人は特に恥をかきたがらないけど、恥をかかないと学べないことって絶対にありますからね」

「ほら、善久。恥と後悔のスペシャリストのありがたい教えだ。ちゃんとメモしておけよ!」

「善久君、たしかに俺はかつて『失敗のデパート』と呼ばれたけどな、そこにいるおっさんの呼び名もすごかったぞ」

「え、神坂課長はなんて呼ばれていたのですか?」

「『失敗のエンサイクロペディア』、つまり失敗の百科事典だよ」


ひとりごと

誰しも恥はかきたくありませんし、後悔もしたくないでしょう。

しかし、人生には恥をかいてこそ学べる事、後悔をしてこそつかめるものがあるものです。

特に若いうちに、たくさんの恥と後悔を経験して、人生後半に向けて準備をしておくべきなのです。

そのために、リーダーである皆さんは、部下や後輩の失敗を暖かく見守る広い度量を持たねばならないのでしょう。


【原文】
人は恥無かる可からず。又悔無かる可からず。悔を知れば則ち悔無く、恥を知れば則ち恥無し。〔『言志晩録』第240条〕

【意訳】
人間は恥を知らなけれならない。また、後悔の念を抱くということも必要である。後悔の念を抱けば、最終的には悔い改める必要はなくなるし、恥を知ることができれば、恥をかくこともなくなるものだ

【一日一斎物語的解釈】
恥を知ること、後悔することは、人生において必要欠くべからざるものである。


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第1873日 「旧KKD」 と 「新KKD」 についての一考察

今日の神坂課長は、ネットニュースをみて呆れています。

「この首相夫人は、どこまでバカで天然なんだ?」

「ああ、例の花見の投稿写真の件ですか?」
本田さんが応対しています。

「そうだよ。はっきり言って見た目もそれほど美人でもないし、安倍さんはどこが気に入ったんだ?」

「見た目は関係ないのでは? しかし、東京都が外出自粛要請を出した後にこの写真を投稿する神経には驚かされますね?」

「この人はな、ワクチン不要論を唱えているらしいんだ。その理由が凄いぞ」

「どんな理由なんですか?」

「『私はインフルエンザに罹ったことがないから、ワクチンは要らないと思うと言ったらしい」

「本当ですか?」

「そう聞いたよ。その後、もし罹ってしまったらどうするのかと聞かれて、『そうしたら、別の建物にひきこもればいい』と言ったそうだ」

「天然過ぎますね。だいたい今までインフルエンザに罹っていないからと言って、今後も罹患しないという保証はどこにもないですから」

「これが首相夫人だからな。安倍さんもなぜ擁護するような発言をするんだろうな。『きびしく指導しますとでも言っておけばいいのに」

「そういう根拠のない自信で行動をする人が一番始末に負えないですよね」

「そ、そうだな」

「あれ、どうしたんですか?」

「いや、俺自身が根拠のない自信だけ、気合いだけで切り抜けてきた男だから、耳が痛いなと思って」

「私は神坂課長のことをそんな風にはみていませんよ」

「本当?」

「意外と冷静に成功確率を読んで行動しているように感じています」

「あれ、そうかな? なんだか嬉しいな」

そこに石崎君が帰社したようです。

「おー、石崎。山根クリニックの商談、どうなった?」

「もう少し検討したいと言われてしまいました・・・」

「マジか? お前な、気合いが足りないんだよ、気合いが!」


ひとりごと

かつて、KKDが重要だと言われた時代があります。

KKDとは、勘と経験と度胸を指します。

今の時代は、これを旧KKDと呼ぶようです。

では、新KKDとは何か?

それは、仮説と検証とデータの3つだそうです。

新KKDをベースにそこに適度に旧KKDを混ぜるのが理想かも知れませんね。


【原文】
凡そ事を為すに、意気を以てするのみの者は、理に於いて毎(つね)に障碍(しょうがい)有り。〔『言志晩録』第239条〕

【意訳】
何事を行うにも、意気込みだけで始める人は、道理から見れば常に危険と隣り合わせである

【一日一斎物語的解釈】
気持ちだけで、根拠のない行動は危険である。


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第1872日 「外物」 と 「緩急」 についての一考察

今日の神坂課長は、佐藤部長の部屋に居るようです。

「人間って面白いですよね。急ぎの仕事をしている時には、なぜか気持ちも焦ってしまいます。逆に、じっくりと取り組むときには、心も落ち着いています」

「そうだね。心というのは、外の事に惑わされやすいものだよね」

「それですそれ! それを言いたかったのです」

「本来、心は常に安定していることが理想だけれど、それができるのは聖人君子だけかも知れないねぇ」

「部長はいつも冷静ですよね」

「そう見える? それなら良かった。実際にはそうではないからね」

「そうですか?」

「私はかなりのせっかちだよ。じっくりとひとつのことに取り組むのは苦手で、だからこそ営業の世界に飛び込んだんだ」

「どういうことですか?」

「営業というのは成果が出やすいでしょう。お客様に誠意をもって接すれば、自然と売上はついてくるからね」

「なるほど」

「もっとも、営業の世界に長く居れば居るほど、実はそうでもないことがわかってきたけれどね」

「え?」

「お客様、特にドクターとの人間関係を構築するには、勉強をしなければいけないし、長い時間をかけて少しずつ信頼を得ていかなければならない。そういう人間関係を築けなければ、売れ続ける営業マンにはなれない」

「それに気づいたのですね?」

「うん。それでいて、信頼を失うときは一瞬だ。気を許せば積年の苦労が全部水の泡になってしまう」

「私もその手の苦い経験がたくさんあります」

「つまり、どんな仕事でも、心を安定させていなければいけないということだよ」

「我々に比べて、ドクターは常に人の命と格闘していますから大変ですよね。自分の握るメスが目の前の患者さんの命の行方を左右するわけですから」

「だからこそ我々が、安全で質の高い医療を提供できるように、しっかりとお手伝いをしなければならないんだね」

「そうかぁ。我々の提供する医療機器の良し悪しによって、ドクターの心の安定度も左右されるかも知れないのですね?」

「大事な仕事をしているんだよ、我々も!」

「身が引き締まります!!」


ひとりごと

外物に影響されない心を作り上げることは容易ではありません。

急ぎの時こそ心は落ち着いていなければならず、ゆったりとした状態のときには心を引き締めねばならないのです。

外物に影響されるのではなく、外物とバランスをとれる心を作り上げましょう。


【原文】
昼夜には短長あり、而も天行には短長無し。惟だ短長無し。是(ここ)を以て能く昼夜を成す。人も亦然り。緩急は事に在り。心は則ち緩急を忘れて可なり。〔『言志晩録』第238条〕

【意訳】
(地球が太陽をめぐるのは、三百六十五日四分の一と数字的に定まっていて、地軸が二十三度傾いているから、昼夜長短の差ができる)。それゆえに昼夜には長短があるが、天の運行に長短はないのだ。天の運行に長短がないからこそ、昼夜があるのである。人間もこれと同じである。緩急というのは物事にあるのであって、心は緩急を忘れていつも一定であればそれで良い

【一日一斎物語的解釈】
仕事には急ぎもあれば、じっくり取り組むべきものがあるが、心はつねに緩急なく一定に保っておくべきだ。


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第1871日 「せっかち」 と 「のんびり」 についての一考察

営業部特販課の大累課長が雑賀さんと来年度末更新の大型案件について打ち合わせをしているようです。

「雑賀、A医大のMRI更新の件はどうなってる? 1年後とはいえ、そろそろドクターと仕様の確認が必要なんじゃないか?」

「まだ1年先ですよ。半年前くらいからで十分ですよ」

「お前、1億を超える大型案件だぞ。そんな呑気なこと言ってる場合じゃないだろう」

「大累課長は気が短すぎますよ。私はドクターもしっかり押さえていますから、大丈夫ですって!」

「お前さ、2年前に同じことを俺に言ったのを覚えているか?」

「あっ」

「T厚生病院のMRIの商談を落としたときも、同じことを言ったよな?」

「あれは、急遽ドクターが異動となるという想定外のことがあったから・・・」

「今回だって4月に異動があるかも知れないじゃないか」

「それは4月になればわかることですから」

「今動けば、情報くらい取れるだろう。キーマンに異動がないかは確認しているのか?」

「まだですけど・・・」

「今すぐ行ってこい! 今日はもう3月27日だぞ。そのくらいの情報を取れないでどうするんだよ!!」

「わかりましたよ、行ってきますよ」

雑賀さんは慌てて出かけたようです。

「雑賀は相変わらずだな」

「あー神坂さん、聞いてました?」

「あれだけデカい声でやりとりされれば、嫌でも耳に入ってくるよ」

「神坂さんはどう思います?」

「今回の件に関しては、大累の意見が正しいだろうな」

「ですよね!」

「ただ、たしかにお前はせっかち過ぎるところもある。俺も同じくせっかちだ。一方、雑賀とか廣田とか石崎なんかは意外とのんびり屋だよな」

「たしかにそうですね」

「お互いにそういう自分の性格をよく把握して、急ぎ過ぎず、のんびりし過ぎず、タイムリーに行動することを心掛けたいよな」

「神坂さん、たまには良い事も言うんですね」

「たまに? 俺はいつだって紅茶のような男だよ」

「紅茶?」

「常にセイロン(正論)しか言わないからさ」

「・・・」


ひとりごと

人間だれしも性格に癖があります。

せっかちもいれば、のんびり屋もいます。

そうした性格を変えるということは、簡単なことではありません。

どちらが良いか悪いかと考えるよりも、自分の性格をよく把握して、悪い傾向が出ないように抑制すればよいのでしょう。

一斎先生の言うように、天の運行のように自然に振舞えるのは、聖人君子だけです。

厳に、一斎先生ですら、自分の性格に癖があることを認めているのですから。


【原文】
人の事を做すは、須らく緩ならず急ならず、天行の如く一般なるを要すべし。吾が性急迫なるも、時有りて緩に過ぐ。書して以て自ら警む。〔『言志晩録』第237条〕

【意訳】
人が事をなす場合は、すべてにおいてゆっくり過ぎても急ぎ過ぎても宜しくない。ただ天の運行のように自然であるべきである。私の性質はせっかちであるが、時にはゆっくりし過ぎてしまうこともある。ここに自ら書して戒めとしたい

【一日一斎物語的解釈】
仕事を処理する際には、急ぎ過ぎず、ゆっくり過ぎず、そのベストのタイミングを逸しないことが肝要である。

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