一日一斎物語 (ストーリーで味わう『言志四録』)

毎日一信 佐藤一斎先生の『言志四録』を一章ずつ取り上げて、一話完結の物語に仕立てています(第1066日目より)。 物語をお読みいただき、少しだけ立ち止まって考える時間をもっていただけたなら、それに勝る喜びはありません。

佐藤一斎

第1806日 「慎独」 と 「応酬」 についての一考察

喫茶コーナーで営業1課の新美課長と廣田さんが話をしているようです。

「課長、他人に流されないようにするのは難しいですね」

「廣田君は優しいから人の意見を聞きすぎてしまうんだろうね」

「自分の軸がしっかりしていないからだと思います。課長はどうやって自分の軸を作り上げたのですか?」

「どうやって、って聞かれると即答できないものだなぁ。私も若いときは廣田君と同じように悩んだよ。なんて言ったって、周りには神坂さん、大累さん、清水さんと図太い軸をもった先輩がいたからねぇ」

「ははは。あの3人の方々は強烈ですもんね」

「そうだよ。海千山千の先輩と肩を並べて仕事をするのは本当に大変だった。あの人たちはとにかく決断が早いんだ」

「やっぱり軸がしっかりしていると、決断力が上がるんですね?」

「ただ、神坂さんの決断は極端なのが多くて、本当にそうかなぁと思うことも度々あったけどね。(笑)」

「そうですか。では、課長も私と同じように悩んだのですね?」

「うん。そんなときに、佐藤部長にこう言われたんだ」

「一斎先生ですか?」

「ご名答! 一斎先生は、『独りでいるときは大衆の中にいるように行動し、大衆の中にいるときは一人でいるかのように行動せよと言っていると教えてもらった」

「現状と真逆の環境を想定するのか?」

「うん。私もどちらかというと他人の意見に流されやすいところがあったから、大衆の中にいるときに一人でいるかのように行動しろというアドバイスは参考になったな」

「特に周囲と違う意見を持っているときは、なかなか主張し切れません。自分を信じるということですか?」

「そうかもね。たとえ自分以外の全員が自分と違う意見だとしても、自分が善と信じるなら貫き通す覚悟が必要だね。別に無理をして他人を説き伏せる必要はないんじゃない?」

「ああ、そうか。自分の意見を主張するときは、ついつい相手を説き伏せようとしてしまいます。でも、相手が自分の意見に同調してくれるかどうかは、他人の課題ですもんね? まず、強い覚悟で主張することが大事なんですね」

「そういうことだよ。だって、神坂さんを説き伏せようなんてしようものなら・・・」

「ヘックション!」

「噂をすれば、噂の人がやってきましたよ」

「おー、お前ら朝から悩み事相談会か? しみったれてるねぇ。それにしても、またどこかの女が俺のことを噂しているのかな? さっきからくしゃみが止まらないんだなぁ」

「神坂課長はモテますもんね!」

「お、廣田君。君は人を見る目が確かだな。コーヒーを奢ってあげよう!」

「さすが! 決断が早いですね?」

「えっ、なんのこと?」


ひとりごと

他人の意見に流されず、自分の意見を主張することは、容易なことではありません。

特に、相手が自分より目上の人であったり、上位職者であればなおさらです。

そのときは、独り静かな環境にいるつもりで、まず自分の意見を主張してみましょう。

その意見を採用するか否かは、他人の課題なのですから。


【原文】
慎独の工夫は、当に身の稠人広坐(ちゅうじんこうざ)の中に在るが如きと一般なるべく、応酬の工夫は、当に間居独処の時の如きと一般なるべし。〔『言志晩録』第172条〕

【意訳】
独りのときを慎む慎独の工夫は、いつも自分の身が大衆の中にあるかのように振舞うことである。人との応対の工夫は、独り静かに暮らしているときと同じように振舞うことである。

【一日一斎物語的解釈】
独りでいるときこそ、大勢の人と一緒にいることを想定し、大勢の人といるときは、独り静かに暮らしていることを想定して行動するとよい。


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第1805日 「真に知ること」 と 「行動すること」 についての一考察

今日の神坂課長は、元同僚・西郷さんと食事をしているようです。

「サイさん、相変わらず精力的に動いているみたいですね。最近は、東京とか大阪でも『論語』の会を開催しているらしいじゃないですか」

「同じ古典の勉強仲間が是非やって欲しいと言ってくれたのでね。でも、細々とやっているだけだよ」

「でも、すごいことですよ」

「神坂君、ところで営業部はしっかりまとまっているの?」

「まあ、最近は離職者もいないし、まとまっていると言ってもいいのかなぁ?」

「廣田君はどう?」

「ああ、あいつも頑張ってますよ。最近は表情も明るくなってきましたから」

「それは良かった!」

「その代わりと言ってはなんですが、私は酒の量がちょっと増えたかもしれません。『わかっちゃいるけどやめられない』ってやつですね」

「ストレスってこと? 神坂君にストレスはないでしょう?」

「失敬な! 私だって人並みにストレスくらい感じますよ!」

「これは失礼しました。ところで、さっき『わかっちゃいるけどやめられない』って言ったよね?」

「はい」

「でも、本当に分かったら行動できるはずなんだ。つまり、お酒の量が増えると体に良くないということを真に理解すれば、自然とお酒の量は減るということだね」

「じゃあ、俺は本当はわかっていないということか?」

「そうだと思うな。それが真の知行合一だよ。嫌な臭いを嗅いだら、自然と鼻を塞ぐよね。知ることと行うことの関係はそういうものだよ。『嫌な臭いがするな。これは鼻を塞いだ方がいいな』なんて考えないよね?」

「なるほど」

「もちろん、真に理解するためには、熟慮するというステップが必要だけどね。何かを学び、それについて熟慮する。そうすると自然と行動できるようになる。というステップだろうね」

「そうかぁ。俺も医療人の端くれとして、もう少しアルコールが体に及ぼす影響について考えてみようかな?」

「そうすれば、きっと酒の量も減るよ」

「そうですね、そうします! あ、オヤジ。生お替わり!!」


ひとりごと

慮らずして知る、これは例えば、身体に良くない有毒ガスを嗅いだときに自然と鼻を塞ぐということでしょう。

慮って後に得る、これは例えば、腐った魚が落ちていたら、絶対に臭いを嗅ぐことはしないということでしょう。

有毒ガスについては、それが何かが分からなくても臭いを嗅ぎませんし、腐った魚は臭いことを学んでいるので臭いを嗅ぎませんよね。

そして、知行合一とは、こうした自然に知る能力と熟慮して得た知識を合わせて、瞬時に行動できることを言うのではないでしょうか?

行動できていないうちは、真に知ってはいないのです!


【原文】
「慮らずして知る」は本体の発なり。「慮って後に得る」は工夫の成なり。知るは即ち得ること、二套有るに非ず。〔『言志晩録』第171条〕

【意訳】
深く考えなくても理解できるのは、心の本体が発露しているからである。深く考えた後に理解できるのは、修養鍛錬の成果である。知ることはそのまま得ることであって、別に二つのことが存在するわけではない

【一日一斎物語的解釈】
知行合一とは、知れば自然と行動できるという意味である。行動できないのは、まだ真に知ることができていないからだ。


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第1804日 「反省」 と 「凹み」 についての一考察

営業2課の善久君がミスをしたようです。

「あー、僕はなんてダメな営業マンなんだろう。自分で自分が嫌になるな」

「善久、そういうネガティブな音を出さないでくれないか」

「すみません、課長。でも、自分では意識しているつもりなのに、同じようなミスを繰り返してしまうんです。もう病気じゃないかと思います」

「だから、ネガティブな音を出すなっつうの! 厳しいことを言わせてもらうとな、同じミスを繰り返すということは、本当の反省ができていないということじゃないか?」

「えっ、そんなことはないと思います。ちゃんと反省をしているつもりですけど・・・」

「人間ってさ、本当に心から反省した時には、さっきみたいな上っ面の反省の弁は出なくなるんじゃないかなぁ?」

「上っ面の反省ではないです!」

「そうかなぁ? だったら、ただダメだ、ダメだと騒いでいるだけじゃなくて、具体的に何か新たなアクションを起こしてみろよ」

「新たなアクションですか?」

「そう。反省して、ここがいけないという点が見つかったなら、次はそれを改善するために今までやっていなかった新たな行動を起こすんだよ」

「そう言われてみると、反省しているつもりでしたけど、新しい行動はとれていなかった気がします」

「そうだろう。多くの連中は、反省することと凹むことは同じことだと思っている。でも、実は全然違うよな。俺は凹んでいる奴をみると、『凹まなくていいから、反省しろ』ってよく言うだろう。俺たちの仕事の多くは、一回失敗したら終わりではない。もう一度チャレンジするチャンスは必ずある。だから、凹んでいる暇があったら、しっかり反省して、次の行動を導き出して欲しいんだよ」

「わかりました。ありがとうございます!」

「いいねぇ。今の善久は、上司である俺のアドバイスをちゃんと心で聴けているよな」

「そうですか?」

「石崎のやつは、普段はふざけた小僧だが、俺がアドバイスをすると、ちゃんと心で聴くということができるんだ。そして、心で反省するから、同じミスをしない」

「なるほど」

「お前は普段は俺に対して従順に見えるが、意外と意固地なところがある。だから、耳で聞くだけで心で聴けていないことが多い気がするんだ」

「・・・」

「しかし、今はしっかり心で聴けていた。きっと、もう同じミスはしないだろう!」


ひとりごと

心で聴くということは、別の言い方をすれば肚に落とすということです。

耳で聞いただけのものは、もう片方の耳から出て行ってしまいます。

しかし、自分の肚に落としたものは、しっかり蓄積されて自分の糧となるのです。

凹むだけで、反省しないようでは、成長はありませんね!


【原文】
口を以て己の行いを謗(そし)ること勿れ。耳を以て人の言を聴くこと勿れ。〔『言志晩録』第170条〕

【意訳】
自分の口で自分の行ないを非難してはいけない。自分の耳で他人の意見を聴いてはいけない。

【訳文】
口で上っ面の反省をするのではなく、心で反省をすべきであり、他人の諫言を耳で聴くのではなく、心で受けとめなければならない。


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第1803日 「心の目」 と 「心の耳」 についての一考察

今日の神坂課長は、佐藤部長の部屋に居るようです。

「『言志晩録』の言葉に、自分の言動を自分の目と耳でチェックしろ、というのがありました。でも、それって録音したり録画しないといけないですよね? 一斎先生の時代はどうしていたのでしょう?」

「ははは、そうだね。その時代にビデオカメラやICレコーダーはないものね」

「ええ。今はスマホでどちらもできますけどね」

「おそらく心の目と心の耳を使いなさいということだろう」

「心の目と心の耳ですか?」

「うん。常に自分を客観的に見つめるもう一人の自分を意識するということかな」

「なるほど。なかなか難しいですね」

「でも、もしそういう客観的なもう一人の自分を持てたら、失敗も少なくなると思うよ」

「たしかにそうですね。私の場合、ムカっと来たら、反射的に反論したり、罵声を浴びせてしまいます。ムカっときた時に、もう一人の自分の立ち位置から自分を見たら、そういう行動を抑えられるかもしれません」

「そう。そうやって自分を正していけば、自然と人はついてくる、と一斎先生は言っているよね」

「はい。あ、そうだ!」

「どうしたの?」

「今度の営業2課の会議で、営業のスキルについてディスカッションする予定なのですが、そこでロールプレイングをやってみようかな?」

「それを録画するんだね?」

「はい。それを見せてあげれば、メンバーも客観的に自分の言葉や行動を振り返ることができますから」

「いいね。お客様の役は誰がやるの? 意外とそこが大事なんだよ」

「はい。私がやりたいところですが、ここは冷静な山田さんにドクター役をやってもらいます。実は山田さん、かつて演劇部に所属していたそうですよ」

「へぇ、それは初耳だ。どんなドクターの役もこなしてくれそうだね」

「はい。でも、山田さんに短気なドクター役ができるかな? 仏の山さんですからね。面白いな、敢えてやってもらおうかな」


ひとりごと

自分を客観的に見つめるもう一人の自分を持つことができたら、多くの失敗を未然に防げるのだと一斎先生は言います。

自分の性格の悪い癖が出そうになったら、的確にアドバイスをしてくれるもう一人の自分を意識して作り上げてみませんか?

30代のときの自分にこのことをアドバイスしてあげたいなぁ。


【原文】
我が言語は、吾が耳自ら聴く可し。我が挙動は、吾が目自ら視る可し。視聴既に心に愧(は)じざらば、則ち人も亦必ず服せん。〔『言志晩録』第169条〕

【意訳】
自分の発する言葉は自分の耳で聴くべきである。また自分の挙動についても自分の目で視るべきである。自らの目や耳で見聞きして心に恥じる気持ちが生じないようであれば、他人もまた必ず自分に心服するであろう

【一日一斎物語的解釈】
定期的に自分の言葉や行動を自分の目と耳で確認すると良い。自分で自分を客観的に見聞きして、特に違和感を感じなければ、人間関係は良好なものになるはずである。


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第1802日 「問い」 と 「素直さ」 についての一考察

今日の神坂課長は、N鉄道病院名誉院長の長谷川先生をお訪ねしているようです。

「あ、電話だ。神坂君、少し待っていてね」

「はい。席を外しましょうか?」

「いやいや、大丈夫だよ。もしもし、あー川村先生。はい、ちょっと教えて頂きたいと思いましてね」

電話の相手は、長谷川先生が教授時代の部下で、現在はT市民病院の院長をしている川村先生のようです。

「そういうことですか、よくわかりました。お忙しいのに、ありがとう。また、わからないことがあったらお尋ねしてもよろしいですか? はい、それでは失礼します」
長谷川先生が受話器を戻しました。

「神坂君、お待たせしました」

「先生、お相手はT市民病院の川村院長ですよね?」

「うん、そうだよ」

「元は先生の部下だった方ですよね。それなのにあんなに丁寧な対応をされるのですね、感動しました」

「ははは。僕の専門は大腸でしょ。川村先生は胆膵のスペシャリストだからね。胆膵の処置について聞きたいことがあったから、僕が知る限り最も知見を持っている川村先生にメールを送ったんだよ。そうしたらわざわざ電話をくれてね」

「なるほど」

「胆膵の疾患に関しては彼の方が専門家だからね。僕が元上司かどうかは関係ないよね。素直に教えて頂くという姿勢でいないと、ダメじゃないかな?」

「はい、そう言われればその通りですが、しかし私にそれができるかというと・・・」

「つい、上からの態度を取ってしまう?」

「はい」

「ははは、神坂君らしいね。さっき川村先生に質問した仕事はね、ここの院長の代理の仕事でね。院長が海外出張中なので、僕が代わりにやることになったの」

「そうなんですか」

「だから院長に迷惑をかけないためにも、しっかり準備をしようと思ったんだよ」

「そういう配慮については、私はからっきし疎いので、本当に勉強になります」

「でも、神坂君は不思議な人だよね。たしかに礼儀がしっかりできているかと言えば、あやしいところも多々ある」

「あー、やっぱりそうですか!」

「それなのに、なぜか許せてしまうところがあるんだよ。もしかしたら、持って生まれた徳があるのかもね?」

「とんでもないです! そんなこと言われると、またどこかで自慢したくなっちゃいますよ」

「それをグッと堪えると、もっと徳が蓄積されると思うよ」

「はい、気をつけます!」


ひとりごと

1790日のひとりごとにも記載しましたが、立派な人ほど自分より地位や年齢が下の人にも素直に質問ができます。

これを孔子は、「下問を恥じず」という言葉で表現しています。

立場や年齢が上だから何でも知っていなければいけないと思うのは、かえって奢りかも知れません。

また、誰かの代理で処理する仕事こそ、自分の仕事以上に準備を怠らないことを意識することも重要です。

仕事は準備で8割決まりますから。


【原文】
事を人に問うには、虚懐(きょかい)なるを要し、豪(ごう)も挟(さしはさ)む所有る可からず。人に替りて事を処するには、周匝(しゅうそう)なるを要し、稍(やや)欠くる所有る可からず。〔『言志晩録』第168条〕

【意訳】
人に物事を尋ねるときは、虚心坦懐にして、少しでも自分の考えに執着するようなことがあってはならない。また、人に代わって物事を処理するときは、すみずみまで行き届いた仕事を行ない、すこしも足りない所があってはならない

【一日一斎物語的解釈】
他人に何かを尋ねるときは、素直な気持ちで、自分の小さなプライドなどは捨て置いて質問すべきである。また、誰かの代わりに仕事を処理する際は、細心の注意を払い、準備を怠ってはならない。


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第1801日 「キャラ」 と 「指導法」 についての一考察

今日の神坂課長は、A県立がんセンター消化器内科の多田先生を訪ねたようです。

「馬鹿野郎! そこで、ナイフを立てたら穿孔するぞ。横に滑らせるようにナイフを使うんだよ!」

若い医師が処置をしている後ろで、多田先生が指導をしているようです。

処置を終えた多田先生が内視鏡室から出てきました。

「先生、あんなに厳しくやったら、パワハラだって言われませんか?」

「言われるかもな」

「それじゃマズイじゃないですか?」

「神坂、心配してくれてありがとう。実は、俺にも考えはあるんだよ。今指導していた有田はガッツがある奴でな。少々厳しくやった方が成長が早いんだ」

「ああ、なるほど」

「あいつの同期に、植田っていうのがいるんだが、そいつにあんな叱り方をしたら大変だよ。泣きながら内視鏡室を飛び出すかもな」

「女医さんですか?」

「馬鹿、男だよ。最近の男はすぐ泣きやがる」

「嫌ですね、すぐに泣く男は!」

「植田に対しては、かなり言葉を選んで褒めながら育てているんだ。面白いのは、彼らの2つ上の先輩医師に、名倉というのがいる。こいつは、あまり褒めたり叱ったりもしない。ただ、課題を出して、自分で解決させる。それが一番良さそうなんだよ」

「へぇ、やっぱり人それぞれですね」

「俺たち医師は、患者の病状に合わせて薬を変えるだろう? それは人材育成においても同じだ。まさに応病与薬だよ」

「応病与薬ですか?」

「病に応じて薬を変える、ということだ。要するに部下のキャラクターに合わせて指導法を変えるんだな」

「メモらせてください」

「時には真逆の指導をすることもある。たとえば有田には、『なんでもすぐに手を出すなと言うし、植田には、『すぐにやってみろ』と言うこともある」

「指導の軸がブレていると言われませんか?」

「人材教育において大事なのは、自分の言葉に一貫性を持たせることではない。それぞれの部下がそれぞれに成長するような指導が大切なんだ」

「はい」

「有田に『なんでもやってみろ』と言えば、あいつは自分のスキル以上の処置をやろうとして医療事故を起こすかも知れない。逆に、植田に『すぐに手を出すな』と言っていたら、永遠に処置ができないまま終わるかも知れない」

「なるほど、それが応病与薬なんですね?」

「部下をひと塊で見るなよ。部下というキャラクターは存在しない。A君、B君、C君それぞれキャラクターは違うんだ」

「はい!」

「俺は、業者に対しても対応を変えているんだ。お前みたいなパンチドランカーは、いくら打ってもへこたれやしないだろう。だから、厳しいことも言わせてもらうんだよ」

「多田先生、パンチドランカーはないですよ!!」


ひとりごと

孔子の弟子たちに対する指導法は、まさに応病与薬です。

同じ質問をされても、相手に応じてすべて答えを変えます。

このことは、人材教育において、もっとも重視すべきことではないでしょうか?

万能薬というのは意外と中途半端で、どんな病気にも効き目が薄いものです。


【原文】
勧学の方は一ならず。各々其の人に因って之を施す。称して之を勧むること有り。激して之を勧むること有り。亦称せず激せずして、其の自ら勧むを待つ者有り。猶お医人の病に応じて剤を施し、補瀉(ほしゃ)一ならず。必ず先ず其の症を察するがごとく然り。〔『言志晩録』第167条〕

【意訳】
学問を奨励する方法は一つではない。人それぞれ施し方は違うものだ。褒めて勧めることもあれば、励まして勧めることもある。また褒めもせず、励ましもせずに、その人が自ら取り組むことを待つ人もいる。あたかも医者が病気に応じて薬を処方し、強壮剤や下剤を与えるようなものだ。まず病気の症状を的確に診断することが重要である

【一日一斎物語的解釈】
人材育成においては、キャラクターに合わせて、指導方法を変えなければならない。そのためには、各自のキャラクターをしっかりと見定める必要がある。


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第1800日 「問題児」 と 「改心」 についての一考察

今日の神坂課長は、大累課長とランチ中のようです。

「どうだ、例のITの仕事については、雑賀は知らんぷりを決め込んでいるのか?」

「それが、神坂さん。以前のあいつだったら、絶対そうなっていたと思うんですよ」

「ほぉ、違ったのか?」

「俺が見ていないところでは結構、藤倉をフォローしてくれているみたいです」

「なんでお前の見ていないところでだけフォローするんだよ?(笑)」

「それがあいつの器の小ささでしょうね。俺に啖呵を切った手前、フォローしているところを見られるのが嫌なんだと思います」

「ははは。でも、その気持ちわからなくもないな」

「実は、俺もです。(笑)」

「あいつの素行の悪さはピカイチだったからな。さすがに、こいつはダメかなと思っていたよ」

「俺も何度見放そうと思ったかわかりません。でも、諦めずにあいつと向き合ってきてよかったですよ」

「その点は、お前を尊敬するよ。俺に同じことができたかどうか?」

「できないでしょうね。俺は我慢強いですから」

「ゴン」

「痛っ。ほら、そうやってすぐ暴力を振るうような人には絶対無理ですよ」

「愛のムチだ。だけどさ、実際にそういうやんちゃなキャラの方が、行動力とか前に進む力はあるもんだよな」

「そうですよね。物怖じしないというのは、営業の世界ではやはり長所のひとつですよ」

「要は、そういうパワーをどうやって正しい方向に導くかということだよな。雑賀に関しては、お前が見事に軌道修正できたんだろうな」

「まだ、完了していませんけどね。相変わらず周囲がドン引きするような皮肉を言ったり、デカいため息をついたりしますから」

「でも、新美はもっと大変だぜ。年上の清水を部下に持っているんだからな」

「たしかに! 俺もあいつを軌道修正できるかと言われると・・・。あいつに関しては、神坂さんの言うことの方がよく聞くみたいだし」

「でもな、西村さんや佐藤さんは、俺たちに対して同じようなことを思っているかもな?」

「あの~、申し訳ないんですけど、一緒にしないでもらえますか?」

「なんでだよ! お前と俺は、いつ問題を起こすかって心配されていたらしいぞ」

「だから、一緒にしないでください。神坂さんについては、本当に皆さん心配していました。いつか、お客様に殴り掛かるんじゃないかって」

「そんなことするわけないだろう!」

「あんたならやりかねんわ」

「なんだ?」

「いえ、なんでもないです」


ひとりごと

どこの職場にも問題児はいるものではないでしょうか?

しかし、問題児にもいろいろなタイプがあります。

行動するたびに問題を起こすトラブルメーカーのようなタイプは、考え方がに問題があるものです。

考え方さえ変えることができれば、大きな成果を上げてくれるはずです。

やる気がまったくなかったり、サボり癖がある人を改心させるよりは、そうしたトラブルメーカーを戦力にすることの方が容易かも知れません。


【原文】
遊蕩の子弟も、亦棄つ可きに非ず。学問脩為(しゅうい)を慫慂(しょうよう)するは、即ち悔悟の法なり。一旦悔悟すれば、旧悪は追う可からず。況や其の無頼を為すも、亦才に出ずるをや。才は則ち為す所有り。易に云う、「冥(くら)くして升(のぼ)る、已まざるの貞(てい)に利あり」と。此(これ)を謂うなり。〔『言志晩録』第166条〕

【意訳】
放蕩癖のある若者だからといって見捨ててはいけない。学問や修養へといざなうのは、彼らを悔い悟らせることが目的である。一旦悔いて悟ったならば、いつまでも過去の悪さを追及すべきでない。まして、無法な行いをするのは、才能がほとばしり出ているからである。才能があれば何かを成すこともある。『易経』に「小人は理非の分別がなく、悪い方に昇ろう(進もう)としているが、その昇る心が長所だから、これを善に転用すれば立派なものになる」とあるのは、これを指しているのだ

【一日一斎物語的解釈】
素行の悪い部下を安易に切り捨てるのではなく、思考を正しい方向に導く努力を惜しんではならない。そういう人物は、行動力がある。正しい考え方さえ身につければ、大きな仕事ができるはずだ。


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第1799日 「好尚」 と 「是非」 についての一考察

今日の神坂課長は、営業1課の清水さんと一杯やっているようです。

「おっさん、マネジメントっていうのは大変か?」

「まあな、自分独りで売り上げを上げている方が楽かもな」

「だよな」

「なんだ、お前もマネジメントに興味を持つようになったのか?」

「自他ともに認める一匹狼の俺にマネージャーが務まるとは思えないけどな。おっさんを見ていたら、少し興味が湧いてきたよ」

「良いじゃないか、やってみろよ」

「ただな、もう後輩の新美の方が先に昇格しているしな。ポストがないよ」

「そんなことはないさ。たとえば佐藤部長が役員になれば、俺か大累が営業部長になるかも知れないだろう」

「おっさんとルイさんが部長か、世も末だな」

「お前に言われたくはないわ! そういう気持ちは大切だ。ぜひそういうつもりで後輩と接してみろよ」

「この話はおっさんと俺だけの秘密にしてくれよ」

「わかってるよ。じゃあ、一杯ぐらい奢れ」

「言うと思ったよ。面倒くさいから今日は俺が全部奢るよ」

「マジか! ありがたや!!」

「それでさ、マネージャーの心構えとしては、どういうことを意識したら良いんだよ?」

「俺がよく佐藤部長から叱られたのは、自分の分身を作ろうとするな、ってことかな」

「分身を作ったらダメなのか?」

「お前はお前のやり方が一番だと思っているかもしれないが、現に俺とお前では営業のスタイルもかなり違うだろう?」

「まあ、そうだな」

「俺の部下もそうだが、メンバーはみんな性格が違う。その性格にあった営業スタイルがあるもんだ。だから、分身を作るのではなくて、自分とは違うタイプを認めることが重要なんだ」

「相当難しいな」

「俺も苦労したよ。最初は、俺の分身を作った方が絶対に売れると思っていたからな」

「実際は違ったのか?」

「善久なんて、俺と性格が真逆だからな。俺のやり方を押し付けたら、あやうく鬱になるところだったよ」

「たしかにな。山田さんもおっさんとはキャラが違うもんな」

「軸となる考え方は組織内で共有しておく必要はあるが、細かいことはメンバーに任せるんだよ。それが主体性を育てることになる」

「なるほどな。おっさんが一流のマネージャーに見えてきたぜ」

「今頃かよ、もう俺はとっくに一流だぜ」

「そういう勘違いは変わってねぇけどな」


ひとりごと

自分の能力に自信のある新前リーダーは、大概、自分の分身を作ろうとして失敗します。

やり方は人それぞれ、誰がやってもうまくいく方法というのはないのかも知れません。

メンバーの個性をよく見極め、自分とは違うスタイルであっても、それを積極的に認めてあげれば、組織は強くなるのです。


【原文】
人には各々好尚有り。我が好尚を以て、彼の好尚と争うは、究(つい)に真の是非を見ず。大抵、事の真の是非に干(あずか)らざるは、彼の好尚に任ずるも、亦何の妨げか有らん。乃(すなわ)ち嘵嘵(きょうきょう)として己に憑(よ)りて、以て銖錙(しゅし)を角争(かくそう)するは、秪(ただ)に局量の小なるを見るのみ。〔『言志晩録』第165条〕

【意訳】
人それぞれに好みの違いがある。自分の好みを押し付けて他人と争うことは、結局真の是非を見失うことになる。多くの場合、真の是非に関係ないようなことは、他人の好みに任せておいても、何の問題もないはずである。それなのに、一々騒ぎ立てて自己に固執し、些細なことで争い合うというのは、ただその人の器の小ささを露呈するだけである

【一日一斎物語的解釈】
リーダーは、自分のやり方に拘り過ぎない方がよい。自分のやり方を強制すれば、メンバーの主体性を削ぐことになり、結果的に組織が弱体化する懸念がある。メンバーは自分の分身ではないことをよく理解しておくとよい。


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イラストくん より引用

第1798日 「適材」 と 「適所」 についての一考察

大累課長のデスクで雑賀さんが激高しているようです。

「なんで私にやらせてくれなかったのですか?! ITに関しては私が社内で一番知識があると自負しているんです!」

「それはわかるけど、お前にはまだ終えてない仕事があるじゃないか。だから、今回は藤倉に振ったんだよ」

「藤倉はまだ新人ですよ。できるわけないじゃないですか!」

「そんなことはないだろう。それに、そう思うならお前がサポートしてくれればいいじゃないか」

「嫌ですよ。それなら最初から任せて欲しかったです」

場所が変わって、喫茶コーナーで、大累課長と神坂課長が雑談をしているようです。

「という具合で、雑賀の奴、俺が業務の負荷を心配して仕事を割り振りしたのに、全然理解してくれないんですよ」

「雑賀らしいな。実際、2つの仕事の両立は可能なのか?」

「まあ、できなくはないでしょうね。ただ、あいつは遅くまで残って仕事をする傾向があるので、これ以上仕事を増やしたくなかったんですよね」

「働き方改革ってやつか!」

「4月以降は、ウチも対象になりますから」

「ところで大累は、今回のITの仕事を藤倉に振ったら雑賀がキレるということは予測できなかったのか?」

「いや、まずそうなるだろうなとは・・・」

「それなら、事前にお前の気持ちを伝えてやればよかったんじゃないか? 『本当はお前に任せたいけど、諸事情があるから藤倉にやってもらう。だから、ぜひサポートしてくれ』って感じでさ」

「たしかにそうでしたね。ああいう仕事の振り方をすると、奴は藤倉をサポートしないでしょうからね。心の狭い奴ですよ」

雑談を終えて大累課長がデスクに戻る途中、会議室の中から声が聞こえてきたようです。

「藤倉、この仕事はまだお前には荷が重いんじゃないか?」

「はい、ちょっとビックリしました。でも、課長がせっかく任せてくれたので、頑張ってみたいです!」

「そうか、じゃあ頑張れ! 俺はIT関係の知識は社内で一番だと自負しているから、わからないことがあったら遠慮なく聞いてこいよ」

「ありがとうございます!!」

「あっ、このことは大累課長には内緒な!」


ひとりごと

リーダーは、メンバーの個々の能力をよく把握し、適材を敵所に配置することを意識すべきです。

ところが今回の雑賀さんのように、自分が一番だと思っている能力を発揮できる仕事を他者に与えてしまうと、意外な軋轢を生んでしまうことがあります。

仕事を一つ降るのにも、細心の注意が必要だということは、肝に銘じておきましょう!


【原文】
人の事を做(な)すは、各々本職有り。若し事、職外に渉らば、仮令(たとい)功有りとも、亦多く釁(きん)を取る。譬えば、夏日(かじつ)の冷、冬日(とうじつ)の煖(だん)の如し。宜しきに似て宜しきに非ず。〔『言志晩録』第164条〕

【意訳】
人が仕事を処理する場合、それぞれに本業がある。もし本業以外の仕事を任せると、仮にうまく処理できたとしても、ときに仲たがいを生じてしまう。たとえて言えば、夏に寒い日があったり、冬に暖かい日がある様なものだ。したがってそうした行為は、良いことのうようで実際には良くないことなのだ

【一日一斎物語的解釈】
人にはそれぞれ専門分野がある。仕事を与える際は、その人の専門性をよく理解して与えるべきである。本来は別に専門性の高い人がいるにも関わらず、その人以外の人に仕事を与えると人間関係がこじれることもある。


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第1797日 「出世話」 と 「有用な情報」 についての一考察

今日の神坂課長が疲れ果てて帰社しました。

「あれ、課長。随分お疲れモードですね?」

「山田さん、どうしてこの業界人は、出世話とか金儲けの話ばっかりするのかねぇ」

「ははは。また、大学のたまり場でそんな話に付き合わされたんですか?」

「そうそう。参ったよ。俺はそういう話は好きじゃないんだよね。そういうのは大累に任せておけばいいんだよなぁ」
少し離れたところにいる大累課長に聞こえるように言ったようです。

「神坂さん、呼びました?」

「いや、なんでもないよ!」

「でも課長、医療機器業界に限らず、出世話とか金儲けの話は好きなのではないですか?」

「まあ、そうか。せっかく、同じ施設の担当者同士なんだから、もう少し有意義な情報交換がしたいよね」

「そうですね。ただ、出世話の中でも、担当施設の教授選とか、院長交代といった話は重要ですよね」

「そうそう。そういう話ならまだ良いの。今日なんかはね、Y社の〇〇さんが課長に昇格したとか、K社の誰々が左遷されたとか、そんなのばかり。詰まらないよね」

「私もそういう話は嫌です。そういう話は、大概最後は、『良いよなぁ、誰々さんは』みたいな形でため息をついて終わりますよね」

「その通り! あそこにいるとオッサン達のため息を何度聞かされるかわからない!」

「想像しただけでゾッとします」

「でしょう? お客様のお役に立つ仕事をするためのネタを探してあそこに行くんだけど、もうやめようかと思ってるよ」

「あ、神坂さーん!」
向こうの席から大累課長が呼び掛けているようです。

「そういえば、K社の夏木さんが左遷されたらしいですよ!」

「ほらね。無視していいかな?」

「可愛い後輩じゃないですか! しっかりお付き合いしてください」


ひとりごと

皆さんの会社にもいませんか。

社内の人事異動に異様に詳しい人。

異動時期になると、どこから聞きつけるのか、そういう話を自慢げに話しますよね。

小生は昔からそういう話が嫌いで、社内の異動も随分後になって本人に会って知るということがよくありました。

あまり疎いのもいけませんが、そこに詳しくなるくらいなら、もっと他に仕入れるべき情報はたくさんありますよね!


【原文】
吏人(りじん)相集まりて言談(げんだん)すれば、多くは是れ仕進(ししん)の栄辱、貸利の損益なり。吾れ甚だ厭う。然るに、平日聴くに慣れ、覚えず偶(たまたま)自ら冒しぬ。戒む可し。〔『言志晩録』第163条〕

【意訳】
役人達が話すことと言えば、ほとんどが昇進・昇給・栄転・左遷といった話題か、お金儲けの話である。私は非常に腹が立つ。ところが、毎日そんな話を聴いているといつの間にかそれに慣れてしまい、気づかないうちに自分も同じことをしていることがある。反省せねばならない

【一日一斎物語的解釈】
出世話や金儲けの話は、ほどほどにすべきである。先義後利、仕事の目的は顧客の課題解決のお手伝いであり、自分のことは後回しにすべきである。


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